
当サイトでは当社の提携先等がお客様のニーズ等について調査・分析したり、お客様にお勧めの広告を表⽰する⽬的で Cookie を使⽤する場合があります。
詳しくはこちら
3月、大阪市内の団地に突如現れた鹿。ギャラリーに囲まれても物おじせず人慣れしていた
3月、大阪の市街地に奈良公園の鹿であろう個体が迷い込んでニュースになった。なぜこのようなことが起こった!? 今後も"迷い鹿"は現れそう!? 現地で話を聞いてみた!
* * *
奈良公園の鹿が奈良と大阪を隔てる生駒山を越え、約40㎞の道のりを歩いて大阪に渡ったのではないかというニュースが世間を騒がせた。
本誌記者は3月23日に大阪市都島(みやこじま)区の団地内を闊歩(かっぽ)する鹿を目撃。現地は突然現れた鹿に大騒ぎとなった。が、一方の鹿は大勢の人が近づいてもまったく驚く気配もなく、黙々と団地の花壇の花をむしゃむしゃ食べ、団地内を歩き回る。人慣れした「奈良の鹿」そのものだった。
翌24日にこの鹿は警察に出頭するかのように近くの警察関連施設に迷い込み、翌日昼に逮捕、いや捕獲保護され大阪府能勢町の"能勢温泉"で保護されることになった。
いったい奈良公園の鹿に何が起こっているの!? 現地で最新事情をリサーチしてみた。
*
まず奈良公園で驚いたのは、インバウンドの多さ!
鹿せんべいを売る売店には100人ほどの行列ができていた。行列に並んでやっとのことでゲットした外国人観光客の手元を見ると、袋いっぱいに入った鹿せんべい。推定2000~3000円の大人買いをしていた。
ただ、外国人観光客だけでなく奈良公園の鹿の数も相当増えているようだ。タクシー運転手はこう語る。
「鹿の数は肌感覚で増えているのがわかります。道路を横断する鹿も昔は1、2頭やったけど、今は5、6頭の集団で横切ったりするからね。
今朝の会社の朝礼でも『昨日の夜、うちの運転手が鹿をひいてしまう事故がありました。皆さんも気をつけてください』って。鹿の話が増えてきています」
鹿せんべいの売店はインバウンドで長蛇の列。大量に買っていく姿も
このように鹿が増えすぎたことが、奈良公園の外に鹿が出ていく理由のひとつと語るのは、「奈良の鹿愛護会」の中西康博副会長。
「毎年7月に頭数調査をしているのですが、昨年の調査で過去最高の1465頭でした。よく有識者がいわれる適正頭数は700頭のようです」
なぜそんなに増えたのでしょう?
「理由のひとつは観光客のエサやり。鹿に食べさせてもいいものは鹿せんべいだけなんです。ところが、それをわかっていない観光客が多い。先日も外国人観光客がアーモンドやポテトチップスをあげているのを見かけました。
以前、修学旅行生に鹿についてのアンケートをしたことがあるんですが『鹿は何を食べると思いますか?』という質問の回答で一番多かったのが『フライドチキン』だったので愕然(がくぜん)としたことがあるんです。きっと食べさせたんだろうなと思います」
鹿せんべい以外のエサやりは禁止だが、缶コーヒーを与える観光客の姿も
鹿せんべい以外のエサをあげてしまうと、なぜ頭数が増えてしまうのでしょう?
「自然死する鹿が減ります。奈良公園の冬はほとんどエサがなくなります。これまでなら自然死していた鹿が冬を越して生き延びるケースが出てきました。
母鹿もなんやかんやもらって食べているせいか、冬場でも子鹿を育てられる。最近の母鹿を見ていてもぽっちゃりしています(笑)」
もうひとつの理由も中西副会長が語ってくれた。
「野生の鹿って賢いんです。母鹿は今年の自分の肉づきや栄養状態を判断して発情するかどうかを決める。
今年の自分の状態を見て、産めると思ったメスが発情して繁殖するんです。栄養状態が良くなることで子供を産もうとするメス鹿が増えて、どんどん個体数は増えていくわけです」
奈良公園の鹿の現状を語ってくれた「奈良の鹿愛護会」の中西康博副会長
さらにこんな話も。
「奈良公園の鹿の頭数はオスとメスの比率が1対2.5くらいでオスが少ないことがわかります。もちろん生まれたときはオスとメスの頭数はほぼ同じです。ただ、繁殖できる大人になると優勢なオス鹿だけがメス鹿を囲い始めるためオスの多くはなわばりの外に追いやられてしまいます。
はじき出されたオスは奈良公園を離れてどこか遠くに行ってしまうのかというと、多くはそうではない。奈良公園の少し外の緩衝地帯と呼ばれているエリアに踏みとどまってひそかに暮らします。今、威張っているボス鹿が衰えるときが来るまで、そこで虎視眈々(たんたん)とチャンスを狙って奈良公園に戻るわけです」
では、遠くまで出かける鹿はそう多くはない?
