【ルポ】人気AV女優はなぜ「同人AV」に挑戦するのか?

取材・文/河合桃子

(左から)松本菜奈実、永井マリア、響きょう(左から)松本菜奈実、永井マリア、響きょう

AV新法施行から約4年がたち、業界ではコンプライアンス重視の「適正AV」の概念が定着する中、個人制作の「同人AV」に有名女優たちが次々流入している。彼女たちを惹きつける、「適正にはない、同人の魅力」とは何か?

今回、適正から同人に活動の場を移した女優と両フィールドで活躍する女優に話を聞いた。新しいAV文化は同人によってつくられる?

【〝適正女優〟の転身】

「自分らしく生きていく」

まるで自己啓発のような文言だが、これはAV配信サイトの広告看板に書かれたキャッチコピーだ。

AVライターの刈田萬蔵はこう話す。

「これまでAVは違法配信されたものを除くと、『FANZA』などの大手AV配信サイトで見るのが一般的でした。これらのサイトで配信されているAVは、既存のAVメーカーが作る『適正AV』といわれるものです。その一方、ここ1、2年でものすごく勢いを増しているのが『同人AV』です」

適正AVは女優の出演強要などの問題を防ぐため、2022年に施行されたAV新法と合わせて業界の新ルールとして有識者らにより定義づけられたもの。

出演の意思確認など定められた基準を満たして制作され、「適正映像事業者連合会(CCBU)」の認証を受けたAVを指す。一方の同人AVは、CCBUの認証を受けていない、個人またはサークルが制作したAVのことだ。

冒頭の広告看板は同人AV配信サイト『マイファンズ』のもの。歌舞伎町や六本木など東京の繁華街で大々的に掲示されている。

「マイファンズは同人AV配信サイトとしては国内最大手。もともとは素人女性が出演する作品の多さが売りでしたが、最近、適正AVに出演しているAV女優(以下、便宜的に〝適正女優〟と表記)が同人に転身するケースが急増しています。例えば、今年5月には巨乳女優、松本菜奈実(ななみ)が転身して話題になりました」

(右)『マイファンズ』の広告看板。(左)マイファンズ内にある、人気女優るるたんのチャンネル(右)『マイファンズ』の広告看板。(左)マイファンズ内にある、人気女優るるたんのチャンネル

同人AV配信サイトでは、基本的に女優たちがサイト内に自身のチャンネルを持っており、ユーザーは女優側が用意したプランに応じて毎月定額を支払ったり、作品を購入したりする。

マイファンズ以外にも『キャンドファンズ』や、元AV女優の上原亜衣などが今年6月に立ち上げた『ハンサム』などがあり、今まさに急成長の市場だ。

適正女優たちはなぜ同人に転身するのか。先述の松本菜奈実に聞いてみた。

「最初は適正AVに出ながら同人もやろうと思いましたが、メーカーさんから『同人をやるならカラミ(セックス)はやめてほしい』と言われるなど、いろいろと制約があって。だったら同人での活動に振り切ろうと決意しました」

松本菜奈実。2017年デビュー。バスト100㎝、Jカップの爆裂ボディで人気のAV女優。21年からストリッパーとして浅草ロック座のステージにも立っている。今年1月にプロダクションを退所、フリーに松本菜奈実。2017年デビュー。バスト100㎝、Jカップの爆裂ボディで人気のAV女優。21年からストリッパーとして浅草ロック座のステージにも立っている。今年1月にプロダクションを退所、フリーに

適正のフィールドに比べて同人で活動することのメリットについて、松本は「撮影時間が同人のほうが圧倒的に短い」と話す。

「短いから良いというわけではないですが、心身ともに負担が少ないのは確かです。適正AVのように照明をガンガン当てて作り込むのではなく、自然光で生々しく、ライブ感をもって撮るから、待ち時間が少なくスムーズなんです。その分、よりヌキに特化した内容を集中して撮れるメリットがあります」

松本が続ける。

「スタッフとグループLINEを通して直でやりとりできるから撮影前の不安をすぐ解消できますし、何よりすぐにアイデアを出し合えるのもいいです。あとは、販売の管理画面をいつでも見られるから『この作風は売れるけど、これはイマイチ』といった情報が瞬時にわかる。

適正では、こういうふうに能動的に作品の販売戦略に関わることはできませんでした。メーカーさんは具体的な数字を教えてくれませんから」

同人AVには適正AVで活躍した人気監督の流入も著しい。適正AVに痴女モノにも似た独自ジャンル〝甘サド〟を確立させた、さもあり監督も同人AVに参入。松本は、さもありとコラボ作を発売し、自身の過去最高の売り上げを記録した。

