「ここまで先が読めないのは初めて」 AIショックで業界のベテランも困惑するクラウド会計ソフト業界

取材・文/逢ヶ瀬十吾、瑠璃光丸凪(A4studio) イラスト/沼田建 写真/共同通信社 時事通信社


ソフトをインストールするのではなく、インターネットを通じて利用できるクラウド型の会計ソフト。熾烈なシェア争いが起きている中、AIエージェントの台頭で、戦況はさらなる混戦模様となっているようで......。【ニッポン経済 令和の業界再編 三国志 Part6.クラウド会計ソフト】

*社名、店名表記はホームページに準拠。データは5月7日時点で、店舗数は国内のみで、海外店は含まない。売上高、営業利益、時価総額は運営会社のものを、店舗数はグループ全体ではなく、当該ブランド単体のものを記した。売上高を公表していない企業もあるため、法人向けのシェア率を基に順位をつけた。シェア率はMM総研の調査を参考にした

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【未来が読めない混沌とした業界】

クラウド会計ソフト業界は大きな転換期を迎えている。

従来の会計ソフトはインストール型で、また長期利用が前提となるため参入障壁も高く、"動きの遅い業界"とされてきた。しかし、クラウド化の波によってその構図が大きく書き換えられつつある。

フリーやマネーフォワードといった新興勢力はシェアを着実に伸ばしてきた。一方で、インストール型ソフト時代に圧倒的な知名度を築いた弥生もクラウド移行を進め、後を追う構図となっている。今回は特に中小企業向け市場の話に絞って、業界内で何が起きているのか探った。

まずはかつてフリーに勤務していたCさん(30代男性)に話を聞いた。

「現状はフリー、マネーフォワード、弥生の3社が並ぶ状態ですが、フリーは急速な組織拡大を続けています。私の入社時は社員数500人未満でしたが、退職時には1000人、現在は1700人規模まで増えています。

かなりのスピードで拡大していますが、いわゆるベンチャー的なギラギラした人は少なく、穏やかな社風です。法人のほうが売り上げは大きいですが、それでも個人事業主や中小企業へのアプローチは熱心でした」

【シェア1位】freee会計(運営会社:フリー) 《売上高》332億7000万円《営業利益》6億1000万円《時価総額》1452億9800万円《シェア》32.3% 請求書発行から仕訳まで一体化した「統合型」が特徴。複式簿記の知識がなくても使える設計で、若年層や初心者に支持される一方、従来の会計実務に慣れた層には使いづらさを感じる場面もある【シェア1位】freee会計(運営会社:フリー) 《売上高》332億7000万円《営業利益》6億1000万円《時価総額》1452億9800万円《シェア》32.3% 請求書発行から仕訳まで一体化した「統合型」が特徴。複式簿記の知識がなくても使える設計で、若年層や初心者に支持される一方、従来の会計実務に慣れた層には使いづらさを感じる場面もある
価格帯については三強間で大きな差はない。そのため機能面での差異化に軸足を置いているが、それぞれどのような特徴を持ち、どんなユーザーに支持されているのか。『税界タイムス』編集主幹の中尾安芸雄(あきお)氏が解説する。

「まずフリーは、請求書発行から帳簿作成までを一体化した『統合型』の設計が特徴です。取引データを入力すれば自動で仕訳が生成される仕組みで、複式簿記の知識がなくても使える。

これまで会計に関わってこなかった層や、ITリテラシーの高い若い世代に支持されています。一方、従来の会計実務に慣れている人ほど、今までと違うことに戸惑うケースもあります。税理士によっては導入に慎重な場合もあり、向き・不向きが分かれるソフトです」

【シェア2位】マネーフォワード クラウド会計(運営会社:マネーフォワード) 《売上高》503億5000万円《営業利益》26億5300万円《時価総額》2583億7000万円《シェア》19.2% 2014年にサービス提供を開始。会計や経費などの機能をクラウド上で連携させる「モジュール型」。必要な機能を組み合わせて使える柔軟さが強みで、段階的に導入したい企業から支持を集めている【シェア2位】マネーフォワード クラウド会計(運営会社:マネーフォワード) 《売上高》503億5000万円《営業利益》26億5300万円《時価総額》2583億7000万円《シェア》19.2% 2014年にサービス提供を開始。会計や経費などの機能をクラウド上で連携させる「モジュール型」。必要な機能を組み合わせて使える柔軟さが強みで、段階的に導入したい企業から支持を集めている
フリーと対照的なのがマネーフォワードだという。

「マネーフォワードは、会計・経費・給与などをクラウド上で連携させる『モジュール型』の発想です。必要な機能から段階的に導入できるため、『一気に全部変えるのは不安』という企業にもフィットしやすい。既存の業務フローを生かしながらクラウド化したい層に支持されています」

最後に、弥生について。

「弥生は長年の実績による知名度と顧客基盤が強みです。既存ユーザーの安心感は非常に強く、"まず弥生"という選択は今も根強い。ただ、クラウドでは後発で、現状はフリーやマネーフォワードを追いかけている段階です」

注目すべきは、弥生の既存ユーザーがどう動くかだろう。

「既存のデスクトップユーザーがクラウドへ本格的に移行すれば、一気にシェアが動く可能性はあります。ただし業務ソフトの移行には時間がかかるため、そのポテンシャルをどこまで引き出せるかが課題でしょう」

【シェア3位】弥生会計Next(運営会社:弥生) 《売上高》ー《営業利益》ー《時価総額》非上場《シェア》15.4% デスクトップソフトで築いた顧客基盤を背景に、クラウドへの移行を進める後発組。ラインナップは発展途上にありながら、既存ユーザーが本格的に移行すれば一気に存在感を高める可能性を秘める【シェア3位】弥生会計Next(運営会社:弥生) 《売上高》ー《営業利益》ー《時価総額》非上場《シェア》15.4% デスクトップソフトで築いた顧客基盤を背景に、クラウドへの移行を進める後発組。ラインナップは発展途上にありながら、既存ユーザーが本格的に移行すれば一気に存在感を高める可能性を秘める
では今後、この業界の勢力図を左右するのは何か。

「正直に言って、どの会社が最も伸びるかはわかりません。会計業界に50年いましたが、ここまで業界の先が読めないのは初めて。というのも、今AIの影響を最も強く受ける分野だからです」

中でも注目されているのが、生成AIの先にあるAIエージェントだという。

「これは目標達成のために自律的に考え、自ら実行までを行なうAIのこと。これによって『ソフトウエアは不要になる』とささやかれ、アンソロピックがAIエージェントをリリースした今年2月にはクラウド型ソフトの会社の株価が軒並み下落しました。

特定のAIに完全に依存するような状態がここ数年で一気に進むとは考えにくいですが、将来的には画面を操作するのではなく、チャットで指示を出せば自動でタスクをこなし、ユーザーが欲しい分析資料も瞬時にAIエージェントが提供してくれる、そんな姿に変わる可能性は高いでしょう。いずれにしても影響は確実に広がっていきます」

すでにフリーやマネーフォワードはAI領域への投資を進めており、この分野での対応が今後の競争力を大きく左右するのかもしれない。

「AIに乗り遅れるわけにはいかない。ここでどれだけ対応できるかが、次のスタンダードを決めることになると思います」

価格や機能だけでは差がつきにくくなった今、問われるのは"どこまで業務を任せられるか"。クラウド会計ソフト業界は、AIを軸にした次の競争フェーズへと入りつつあるのだろう。

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