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高市早苗首相(右)と日本維新の会の吉村洋文代表(左)
今国会で審議入りした「副首都構想法案」。東京が大災害に見舞われた際、副首都が国の中枢機能を請け負うのが大義だが、同法案を推す日本維新の会の本拠地・大阪だけでなくほかの主要都市も手を挙げている。
そこには首都機能代替という名目を手にすることで享受できる"恩恵"がチラつく。各都市の思惑は? 副首都構想の行方は? 方々を取材した!
今国会で「副首都法案」が審議入りした。東京が大地震などの災害で機能不全に陥ったとき、政治や行政、司法の中枢を丸ごと引き継ぐ〝第二の首都〟をつくるのが目的だが、平時には企業や人材を呼び込むことで経済などの東京一極集中型の是正も狙う。
法案が成立すれば、政府は1年以内に副首都の指定要件を政令で定める。その後、希望する道府県が申請し、政府が審査。最終的に総理大臣が副首都を指定する流れだ。
法案によると、副首都は複数指定も可能で、東京のバックアップを一都市に集中させるのではなく、役割に応じて分散配置することも視野に入れている。
日本維新の会の藤田文武共同代表(左)と馬場伸幸前代表(右)。「副首都構想」法案の成立は彼らの悲願だ
もっとも、どこでも手を挙げられるわけではない。法案策定に関わった日本維新の会の政務調査会長・斎藤アレックス衆院議員は、副首都指定のハードルについて「相当高くなる」とみる。
「人口や域内の国内総生産(GDP)額、国の出先機関の集積度などが指定要件になるでしょう。具体的な数字は法施行後に決まりますが、基準を設ければ自動的にふるい落とされる自治体が出てくるはずです。想定しているのは全国で数ヵ所です」
日本維新の会の政調会長を務め、「副首都構想」法案において主導的な役割を担っている斎藤アレックス衆議院議員
この副首都法案の成立を見越し、各地では早くも副首都の座を巡る動きが水面下で始まっている。
北海道の鈴木直道知事は副首都構想に関心を示しており、今年度からは札幌市との間で月1回程度の部長級会議を開始。見据えるのは当然、「副首都・札幌」だ。
「札幌の強みはふたつあります。東京と同時被災する可能性が極めて低いこと。そして、北海道という食料・エネルギー基地を背後に持つことです」
そう語るのは、副首都誘致を訴える札幌市議の波田大専(はだ・だいせん)氏だ。
「北海道の食料自給率は約200%。再生可能エネルギー発電量の割合も4割を超え、全国平均の約2倍に達します。将来的にはエネルギーも100%自給できるポテンシャルがある。有事の際、食料と電力を自前で賄い、他地域へ供給できるのは、日本では北海道しかありません」
その上で、農林水産省や資源エネルギー庁などの本部機能を札幌へ移す構想を描く。
「食料もエネルギーも現物はすべて北海道にあります。それらを差配する司令塔が東京にあれば、東京が止まった瞬間に他地域への配分も供給も判断できなくなる。有事に機能させるなら、現物と権限は同じ場所に置くべきです」
6月24日、副首都構想の具体化に向けた法案を、築山信彦衆議院事務総長(中央)に提出する自民党と日本維新の会の議員たち
波田氏が期待を寄せるのが、札幌市民にとって長年の悲願である北海道新幹線の札幌延伸だ。
2030年度末を予定していた開業は38年度末に延期され、さらに遅れるとの見方もあるが、札幌市が副首都になれば、副首都法案の基本方針に明記されている〈相互に代替性のある交通手段の確保〉によって、その時期は早まるとみている。
「『新幹線がないから副首都になれない』ではありません。むしろ逆です。副首都として国を支えるため、それにふさわしい交通手段を整えるべきなんです。北海道新幹線は、その大義名分になりうると思っています。
とはいえ、副首都のメイン候補は大阪だと思っています。ただ、複数指定なら北海道ならではの役割が果たせるはず」
「大阪、福岡、札幌など――」
今年1月、維新が衆院選の公約に並べた副首都の候補地に、中部地方の都市名はなかった。
「なぜ、名古屋が入っていないのか?」
名古屋市役所内に危機感が広がる中、広沢一郎市長は「名古屋市としても全力で副首都を取りにいく」と宣言。今年4月には庁内プロジェクトチームを発足させ、誘致へと一気にかじを切った。
大阪と肩を並べる経済規模、そして日本経済の屋台骨である自動車・製造業の集積。これらに加え、市がアピールするのが、名古屋城郭内に広がる官公庁街「三の丸」地区だ。市の関係者がこう話す。
「ここには県庁、市役所、裁判所のほか、法務局や財務局、中部地方整備局など国の主要機関までがすべて徒歩圏に集積しています。しかも、三の丸地区は標高約10~15mの熱田台地にあり、地盤も強固。東京で有事があっても、この一帯で国家の中枢機能を一括してバックアップできます」
名古屋市の副首都化に意欲を見せている広沢一郎名古屋市長。大阪に対抗するためには、愛知県との緻密な連携が欠かせないが......
