電動キックボード死亡事故と高速侵入で「ノーヘルOK」は本当に許されるのか

取材・文・撮影/週プレ自動車班

LUUPは、東京都内で発生した自動車と電動キックボードの事故で、同社のシェアリングサービス利用者が死亡したと公表したLUUPは、東京都内で発生した自動車と電動キックボードの事故で、同社のシェアリングサービス利用者が死亡したと公表した
電動キックボードの普及の裏で、安全性への不安が叫ばれている。免許不要、ヘルメット努力義務の制度は、このまま通用するのか。

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【電動キックボードで相次ぐ危険運転】

死亡事故が起きても、「ノーヘルOK」のままで、本当にいいのだろうか。

6月9日、LUUPは東京都北区で6月2日に発生した自動車と電動キックボードの事故で、同社のシェアリングサービス利用者が死亡したと公表した。

本来、電動キックボードは「ラストワンマイル」を支える移動手段として普及が進められてきた。だが現実はどうか。

6月4日、首都高速道路の公式Xが異例の注意喚起を実施した。6月1日、江戸橋ジャンクション付近の本線上を電動キックボードが走行していたことを明らかにしたのだ。

高速道路への進入は重大な法令違反だ。一般車との速度差を考えれば、接触すれば致命的な事故に直結する。さらにノーヘルで転倒すれば被害は決定的だ。後続車がとっさに回避できる保証もない。

死亡事故と首都高進入という現実について、自動車ジャーナリストの桃田健史氏はこう指摘する。

「普及台数に対する事故件数という単純な見方では済まされません。報道やSNSを通じて危険性への認識は確実に広がっています。新しい乗り物に賛否があるのは当然ですが、電動キックボードの在り方そのものを改めて議論すべき段階に来ています」

背景にあるのが、2023年7月の道路交通法改正。

「特定小型原動機付自転車」が新設され、16歳以上であれば免許不要で利用できるようになったのだ。ヘルメット着用も努力義務にとどまり、利用のハードルは大きく下がった。

だが、その制度設計は現実に追いついているのだろうか。

二輪関係者はこう指摘する。

「警察庁の関連資料によると、2025年11月末時点の検挙件数は3万4804件に上ります。通行区分違反が約6割、信号無視が約2割を占めています。さらに、飲酒事故の割合は、自転車の約16倍にも達しています」

しかも、飲酒事故の67.4%は深夜0時から午前5時までの時間帯に集中している。つまり、"終電後の足"としてレンタルされ、そのまま飲酒状態で利用されているケースが少なくないということだ。こんな危険な「ラストワンマイル」は、あってはならない。

ノーヘルで車道を走行する電動キックボード利用者。都内の四輪ドライバーからは「ヘルメット姿をほとんど見かけない」との声が多いノーヘルで車道を走行する電動キックボード利用者。都内の四輪ドライバーからは「ヘルメット姿をほとんど見かけない」との声が多い
公道からも悲鳴が上がっている。都内で働く50代のタクシー運転手はこう語る。

「電動キックボードでヘルメットを着けている人は見たことがないね。困ったことに車道と歩道を同じ感覚で行き来するから動きが読めない。若い女性が3人乗りしているのも見たけど、全員ノーヘルでスマホを触っていた。とても交通ルールが守られているとは思えない。なぜここまで放置されているのか。せめて原付免許くらいは取ってから乗ってほしいよ。ぶつけられたら、こっちは営業できなくなるんでね」

配送業に従事する40代女性も困惑する。

「ノールックで脇道から猛スピードで飛び出してくることがあって、急ブレーキを踏んだこともあります。ヘルメットも被っていないので、もし接触すれば取り返しのつかない事態になり、それこそ自分の仕事や人生にも影響しかねない。本当に勘弁してほしいです」

電動キックボード利用者のヘルメット着用率の低さが浮き彫りになっている。では、この状況を生んでいるのは誰なのか。利用者の問題か、事業者の運用か、それとも制度設計そのものか。

【ヘルメットの努力義務は是か非か】

現在、電動キックボードのヘルメット着用は努力義務にとどまっている。だが、その前提自体に無理はないのだろうか。

桃田氏はこう指摘する。

「公益財団法人交通事故総合分析センターのデータでも、二輪車乗車中の事故における人体損傷主部位は頭部という調査結果がある。電動キックボードは立ち乗りであり、転倒した際の頭部への影響は大きいと考えられます」

