高口康太
たかぐち・こうた
高口康太の記事一覧
1976年生まれ。ジャーナリスト、翻訳家。中国の政治、社会、文化を幅広く取材。独自の切り口から中国や新興国を論じるニュースサイト『KINBRICKS NOW』を運営。著書に『幸福な監視国家・中国』(梶谷懐との共著、NHK出版新書)、『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。
世界人型ロボット運動会で見せた人間超えの100m走世界記録、ダンスやカンフーだけじゃない!
中国メーカーのロボットによる陸上競技、ダンスや格闘技などなど。その圧倒的な運動性能がトレンド入りする一方で、ロボットの現場実装も爆速で進行しているという。そんな中華ロボットの最新事情をジャーナリストの高口康太さんが解説します!
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2体の人型ロボットがリングでにらみ合い。パンチで迫る相手に回し蹴り一閃、クリーンヒットしたロボットの頭が吹き飛んだ......。
これは今年7月に広東省深圳市で開催された人型ロボット格闘リーグ「URKL」開幕戦の一幕だ。この動画はバズりまくったので見かけた人も多いだろう。
URKLは世界32チームが、グループ戦や敗者復活戦を含む大会を闘ってロボット格闘王を決めるという内容だ。優勝チームには1000万元(約2億4000万円)相当の純金製チャンピオンベルトが贈呈されるという。もはや120%マンガの世界だ。
格闘技だけではない。8月には北京市で第2回世界人型ロボット運動会が開催された。
会場は北京冬季五輪のスケート会場「国家速滑館」。開会式は中国国営テレビでゴールデンタイムに生中継、多くの観客が押し寄せた。もう、マジモンのスポーツイベント化しているのだ。中国、おまえら未来に先走りすぎだぜ......。
盛り上がりを体験するべく、私も現地を訪問したが、ともかくヤバい。100m走決勝では「天工Ultra」が8秒64をマーク。ウサイン・ボルト(9秒58)より速い。助走なしで跳ぶ「跳高」でも同じ天工Ultraが2.8843mを記録。好成績を上げるロボたちの身体能力はまさに〝超人〟だ。
ただし、イマイチロボも少なくない。ちょこちょこ走るロボットもいれば、転んで担架で運ばれるものも。
日本からはGMOの人型ロボット「ひとみん」が短距離走に参加したが、トップレベルと比べるとだいぶ見劣りし、〝超人〟には程遠い。それでも中国の観客は温かい。イマイチロボをネタ扱いせず、イケてるロボと同じ拍手と歓声を送って試合を楽しんでいた。
このほかにも400m走やボクシング、サッカーなどの競技が行なわれたほか、ネジ回しや飲食サービス、棚整理といった実務競技も開催された。
人型ロボットといえば、日本は古くから研究開発を続けてきた先進国だし、近年では米国もバリバリ開発を進めている。だが、今、一番勢いがあるのは中国で間違いない。
それは数字を見るとすぐにわかる。調査会社カウンターポイントリサーチによると、2026年上半期の世界の人型ロボット出荷台数は前年比約300%増で、2万2000台を超えた。メーカー別シェアで見ると、アギボットが約43%でトップ。以下、ユニツリー、ガルボット、ユービーテック、ルージューと、上位5社はすべて中国勢だ。
この5社以外にも有力な中国ロボット企業は多い。人型ロボット企業は200社を超え、評価額100億元(約2400億円)を超える企業だけで約20社が存在する。
米国のロボット産業がテスラやフィギュアAIなど選ばれしエリート企業たちが競い合う世界ならば、「大乱戦!中華ロボ」なのだ。
このバトルをくぐり抜け、8月に上場を果たしたのが人型ロボットの最大手のひとつであるユニツリー。ド派手なロボットカンフーショーを披露して世界をあっと驚かせたメーカーだ。上場直後、その時価総額は約4450億元(約10兆円)という、とてつもない記録を出している。
こうしたスゴい企業が出てきたとはいえ、少数精鋭と大乱戦のどちらがいいのか、一概には決められない。資金や人材を集中させた米国スタイルのほうがより早くいいものが作れる気もするが、中国スタイルにもメリットがある。サプライヤーの進化だ。
ロボット運動会と同時期に、北京市では世界ロボット大会というイベントも開催され、部品サプライヤーも数多く出展していた。超人的な動作を制御する中心パーツのロボットハンドやモーター、減速機、コントロールユニットなどサプライヤーも細分化されるが、こちらも同じジャンルで複数企業が大乱戦を繰り広げている。
何せ部品を買い上げてくれるメーカーの数が多いので、サプライヤーもどこか一社が独占する図式になりにくい。ロボットという最終製品だけではなく、部品サプライヤーも大乱闘の修羅場をくぐり抜けながら、すさまじい勢いでレベルアップしている。
短距離走や格闘などの運動系ロボットはメディアの露出も多いが、やはり現状で主力となるのは工業用ロボット。ロボット運動会の裏ではこれらのセールス合戦も過熱
すでにロボットのサプライチェーンが構築されている中国市場。パーツを専門に手がける中小メーカーも乱立。彼らの目的は政府からの補助金!?
