
佐藤優
さとう・まさる
佐藤優の記事一覧
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
米国ドル紙幣、250ドルにトランプ大統領の肖像画が入る。欲しい人は絶対に欲しがる!!(写真:ロイター=共同)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――今年の7月4日は米国独立記念日、それも建国250周年であります。
佐藤 トランプの肖像が印刷された250ドル記念紙幣に期待しています。
――これ、トランプはジョージ・ワシントンを超えたということですか?
佐藤 1ドル札にあるワシントンの肖像が採用されたのは、彼の死後です。要するに現職の人物を肖像にしたらいけないと法律で決まっているんです。
だけど、それを一時、執行停止にすればいいわけですよ。その法律を250年祭のときだけ止めて、「250年祭りのその間に刷ったお札は例外とする」とすれば問題ありません。
――それはもう、高くなりますね。
佐藤 プレミアも付きますね。それにせっかくだから、250年記念金貨を作ればいいと思います。額面は250ドルだけど、販売価格は1~2万ドルと高くすればいいんですよ。日本でもたまにやりますよね、一万円金貨とか。あれも実売価格はすごく高くなっています。
――先日も昭和100年を記念する千円銀貨幣を日本政府が作りました。販売価格は3万4800円です。ちなみに、天皇陛下御在位60年記念でつくった10万円金貨は、現在59万5200円であります。250年記念金貨なら、250ドルとして使える金の延べ棒ですね。
佐藤 そうです。私だったらそうしますね。それにプレミアを付けて100万ドル(約160億円)ぐらいで売買すれば、トランプは喜ぶんじゃないでしょうか?
――そりゃもちろん大喜びですよ。世界中の金持ちは買います。サウジアラビアの王族や日本の年収5億円以上の本物の金持ちたちが。
佐藤 トランプは知恵が足りませんね。やはりこの時代、単なる紙幣ではなく金貨を作るとか、そこまで踏み込まないと。
――本物の金の価格をガンガン上げている元凶は、トランプ閣下でありますから。
佐藤 トランプは金貨とか、ミラーボールみたいなギラギラしたものが好きですよね。こういう下品力がトランプの強さです。
――もちろんです。ただ、250周年記念イベントはアーティストたちがどんどん出演辞退をしています。トランプは「楽器なしでエルビス・プレスリーの全盛期以上の観客を集め、誰よりもこの国を愛し、最も素晴らしい大統領ドナルド・トランプが代役をするぜ」と言っています。
佐藤 いいんじゃないですか。チャラチャラしたディープステイトに繋がっているような芸人ではなく、いま新しい時代の芸人が必要です。さらに格闘技選手を集めてもいいと思います。チャラチャラしたインテリよりも、大衆の文化に照準を定めたほうがトランプらしいです。
――ですね。スーパースターのコスプレでトランプが登場。悪役のプロレスラーが次々と乱入して、大乱戦からトランプが全員やっつけ、「MAGA」と叫んでイベントが始まる。
佐藤 トランプは最近、調子が悪いですよね。トランプ・ケネディセンターからも名前が除去されて、ケネディーセンターに戻ります。
――ホワイトハウスにプロレス用の後楽園ホールを作ることも中止させられましたからね。
佐藤 トランプはいま面白くない状況ですが、とにかく中間選挙が終わって、選挙の心配がなくなったところでエンジン全開になるでしょうね。
おそらくこの調子だと、中間選挙で共和党は負けます。でも、負けてもいいんですよ。負けを認めずガンガン行くのがトランプ流です。負けても「不正選挙だ」と主張していれば問題ありません。
――不正があったと裁判所に訴え続けて、自分の任期中に判決が出ないようにする。
佐藤 それから、議会がトランプの言う事を聞かなくても大統領令を乱発して、議会を全部無視していけばいいんです。
――いまも無視していますからね。
佐藤 トランプ以上に気合いが入っている人はいますか?