「ギャラという面でも同人はうれしいことがあります。適正AVだと出演1本で20万~25万円の手取りが相場でしたが、同人AVは個人制作ということもあり、売り上げから得られる収入が比較的多いんです。例えば、さもあり監督とのコラボ作がヒットしたときは、ひと月で約400万円の収入がありました。

ただ、お金のためというよりも、少しでも良い作品を作りたい。それがどれくらいの本数を売ることができるのか、その挑戦を楽しんでいます」

求められるのは自己プロデュース力

適正AVからいち早く同人AVに転身したのは痴女女優として絶大な人気を誇った永井マリアだ。永井は「同人のいいところは、テンションが上がる好きなプレイを集中して撮れるところ」と言う。

「好きな人以外とのベロチュウや顔を舐められるプレイは、実は苦手でした。適正のときは苦手な作品撮りが続いて精神的にキツいこともあった。それに、男優のNGは出せても、この男優がいいという指定はできなかった。作品をよりエロく見せるにはモチベーションが大事なので、誰と組むのか自分で選べるのはいいですね」

今年3月に第1子を出産した永井は、妊娠中に「記念すべき作品」を撮影した。

「私は海外ファンがすごく多いんです。日本人には倫理的にマタニティAVはあまり好まれませんが、海外では一定の人気があります。何本か撮影し、中には1000万円売り上げた作品もあります」

永井マリア。2014年デビュー。B118 W72 H125のむちむちダイナマイトボディで圧倒する人気AV女優。とあるフィットネス大会のヒップ部門でファイナリストになった経歴もあり永井マリア。2014年デビュー。B118 W72 H125のむちむちダイナマイトボディで圧倒する人気AV女優。とあるフィットネス大会のヒップ部門でファイナリストになった経歴もあり

同人での活動について、永井もお金を稼げることのみをメリットととらえているわけではない。

「同人AVは、SNSでマイファンズなどへの導線になるような発信をいかにうまくできるかにかかっています。自己プロデュースができて、それを楽しいと思える私のような女優は、やりがいがあると思いますね」

永井は自分以外の女優のプロデュースにも力を入れる。

「マタニティ作品は私の想定どおり過去最高に売れました。このように成果を出せると、今度は誰かをプロデュースしたくなるんです。今ではかつて適正AVに出演していた女優を6人くらいプロデュースして、同人作品をリリースしました。私の会社は今ではプロダクション業務から撮影、編集まですべて行なっているんです」

永井はかつて自分を育ててくれた適正AVに感謝しつつも、こんな複雑な思いを抱えている。

「正直、適正の時代よりも同人での活動のほうが数倍稼げていますし、やりがいも感じています。そういうことに気づいたほかの適正女優が次々と同人に転身しているのですが、適正の業界人たちが危惧してか、同人AVのネガティブキャンペーンを行なっているんです」

最近、適正AV業界で発信力のあるプロデューサーがSNSに「同人はギャラが安い」という内容の投稿をしていた。永井はそれを見て、こう感じたのだという。

「確かに誰かのチャンネルにゲストとして出演して、その結果、ギャラを安く見積もられるなどはあります。でも、それってどの業界にも悪い人がいるのと同じこと。自分でしっかり発信して作品を作り、ファンがつけば売り上げも出せる。同人はギャラが安いとは一概には言えません」

【適正と同人のはざまに立つ】

かつてAV業界には「同人AVに出演歴がある女性は適正AVに出演しにくい」傾向があった。ある大手プロダクションのマネジャーは言う。

「顔もスタイルも良く大手AVメーカーの専属女優として契約寸前だったコがいました。でもそのコが過去に同人AVに出ていたことが発覚。それにより、契約は中止になってしまった。それくらいメーカーからは同人AVは嫌がられてましたね」

だが、徐々に同人AVの認知度が高まり、特に素人女性の同人AVでのデビューが増えたことにより、そうは言っていられない状況になった。

「スカウトが連れてくるコにしても応募してくるコにしても、ビジュの良いコはだいたい同人AVの出演経験があるんですよね。だからか、ここ2、3年ほどで、同人AVの出演歴があってもよしとする流れになってきました」

この流れに乗ったひとりが、同人AVで活動後に適正AVデビューした女優、響(ひびき)きょうだ。適正から同人に転身する女性は多くいたが、同人に出ながら適正に堂々と出演している女優は少ない。

響はAV男優の森林原人に〝女優志願〟をしたことで、その道を開いた女性だ。森林はかつて適正AVの男優として活動していたが、現在は適正からは引退して同人にフィールドを移している。