ロボットの部品メーカーでいうと、強いのが日本とドイツである......が、人型ロボットでは話が違う。日独は大型の産業用ロボット部品ではいまだに強いが、小型のロボット用部品では中国勢が圧倒。
業界報道によると、減速機、サーボシステム(制御機構)、コントローラーという三大コア部品の国産化率は、26年5月時点で75~90%に達したという。2年前は50%を下回っていた。完成したロボットだけではなく、その中身まで日本危うし、なのだ。
いや、中国ロボットメーカーだけではない。米国のロボットメーカーでも中国製部品の採用が進んでいる。個別の部品メーカーはだんご状態の戦いだが、国別シェアで見ると中国圧勝のようだ。
と、運動会や展示会など現場を見てきた興奮そのまま、「中華ロボット、ヤバいっす」と書き連ねてきたが、ちょっと冷静になると、粗が見えるのも事実だ。
というのも、ロボットはまだまだ発展途上で、今すぐ人間の役に立って働けるという代物ではない。
ユニツリー創業者、王興興(ワン・シンシン)CEOは8月20日、世界ロボット大会で講演したが、上場直後に弱気発言を連発して話題となった。
「今のロボットはですねぇ、人間よりも仕事の効率がだいぶ悪いんです。新しい仕事を教えるには一からトレーニングが必要で、新しい環境に適応できない。ある特定の場面では、100%近い成功率でタスクがこなせても、ちょっとでも状況が変わると成功率は一気に下がる」
と課題を認めた。将来的には課題は解決できると言いつつも、
「人間が言葉で指示して、日常的なタスクの8割をこなせるようになるまでには時間が必要です。早ければ2~3年後かな。遅いと5年......いや、10年かも」
と予測していた。華麗な上場を決めたユニツリーだが、上場直後に10兆円超えだった時価総額はほぼ半減と、ダイナミックに急落している。
中国のニュースを見ていると、「○○社の工場で人型ロボットが労働開始!」という景気のいい話が多いが、実際には実証実験にとどまる。
現時点での人型ロボットはダンスや格闘技、スポーツといった特定の種目では〝超人〟的な活躍ができるが、工場や家庭でのお仕事となると、まだまだ半人前。趣味には強いが、仕事はからっきしという遊び人なのだ。
いや、その趣味の世界もショート動画では一番いいシーンだけが切り抜かれているのですごく見えるが、中国版の長尺動画で見るとかなり退屈だ。
ボクシングでは見当違いの方向を殴り続け、サッカーではボールを見失って棒立ちになるシーンが多い。一番機敏に動いているのは、こぼれ球を拾ってロボットに渡す人間の審判だったりする。
中華ロボが仕事はできなくてもスポーツやダンスがイケているのには理由がある。現在の人型ロボット産業は「物語優先」のフェーズなのだ。
「人間の代わりにロボットが働いてくれる世界が到来する」というのはなんとも魅力的な物語で、それを実現するための技術には多額の投資が集まる。ただ、王CEOが言うとおり、その道のりは遠い。仕事でアピールできないのであれば、ダンスなどの目立つパフォーマンスで注目を高め、投資マネーを集めようという算段だ。
ロボット格闘リーグを主催するエンジンAIの創業者、趙同陽(ジャオ・トンヤン)CEOは中国メディアのインタビューに「最終目的はすべての作業員がロボットの工場」と答えつつも、そのための通過点として格闘技大会を開催していると話している。確かにロボット格闘技などというワクワクするコンテンツを見せられたら、一般人は大興奮、釣られて投資家もテンションが上がる。
エンジンAIは今年2月に格闘リーグ構想を発表したが、その後、立て続けに資金調達を発表。4月には2億ドル(約320億円)のシリーズBラウンド調達を完了している。この金額と比べると、純金製チャンピオンベルトなんて安いもの、かもしれない。
