
近兼拓史
ちかかね・たくし
近兼拓史の記事一覧
庶民生活に欠かせない"激安"と"大衆娯楽"をライフワークとする作家・映画監督。ジェネリック家電推進委員会代表理事、日本映画監督協会理事。主な著書に『安くてもスゴイ!ジェネリック家電の世界』(集英社)『80時間世界一周』(扶桑社)など、主な監督作品に『恐竜の詩』『痩馬の詩』『銀幕の詩』など。『近兼拓史のウィークリーワールドニュース』(ラジオ大阪・ラジオ日本ほか)が毎週放送中。
4Kテレビやドラム式洗濯乾燥機といったインパクト大の大型製品を含め、近年急速にラインナップを充実させてきた"家具の雄"ニトリの家電部門。「買いやすい価格」と「使いやすい実力」のバランスが市場に受け入れられ、旋風を巻き起こしている「ニトリ家電」の開発現場に迫った!!
※価格はすべて税込みです
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ニトリと聞いて、まず思い浮かぶのは「お、ねだん以上。」というキャッチコピーと家具類。しかし、最近よくテレビで見かけるのは、同社の家電製品のCMだ。ドラム式洗濯乾燥機にミニLED液晶4Kテレビ、冷蔵庫にエアコン、調理家電......。
店舗を訪れても、家電売り場の急速な拡大と充実ぶりは明らかだ。「あれっ、これ先月もあったっけ?」という商品リリースの速さ、「ドラム式洗濯機だけで何種類あるんだ?」という緻密な展開。
ここ数年の大攻勢を受け、今年1月に週プレ誌上で発表した「第13回ジェネリック家電製品大賞」では、「10kgドラム式洗濯乾燥機」が生活家電部門賞を受賞している。
その大躍進の秘密に迫るべく、自慢の家電開発施設に独占潜入した!
梅雨明け前の某日、週プレ取材班は大阪府豊中市のニトリ豊中三国店に併設されたニトリ大阪本部を訪れた。
ニトリが家電事業に本格的に参入したのは2022年からで、ここ大阪本部には、大手家電メーカー並みの計測機器や検査機器を備えた開発施設があるらしい。
家電商品部・製品開発マネジャーの河村さんの先導で廊下を歩く。「家電開発室」と書かれた部屋の前を通り過ぎ、案内されたのは2LDKのマンションを完全再現したハウススタジオだった。実際にソファなど生活家具類が置かれたリビングでは、新発売のミニLED液晶4Kテレビがデモ映像を表示していた。
自宅のリビングに近い環境のハウススタジオでのミニLED液晶4Kテレビの画質テスト。ラインナップは55型(7万9900円)と65型(9万9900円)
家電量販店のテレビ売り場にズラリと並んだ4Kテレビの画像を見比べて買って帰り、自宅のリビングに設置してみると、「こんなに映像が暗かったっけ?」と感じたという声は少なくない。
実は多くの場合、店頭に展示されたテレビは、通常の画質より数割増の発色と明るさ(ダイナミックモードなど)に設定されている。SNSでバズるアプリ加工写真と同じで、いわば「盛っている」わけだ。
それに対してハウススタジオでの画質チェックは、一般的な家庭と同じく低めの天井からシーリングライトなどの照明で照らされる中での、消費者目線でのガチンコテスト。公開するのをためらわず、こうして取材者に見せてくれるのは極めて誠実だ。
実際に目の前でテレビの画質をチェックすると、明らかに「お、ねだん以上。」。しかし、これほどまでの安さと高画質という、相反する課題を無条件で両立させる魔法はない。いったいどうやって?