もうひとつの切り札が、開業延期が続くリニア中央新幹線だ。
「大深度地下を走るリニアは地表より地震の影響を受けにくいとされ、東海道新幹線が寸断された際の代替ルートになりえます。
もし名古屋が副首都になれば、その役割は単なる高速鉄道ではなく、首都機能を維持する基幹交通インフラとしての重要性が高まるでしょう。足踏みしているリニア整備を国家プロジェクトとして加速させる後押しにもなるはずです」
ただ、名古屋には大阪に後れを取りそうな不安要素がある。法案では、副首都の申請主体はあくまで「道府県」。つまり、具体的な副首都構想を策定するには、愛知県と名古屋市が一体となって動くことが大前提だ。
ところが、河村たかし前市長時代から長年続いた愛知県(大村秀章知事)との冷え切った関係が今も禍根を残している。広沢市長への交代で雪解けの兆しが見え始めたとはいえ、副首都を目指す上で十分な連携態勢が築けているとは言い難い。
「県庁の内部でも、なんらかの検討を進めているとは思います。ただ、県が何を考え、どこまで本気なのかが、こちらにはまだ見えてこない。同じテーブルで議論する段階に至っていないのが実情です」
さらに、中央政界との距離も気になる。
「正直、法案を主導する維新や、自民党中枢との政治的パイプは太くない。地元与党がどこまで後押ししてくれるかも、現時点では見通せない流れです」
三の丸やリニアなど、ハード面の勝算は十分にある。しかし、最後にモノをいうのは政治力。その点では、大阪に一日の長がある。
「副首都になることで期待できるのは、規制緩和と税制優遇です」
そう語るのは、福岡市で投資顧問会社を経営する岩本壮一郎氏だ。金融の最前線から福岡経済を見続けてきた岩本氏は、「副首都化は福岡を成長させる起爆剤になる」と話す。
福岡市は、副首都構想が浮上する以前から、首都直下地震などで東京の機能がまひした場合に備え、政府・行政機能の受け入れを提言してきた。
「東京との同時被災リスクが低く、日本海側に位置する地理的優位性に加え、博多駅、福岡空港、博多港がコンパクトに集積する交通利便性も大きな武器となります」
福岡市の担当職員はそう話す。市役所では副市長をトップとするプロジェクトチームを設置し、福岡県、北九州市と連携協約を結び、副首都構想を推進する方針だ。
地元経済界が熱視線を送る理由は、防災だけではない。岩本氏がこう語る。
「東日本大震災では、東京に本社がある企業の支社や支店の閉鎖が相次ぎ、福岡は〝支店経済〟の弱さを痛感しました。だからこそ、本社機能を育てるため、高島宗一郎市長のリーダーシップの下に『スタートアップ都市』を掲げ、この10年以上、挑戦を続けてきたんです」
大阪、名古屋、北海道と共に福岡の副首都化を強く望んでいるという高島宗一郎福岡市長。「今、このチャンスをつかまないといけない」とも発言
ところが、「国の規制が厚すぎて、思うように前へ進めなかった」という。象徴的なのがライドシェアだ。
「福岡市は全国に先駆けてUberと実証実験に踏み切ったものの、わずか1ヵ月で国からストップがかかった。副首都になれば、一定の権限や規制緩和が認められるはず」
首都機能の受け皿もある。
「10年ほど前の九州大学のキャンパス移転により、市内には広大な跡地があり、その一部は市有地として余っている。さらに市中心部の天神地区では再開発『天神ビッグバン』による建て替えが進行中。
高さ制限の緩和を追い風に、老朽ビルは次々と最新オフィスに姿を変え、IT企業や金融関連企業の進出も目立ち始めた。市内には、東京の企業や官公庁を誘致できる土地とハコが数多く残されています」
ただ、副首都マネーは恩恵ばかりをもたらすわけではない。天神ビッグバンでオフィス需要が急増し、地価や賃料はすでに上昇している。
岩本氏自身も、東京資本のビルオーナーから突然、「数日後から賃料を2.3倍に改定します」と通告されたという。