ただし、格闘技はまだフレッシュだが、カンフー、ダンス、マラソンといったパフォーマンスはすでに手あかがつきすぎて、あまり注目を集められなくなってきている。次のテンション爆上げポイントが必要だ。
「シリコンの皮膚で本物の人間そっくりの外見をしたロボット」もそうしたトレンドのひとつ。とはいえ、シリコン皮膚の作り方はセックスドール産業ですでに確立している。それに、首を動かす、まばたきする、眼球を動かすぐらいの動作を入れたというのが現状だが、「まるで本物の人間だ!」と、みんな素直にテンション上がっているからかわいいものだ。
ちなみに私もそのひとりで、リアル系ロボットの写真を撮りまくってきた。今年8月の深圳の展示会では可動部ゼロでAIによる会話もナシ、つまり従来のセックスドールそのものにしか見えない製品を〝最新ロボット〟として出展するアグレッシブな企業もあった。
スタッフに裏話を聞くと、セックスドール体験館のフランチャイズ加盟のお誘いである。大企業によるビジネスロボット展示会でこの宣伝はあまりに大胆。度肝を抜かれた。
近年、増えてきたヒューマノイドのタイプ。歩行からおしゃべりまで人間のような動作が可能。高いものはお値段2000万円超え!
リアル系のヒューマノイドがある一方、瞳がホラーしている不気味系も!?
王道路線、つまり「仕事のできるロボ」でテンションを上げようとしている会社もある。簡単な作業でもいいから、実際に働ければインパクトは大きい。その最前線にいるのがガルボットだ。同社はロボットが接客する販売店を200ヵ所、さらにロボットがピッキングを担当するデリバリー向け倉庫100ヵ所の運営を進め、働くロボの最前線にいる。
同社広報によると、「繁華街での記念品やフィギュアなど高額商品の販売、コンタクトレンズのデリバリー倉庫など高額商品を扱うケースならば、十分に利益が出せる水準にある」のだという。今すぐ人間の代わりは無理にせよ、ちゃんと探せばロボットがお役に立てる場面は必ずあると模索している。
ただ、中国の人型ロボット業界に流れ込んでいる投資資金の額を考えると、それに見合うだけの働ける場所をすぐに見つけることは困難だろう。ロボットの知能にもまだまだ改善の余地は多い。さらに部品の耐久性やコストなど課題は山積みだ。
中国ではロボットの社会実装が進み、日本でもおなじみのファミリーマートで販売員として働くロボットが活躍中
デリバリー専門のコンタクトレンズ販売店で働くロボット。商品の陳列、配送の手配などを担当
工業用のロボットアームから転用された、カクテルを作ってくれるバーテンダーロボ
というわけで、今の熱狂が冷めれば、人型ロボットバブルははじけるとみている人は多い。いや、中国政府自体がバブルを警戒している。
中国国家発展改革委員会は昨年11月に「人型ロボットは技術路線、商業化モデル、応用シーンのいずれも未成熟」として、この段階で無数の企業が似たようなロボットを作っている状況を警告した。
ロボット運動会終了後の8月末の記者会見でも、「むやみに流行を追い、一斉に群がる」動きは防がなければならないと、再びくぎを刺している。
というわけで、冷静になると、ロボットバブル崩壊はいつだ(!?)という話になってしまう。ただ、それでも、だ。今のとんでもない勢いが予想外の突破を生むのでは、という期待は捨てきれないように思う。
チャットGPTも最初は「なんかおもしろいじゃん」だったのが、数年で「仕事で必須」に変わった。ロボットにもそうした飛躍の可能性はあるのではないか。
もし、このどんでん返しがあるとするならば、そのチャンスをつかむのに一番近い位置にいるのは中国だろう。それはロボットメーカーが多いから、ではない。素直にロボットの開発から自己流のカスタムまでをエンタメとして楽しみ、それにテンションを上げている人たちがいるからだ。
かつてASIMOやaibo(AIBO)に「うっひょー」と熱狂していた日本のロボット愛は、今は中国にある。