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阪神の主砲、佐藤輝明選手。打率は驚異の.381。「打率だけ1割以上一気に引き上げるケースは記憶にありません」(お股ニキ氏)
今季ここまで打率.381、12本塁打、37打点と三冠王ペースで打ちまくっている阪神・佐藤輝明。歴代三冠王のスーパーレジェンドたちと肩を並べる領域に踏み込んだ"虎の主砲"は、いったいどこまで駆け上がるのか!?
プロ野球開幕から2ヵ月。セ・リーグの打撃部門に異次元の数字を残している打者がいる。阪神の主砲、佐藤輝明だ。
打率.381、12本塁打、37打点はすべてリーグトップ。OPS(出塁率+長打率)は1.191と、現代野球の常識を超えた領域に踏み込んでいる。
昨季40本塁打、102打点で二冠王に輝き、リーグMVPも受賞した佐藤だが、今季さらに打撃を飛躍させている要因はどこにあるのか?
現役投手を指導するピッチングデザイナーで、MLBにも精通する本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏が解説する。
「今年3月のWBCの頃から状態は良く、私は『サードは佐藤にしろ』と言い続けていました。春季キャンプを視察したときも、森下翔太と佐藤のスイングは別次元でした。
佐藤は昨季から軽く振ってもスタンドへ運ぶ感覚を会得しつつありましたが、今季はそれに輪をかけて軽打でも飛ばせる状態に。体重を増やしてスーツが入らなくなったそうですが、動きが落ちる筋肉のつき方ではない。さらにパワーがついた上にロスのないスイングができており、ほぼ完成形に近づきつつあります」
フルスイングではなく、〝8割の力感〟でスタンドへ放り込む技術を完全に会得しているという佐藤。具体的にどのような進化が見られるのか。
「足を上げる動作は昨季よりも小さくなり、大谷翔平(ドジャース)をひと回りコンパクトにした打ち方。バットを体の近くで寝かせて柔らかく軽く振れば、持ち前のパワーで飛んでいく。
昨季までフォーシームには若干苦戦していましたが、今季は振り遅れずに対応できています。投手はどこに投げても抑え切れない状態です。完成度で言えば、大谷以上かもしれません」
近年、「打率は意味がない」といった声も増えているというが、お股ニキ氏は「佐藤の進化はそういった〝セイバーオタク〟への痛烈なカウンターになっている」と指摘する。
「本塁打か三振か四球かという傾向の強かったアダム・ダン(元ホワイトソックスほか)やカイル・シュワーバー(フィリーズ)のようなタイプが礼賛されがちですが、打率も残せる長距離打者が最強打者なのは間違いない。昨季から打率を1割以上上げていることこそ、佐藤の進化の神髄。
結局、プレーオフで勝つチームはチーム打率が高いですし、確実性の高さが勝負強さにつながります。確実性とパワーを両立する今季の佐藤は、打者の究極型だと言えます」
無双モードの佐藤だが、過去の偉大な打者と比較することで現在地を探ってみたい。
歴代三冠王の代表格といえば、複数回達成したことのある王貞治(元巨人)、落合博満(元ロッテほか)、ランディ・バース(元阪神)の名前がまず挙がる。打者の総合力を示すOPSの歴代ランキングを見ても、1974年の王(1.293)、1986年のバース(1.258)、1985年の落合(1.244)と、彼らが三冠王獲得シーズンに残した成績が上位を占めている。
1974年に2年連続三冠王に輝いた王。打率.332、49本塁打、107打点、OPS1.293を記録
そんな〝NPB史上最強打者〟と言える存在の彼らと比較しても、今季の佐藤は見劣りしない。現在OPS1.191を記録しており、お股ニキ氏も「佐藤もまたNPB史上トップクラスの傑出度を誇っています」と称賛する。
「投手のレベルやボールの飛び具合にもよるので、成績を単純比較することはできませんが、今季の佐藤の傑出度は球史に残るレベルです。王さんよりも、打率が高かったバースに近い。同じ阪神の左の強打者で、誕生日も一緒のふたり。
今季の佐藤はまさに〝バース型〟と呼べる打撃スタイルです。王さんやバースは年間を通してこの数字を叩き出しましたが、佐藤もシーズンを通して結果を残し、スーパーレジェンドたちと肩を並べるでしょう」
