高市総理専用車にも採用された「センチュリー」はなぜ特別なのか

取材・文/週プレ自動車班 写真/共同通信社

新調された専用車(SUVタイプの新型センチュリー)にホクホク顔で乗り込む高市早苗総理(右端)新調された専用車(SUVタイプの新型センチュリー)にホクホク顔で乗り込む高市早苗総理(右端)

高市総理の専用車としてお披露目されたのは、トヨタの最高級ブランド・センチュリーの新型。一般向け価格は約2700万円とされ、その数字ばかりがひとり歩きし、ネット上では賛否の声も広がっているという。いったいどんなクルマなの!?

【ブーイングが飛んだ総理専用車】

総理大臣専用車に新たに採用された〝ニッポン頂点カー〟が物議を醸している。

6月22日、高市早苗総理が使用する公用車が、従来のセンチュリー(セダンタイプ)から新型センチュリーへと切り替わった。従来車は安倍政権時代の2020年に導入されたもので、今回は車高が高く、乗り降りしやすい新型が採用されたと報じられている。

ちなみに一般向け車両の価格は2700万円。23年に登場した新型は、従来のセダンより約400万円高い。

大手メディアが2700万円という価格を大きく報じたことで、議論は一気に過熱。ネット上では、「国民は物価高で悲鳴を上げているのに、なぜこのタイミングで2700万円の公用車なのか」「国民感情が読めないから支持率も下がっているのでは」といった批判的な声が相次いだ。

実際、物価高に賃上げが追いつかず、実質賃金は4年連続のマイナス。さらに「総理は自分が乗りたいクルマを選んでいるだけではないか」という疑念もくすぶり続けているが、果たしてこの批判は的を射ているのだろうか。

1980年代から取材を続ける自動車評論家の国沢光宏氏は苦笑いし、「どちらもいいクルマだが」と前置きした上でこう指摘する。

「一国の総理の公用車がダイハツのミラやスズキのアルトなどの軽自動車でいいのかという話です。仮に軽が高市総理専用車だとして、それを諸外国はどう見るか。テロリストはどう見るか。まず大前提として、誰が総理大臣であろうとも暗殺を防ぐ必要がある」

この前提に立てば、安全対策は最優先事項となる。

「こうしたクルマはオーダーしてすぐ納車されるものではなく、時間をかけて国が仕様を決めて調達しています。ベース車は2700万円ですが、総理専用車は明らかに防弾仕様ですから、実際の価格はさらに値が張るでしょう」

防弾性能の詳細や価格などは非公表。テロリストに〝ヒント〟を与えることになりかねないからだ。

国沢氏は一部メディアの報じ方にも疑問を投げかける。

「大手メディアは『快適な走り』『寝られる広さ』などをしきりに強調していますが、私は首をひねります。以前、防弾車を試乗取材したことがありますが、快適な乗り味ではなかった。

防弾仕様はボディ剛性の確保が難しい上、重い車体を支え、狙撃されても走行を続けられる特殊なタイヤを装着しています。そのため、乗り心地は一般的な高級車とは大きく異なります」

つまり、総理専用車にセンチュリーが採用されたのは、単に高級車だからではない。「公用車として長年培ってきた実績と知見を持つ『センチュリー』だからこそ、防弾車として成立するのです」

【ニッポン頂点カーの〝正体〟と〝格〟】

そもそもセンチュリーとはどんな歴史を持つクルマなのか。自動車ジャーナリストの桃田健史氏が解説する。

「センチュリーは67年、トヨタの最高級モデルとして誕生しました。明治から大正にかけて御料車(ごりょうしゃ)が馬車から海外製の超高級車へと移行する中で、日本メーカーもその領域に挑み続けてきました。

その象徴とも言える存在がセンチュリー。そして25年10月に開催されたジャパンモビリティショーでブランド化され、トヨタ、ダイハツ、GR、レクサスに続く5つ目のブランドとなりました」

では、高市総理の専用車はどのような位置づけなのか。

「現在の量産モデルは『センチュリー』と『センチュリー(セダン)』の2車種です。従来型を『センチュリー(セダン)』と位置づけ、高市総理が乗るのは新型の『センチュリー』。SUVのようなスタイルですが、トヨタはこれをSUVとは呼ばず、〝新しいショーファーカー〟と位置づけています」

これまで高市総理が日々の移動に使用していたのが、こちらの3代目センチュリーのセダンこれまで高市総理が日々の移動に使用していたのが、こちらの3代目センチュリーのセダン

なぜセンチュリーは政財界の要人に好まれ続けるのか。

「日本では唯一無二の存在だからです。御料車というブランド価値を背景に、国会議員や地方自治体の首長、企業経営者らが公用車として採用してきました。単なるクルマの枠を超え、内外装には匠(たくみ)の技が息づく日本ならではの機能美が凝縮されています」

もっとも、公用車の現場は変化しているという。

「近年は、センチュリー(セダン)に代わってトヨタのアルファードやヴェルファイア、レクサスLMといった大型ミニバンが公用車として採用されるケースも増えています。その中で高市総理がセンチュリーを使用することは、公用車市場におけるセンチュリーブランドの存在感を改めて示すことにもつながるはず」

さらに国沢氏は、「格」という視点からこう語る。

「ホテルなどのエントランスにクルマをつける場面では、乗っている人物をすぐには判断できません。その際に手がかりになるのがクルマです。

センチュリーは長い歴史を持つだけに、日本のフォーマルな場では圧倒的な存在感と格式があります。よけいな説明がいらない。それにクルマとしての完成度が群を抜いている。ほかとはレベルが違う」

ところで、高市総理専用車のベース車は誰でも買える?

「センチュリーは月産数十台の希少車。価格も高額なので購入には審査があり、ディーラーはこれまでもセンチュリーを購入してきた顧客を最優先します」

実際、複数の販売店関係者に確認すると、窓口自体は一般向けに開かれている。ただし、書類選考や面談によって過去の取引履歴や社会的信用が厳しくチェックされる。転売目的や反社会的勢力を排除するための対策でもある。

ともあれ、総理専用車の防弾性能も、物価高にあえぐ国民からの大ブーイングまでははじき返せなかったようだ。

Photo Gallery

編集部のオススメ

関連ニュース

TOP