2018年のドイツにおける多国間戦車訓練で射撃を行うウクライナT-84(中央)とポーランドのレオパルド2A5。奥はドイツのレオパルド2A6(写真:柿谷哲也)2018年のドイツにおける多国間戦車訓練で射撃を行うウクライナT-84(中央)とポーランドのレオパルド2A5。奥はドイツのレオパルド2A6(写真:柿谷哲也)
ウクライナがロシアからの侵略軍を自国の領土から駆逐するため、米国やNATOに対して西側製主力戦車の提供を求めた。英仏独が歩兵戦闘車を提供したばかりでのこの矢継ぎ早の要求に、元・米陸軍ストライカー旅団の情報将校だった飯柴智亮氏は苦言を呈する。

「これで領土を奪還できなかったらどうするんでしょうか? そこが私は心配です。付け焼き刃で取り扱えるほど、兵器は簡単じゃありません。ちなみに、MOS(Military Occupational Speciality 各兵士個人の専門職資格)が19K(戦車兵)のAIT(Advanced Individual Training 新隊員後期教育訓練課程。基本訓練後にAITを終えて兵士はそのMOSとなる)の期間は、フォートノックスの専用訓練所の設備と教官が揃った状況下でかつ、英語で完璧に意思通達ができて5週間です」(飯柴氏)

1月14日にまず動いたのはイギリスだった。英陸軍主力戦車・チャレンジャー2を14両提供することを表明。1月25日にはドイツが続いてレオパルト2を14両の提供を表明し、ポーランド、フィンランドは自国にあるドイツ製レオパルト戦車のウクライナへの再輸出の許可を出す方針で、ポーランドはまず、14両提供する模様だ。

イギリスが1998年から386両導入したチャレンジャー2戦車。そのうちの14両をウクライナに引き渡すという。写真は2018年、ドイツで訓練中の様子(写真:柿谷哲也)イギリスが1998年から386両導入したチャレンジャー2戦車。そのうちの14両をウクライナに引き渡すという。写真は2018年、ドイツで訓練中の様子(写真:柿谷哲也)

さらにアメリカが、MIエイブラムス戦車を30両供与する可能性も出て来た。元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補はこう話す。

「英軍のチャレンジャー2が14両で一個中隊では、規模的に戦線全体に与える影響は小さいですが、戦線を変える焦点となるのは、欧州が多く保有するドイツのレオパルト2となるでしょう」

まずここでは、米M1戦車は兵站システムの構築が長期化するので除外。すぐに使えるドイツのレオパルト2が、ドイツ含めた他国から供与されたと仮定して、どうなるのか予測してみた。まずポーランド軍には249両あり、フィンランド、その他から合わせると300両となる。また、東欧諸国からウクライナに、すでに300両のT72戦車が供与されている。

21か国が採用するレオパルド2戦車。生産は続いており、ドイツは2021年から最新2A7型の導入を開始している。写真はドイツのレオパルド2A6(写真:柿谷哲也)21か国が採用するレオパルド2戦車。生産は続いており、ドイツは2021年から最新2A7型の導入を開始している。写真はドイツのレオパルド2A6(写真:柿谷哲也)

「約100両で戦車連隊ですから、計六個戦車連隊となります。一個戦車連隊で一個機械化師団が編成できるので、白紙的には計六個機甲師団が編成できます。

レオパルト2とチャレンジャー2の装甲は強力です。火力と装甲でT72戦車を大きく上回るため、かなりの脅威になります。

レオパルト2とチャレンジャー2の主砲から発射される砲弾は、APFSDS弾という高速徹甲弾であり、強力な貫徹力を有します。T72戦車の装甲を簡単に貫通して破壊をしていくでしょう。レオパルト2戦車の提供によりウクライナは、第二次世界大戦での独ソ戦において数の不足していた『タイガー戦車』クラスを揃えることができ、チャレジャー2戦車は重戦車としての役割を果すと思われます」 (二見氏)