――......いません。
佐藤 オットー・ケルロイターというナチスドイツの学者(ミュンヘン大学教授)がいました。彼はニューフェン大学の憲法学の先生でしたが、「ワイマール憲法はろくでもないものだから改正しろ」という意見に対してこう批判しました。
「ふざけるな。憲法なんか改正しなくていい。憲法下の純血法、国防、国家、人種法、そして憲法に矛盾する総統命令など、憲法と矛盾する法律をたくさん作り、総統命令を山ほど出す。そして、憲法を事実上、無効化すればいい。
我々は『血と土』で、これはヒトラー総統の人格に体現されている。即ち、ヒトラー総統こそが法律で、生きた憲法だから、そんなワイマール憲法に囚われる必要はない」
――すると、いまの合衆国憲法は「トランプ憲法」に変わろうとしている?
佐藤 そうです。だから、トランプの人格に憲法が体現されます。
このヒトラー総統の人格が憲法だとする主張をしたケルロイターは、故・中曽根康弘先生の恩師で東大教授も務めた矢部貞治氏の友人です。矢部氏の招きで戦前に東京大学の客員教授も務めました。いま述べた滅茶苦茶な理屈は、ケルロイターが『ナチスドイツ憲法論』(岩波書店、1939年)で展開しているので、日本語で読むことができます。当時、世界最新の理論だと持て囃(はや)されました。
――すると2030年代、100年後の現代に復活する?
佐藤 アメリカの理念はいまの危機的な状況において、トランプという人間によって真の見えない憲法が体現されているとオットー・ケルロイターの憲法論で考えれば、心配ありません。
――アメリカでMAGAと叫んでいる方々は、さらに熱狂しますね。
佐藤 それから国際法は、既存の国際法に従わない日本の大東亜国際法に従って作ってもらいます。
その意味において、トランプの先輩は1930年代のナチスドイツと大日本帝国なんですよ。そうすれば全てを理論化できるから、何の心配もありません。
――それを建国250年祭で発表する。
佐藤 そうです。トランプ氏が憲法であり、その人格にアメリカの憲法は体現されている、と。ドイツ第三帝国と大日本帝国という先例があるので、何も心配することはありません。
――「Trump is the U.S.Constitution!!」の叫びは、MAGAを超えるTUSCとなります。
佐藤 そして、この連載でも以前に話しましたが、いまは"ジャングルの掟"が正義の時代です。なので、動物の立場でちゃんと今を考えるんです。まずトランプはライオンで、習近平は虎ですね。
――はい。
佐藤 いままでのショーでは、ライオンと虎を喧嘩させると虎が勝ちました。虎の方が一割ぐらい体が大きく、筋肉もあります。そしてライオンは集団戦で戦いますが、虎は孤立戦です。だから、一対一だと虎の方がライオンより強いんです。
そしてその後、北京の虎のいる所にプーチンという熊が来ました。熊はやはり、虎よりも格が一段落ちます。ライオンと虎を比べると、いまの国際関係をそのまま表現していると思いませんか?
――そのまんまです。虎の所にライオンが挨拶にきて、その後でライオンが帰ると熊が来た。その真横に日本はあります。どうしたらいいんですか?
佐藤 とにかくまず、様子をよく見ることです。虎とライオンと熊がどう棲み分けをするのか、を。
――高市さんは確か豹でしたね。
佐藤 豹はヤバくなったら、餌は全て木の上で食べます。ライオンは木登りが得意ではありません。ただ、虎と熊は木に登ってきます。
――逃げ場がないじゃないですか!
佐藤 虎も熊もライオンにもひと言だけ言えることは、竹箒(たけぼうき)で目を突いたらダメだということです。
――今は豹もライオンとうまくいっています。熊とは会っていません。
佐藤 はい、全く接触していません。おそらく電話もしてないんじゃないですか。
――豹はすでに虎を怒らせています。
佐藤 だから、いまそれに加えてライオンであるトランプを怒らせないほうがいいと思うんですよね。
――ジャングルの掟ですね。
佐藤 そうです。
次回へ続く。次回の配信は2026年7月10日(金)予定です。