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就任2年目で球団初の交流戦V。若手を積極的に起用し、勝ちながら育てる「抜擢と采配」が光る
交流戦史上最高勝率で初制覇。誰もが驚いた埼玉西武ライオンズの快進撃は決して"偶然の勢い"ではない! *成績はすべて6月22日時点
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交流戦を制したその瞬間、スタンドは「本当に、あの西武が?」というどよめきに包まれた。近年、下位に沈んでいたチームが、突如として球界屈指の堅さを取り戻したのだ。その変貌の中心にいるのが、就任2年目の西口文也監督である。
現役投手を指導するピッチングデザイナーで、MLBにも精通する本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏は、投手出身の指揮官が見せる「起用の妙」を高く評価する。
「西口監督は奇策で勝つタイプではなく、選手の能力を見極め、適切な役割を与えて勝つ監督。自分ですべてを動かすのではなく、コーチや選手の専門性を尊重して任せる。『使う勇気』と『任せる勇気』の両方を持っています」
ドラフト5位から高卒2年目でセットアッパーに抜擢された篠原。防御率1.16と抜群の安定感を誇る
その勇気が最も色濃く表れたのが、若手の配置だった。高卒2年目の篠原響(ひびき)をセットアッパー、ルーキー左腕の岩城颯空(はくあ)をクローザーに据えたのだ。いずれも「将来枠」ではなく、勝敗を左右する重要な役割を任せている。
「さらに、ドラフト1位の大卒新人捕手、小島大河も1軍で積極的に起用。普通なら二の足を踏む抜擢(ばってき)を勝ちながらやってのけています。経験を積ませるためではなく、勝つために若手を使い、結果として育つ。ここが見事です」
昨オフ、エースの今井達也(現アストロズ)がMLB挑戦のためチームを去り、先発陣の弱体化が懸念された。しかし、ふたを開けてみれば、平良海馬(かいま)は防御率0.82、髙橋光成(こうな)は1.23、隅田知一郎(ちひろ)は2.10、武内夏暉は2.67と「今井ロス」を感じさせないほど充実している。
「新エースを立てて穴を埋めたのではありません。先発ローテ全体の質を上げ、今井の穴そのものを消したのです。今井が抜けたことで、残った投手に自覚と競争心が生まれた結果、投手陣全体が今井依存から脱却しました」
数字以上に大きいのが、投球の中身の変化だという。お股ニキ氏は、力任せだった先発陣が「考える投球」へと変貌した点に注目する。
「以前は、基本的にどの投手も体を鍛えて球速を上げ、あとは堅い守備に任せるといった投球スタイルでしたが、今年は違います。平良は先発に戻ってフォーシーム一辺倒をやめ、カット、ツーシーム、スプリット、スライダーを使い分けている。髙橋光も各球種の精度と球威を上げ、ゾーンの管理で抑える投手に変わりました」
先発の再建と並んで成功したのがブルペンの整備。その象徴が、高卒2年目右腕、篠原のセットアッパー定着だ。
「素材を見抜き、ドラフト5位で獲得したスカウトの眼力がまず見事です。最速158キロのフォーシームだけでなく、変化球も打者との駆け引きも一流。山本由伸(ドジャース)クラスまで成長してくれることを期待したくなるほどの逸材です」
ドラフト2位ルーキーにしてクローザーを任された岩城。大抜擢に応えて堂々の18セーブを記録
もうひとつの賭けが、ルーキー左腕・岩城のクローザー起用だった。防御率3.96と粗さはあるが、お股ニキ氏はその抜擢を評価する。
「新人に9回を任せる決断は普通なら怖くてできません。打たれた試合もありますが、すぐに外さず、勝ちながら育てている。目先の一試合だけでなく、将来への投資としても理にかなっています」
層の厚さも見逃せない。2023年オフにソフトバンクから人的補償で獲得した甲斐野央(ひろし)が16ホールド、防御率2.03と勝ちパターンを支え、最速161キロのトレイ・ウィンゲンターもケガから復帰した。
「篠原を下位で拾い、岩城を抑えに据える。この眼力と胆力こそ、今の西武の編成力を象徴しています」
現代野球では、捕手陣の厚さがチーム成績に直結する。西武は正捕手・古賀悠斗に、ルーキーの小島大河が割って入り、二枚看板を確立した。
「古賀悠は盗塁阻止率が大きく上がり、送球も投手とのやりとりも安定。そこに打撃が加わって、攻守両面で抜群の働きをしています」
盗塁阻止率.529はリーグ上位、規定打席未満ながら打率.325の古賀悠。攻守両面でチームを支える
ドラフト1位ルーキーの小島は期待に応え今季ここまで42試合に出場。1軍で難なくやれている
