葉月つばささん(左)と稀見理都(右)さんがエロ漫画を語る葉月つばささん(左)と稀見理都(右)さんがエロ漫画を語る
ここ数年、電子コミックの普及に伴い、ネット広告をはじめ、"エロ漫画"を目にする機会が増えてきた。エロ漫画というと、男性向けのオタク文化というイメージが強いが、一般的な恋愛漫画のように胸キュン要素の強い作品もあれば、もちろん過激な設定の作品もあり、その描かれ方は知れば知るほど多岐に渡る。

そこで今回は、かねてからエロ漫画好きを公言していたグラビアアイドル・葉月つばささんと、書籍『エロマンガ表現史』(太田出版/2017年)の著者であり美少女コミック研究家として活動している稀見理都(きみ・りと)さんをお呼びし、時代におけるエロ漫画表現の変化から、エロ漫画への理想などを語ってもらった。

■叔父の部屋で大量のエロ漫画を見つけて......

葉月 稀見さんの著書『エロマンガ表現史』を読ませていただきました! 古本屋を漁らないと出てこないような資料がたくさん掲載されていて、「触手」や「断面図(女性の膣内に男性器が挿入されている様子を描いた体内描写)」などのエロ漫画表現が生まれた起源から変化までを細かく解説されていて、とても面白かったです。

稀見 ありがとうございます。

葉月 特に興味深かったのは、エロ漫画ではテッパンの「乳首残像(行為の際、胸が激しく揺れる描写として乳首の残像を描くエロ漫画表現)」の第一人者が、『GANTZ』の作者である奥浩哉先生だったこと。しかも、奥先生と同時期に、うたたねひろゆき先生までもが「乳首残像」を開発していた、だなんて! エロ漫画好きを公言している私ですが、まだまだ知らないことばかりで、勉強になりました。

稀見 葉月さんは、歴史あるエロ漫画雑誌のひとつ『COMIC快楽天』(ワニマガジン社)で、毎月、作品のヒロインをイメージしたグラビアを披露するコラムを連載されていますよね。そのページを初めて見たとき、「ついにエロ漫画好きを公言する女のコが出てきたのか!」と、非常に感動しましたよ(笑)。僕の知る限り、女性タレントさんでエロ漫画好きを公言されているのは、今のところ葉月さんくらいですから。まさに第一人者と言ってもいいと思います!

葉月 私は、キャラでも何でもなく、純粋にエロ漫画が好きなだけなんですけど、事務所に所属していたときは、公言しないよう注意されることが多かったです。タレントイメージに関わりますし、妥当な注意だったとは思うものの、好きなものは好きですからね(笑)。フリーになった今は、包み隠さずオープンにさせてもらっています。

稀見 アダルト業界の方ならまだしも、一般のメディアで活動されている方だと、どうしても気を遣いますよね。

葉月 はい、テレビも厳しいですからね~。

葉月つばささん(左)と稀見理都(右)さんがエロ漫画を語る

稀見 ちなみに葉月さんは、どういった経緯でエロ漫画を読まれるように?

葉月 子どもの頃、一緒に住んでいた叔父の部屋に、大量のエロ漫画が積まれてあったんですよ。まだ物心ついて間もない頃だったのですが、かわいくてエッチな女のコのイラストが気になって、親にバレないようタンスの隙間に隠しては、夜な夜なコッソリ読んでいたんです。それが始まりでしたね。

稀見 男性に比べて女性は早熟なイメージがあるとはいえ、興味を持たれるのが早すぎる気が......(笑)。それが"エッチなもの"だという認識は、当時からあったんですか?

葉月 ありましたね。というのも、幼稚園の頃に、親同士の"キャッキャウフフ"を目撃した経験がありまして。そのときは何が何だか分からなかったのですが、エロ漫画を読んだときに、「なるほど! こういうことをしていたのかぁ~!」って、みょうに納得したんですよね(笑)。

ただ、エロいものを求めて読んでいたというよりは、かわいい女のコのイラストを見るのが楽しかったんだと思います。それにエロ漫画では、私が現実世界で目にしていた日常風景とは結びつかない描写がたくさん出てきましたから。そういうのも刺激的で面白かったんでしょうね。

稀見 なるほど。そういう感覚だったんですね。

葉月つばささん(左)と稀見理都(右)さんがエロ漫画を語る

葉月 稀見さんがエロ漫画に興味を持たれたのは?

