
パリッコ
ぱりっこ
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1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式X【@paricco】
ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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ライターで、少年ジャンプの巻末コーナー「WEEKLY週ちゃん」の監修や漫画『とんかつDJアゲ太郎』の原案としても知られるイーピャオさんが主催のイベント「多摩と酒」に、お声がけをしてもらって参加した。
会場は、京王線およびJR南武線の分倍河原駅目の前にある「マルジナリア書店」。そこに、多摩地域にゆかりのあるZINEの制作者が集まり、お酒を飲みつつタコパをやりつつ即売会をしようという趣旨だ。僕は、一緒に「パリコダマ」というYouTubeをやっているコダマさんとふたりでブース参加させてもらった。
分倍河原駅で降りるのは、確かこの日が初めて。イベントの開始は午後2時。となれば、少し早めに現地入りして街を散策し、ランチ兼昼飲みをしたいに決まっている。そこで昼過ぎに待ち合わせ。改札を出て目の前の建物を見上げると、いきなり会場のマルジナリア書店があった。
「マルジナリア書店」
書店は3階にあり、その下の2階に「分倍河原肉流通センター」という焼肉店が入っているのが見える。その窓にでかでかと「19時までハッピーアワー! ハイボール等29円~!」と書かれている。いや、まだ半信半疑だ。こういう異常な安さで目を引いておいて、いざ会計をしてみるとそこまで安くなかった、という店に出会った経験は少なくない。が、気になることは気になる。そこで入口まで行って様子を見てみることに。
ハッピーアワーメニュー
まず、土日は12時からなので、すでに営業中。ハッピーアワーの内容にも間違いがない。というか、31円(税抜29円)で飲めるドリンクが、デュワーズハイボール、生レモンサワー、すっぱいレモンサワー、あまいレモンサワー、チューハイ、ウーロンハイと、思ってたよりもずっと多い。さらに生ビール「サッポロ黒ラベル」も328円と安く、そのうえなぜか、夏だからという理由で半額らしい。どれだけサービスをしたい店なんだ。これはもう、入ってみるしかないだろう。
「サッポロ黒ラベル」
半額で164円の生ビールがやってきて、まずは乾杯。ついに到来してしまった夏本番の暑さのなか、のどに流し込むキンキンのビールが、リーズナブルさの恩恵もあってやたらと沁みる。
ただし、まだ慎重にいこう。たとえばフードメニューがやけに高いとか、お通しが1,000円くらいするとか、なんらかのからくりがある可能性も残っている。メニューに目をやると、お通しの「焼肉専用キャベツ」がひとり438円。あれ、ぜんぜん常識的な範囲内。と思いつつ、そのお通しが届いてみて驚いた。逆の意味でぜんぜん常識的じゃない。シンプルに、でかすぎる!
でかい!
アルミ製のその器は、食器とかボウルの範疇を飛び越えてもはや洗面器。そこに、半玉ぶんくらいはあると思われるキャベツの千切りが豪快に盛られている。少し皿にとって食べてみると、ドレッシングではなく、にんにく塩だれ系の味でものすごく酒がすすむ。正直、肉がなくてもこれでずっと酒を飲んでいられる。しかも驚くべきことにこのキャベツ、おかわり自由らしい......。
もはや僕らは、この店の魅力に落ちてしまった。もうなにがあっても分倍河原肉流通センターについてゆく。そんな気持ち。ならば、肉を食らおう!