それでも着用率は伸びていない。理由は単なる意識の問題だけではない。

「電動キックボード利用者のヘルメット着用については、髪型やファッション、発汗への抵抗感などもあり、利便性との兼ね合いから努力義務にとどまっています。自転車でも同様の扱いですが、海外では事情が異なります。フランスでは12歳未満、ニューヨーク州では14歳未満、カリフォルニア州では18歳未満を対象に義務化されています。日本でも自転車のルール見直しが進む中で、電動キックボードについても同様に議論を進める段階に来ています」

死亡事故、首都高進入、そして低いヘルメット着用率。これらは別々の問題ではない。桃田氏はこう付け加える。

「ユーザーの自己責任と法規制のバランスをどう取るかが問われています。利用実態や事故データに基づいた議論は不可欠です。利便性を維持するのか、それとも安全性を引き上げるのか。制度そのものを見直す局面に入っています」

【「髪型が崩れる」では済まされない】

電動キックボードのヘルメット着用率が上がらない背景には、より構造的な問題がある。モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏はこう警鐘を鳴らす。

「利便性ばかりが注目され、危険性が十分に共有されていません。時速20km程度でも、転倒して頭部を強打すれば重大な結果につながります。電動キックボードが『手軽な乗り物』として普及した一方で、そのリスクが社会全体で十分に共有されていないように感じます」

そのうえで、電動キックボードをめぐる情報発信の偏りも指摘する。

「『免許がいらない』『気軽に乗れる』というメッセージばかりが先行し、『転倒や衝突によって命を落とす可能性もある乗り物だ』という現実が十分に伝わっていないのでは」

もちろん、危険なのは電動キックボードだけではない。自転車もオートバイもクルマも、使い方を誤れば重大事故につながる。だが、電動キックボードには他の乗り物とは異なる特徴がある。

「免許不要で利用でき、シェアリングサービスならスマートフォンひとつで借りられます。その手軽さゆえに、危険に対する意識が薄れやすい側面もあるのではないでしょうか」

利用者の多くはヘルメットを持ち歩いておらず、サービス事業者も衛生面や管理上の理由から貸し出しを行なっていないケースが少なくない。そのため、法律上は努力義務とされているものの、実際には着用しづらい環境が生まれている。

「借りたその場でヘルメットを用意できない仕組みのまま、着用率向上だけを求めることには限界があります。利用者の安全意識向上はもちろん、インフラ整備や事業者を含めた安全対策を、普及のスピードに見合うレベルまで引き上げる時期に来ていると思います」

国は電動キックボード利用者の「ノーヘル問題」をいつまで放置するつもりなのか国は電動キックボード利用者の「ノーヘル問題」をいつまで放置するつもりなのか
具体的には、ヘルメットのレンタルサービスや、車両とヘルメットをセットにした利用プランなどが考えられる。もっとも、他人が使用したヘルメットに抵抗を感じる人も少なくないだろう。

「バイク専門家の立場として、特定小型原付でも自転車でも、ヘルメットを被るのが当たり前の社会になってほしいと思っています。『髪型が崩れるから』『面倒だから』という理由で被らないのは、命を守ることを考えれば代償が大きすぎます。ヘルメットは万が一のときに頭部を守るための最後の防具です。特定小型原付は気軽に利用できる反面、『ちょっとそこまでだから大丈夫』という油断を生みやすい乗り物でもあります」

さらに、ヘルメット着用について青木氏はこう強調する。

「ヘルメットは『努力義務だから被る』ものではありません。自分の命を守るために被るものです。自分自身を守るため、そして周囲に安心を与えるためにも、ぜひ着用していただきたいと思います。最終的には、オートバイと同じように『乗るならヘルメットが当たり前』という文化をしっかり育てていくことが大切です。法律や罰則に頼るだけではなく、ひとりひとりが自分の命を守るための装備だと理解することこそ、着用率向上への近道だと思います」

死亡事故が起き、違反件数は3万件を超え、ノーヘル走行も常態化している。それでも制度は、「自己責任」のひと言で逃げ続けるのか。これは利用者だけの問題では決してない。制度設計そのものの欠陥ではないか。その責任から、国はもう逃げられない。

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