「同じビルでも、数フロアに入っていた地元企業が賃料を払えず次々と退去しました。副首都になれば、この流れはもっと加速するかもしれない。発展は大歓迎ですが、地場企業や市民が街に居場所を失わないかという不安もあります」
各都市が副首都へ名乗りを上げるが、やはりその候補として先頭を走るのは維新のお膝元・大阪だ。
大阪府と大阪市が共同でまとめた資料『大阪の副首都構想』は、全103ページに及ぶ。そこには、大阪が副首都にふさわしいとする理由が、データと具体策を交えてびっしりと積み上げられている。
名目GDPは40兆円超、東証上場企業の本社は約400社(全国2位)。新幹線の総合指令所や日本銀行、NHKなどのバックアップ機能もすでに大阪市内に整備されている。
目を引くのが、「国に求める具体的措置」の数々だ。副首都庁の新設、企業の第二本社機能を大阪へ呼び込む税制特例、万博で披露された革新的技術の実装・産業化支援、データセンター集積を促す税制優遇まで並び、まさにフルコースである。
前出の維新の斎藤氏はこう話す。
「災害時の首都機能のバックアップは副首都の大きな役割です。ただ、それと同等に重視しているのが、東京に伍する経済都市を築くことです。副首都ならではの大胆な規制緩和や税制優遇を通じて新たな成長を生み出し、日本経済全体の底上げにつなげたい」
もっとも、大阪にも不安材料はある。南海トラフ地震が発生すれば、大阪自身も被災地になりうるからだ。
この懸念について、斎藤氏はこう説明する。
「法案が想定しているのは、首都直下地震や富士山噴火などによって東京の首都機能が完全にまひする事態です。南海トラフ地震が発生した際は、東京は機能継続できるという前提がある。
つまり、双方が同時被災するシナリオではなく、どちらか一方が生き残り、もう一方を支える仕組みをつくることがこの法案の趣旨です」
各都市の思惑が交錯する副首都構想。だが、肝心の法案について、国会審議は難航している。法案は自民、日本維新の会が共同提出したものだが、野党は反発、法案撤回まで要求した。国会は空転し、現在審議はストップしている。
それでも、維新は一歩も引く気配を見せない。前出の斎藤氏は、「延長国会も視野に、なんとしても今国会で成立させたい」と強調する。
一方で、自民党内は一枚岩ではないという。
「審議入りは高市早苗首相の強い意向でしたが、党内には麻生太郎氏らの慎重姿勢もあり、現時点では成立を楽観視できる状況ではありません」(自民党関係者)
「副首都構想」法案について慎重な姿勢を見せているという自民党・麻生太郎衆議院議員
法案の成立時期が見通せない中、副首都を巡る一連の動きを、『世界の首都移転~遷都で読み解く国家戦略』(社会評論社)の著者で、立正大学元特任教授の山口広文氏は冷静に見つめている。
「これまでも、阪神・淡路大震災や東日本大震災のたびに、首都機能分散の議論は盛り上がりました。しかし、喉元を過ぎれば熱は冷め、結局は『やっぱり東京が便利だ』となって立ち消えになる。だからこそ今回、法案として現実味を帯びたこと自体には、非常に大きな意義があります」
一方で、副首都構想の本来の意義が変質しつつある状況に、強い懸念も口にする。
「現行の法案や各都市の議論を見渡すと、規制緩和や税制優遇、企業誘致といった地域経済振興の色彩がかなり強くなっています。しかし、本来の副首都構想とは、災害時に国家が息を止めないために、『何を、どこへ、どう分散するのか』という危機管理の議論であるべきです。
地方に経済活動が分散すること自体は良いことです。しかし、経済効果が主目的にすり替わってしまえば、本来の『国家首都のバックアップ』という最も重要な原点が見えにくくなってしまいます」
副首都構想は日本を強くする起爆剤になるのか。まずは国会審議の行方を見守りたい。