響きょう。"エロ界隈の響祖(きょうそ)様"を名乗る霊感系AV女優。森林原人に見いだされて同人AVからデビューし人気を集める。適正AV作品にも活動の幅を広げている響きょう。"エロ界隈の響祖(きょうそ)様"を名乗る霊感系AV女優。森林原人に見いだされて同人AVからデビューし人気を集める。適正AV作品にも活動の幅を広げている

森林に女優志願をした経緯について、響はこう語る。

「以前から森林さんのプレイが好きでファンでした。彼が自身のチャンネルで女優募集していたので応募したんです」

響は自分の顔や体の写真、スリーサイズなどの情報、そして「いかに森林さんの作品に出演したいか」という熱い思いを添えてメールを送った。

「実は私は霊感が強く、20代は霊障(目に見えない霊的な存在の影響により心身に不調が現れる状態)に悩まされていました。

経済的にも精神的にもドン底で、もうこれ以上落ちることはない状況で森林さんの女優募集に応募しました。ドン底から這い上がるには周囲からも驚かれるような方法を試してみるしかないって思ったんです」

森林は響と対面で面接し、AV業界における適正と同人の違いやAV出演のリスクなども含めて丁寧に説明した。

森林は響と初めて会ったときの印象をこう振り返る。

「響ちゃんは熟女とも言える年齢でしたが、童顔に似つかわしくないⅠカップの美乳で驚きました。僕の作品に出演後、手応えを感じたみたいです。活動の幅を広げたいとのことだったので適正AVへの道を紹介しました」

響が同人AVデビューしたのは2021年のことだった。その後、3年ほど活動し、適正AVでもデビューした。

「その際に適正と同人のAV女優活動のキャラクター設定のすみ分けを行なう必要がありました。それに関して適正側からは誓約も定められましたが、私としてはどちらの成人作品の現場も純粋に体験したくて活動しているだけです。なので誓約があってもなんの問題もありませんでした」

響にとって同人と適正、それぞれのAV出演はどう違うのか。

「私よりもかわいいコはたくさんいるから、同人でも適正でもマスクを着けたまま出演しています。隠したほうがエロいから。キャラ設定は適正だと〝セックスレスの人妻〟で、同人だと〝霊視ができるエロ好き女〟。

適正は現場に身ひとつで行くだけで完結しますが、同人は男優の出演依頼やスタジオの用意から撮影、編集まですべて自分でしないといけないので、適正に出るほうがよっぽど楽ですね」

ただ、響は「同人が主軸で適正が副業」という感覚で活動しているという。

「私の人生の転機となったのは、やはり森林さんの後押しで同人AVに出演したこと。

それによって徐々に健康も取り戻せました。だから同人の活動のほうが私的には主軸で、適正は仕事の幅を広げるためだけなんです」

* * *

今後も適正AVから同人への流入はあるのだろうか。前出の刈田萬蔵はこう予想する。

「ベテラン女優の流入は今後もあると思います。でも僕らファンからしたら、エロいAVが見られることが大事で、それが同人であろうが適正であろうが、大した違いはありませんよね」

ただ、同人AVには今もグレーな側面がある。近年、同人AV制作者の「無修正わいせつ動画の頒布」の摘発が後を絶たない。

「同人はあくまで個人制作。個人やサークルなどでAV新法にのっとり制作している者もいれば、そうではない者もいます。配信作を見ただけで摘発されたケースは現時点でありませんが、法に反した作品やその制作者には当局も目を光らせています」

AV誕生から約45年。業界は混迷の最中にある。大手メーカーには今年8月から同人流入を防ぐことが目的と思われる出演契約を変更する動きもあるようだ。

アダルト業界で末長く生きていこうと決めている女優にとって、同人は魅力的なフィールドではある。曲がり角にあるAV業界で適正と同人はどのように相互作用するのか、今後に注目したい。

(敬称略)

●河合桃子(かわい・ももこ)
1977年生まれ、東京都出身。週刊誌などで、大分県のシイタケ農家から都内のハプニングバー摘発事件まで幅広く取材・執筆するライター。第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞した『地面師連絡役カトウ』(小学館)が絶賛発売中

  • 河合桃子

    河合桃子

    かわい・ももこ

    1977年生まれ、東京都出身。週刊誌などで、大分県のシイタケ農家から都内のハプニングバー摘発事件まで幅広く取材・執筆するライター。第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞した『地面師連絡役カトウ』(小学館)が絶賛発売中 (撮影/下城英悟)

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