稀見 僕らが少年だった時代は、公園や河原、雑木林なんかに、エロ本やエロ漫画雑誌が毎週のように落ちていたんですよ。もともと漫画少年だったので、自然な流れで、捨てられてあるエロ漫画雑誌を拾って読んでいました。具体的なきっかけは、そんなところですかね。

葉月 ま、毎週ですか!? 私が住んでいた田舎も、よく道端にエロ本が落ちていましたけど、さすがに毎週は無かったなぁ......。

稀見 恐らく、あれは配本だったと僕は思っています。だって、毎週同じ場所にあるんですから(笑)。捨てられていたとはいえ週刊誌だったので、かなり綺麗な状態で読めていましたよ。ただ当時は、エロ劇画といって、子ども心には怖く感じるような絵柄で描かれた作品ばかりだったんです。裸の男女がなぜ抱き合っているのかは分からなかったけど、写実的なタッチも相まって、親や友達には見せられない"いけないもの"を見ているドキドキ感がありました。

葉月さんが叔父さんの部屋で見られたような、かわいい絵柄のエロ漫画(=美少女コミック)が出てき始めたのは、1980年代からなんです。その頃は、まだ成人向け漫画といった括りや規制が緩かった時代だったので、子どもでも普通に本屋さんで美少女コミックを買うことができたんですよね。

葉月 へー! そうだったんですね!

稀見 そこで、僕が最初に買ったエロ漫画は、1986年に辰巳出版から刊行された森山塔先生(=山本直樹先生)の名作『とらわれペンギン』でした。薄手の服を着た女のコが表紙に描かれていて、外見だけではエロ漫画に見えないんですけど、中では、かわいい絵柄の女のコのエロ描写がしっかりと描かれているんですよ。ストーリーが面白いので、普通の漫画としても楽しめるし、エロ漫画としても満足できる。大人向けのエロ劇画とは違った雰囲気の"面白くてエッチな"美少女コミックの登場は、僕らの世代からすると、かなり衝撃的でしたよ。

森山塔『とらわれペンギン』(辰巳出版)森山塔『とらわれペンギン』(辰巳出版)

■女性エロ漫画読者、急増中?

葉月 稀見さんにお会いしたら、絶対にお聞きしたいと思っていたことがあって。著書『エロマンガ表現史』に書かれているようなエロ漫画研究を進めるには、膨大な量の資料が必要ですよね。既に廃刊になっているエロ漫画も多いですし、今みたいにデジタルコミックがなかった時代の資料は、いったい、どのようにして集められたんですか?

稀見 コツコツと、地道に集めるほかないですよね(笑)。例えば、『週刊少年ジャンプ』のバックナンバーを見ようと思えば、国立国会図書館を探せばだいたいありますけど、エロ漫画は、ひとつひとつ買い集めないといけない。相当な時間とお金と労力を使う覚悟がないと、研究が進められない領域なんです。エロ漫画の研究者が少ないのは、それが主な理由なんですよね。......と、一生懸命集めた資料をもとに「おっぱいは~」なんてことばかり書いているのですが(笑)。

葉月 あはは。では、ご自宅は資料でいっぱいだったりして!?

稀見 僕は、研究者として資料を集めているだけで、収集家ではないんですよね。だから、手もとにデータをスキャンした後、現物は、図書館に納本したり、必要な人にあげちゃったりしますね。よっぽどレアなものは、自分で持っていますけど。これまで集めたスキャンデータは、全てNASドライブとクラウドに保存してあります。総量でいうと20 TB(テラバイト)を超えていますね。

葉月 て、テラですか!? ギガじゃなくて!??