「実際にいくつかの試作品を見比べてみた結果、画質を優先してミニLEDバックライトを搭載し、倍速エンジンの搭載はやめました。サッカーくらいの動きなら違和感なく十分キレイに見えますので」(河村さん)
多くの家電メーカーの技術者は、売り場=〝入り口〟でライバルたちの製品をねじ伏せるための最新技術やカタログスペックにこだわる。設計上の目標は、(特にフラッグシップモデルでは)機能そのものが優先されがちだ。
一方、ニトリは〝出口〟、つまり実際の使用感から逆算して商品化を進めている。液晶4Kテレビに倍速エンジンの搭載を見送ったという判断はまさに象徴的だ。
一般的には、動きの激しいゲームをプレイしたり、スポーツ中継を見たりする人は倍速エンジン搭載テレビが必須といわれてきた。しかし、実際にリビングの環境下でテストを繰り返した結果、「サッカーくらいの動きなら十分いける」と判断したというのだ。
続いて、ハウススタジオ内の浴室横の脱衣所に設置されたドラム式洗濯機の前へと案内される。
衣類を入れた状態で実際に回っている洗濯機の第一印象は、「静か」!
コストを度外視した高性能モーターを使えるのであれば開発はそれほど難しくないかもしれないが、価格の抑制と静音性を両立させるなら、その方法は丁寧な防振設計しかない。そうなると今度は防振素材の経年劣化が問題になりそうだが、5年保証付きで販売するからには、その点にも自信があるはずだ。
ボタンを押すだけで洗濯から乾燥まで静かに行なえる、便利で快適なドラム式洗濯機。しかし、特に単身者や2人世帯が住むような賃貸マンションでは、備えつけられているのが縦型洗濯機向けの小型洗濯パンであることも多い。
カタログ寸法上はドラム式でも収まるはずが、設置してみると排水ホースや電源コードの取り回しの問題で「あと数cm」に泣くケースも......。
電源コードをはじめとするケーブル類など、カタログスペックには記載のない部分の耐久性も屈曲耐久試験機でテスト。こうした積み重ねが長期保証の自信につながっている
だからこそ、実際に製品を置いてみて排水や配線を確かめ、「ちゃんと収まる設計」にできるこのハウススタジオが、競合他社に対する強力な武器となっていることは間違いないだろう。
「では、実験室に行きましょうか」(河村さん)
えっ? ここが実験室なんじゃないの?
店舗のバックヤードを進み、「どうぞ」と開けられた防音扉の向こうには――大手家電メーカーもビックリの各種試験・実験設備が並んでいた。
例えば、高級試験機の代名詞とも言える大型のウオークインチャンバー(恒温恒湿室)。内部環境をさまざまな温度や湿度に設定でき、製品の耐久性や稼働状況をテストできる。
ウオークインチャンバー(恒温恒湿室)でのエアコン性能テスト。さまざまな温度・湿度環境での耐久性とエネルギー消費特性を確認する。省エネ性能の検証に不可欠
ウオークインチャンバーの操作パネル。真夏でも真冬でも、気温や湿度を自在に設定した状態でさまざまな製品をテストできる
また、数年間屋外に置いた場合の太陽光、温度、湿度、風雨などに対する耐久力を時短試験できるUVテスター(促進耐候性試験機)や、特に海が近い地域で重要な塩分に対する素材の腐食耐性をテストできる塩水噴霧試験装置(多用途腐食試験システム)もある。
樹脂部材や塗装部品などに太陽光より強力な紫外線を照射し、数十時間で数年分の耐候テストができるUVテスター(促進耐候性試験機)
沿岸部や寒冷地など塩害地域での使用耐久性をテストする塩水噴霧試験装置。数十時間のテストで数年分の腐食試験を行なうことができる
さらには、ディスプレーの性能を検査する分光放射輝度計(分光・輝度・色度計測器)、音声をチェックするための無響室(詳細は後述)まで......!
