
山本シンヤ
やまもと・しんや
山本シンヤの記事一覧
自動車研究家。自動車メーカーの商品企画、チューニングメーカーの開発、自動車専門誌の編集長などを経て2013年に独立。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営
Kiaの次世代商用EV「PV5」。商用車としての高い実用性と最新の電動化技術を両立
自動車研究家の山本シンヤ氏が、国内外の自動車工場をガチンコ取材!
そこで目撃したのは、「えっ、ここまで違う!?」と絶句するほど、まったく異なるモノづくりだった。なぜ、同じ「クルマ」をつくっているのに、ここまで違うの!? 特濃解説する!!
――商用車工場を取材されたそうですね。
山本 もともとは独メルセデス・ベンツの新型EVミニバン「VLE」の試乗会でスペインに行ったんですが、その際にビトリア工場を見学する機会がありました。その後、韓国でKia、日本でダイハツ九州を取材し、結果的に短期間で世界3ヵ国のモノづくりの現場を比較しました。
――各社の違いは?
山本 想像以上に違いました。工場見学というと、自動化率や設備規模に目が行きがちですが、見るべき本質は「なぜ、その工場をそう造ったか」という思想です。
その意味でまず圧倒されたのがKia。新型EVバン「PV5」を生産するスマートファクトリー「EVO Plant(イボ・プラント)」を見学したのですが、PV5はPBV(プラットフォーム・ビヨンド・ビークル)というモジュール化された車台を活用することで、多種多様なモデルを効率よくつくり分ける設計になっています。
そのフレキシブルな量産体制を実現するために、莫大な投資をして専用工場を立ち上げたそうです。驚くべきは、ボディ製造工程における自動化率が98%に達している点です。
工場内は天井の大型治具や床のベルトコンベヤー方式を排除。天井が高く保たれ、排ガスや油臭さのないクリーンで静かな作業環境を実現
――98%ってほぼ無人じゃないですか!!(驚)
山本 数字以上にインパクトがありました。正直、「人はどこにいるんだ?」と探してしまったほどで、ロボットが車体を運び、溶接し、次の工程へ送っていく。巨大なロボット工場というたたずまい。
加えて、一般的な工場は移動の際に上部(天井側)を使いますが、Kiaは地下空間を活用していて、フロア全体に開放感がある。ただ、これを見て単純に「日本は遅れている」という話ではありません。
自動化率98%を誇る次世代工場。車体や部品の搬送を無人化し、工場内には人の姿がほとんど見当たらない
――どういうことです?
山本 Kiaを擁するヒョンデグループは、傘下に高度なロボット技術や設備製造部門を持っている。グループ内の技術リソースや設備をダイレクトに活用できるからこそ、これほど大規模な自動化もスピーディに実現できる。設備投資の回収スキームも含めて、日本メーカーとは前提事情が異なるため、思い切ったトライができるのです。
――一方、日本で見たダイハツ九州はどうでしたか。
山本 Kiaとは真逆でした。ダイハツ九州の大分(中津)第1工場は、もともと群馬県前橋市にあったダイハツ車体の工場を移転する形で2004年に操業を開始しました。その後、06年に社名をダイハツ九州へ変更しています。現在では、ダイハツの国内生産を支える重要な拠点です。
――率直にどんな印象を?
山本 自動化も進んでいますが、Kiaと比べると想像以上に〝人の手〟が活用されている印象で、その背景を取材して深く納得しました。ダイハツは軽トラック、軽バン、軽乗用車、さらには多種多様な特装車をつくり分けています。取材中、同行してくれたダイハツの井上雅宏社長が笑いながら、「実は軽トラって、ほとんど儲からないです」と明かしてくれました。
ダイハツは高価な専用ロボットに頼らず、自社製の手元化装置などを活用。現場の知恵で低コスト化と安全性向上を達成
――トップがそこまでぶっちゃけるとは(笑)。
山本 でも、これこそが現場の本音であり誇り。軽トラは薄利でありながら、乗用車以上の過酷な使われ方に耐える堅牢性が求められる。しかし、日本の農業やラストワンマイルの物流を支える〝社会インフラ〟として絶対に欠かせない。儲からないからといって撤退するわけにはいかない。それがダイハツの存在意義なのです。
――社会を支える使命感?
山本 だからこそ需要の波に左右されないように、ひとつのラインで軽トラックも軽バンも軽乗用車も、さらにはEVも流せる綿密な工夫を凝らしています。
例えば、配線経路が異なる軽トラだけ車体を持ち上げて作業したり、工程数が少ない車種は途中でバイパスラインを通したりと、現場発のきめ細かな工夫が積み重ねられています。
品質管理も徹底。外部委託に頼らず、最終検査まで一貫して自社で行なうことで、高い品質基準を維持している
――ダイハツには「SSC」という思想があるそうで?