盗塁阻止率.529はリーグ上位。打率も規定打席未満ながら.325と攻守に隙がない。
「小島はルーキーながら、打撃だけでなく、配球も落ち着いています。先輩投手に意見を伝える度胸まである。古賀悠と遜色なく使い分けられるのは西武の大きな強み。古賀悠の安定感と、小島の打撃と発想力。さらに守備型の3番手、柘植世那(つげ・せな)も打率3割台。捕手陣の底上げはチームにとって計り知れない財産です」
西武は長年、投手に比べて打線の薄さが課題だった。その弱点を、ドラフトの方針転換で埋めようとしている。
「右の強打者・渡部聖弥(わたなべ・せいや)や、打てる捕手の小島を上位指名し、すぐ1軍の戦力にしました。補強ポイントと取った選手の特徴が一致しています」
さらに、育成出身のスター候補も出現。交流戦MVPの長谷川信哉は、育成から這い上がった象徴的存在だ。交流戦では打率.367、22安打と打ちまくった。
「長谷川は守備や身体能力だけの選手ではありません。勝負どころで打てる中軸候補に成長。育成枠が1軍主力への"通り道"として正しく機能している証拠です」
現役ドラフトで加入した平沢大河の覚醒も大きい。
「ひとりのスターに頼るのではなく、打線全体が底上げされました」
打線の底上げと並んで、大躍進を支えているのが伝統の守備だ。源田壮亮と滝澤夏央による鉄壁の二遊間を軸に、内外野とも大きな破綻が起きにくい。
「西武は、前に飛んだ打球がかなりアウトになるチームです。他球団と比べても"カチカチ度"が違う。源田は打撃が不調でも、守備範囲、ポジショニング、併殺を取る力、連係で投手に与える安心感という面で計り知れない価値がある。滝澤も打球に対する1歩目の反応が抜群。本当にいい選手だと思います」
ここで大事なのは、「失策の少なさではない」とお股ニキ氏は念を押す。
「チーム守備率そのものが一番というわけではありません。重要なのはセンターラインの守備範囲、判断力、併殺の完成力。つまり、アウトへの変換能力の高さです。これだけいい守備に支えられると、投手も相手打線を実力以上に抑えることができます」
一塁を守るタイラー・ネビンの守備力も、内野の送球を救っている。
「西武の防御率がいいのは投手のおかげだけではありません。捕手と内外野を含めたチーム全体の数字なのです」
今のNPBで外国人野手を当てるのは至難の業だ。その中でネビンは、文字どおりの"大当たり助っ人"だ。
「ネビンは『外国人だから長打を』という雑な補強ではありません。打率を残し、四球を選び、右方向にも打てる。打率.296、11本塁打、長打率.643という数字が、その素晴らしさを物語っています」
打率.296、11本塁打の長打力に加え、守備も堅実なネビン。攻守共に計算できる「大当たり助っ人」
価値は打撃だけにとどまらない。一塁守備でも26試合ながら失策1、守備率.996と堅実だ。
「牽制(けんせい)でのサインプレーなど、内野全体を助ける動きができ、戦術理解度が非常に高い。打撃、守備、日本野球への適応力まで見て獲得した、攻守一体型の助っ人です。早い段階で残留させたフロントの判断も見事でした」
外国人補強の"目利き"は、近年の西武が確かに積み上げてきた強みでもある。
「ネビンだけでなく、アレクサンダー・カナリオやアラン・ワイナンスも活躍。この目利きと見極めが、今のチームづくりと地続きになっています」
西口監督の采配、若手の台頭、外国人獲得の成功。これらすべての歯車が噛み合う背景には、渡辺久信前GM退任後のフロントによる一貫した編成方針がある。
「野手が弱いという課題を直視し、ドラフトで埋めた。FAで桑原将志(まさゆき)や石井一成を取って競争を生み、平沢ら他球団で芽が出なかった選手も戦力化した。『取る』『育てる』『残す』『使う』の4つの軸が同時にしっかり回っています」
もっとも、篠原や渡部のように旧体制が獲得した選手もいる。だからこそ、お股ニキ氏の評価は慎重だ。
「すべてを新フロントの手柄と言い切るわけではありません。ただ、既存の資産を生かしながら、ドラフト戦略やFA補強などを的確に当てることによって、驚異的なスピードで再建させた手腕は見事です。これまで低迷していた時期にも仕込んでいたものが一本の線としてつながり、花開いたイメージです」
FA組も、桑原が打率.269、出塁率.341と貢献する一方、石井は.220と伸びしろを残す。補強をひとくくりに「成功」と呼ぶのではなく、選手層を厚くし競争を生んだ点にこそ価値があるとお股ニキ氏は言う。
「勝てるチームを設計し、最短距離で実行する。その設計力こそ、今の西武の最も評価すべき部分です」
集めた戦力ではなく、描いた設計図で勝つ―。低迷を知るチームの逆襲はこれからが本番だ。