1986年に2年連続三冠王に輝いたバース。打率.389、47本塁打、109打点、OPS1.258を記録
歴代三冠王と比較したときに浮かび上がるのが、佐藤の進化の異質さだ。落合、松中信彦(元ソフトバンク)、ロジャース・ホーンスビー(元カージナルスほか)、ミゲル・カブレラ(元タイガースほか)ら、NPBやMLBの歴代三冠王の多くは、もともと高打率を残せる打者が長打力を上乗せしたパターンだが、佐藤はその逆の進化をたどっている。
「3割、30本ぐらい打っていた選手がさらに伸びて三冠王、というのが主流です。NPBで二冠王3度の松井秀喜さん(元巨人、ヤンキースほか)もMLB挑戦前から.310前後は打っていましたし、2022年に三冠王になった村上宗隆(当時ヤクルト、現ホワイトソックス)もその2年前に3割を記録していました。
一方、佐藤は昨季の打率が.277。キャリアハイを記録したものの、歴代三冠王と比べると見劣りする数字でした。前年に40本塁打、102打点を記録したパワーヒッターが、そのペースを落とさず打率だけ1割以上一気に引き上げるというケースは記憶にありません」
さらに驚くべきは、右投手、左投手どちらにも対応できる柔軟性だ。いくら強打者でも左腕を苦にする左打者は少なくないが、今季の佐藤は対右投手に打率.357、対左投手に.429と満遍なく打っている。
「大谷はどうしてもレフト方向に傾く打ち方なので、クリストファー・サンチェス(フィリーズ)ら左投手のツーシームとスライダーを苦手としていますが、佐藤はセンター方向に真っすぐ力を伝えるスイングなので、左投手のインコースのボールもきれいにさばけます」
さらに、佐藤は球場への適応力も際立っている。本拠地の甲子園で.397、横浜スタジアムで.333、マツダスタジアムで.308、神宮で.300、東京ドームに至っては.417と、どの球場でも3割を下回らない。
「相手にも球場にも左右されない。アーロン・ジャッジ(ヤンキース)らMLBトップの打者のような再現性を誇っています」
もはやNPBの枠に収まらない佐藤。同世代の村上、岡本和真(ブルージェイズ)といったライバルと比べても、その総合力は際立っている。
「村上はWBCから打ち方をMLB仕様に変え、ABS(自動ボール判定システム)の恩恵も受けて本塁打を量産していますが打率は.235。純粋なパワーだけなら松井さんを超えるクラスですが穴はまだある。一方、佐藤は波がないのが不気味で、まさにジャッジに近い安定感がある。今すぐMLBでプレーしても確実に結果を残せる、と断言できます」
将来的なMLB挑戦を公言する佐藤。先日、フィリーズのプレストン・マッティングリーGMが直接視察に訪れ、大きな話題となった。
「今季、佐藤は屋外でのバッティング練習をカード初戦のみに限定しているようですが、マッティングリーGMはピンポイントでそれに合わせて視察。本気度が伝わってきます。
フィリーズはサードのアレク・ボーム、レフトのブランドン・マーシュ、ライトのアドリス・ガルシアが今季限りで契約切れ。サードと外野を守れる左の長距離砲の需要が高く、佐藤を注視しているようです」
WBC準々決勝で適時二塁打を記録。昨年3月にはブレイク・スネル(ドジャース)から一発を放っている
MLB挑戦となれば、どの球団が合うのか。
「サードや外野、左の長距離砲という観点で言えば、エンゼルス、マリナーズ、ツインズなども有力な候補に挙がります。そして、ドジャースもまた佐藤の打ち方を好みそう。サードを守るマックス・マンシーが2027年まで契約を延長したので、来季はかぶってしまいますが、後釜としては十分計算が立ちます」
来季以降のMLB挑戦を見据え、今季はこのまま突っ走ってもらいたいが、改善すべき点や穴はないのだろうか。
「正直ありません。守備力も若手時代はエラーが多かったものの、ここ1年でトップレベルまで引き上げました。
打撃のカタチもほぼ完成しています。大崩れすることは絶対ないと言っていいほどで、仮にスランプに陥っても打率.350は維持できるのではないでしょうか。今の投手のレベルの高さを考えれば、昔なら打率4割に相当する価値があります」
打率という最強の武器を手にし、過去のレジェンドたちと肩を並べようとしている佐藤。果たして、どこまで数字を伸ばせるのか。そのバットから目が離せない!
*成績は5月25日時点