山本 Simple(シンプル)、Slim(スリム)、Compact(コンパクト)の頭文字を取った生産思想です。実はダイハツ九州も、かつては自動化を徹底追求した時期もありました。しかし、高額な設備が増えれば車両価格に響いてしまうし、数を売らないといけなくなる。さらに、万が一の故障時のライン停止リスクも跳ね上がる。そこで発想を逆転したんですね。
――どういうこと?
山本 無理に設備を増やさず、複雑化させない。その思想を極限まで具現化したのが大分(中津)第2工場です。第1工場と同等(年間約23万台)の生産能力を誇りながら、建屋面積は約半分、投資額も従来の約半分に抑えられています。
高価な専用ロボットを並べるのではなく、汎用ロボットの再利用や、無動力で動く「からくり」の改善を徹底する。ハイテク自動化を極めたKiaとは対照的ですが、「多様なクルマをアフォーダブル(良心的な価格)にお届けする」という目的に対して、こちらも間違いなくひとつの〝最適解〟なんですよ。
――メルセデス・ベンツのVLEはいかがでしたか。
山本 工場見学の前に驚いたのは、メルセデス側のマインドの変化でした。
――というと?
山本 国際試乗会で、われわれ日本人はいつも癖で「ライバル車はなんですか?」と質問するんですが、以前の彼らなら「日本人はすぐそれを聞きたがるね。ほかが気になるなら、それを買えばいいじゃないか」とあしらわれていました。
――「メルセデスはメルセデスだ」という世界観ですね。
山本 そうです。ところが今回は違いました。メルセデス側からトヨタのアルファード/ヴェルファイアやレクサスLMといった具体的な名前が飛び出しただけでなく、「日本人の君たちには、このクルマはどのように映る?」と逆質問まで受ける始末で......。
――その背景には何が?
山本 欧州においてミニバンは長年「実用的な送迎車(ピープルムーバー)」という位置づけでした。しかし日本市場ではミニバンがファミリーカーの頂点であり、最高峰の高級車(ショーファードリブン)として君臨。その〝日本発の高級ミニバン文化〟がアジア圏をはじめ世界中に波及したことで、天下のメルセデスも無視できなくなった。
――VLEの完成度は?
山本 非常に完成度が高かった。メルセデスはVLEを単なるミニバンではなく、「Grand Limousine(グランド・リムジン)」という新たなカテゴリーとして再定義しています。実際にステアリングを握ると、その狙いがよくわかります。
高級ミニバン市場の拡大を見据え、商用車ベースの枠を超えて開発されたメルセデスの新世代EV「VLE」
――具体的には?
山本 近年のメルセデスはスポーティ路線が際立っていましたが、VLEは往年の名車やマイバッハをほうふつとさせる、ゆったりとした極上の上質さを備えていました。路面からのショックを角を立てて遮断するのではなく、じんわりと包み込むように吸収していく。
「フワフワなのに体幹がしっかり通っている」という乗り味で、ワインディングでも驚くほど素直に曲がってくれる。大型ミニバンというより、上級サルーンの感覚でした。
――そのVLEを生産する工場はどうでした?
山本 ビトリア工場は長い歴史を持つ商用車製造拠点ですが、VLEの立ち上げに合わせて大規模なアップデートが施されていました。既存のエンジン車(Vクラス/Vito)やEV(eVito)、そして新世代のVLEを同一ラインで流す「混流生産体制」を確立している。
さらに生産ラインを止めずに新設備やデジタルツールを事前検証できるファクトリーラボの導入、マルチマテリアル(複合素材)対応、作業環境改善への投資などにより、歴史ある工場が見違えるほどクリーンで静粛なスマート工場へ進化。
トヨタでたとえるなら、「アルファード/ヴェルファイアとハイエースを同じラインで同時に組み立てている」という離れ業です。
Vクラスやtoを生産してきたビトリア工場。VLE投入に合わせて刷新され、混流生産にも対応
――取材を総括すると?
山本 優劣うんぬんではなく、「個性」と「思想」を感じました。98%の徹底自動化でスピードと拡張性を狙うKia。現場の知恵と「からくり」で、適正価格のインフラを支えるダイハツ。
そして、伝統の混流技術を磨き上げ、新たな高級車像を具現化するメルセデス。アプローチは三者三様ですが、どれもが「自分たちが向き合うべき顧客と市場のために、工場はどうあるべきか」を突き詰めた結果であり、それぞれの正解です。
工場取材では自動化率などのスペック競争に目を奪われがちですが、本当に面白いのは、そのメーカーが何を大切にクルマづくりをしているのか。まさに、工場は自動車メーカーの〝魂〟そのものでしたね。