
佐藤優
さとう・まさる
佐藤優の記事一覧
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
8月13日、プーチン露大統領は択捉島を初訪問した(写真:EPA=時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――この件に関しては北方領土の専門家である佐藤優さんに聞かないとなりません。プーチン露大統領が8月12日に樺太を、13日には択捉島を訪問しました。
佐藤 8月12日の演説では、日本の対露制裁を批判し、北方領土問題について「領土要求をしているのは日本だ」と話していましたね。日本としては偶然の衝突を避けながら、将来に向けて意思疎通をしていくことが大事です。
――プーチンの言葉は相手を完璧にぶちのめすのではなく、どこか隙をわざと作り、脇が甘いような気がします。
佐藤 脇が甘いわけではなくて、12日と13日では状況と意味合いが違います。12日は対話のメッセージです。13日は択捉島に行きましたが、これが色丹島ならば意味が変わります。
――色丹だったらどんな意味があったんですか?
佐藤 安倍(晋三)さんが首相時代に、北方領土返還は色丹島、歯舞群島の2島でいいと判断しました。つまり、日本政府は、国後島と択捉島を放棄しているんです。
その話がいまも生きているのならば、択捉島と色丹島で扱いが変わります。択捉島だったら、日本は本気で暴れません。しかし色丹島ならば、本気で暴れます。
――すると、プーチンはそこで絶妙の間合いを取っている。
佐藤 はい。それから日本では茂木敏充外務大臣が、ロシアの駐日大使であるノズドレフ大使に抗議しました。そしてロシアのガルージン露外務省次官は、モスクワにいる武藤顕大使に抗議しました。
日本が大臣による抗議であるのに対してロシアが次官だったのは、ロシアとしては本件を大きな問題にはしたくないというシグナルを出したわけです。
――誰がどんな相手に何を言っているのか、冷静に判断しないとならない。
佐藤 そうです。特に外国の世界は「誰が出てくるか」、それが大臣か次官かで話が全然違ってきますから。
――いきなり「中露同盟だ」とか騒ぐのは違うと。
佐藤 それは頭が悪すぎますね。
――これで択捉島に行った意味はわかりました。
佐藤 安倍さんは「国後島、択捉島はロシア領、歯舞諸島と色丹島をは日本領として手を打たないか?」という方針で動いていたんです。
――高市幕府は対露でなにか動きますかね?
佐藤 動かないでしょうね。
――不動の姿勢だと。その後、プーチンは8月31日にキルギスでの上海協力機構首脳会議で、習近平国家主席と会談しました。このふたりの間では何を話したんでしょうか?
佐藤 朝鮮戦争の法的終結でしょうね。これから動きが出てきますよ。最近、トランプが「北朝鮮の核弾頭は57発」と言及し、金正恩との年内会談も予定しているようですしね。
――その会談で、北朝鮮の戦争が終わるとトランプが「俺は平和を取り戻した、ピースメーカーだ」という話になる......。すると、在韓米軍は撤退しますか?
佐藤 在韓米軍は朝鮮国連軍としての地位と、米韓相互防衛協定に基づいて駐留しています。ふたつの条約でその地位が縛られている状態です。
――朝鮮戦争の休戦協定が平和協定となれば、そこにいる理由が消滅します。
佐藤 だから、無くなるのではなく再編されることになるでしょう。となると、日本の横田基地にある朝鮮国連軍後方司令部は当然無くなります。
――ワンダフルなピースメーカーであります。それから、米国CIA長官がロシアのFSB(連邦保安庁)のトップと会談して、ウクライナ和平についてのプーチン、トランプ、ゼレンスキー三者会談を提案したとか、しないとか?
佐藤 プーチンは今回会ってないと言っています。しかし、CIA長官はC130軍用機で行っているから目立ちません。そろそろ、ウクライナ戦争の収束に入ろうという話でしょう。だから、「表の外交をしないでね、ヨーロッパにも相談もしないでね」と。
で、ウクライナがこの戦争に勝てると思いますか?
――無理だと思いますが、勝つ勝たない以前に、ゼレンスキー大統領は「勝った、勝った」と連呼するか、「露軍が大軍で来る」とアピールしないと他国からの援助がなくなります。
佐藤 だから、大誤報だった太平洋戦争末期の台湾沖航空戦の大本営発表と同じようになっていますね。
――はい。今、露軍はウクライナ軍の無人長距離自爆機にやられたのと同じように、民間物流倉庫に攻撃をぶち込んでいます。
佐藤 ロシアはやられたところと同じところを狙って、ウクライナ国内で攻撃している。
――ロシアは、英国製のステルス長距離ドローンが国内攻撃に使われたと、英国をテロ攻撃の共犯者として非難しています。露軍はいつかロンドン空爆をやるかもしれません。
佐藤 そうかもしれませんね。
――さらにドイツは、国内空港で発覚した無人機による破壊工作を「ロシアの責任」としました。確実にウクライナ戦争は西欧方面へ広がろうとしています。この戦争を止めるための落とし所はなんですか?
佐藤 ロシア側の条件の問題で、占領地の確定と、ウクライナがNATOには入らないことですね。
――しかし、なかなかそうはいかない。
佐藤 だから、実際はドイツが、ウクライナへの金と武器の提供を止めたら終わりです。米国は武器を提供しています。しかし、それに対して誰かが金を満額払わない限りは提供していません。
――戦況はドイツ次第だと......。
佐藤 ウクライナの人口は1993年には約5500万人でした。しかしいまの人口は2200~2500万人と半分になりました。残っているのは、神風特攻隊みたいな連中が多いです。
――やはり、出口はあの小説『静かなドン』と同じになりますか?
佐藤 コサックの内戦は、結局どちらかが勝つまでやりました。中間はありません。皆殺しにして終わりです。
――ひえー!
佐藤 そして小説の最後では田舎の家もなくなり、奥さんも愛人も死に、残っているのは息子だけでした。
――このままだと、ウクライナ人が最後のひとりになるまで戦うんですか?
佐藤 ゼレンスキーにはそれしかないんですよ。ヒトラーはベルギーが陥落しても、最後まで戦うしかありませんでした。
――ゼレンスキーも首都陥落まで戦い続ける......。
佐藤 南ベトナム(ベトナム共和国)大統領グェン・バン・チュー(1923-2001)は、北ベトナム軍がサイゴンに接近してくると逃げ出しました。そして、戦後はイギリスや米国で暮らしました。米国は最後まで面倒を見たんですよ。
――それは、グェン・バン・チューさんがアメリカに忠実だったからですよね。果たしてゼレンスキーはそうなるのか......。
佐藤 もしかしたら、ゼレンスキーも最終的にはハワイなんかで余生を送るかもしれませんよ。
次回へ続く。次回の配信は2026年9月18日(金)予定です。