メニューを見ると、「ごちゃまぜホルモン」(438円)と「肉通カルビ」(658円)が二大名物らしい。多くのメニューに「ハーフ」があるのが嬉しく、カルビならハーフが383円だ。各種の肉類や、野菜などのサイドメニュー、つまみも豊富にあり、特にホルモン系のバリエーションが多いのが酒飲みには嬉しい。味噌とネギ塩から味が選べるごちゃまぜホルモンは、ネギ塩で。王道の「マルチョウ」(548円)を味噌で。それから別紙にあった季節メニューに「青唐セセリ」(598円)を見つけ、青唐辛子もせせりも大好物なのでそれも頼んでみる。
さっそく目の前のロースターで焼いていこう。熱々の鉄板にのせるとさっそく香ばしい煙が立ち、あっという間に焼けていく肉たち。これぞロースター焼肉ならではの楽しさだ。
楽しい
焼肉屋において「ネギ塩タン」のねぎをこぼさずに焼くにはどうすればいいか問題は根深く、同様の状況が青唐せせりにも発生しているが、大切な青唐をなるべく無駄にしたくない。これに関しては、ていねいに鉄板のはしに並べて焼くことで解決した。
ひとつも無駄にしたくない
肉にはすべて下味がつけてあり、基本的にはたれなしで食べる(希望すれば無料でもらえる)。まずはせせりから。ぷりっぷりの肉質と塩だれの相性が間違いなしで、そこに青唐の爽快な辛味が加わり、思わず歓声をあげてしまう。マルチョウのジューシーな脂と濃厚な味噌の組み合わせも間違いない。
ビールがあっという間になくなり、いよいよ31円のレモンサワーへ移行。QRコードを使っての注文時、選択肢に「濃いめ(+31円)」とあったのには笑った。62円の濃いめレモンサワー、なにが得でなにが損とかの感覚がわからなくなる。
「生レモンサワー」
やってきたレモンサワー、これがもう堂々たるレモンサワーで、驚くしかない。しかも多くの店ならば確実に値段がプラスされるであろう"生"レモンサワーで、注文のたびにきちんと新しいカットレモンが添えられてくる。あまりにも体になじみ、がぶがぶとおかわりを重ねてしまう。
「ごちゃまぜホルモン」
ごちゃまぜホルモンはその名のとおり、牛や豚や鶏のホルモンがごちゃっと混ざったラフなメニュー。砂肝やレバーはわかったが、どこの部位かがわからないものもある。だけど、煙の香りとネギ塩だれをまとったホルモンはなんだってうまいに決まってるし、こういうのは深く考えずに味わうのが楽しい。
ねぎがこぼれるのはもうあきらめた
ところで、焼肉といえば白メシ。肉と米のハーモニーだけはどうしても味わっておきたく、僕はあれば必ず小ライスを頼む。そしてメニューには確かに「ライス 小」(218円)があった。が、食事系メニューもかなり幅広くあり、そのなかの「黒毛和牛背脂TKG」(438円)が気になりすぎてしまった。今日はこれにしてみよう。
「黒毛和牛背脂TKG」
どんぶりに白いごはん、その上に刻みねぎ、中央に、黒っぽい色に艶めく、刻まれた牛脂、頂点に卵黄、そしてごま。見るだけでわかるが絶対にうまい。
そりゃあうまい
卵黄を慎重に崩し、TKGとはいえ全体があまり混ざりすぎないよう、全要素をすくって食べてみる。まず、高級な牛特有の強く上品な旨味が広がる。濃いめのたれ味をまとった、肉の脂のみという背徳の物体。そこにまったりとした卵黄が絡んでしまうのだから、誰もが言葉を失うだろう。自分とて例外ではなく、もはや泣けてくる。さらにそこへ焼きたてのホルモンをひとつのせてかっこんでしまえば、なにかこう、ホルモン焼き、いや、食事というもののその先が見えてきそうな幸福感だ。幸せすぎるぞ、分倍河原肉流通センター......。
で、これだけ食べて、ふたりで生ビールを1杯ずつ、生レモンサワーを3杯ずつ飲んで、お会計は合計3,410円、つまりひとり1,705円だった。正真正銘の良店、というか、あまりにもお得すぎて存続が心配になるくらいの、奇跡の店だった。
ちなみに肉流通センターは、多摩地域を中心にけっこう系列店があるチェーンらしい。ぜひ、西武池袋線への出店、ご検討ください>社長さま。
ちなみに、ひとつおまけエピソード。このあとのイベントは大盛況で、終了後に関係者で打ち上げをしようということになった。なかなかの大人数で、マストの条件は全員が入れること。結果、会場は分倍河原肉流通センターに決まった。僕とコダマさんは本日2回目。みんなで2時間くらい大いに飲んで、会計はやっぱり、ひとり千数百円なのだった。