ポーランドレオパルド2。ポーランドは249両のレオパルド2を持ち、古いほうの2A4をウクライナに渡すようだ。同国は韓国製のK2戦車を1000両、米国M1戦車を366両発注している(写真:柿谷哲也)ポーランドレオパルド2。ポーランドは249両のレオパルド2を持ち、古いほうの2A4をウクライナに渡すようだ。同国は韓国製のK2戦車を1000両、米国M1戦車を366両発注している(写真:柿谷哲也)

ロシア軍のT72主体の機械化師団は、ウクライナの機械化師団に立ち向かうことができるのか。

「戦場の情報を共有し合うネットワークを使うことができれば、大きく戦い方が変わります。すでに米軍から提供されることが決定しているストライカー部隊は、ネットワークを有する装甲車のため、戦車と装甲車が一体となった戦闘を行うことができます。ロシア軍のT72戦車にはそれがないのです」(二見氏)

戦車のネットワーク戦闘では、ウクライナならば上空の無人ドローン、歩兵などが収集した目標情報(ロシア軍の戦車、装甲車、歩兵の位置情報)が共有化される。同じ情報は、後方の司令部でも共有され、常に先手を打つことが可能となる。

「敵の目標情報、味方の位置情報を各車両が把握しているため、ネットワークがあるかないかで大きな差がつきます」(二見氏)

10~20倍の攻撃力の差があるとしたら、300両のレオパルト2とチャレンジャーで、3000~6000両のロシア軍T72戦車を破壊できるというキルレシオ(自軍と敵軍の撃破数の比率)だ。

「圧倒的な力を発揮します。ネットワークの戦車のどこが強いかというと、戦場のすべてを把握して戦えるところなのです」(二見氏)

では、ウクライナ軍のT72戦車300両はどう使う?

「私ならば東部前線の後続に歩兵戦闘車を従え、最前線を避け、側背から機甲師団で突破します。回り込むことで最前線の遥か後方で、ロシア軍の包囲撃滅を図ります」(二見氏)

英独戦車の機甲師団はどこへ?

「レオパルト2とチャレンジャー2は南部地域で運用します。圧倒的な破壊力によって、クリミア半島奪還します」(二見氏)

ドニプロから一気に南下し、ネットワーク戦力で1対30の破壊力で殲滅していく算段だ。アゾフ海に出て西に攻撃軸を変え、一気にヘルソン南部とクリミア半島を分断する。では、攻撃開始はいつなるのだろうか?

「飯柴氏がおっしゃる通り、5週間で動かせるようにはなります。戦車が入り、その後に歩兵戦闘車が入って様々な障害を処理しながら戦う必要があります。

戦車、歩兵戦闘車、火力部隊、兵站部隊などの諸兵種連合チームを訓練するのには時間がかかります。この訓練を積み上げることによって、圧倒的な破壊力を発揮できます。3か月位は少なくとも必要です」(二見氏)

このポーランド陸軍レオパルト2がウクライナの旗を付けて、砲が火を噴けば、ウクライナの領土はロシア軍から奪還可能となるのだろうか...(写真:柿谷哲也)このポーランド陸軍レオパルト2がウクライナの旗を付けて、砲が火を噴けば、ウクライナの領土はロシア軍から奪還可能となるのだろうか...(写真:柿谷哲也)

1月21日、ウクライナ軍はポーランドで、レオパルト2戦車の訓練を開始するとの報道があった。

「3カ月ほどみっちり訓練を行えば、部隊行動、歩兵戦闘車との行動、防御陣地への突入、機動打撃、火力基盤としての運用など、基本的なところは修得できます。さらに、諸兵種連合チームとしての総合訓練を行うことによって組織力を自在に発揮することができるようになります。

総合訓練は、時間をかければかけるほどレベルが上がります。早急に仕上げるのに、1~2カ月かけるとすれば、6月初めには、ウクライナ軍は機械化部隊の総攻撃を開始できるでしょう」(二見氏)