稀見 テラです(笑)。それでも、エロ漫画研究のアーカイブとしては、3分の1も集まっていないはずです。研究を始めてからは、自然と集まってくるようにもなってきたのですが、道のりは遠いですね......。

稀見氏のデータに興味津々のつばさちゃん稀見氏のデータに興味津々のつばさちゃん

葉月 年代ごとのエロ漫画表現の変遷は、稀見さんの著書に詳しくまとめられていますが、最近の傾向で言うと、TL作品(ティーンズラブ/男女の恋愛から性描写までを描いた女性向けエロ漫画ジャンル)をはじめ、女性向けに描かれたエロ漫画が増えてきましたよね。

稀見 そうですね。正確には2010年代、ガラケーで漫画を読めるようになった辺りから、女性のエロ漫画読者が急増しているんですよ。書店でエロ漫画を手に取るのは抵抗があるけど、興味があって読んでみたい......という女性が意外と多かったんでしょうね。

女性読者の増加をさらに後押ししたのは、2年ほど前に登場した「DLsiteがるまに」という女性専用の二次元エロコンテンツD Lサイトが大きいと思います。扱っている作品の内容的には、いわゆる男性向けエロ漫画と大差ないのですが、女性向けにオープンされた売り場があることで「女性でもエロ漫画を楽しんで良いんだ」と、より入り口が広がった感じがあったんですよね。

葉月 女性読者が増えたのは、ガラケー時代からだったんですね! それが関係しているのか分かりませんが、男性向けの中でも、女のコが攻める作品が増えた気がします。

稀見 おっしゃる通り、女性がリードする構図の作品は、年々、増えています。90年代頃までは、受け身として女性を描くのが王道だったんですけどね。世相の変化が影響しているのか2000年以降は、「エッチが好きな女性がいてもいいじゃない」「女性から『アレしたい、コレしたい』と言ってもいいじゃない」といった風潮が一気に強くなってきた感触があります。痴女はまた別ジャンルなんですが。ショタ系(童顔でかわいらしい男のコをお姉さんがリードするジャンル)も、最近わりと人気が高いですよね。

葉月 ショタ系は、私はあまり刺さらないんですよね......。エロに積極的な女のコは大好きなんですけど、基本的には堕ちモノ(最初は嫌がっていた女の子が、徐々に、相手や行為に堕ちていくジャンル)が好きなので。

稀見 そういえば葉月さんは、TL作品も読まれるんですか?

葉月 私、好きなエロ漫画には結構なこだわりがありまして(笑)。基本的には、男女の関係性や、登場人物の人間性まで描かれたエロ漫画が大好きなんですが、TL作品は、男女がくっつくまでの過程がしっかりと描かれている分、なかなかエロ描写に辿り着かないので、逆に「とっとと、やっちまえよ!」と思っちゃうんですよね。

稀見 絶妙な塩梅があると(笑)。「堕ちモノが好きだ」って話ですけど、男性視点でエロ漫画を読まれているんですか?

葉月 はい。基本的には男性視点で読んでいます。ただ、感覚的には女子なので、作品に出てくる女のコに自分を投影することはないにしても、あまりに無抵抗なまま陵辱されていると、「もっと抵抗してくれよー!」って思っちゃいますね。好みにうるさくて、スミマセン!!

■エロ漫画も立派な作品だ!

稀見 ところで葉月さんは、普段、イラストや漫画を描かれることもあるみたいですけど、エロ漫画を描こうとは思わないんですか?

葉月 興味はあるんですけど、女体を魅力的に描くのって本当に難しいんですよ! 絡みのシーンなんて、かなり技術がいりますよね。正直、私の画力ではまだまだ難しいかなって感じで......。修行が必要ですね。でも描くなら、ゆるいタッチで、ストーリーを重視いた作品にしたいなぁとは思っています。

稀見 あぁ、良いじゃないですか。かるま龍狼(たつろう)先生ってご存知です? 『快楽天』の創刊号から作品を寄稿していらっしゃる大ベテランで、今もご活躍されている大先生なんですけど、一時期、エロ漫画界で繊細な描き込みが流行ったとき、かるま先生の絵はどうしても線が少なく見えたんです。

でも、その作風は昔から変わっていなくて。逆にスマホでエロ漫画を読む人が増えてきてからは、絵の繊細さよりも読みやすさが重要になってきて、かるま先生くらいのシンプルさと緩いストーリーが、またしっくりしてきたんですよね。

葉月 かるま先生、もちろん知っています! ゆるい絵柄だけど個性があるし、何より作品テーマのアイデアが面白いんですよね。私、かるま先生の『冷やしちんぽ』って作品が好きで。夏の暑い日に、下校中の女のコふたりが、露店でチューチューアイスならぬ "冷えたち○ぽ"を買うっていう......(笑)。ありえないシチュエーションだけど、設定が独特で、笑えるし、エッチなんですよね。