「ここには俺の居場所がないわ、と思ったら次の居場所を探しに行くのが野生動物。奈良公園にはエサもいっぱいで安心安全。できたら近くにすみたいはずなんです。
なので、遠くに行くのは『ライバルに勝てそうにない』とか『公園で威張っているオス鹿が高齢になって倒れるまでの長い間とても待つ気になれない』と思ったのかもしれません」
こうした奈良公園の鹿の現状がわかったところで、その奈良公園から逃げてきたであろう鹿を追ってみた!
前述のように、大阪府能勢町にある温泉宿泊施設「能勢温泉」が迷い鹿の「シカやん」を引き受けることになった。能勢温泉の西山竜也社長に引き取ったいきさつなどを聞いてみた。なぜ、シカやんを引き受けることに?
「最初は大阪市からの電話での問い合わせでした。『今報道されている鹿をこれから保護する予定です』と。そして『以前、鹿を飼育されていましたよね』と聞かれました。
私は今年の1月に社長になったばかりで、それ以前、父親が社長だった頃に鹿を飼っていたことがあったんです。その当時のブログか何かを見て、大阪市の担当者の方が電話してこられたみたいでした」
シカやんと、保護した「能勢温泉」の西山竜也社長。鹿せんべいが大好き?
そのときの気持ちは?
「びっくりしました。けど『いいですよ』と即答しました。大阪市が困って私に電話をかけてきている。また、担当の方がこのままどこも受け入れてくれるところがないと殺処分も考えないといけないと切実な話をされたのもありました。
鹿を一日でも早く助けてあげたいとほぼ即答でした。誰かに相談するとかもなかったですね」
鹿を受け入れるのは、温泉旅館の宣伝のためではないかと意地悪な見方をする人もいると思います。
「注目を集めたシカやんを受け入れることで能勢温泉を知ってもらえたらという気持ちはあります。ただ、だからといって『シカやんがいますから皆さん見に来てください』ということをやることはまだ考えられないです。
というのも、今うちに来ていただいているお客さんはうちの温泉旅館の温泉の質の良さ、周りの自然と静けさ、料理のおいしさなどに引かれて来ていただいている方ばかり。そのお客さんが離れてしまうとなれば本末転倒です」
今、シカやんはどんな状況ですか?
「芝生のあるキャンプ場の一角に15m×13mの柵を造ってそこに入っています。基本落ち着いていますし、元気。以前飼っていた純粋な野生の鹿とはまったく違います。前に飼っていた鹿は人が近づくと檻(おり)の中をぐるぐる回り始めて、最後には檻に自分から何度も衝突しにいっていました。
シカやんは人が来てもじっとしたまま。エサは干し草など、大阪市の保護担当の方に教えてもらってそれをあげています。それと葉っぱを食べられるように木も植えました。基本人間と同じで昼起きて、夜寝てますね。それと鹿せんべいが大好きです(笑)」
それってほぼ奈良公園の鹿で確定じゃないですか。

「僕はほぼ100%に近いぐらい奈良から来たと思っています。あのせんべい好き加減や人慣れ具合を考えるとそうとしか思えないです」
一部報道で「今後も市街地に現れた鹿はまた受け入れていきたい」と語られていますが、その理由は?
「これからのことを考えると、奈良は鹿が増えて困る。大阪は鹿が来て困る。もしそんな状況になったときは、うちで引き受けて、あくまでも構想なんですが『大阪府の"奈良の鹿"公園』というのが成立するかもしれませんし、京都にも『京都府の"奈良の鹿"公園』というのがありうるかもしれません。
そんなことをちらっと考えたりしているだけなんです。そういう動物と触れ合う施設があちこちにできていったら地域活性化にもつながるし、観光客も呼び込めていいなと、ちょっと僕の中で考え始めたところです。でも、まだシカやんが来て2週間ですから夢みたいなもんですけど(笑)」
というわけで、再び奈良に戻って、奈良県庁の担当者にシカやんの今後の対応について聞いてみた。
「大阪で保護された鹿については、奈良公園から出ていった鹿であることは完全には否定できません。つまり、奈良公園から出ていった鹿だともそうでないとも断定できないわけです。よって、奈良県知事が繰り返しおっしゃっていたように、大阪市の鳥獣保護管理法に従って取り扱ってもらうものだということです。
ただ、奈良市内でも奈良公園から割と離れた場所で鹿を見かけたという連絡が増えているのは事実です。当然、奈良市外に行く鹿がいる可能性もあるかと思います」
今後第2、第3のシカやんは現れるのだろうか? 担当者は少し困惑した口調で以下のように答えてくれた。
「奈良公園の鹿が年々過密になっていることは事実です。なので、過密が原因で奈良公園を離れる鹿が増えていくことは十分考えられます。第2、第3のシカやんに結びつくかどうかは不明ですが、『ゼロではない』としか言えません」
近い将来、奈良公園の鹿に続いて「大阪の"奈良の鹿"」が大阪の新名物になる日が来るかもしれない。