テレビや照明器具などの設計と特性確認に使用する分光放射輝度計。色や明るさ、目に有害なHEV(高エネルギー可視光線)のチェックには欠かせない
高級オーディオメーカー並みの完全無響室。完全な無音環境をつくるだけでなく、耳に聞こえない超低周波もシャットアウトできる
ここまでの先行設備投資をするということは、間違いなく本気も本気。ニトリがリアルガチで家電事業に取り組んでいることがよくわかったし、会社の家電事業への期待の大きさも感じられた。
2022年に家電事業へ本格参入して以降、ニトリは50人規模の経験者を採用している。以前は国内の家電メーカーで白物家電事業に従事していたという、ニトリ家電事業責任者の執行役員・奥田哲也さんによれば、それまではたった数人の体制だった家電事業が、一気に会社の「4本柱」の一角(ほかの3本はソファやベッドなどの「家具」、寝具やカーテンなどの「ソフト商品」、食器や収納用品などの「ハード商品」)となることを期待され、大増員されたのだという。
「部屋全体のコーディネートには、家具、寝具やカーテン、食器や収納用品、そして家電ということで、家電事業への本格参入が決まりました」(家電事業責任者の執行役員・奥田哲也さん)
取材当日、実験室では地道な耐久テストや性能試験が繰り返されていたが、ここで行なわれるのは新製品の開発だけではない。
興味深かったのは、市場で問題が発生し返品された製品の原因究明だ。大型家電に新規参入した企業としては非常に返品率が低いニトリだが、関係部署のスタッフが集まって実際に返品された製品の不良箇所をチェックし、原因分析や改善につなげているという。
例えばドラム式洗濯機のように〝初めての一台〟として買う消費者が多い製品の場合、間違った使用法での故障や、説明書も読まず「うまく動かない」と返品されるようなケースもある。こういった場合、基本的にメーカー側に非はないのだが、「何がわかりにくかったのか」を知ることで、より使いやすい製品を作るヒントにもなる。
実際のところ、メーカーに返品された製品はそのまま廃棄するパターンもある中で、原因究明に対するニトリの真摯な姿勢は、家具メーカーとして長年、製品の耐久テストなどをやり続けてきた良き伝統だと感じた。
ドライヤーの乾燥力テスト。濡らした試験布に一定時間風を当てて水が何g減ったかを量り、忖度なしで実力を試す
電子部品や金属・樹脂製品などに高温と低温の急激な温度変化を繰り返し与え、部品の耐久性や寿命をテストする冷熱衝撃試験装置
なおニトリでは、新卒採用の社員でも、経験者として中途採用された社員でも、必ず売り場業務を経験する。実際に店頭に立ち、「お客さまと向き合うこと」が必須とされているのだ。自社で販売店を持たない家電メーカーの技術職からの転職者にとって、これが非常に新鮮な体験なのだという。
分業が進む大手家電メーカーでは、新製品の開発プロセスのうち、自分が受け持てる仕事はごく一部。企画なら企画、設計なら設計、それぞれの仕事が終わると手が離れる。ましてや、最終的に「どんなお客さまが自分の作った商品を買ってくれているか」を直接知る機会は限定的だ。
「企画から販売まで、全部自分でできることがニトリに入った理由」
「ここなら家具と家電を融合した今までにない製品が作れるかもしれないと思った」
多くが家電メーカー出身だという家電開発部門のメンバーは、皆本当に楽しそうだ。
最後に、前述の「無響室」について。
文字どおり反響のない部屋で、製品が発する音の大きさを測定したり、音響機器の性能をテストし製品を仕上げていくためのものだが、通常、音響メーカーでもなければ、そこまで大がかりな設備は持たない。
ところが、ニトリの無響室は「完全無響室」といって、床面を含めた室内の全方向に吸音材を施工し、音の反響を極限まで排除して、純粋な音響特性を測定するための超本格的な仕様だった。
取材当時のニトリの製品ラインナップにあったAV家電製品は、4Kテレビやブルートゥースイヤホン&スピーカーくらい。これほど本格的な無響室を導入したのは、もっと高価なAV機器、それも良質な低音が必要なサブウーハー系製品の開発を狙っているからに違いない! 河村さんに尋ねてみると「さぁ、どうなんでしょう」と言葉を濁されたが......。
ニトリ家電の躍進の秘密は、ハード面ではハウススタジオと最新鋭の家電開発設備の存在。そしてそれ以上に、企画開発者が販売まで一貫して立ち会うというソフトの部分にあった。今後もその動きから目が離せそうにない!