BMWの「ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能」は3シリーズ、8シリーズ、X5などに搭載して発売する予定だという

東京・池袋で87歳の男性が運転する乗用車が暴走し、死傷者を出した。あらためて悲惨な事故を防ぐ"完全自動運転"を求める声が増している。自動運転の現状を、欧州車のスペシャリストであるモータージャーナリスト・竹花寿実(たけはな・としみ)氏に解説してもらった。

■多方面に問題が山積する自動運転

──竹花さん、BMWがこの夏からニッポン市場に「ハンズ・オフ機能付き渋滞支援機能」を搭載したモデルを導入すると発表しました。コレはレベル3の技術なんですか?

竹花 アレはすでに実用化しているレベル2の進化版です。すでにアメリカや中国には導入されています。

──どういう機能なんスか?

竹花 高速道路上で前走車がいる状態で、車速60キロ以下の場合のみに起動できる運転支援システムです。ドライバーは常に前方に注意を払い、直ちにステアリング操作できる状態でなければなりません。

常にカメラでドライバーの視線が監視されていて、ヨソ見をすればすぐに警告を発します。なので、クルマが自律走行する自動運転ではありません。

──とはいえ、ステアリングから手を離してもOKというのは画期的スよ!

竹花 ええ。レベル3にまた一歩近づいたといえます。

──ちなみに欧州は電動化だけでなく自動運転の実用化にも積極的なんですか?

竹花 とても積極的です。欧州委員会は昨年5月に完全自動運転社会を2030年代に実現するためのロードマップを発表しました。まずは、2020年代に都市部での低速自動運転を可能にすることを目指しています。

──なぜわざわざロードマップを発表?

竹花 自動運転社会への移行を早期に進めることで、国際ルールの主導権争いを有利に進めたいと考えているんです。

──アウディはすでに、技術的にはレベル3の自動運転技術を実用化していませんでしたっけ?

竹花 「アウディAⅠトラフィックジャムパイロット」のことですよね。高速道路を60キロ以下で走行する際にレベル3の自動運転を可能にするもので、本来ならば現行A8に搭載されるはずでしたが、現時点で世界のどの国にも導入されていません。

──それはなぜスか?

竹花 技術的には完成しているはずです。問題は各国の法整備の遅れで、運転操作の主導権が完全にクルマ側に渡されるレベル3の自動運転は、日本が批准しているジュネーブ条約でも認められていません。国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)でも10キロ以下の自動操舵しか認められていないのです。

──逆に言えば、法整備さえ進めば即実用化できると。

竹花 そうはいきません。保険の問題も解決する必要があります。自動運転中に事故が起きた場合の責任はドライバーか、あるいは自動車メーカーか。その問題が解決できてない。実は自動運転は多方面で問題が山積しているんです。

■ニッポンの自動運転は世界に勝てるのか

──ズバリ自動運転の技術はどの国が進んでるんスか?

竹花 現時点で世界トップはアメリカ。テスラのオートパイロットがよく知られていますが、グーグル傘下のウェイモやGM(ゼネラルモーターズ)は、年内にもレベル4相当の車両で無人の自動運転タクシーサービスを開始するとアナウンス済み。コレに次ぐのがドイツ勢です。中国も急激に力をつけてます。

──アメリカが強いワケは?

竹花 やはり昔からベンチャー企業やスタートアップに対する投資環境が整っていて、新しいものはとりあえず試してみて、問題があれば後から対処するという考え方が根づいていることが大きい。シリコンバレーは今や自動運転技術や次世代モビリティサービスにおける世界最大の開発拠点になっています。

──欧州はどうスか?

竹花 欧州というか、ドイツは近年、ベルリンを中心にⅠTスタートアップが増え始めて、有能な技術者が世界から集まっています。ボッシュなど大手サプライヤーも高い技術を持っています。あと、ドイツは自動車が最大の基幹産業なので、産官学が一体となって開発を後押ししています。

──具体的には?

竹花 まず、2016年にウィーン条約が一定の条件下で自動運転技術の公道での使用が認められるように改正されたことを受けて、17年に道路交通法を改正し、レベル3の市販車の公道走行を認めました。

──レベル3の「特定の場所」とは例えば高速道路のことですか?

竹花 はい。ミュンヘン近郊のアウトバーン9号線では自動運転の開発車両の試験走行が可能となり、アウディやBMWの開発車両が頻繁に走行しています。

──えっ、すでに自動運転でアウトバーンを走ってると?

竹花 ええ。実は私も17年5月にBMWのレベル4の開発車両でアウトバーン9号線を走りましたが、その時点でかなり高い完成度でした。

ちなみにBMWは今年2月に、すでにモビリティサービス分野での協業を明らかにしているダイムラーと2020年代半ばの実用化を目指してレベル4相当の自動運転車を共同開発すると発表しました。

両社はすでにボッシュやインテル、モービルアイ、FCAなどと協力関係にあるので、今後存在感が大きく増す可能性があります。

今年2月、ダイムラーとBMWは自動運転の共同開発を発表。BMWの クルーガーCEO(左)とダイムラーのツェッチェCEO(右)

──昨年の世界新車販売トップのVW(フォルクスワーゲン)ですが、自動運転の分野は現状どんな感じに?

竹花 今年4月には、VWがハンブルク市内の公道でレベル4の開発車両によるテスト走行を開始しました。VWは20年からEV(電気自動車)専用車のⅠD.ファミリーを順次発売する予定ですが、ⅠD.ファミリーは25年に完全自動運転のレベル5に対応すると謳(うた)っています。

昨年6月にはフォードとも自動運転やEV分野で協力関係を結び、EVと合わせて5兆円を超える世界最大規模の投資も行なう計画です。

4月3日、VWは自動運転「レベル4」の公道テストを開始。テスト車はeゴルフがベース

──ニッポンの自動車メーカーは大丈夫ですかね。欧米の自動運転に勝てそうスか?

竹花 かなり厳しいです。もちろんトヨタやホンダ、ルノー・日産・三菱アライアンスなどは、すでに高い技術力を持っていて、独自の開発に加えてソフトバンクやGM傘下のクルーズ社、DeNA、そしてウェイモなどとタッグを組んで対抗しようとしていますが、技術力で追いついても、それを実用に供するために必要な法律などの環境整備が遅れていることは否めません。

──けど、日本でも公道試験はやってるじゃないスか?

竹花 確かにやっていますが、日本は法律の迅速な改正や柔軟な運用が苦手です。また、高度な自動運転にはAⅠ技術が欠かせないのですが、AⅠ開発はシリコンバレーを中心に英語圏に優秀な人材が集中しており、決して日本は有利な状況にはありません。

──日本が欧米勢に勝てる術(すべ)はないんスか?

竹花 勝機があるとすれば、低コストで画期的な技術を、いかに早期に確立できるかにかかってくるでしょうね。この手の技術は日本企業の得意とするところなので、大いに期待しています。

●竹花寿実(たけはな・としみ)
1973年生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。自動車雑誌や自動車情報サイトのスタッフを経てドイツへ渡る。昨年まで8年間、ドイツ語を駆使して、現地でモータージャーナリストとして活躍。欧州車のスペシャリスト