かるま龍狼『冷やしちんぽ』(単行本『裸空間の世界とか』収録/ワニマガジン社)かるま龍狼『冷やしちんぽ』(単行本『裸空間の世界とか』収録/ワニマガジン社)

稀見 女体や行為シーンを魅力的に描くのに、確かに画力は必要ですが、エロ漫画としての面白さやエロさを描けるかどうかは、かるま先生のアイデア性然り、画力だけの問題じゃないんですよね。画力だけを追求していたら、個性も何も生まれないでしょうから。

葉月 そうですね! 稀見さんに背中を押していただいたことだし、私もいつか、エロ漫画に挑戦してみます。それにしても、今日、稀見さんとお話しできて、本当に楽しかったです。「こんなにもエロ漫画に関してペラペラペラ~と話せる方がいらっしゃるんだ!」って。エロ漫画好きの友達とも、ここまで濃い話はしないので、新鮮でした。

稀見 それは僕のセリフです。エロ漫画について熱く語り合える男どもはいても、こんなにかわいらしくて、エロ漫画にお詳しい女のコなんて、なかなかいないですからね。女性向けエロ漫画の話もさせてもらいましたけど、確実に、エロ漫画を取り巻く環境は変わってきていますよ。こんなにエロ漫画が外の世界に開けていくなんて......。僕がエロ漫画研究を始めた2000年代からは、考えられない状況です。長生きして良かった(笑)。

葉月 私も「好き」と言い続けてきて良かったです。これを機に、老若男女問わず、エロ漫画好きな人がもっと増えると良いなぁ。

稀見 個人的なさらなる希望としては、いつか局部のモザイクが取れる時代になってほしいですね。「エロ漫画だって作家たちの立派な芸術なんだ」って、尊重してもらいたいじゃないですか。

葉月 確かに! 白抜き(白いボカシ)や黒海苔(黒の正方形が被せられている)など、ひとくちにモザイクと言ってもいろいろありますが、絵として見ると違和感がありますよね。

稀見 そうなんですよ。せめて18禁のメディアの中だけでも、規制が緩くなってほしいものです。逆にモザイクがあることで興奮する読者もいるようなので(笑)、ひとつの表現技法として、モザイクを入れる選択ができる自由があるのがベターかなと思っているのですが。まぁ、現状は法律で決められていることなので、もう少し長生きしないといけないですかね。

●葉月つばさ(はづき・つばさ)
1998年6月16日生まれ、青森県出身。身長158cm B87、W58、H88
○ベビーフェイスから繰り出される大胆ショットが人気グラビアアイドル。成人向け漫画雑誌『COMIC快楽天』(ワニマガジン社)でコラムを連載中の他、イラストレーターとしても活動中。デジタル写真集『まだ少女だった頃』発売中。
公式Twitter&Instagram【@2basa_kodama】

●稀見理都(きみ・りと)
○美少女コミック研究家、インタビュアー、ライター。日本マンガ学会所属。日本漫画家協会会員。著書に『エロマンガノゲンバ』(三才ブックス/2016年)、『エロマンガ表現史』(太田出版/2017年)があり、乳首残像、触手、断面図、アヘ顔などエロ漫画表現の歴史を貴重な資料とともに綴った後者は、現在15刷を記録中。
公式Twitter【@kimirito】

■『エロマンガ表現史』 
太田出版 2,750円(税込) 
乳首残像、触手、断面図、アヘ顔......。エロマンガ特有の表現が誕生した背景から、進化していく過程を、膨大な資料をもとに徹底研究した一冊。「おっぱい表現」の変遷史、「くぱぁ、らめぇ」の音響史、性器修正の苦闘史のほか、奥浩哉先生やうたたねひろゆき先生など、各表現を生み出したとされる作家へのインタビューも収録。時代とともに変化する表現の歴史が詰まっています。エロマンガ好きはもちろん、エロマンガをあまり読んだことがない方にこそ読んでもらいたいです!

葉月つばさデジタル写真集『まだ少女だった頃』 撮影/栗山秀作葉月つばさデジタル写真集『まだ少女だった頃』 撮影/栗山秀作

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