イラン・アメリカ戦争&米中首脳会談が決定づける「近い未来に日本が取らざるを得ない3つの選択肢」とは?

取材・文/小峯隆生

ホルムズ海峡が近い将来の日本の運命を握っている(写真:ロイター=共同)ホルムズ海峡が近い将来の日本の運命を握っている(写真:ロイター=共同)
アメリカ・イラン戦争の行方次第で、日本にホルムズ海峡経由の原油が来るか来ないかが決まる。そして、米中関係の行方により、日本の近い将来の選択肢が決まってくる。さて、果たしてこれからどうなるのか!?

*  *  *

まず、イラン戦争の行方について、多摩大学大学院客員教授で地政学専門家の奥山真司氏は、「①アメリカの勝利宣言で実質敗北 ②そのまま継続 ③エスカレーションさせて軍事侵攻(ベトナム化)」の3つのケースで想定しているという。

「①に関して、トランプはもう何度も勝利宣言をして戦争は終わったとしていますが、実質②をずっとやってます。③は米軍がイラン領に上陸する想定です。

この戦争の重要な点はふたつです。ひとつが、ホルムズ海峡を解放できるかどうか。もうひとつは、イランが保持する核物質を取り除き核武装国家にさせないこと。

ですが、イランは核の手段を奪われたらイラクやリビアのようになる。だから、北朝鮮の金正恩のようになりたいと思っていると思います」(奥山氏)

日本は原油が手に入らなくなったら、燃料枯渇で苦境に立つキューバと同じになる。そうはなりたくないだろう。国際政治アナリストの菅原出氏はこう言う。

「トランプ政権はこの3つとも考えています。どうやったら勝利だと言えるのか、そのロジック作りはやっています。しかしCIAの報告では、実はイランのミサイルは70%残っているそうです。政治的に勝利宣言は難しいのが現実です。

そして②の継続ですが、イラク、カタール、パキスタンはイランと個別に交渉して、ホルムズ海峡を通してもらうことに合意しました。各国とも通行料は払っていないと言っていますが、このようにイランがコントロールしていると各国に認識させて通過する実績ができることは、イランにとって好都合です。

サウジアラビアは3月にイランを攻撃しましたが、その後イランとすかさず交渉に入り、お互い止めようと合意しました。

今残っているUAEはホルムズ海峡を通らずに石油を出せるので、イスラエル一辺倒でアメリカを巻き込み、イランに「ガツンとやらないとダメですよ」とそちらの方向に引っ張っています」(菅原氏)

ペルシャ帝国の末裔・イランは、その狡猾さで湾岸諸国の分断に成功した。その先の③が起きた場合はどうなるのか。

「アメリカは2ヵ月停戦で体制を整えています。米軍自体も補給して、新しい空母、特殊部隊も来ました。

ルビオ米国務長官は『エピックフューリー作戦は終了』と言い、ホワイトハウスはホルムズ海峡を解放する『フリーダム作戦』に移行したと言っています。だからその作戦に加えて、ホルムズ海峡のイラン側沿岸部に対する攻撃をやるでしょうね」(菅原氏)

米軍の攻撃が成功すればホルムズ海峡は開かれ、日本には原油は入って来る。

「アメリカが軍事攻撃をしても、ホルムズ海峡は開放させられません。アラブ諸国の石油施設が報復攻撃を受けますから、原油価格はもっと上がります。軍事力でなんとかなるならもうやっています。ホルムズ海峡を封鎖するイランの能力を軍事的に奪えないからこうなっているのです」(菅原氏)

米軍の攻撃でもどうにもならない事態...。日本には原油は入ってこない!?

【プーチンが登場!】

4月29日に突然行なわれたプーチン・トランプ電話会談で、プーチンはこう言った。

「米国とイスラエルが攻撃を再開すれば、イランだけでなく国際社会全体にも破滅的な結果を招く」「もし助けになるなら(イランの)核濃縮の問題に関わりたい」。

奥山氏はこう言う。

「2015年7月にイランと締結した包括的共同作業計画(JCPOA)がいいと、最近、アメリカ側が気づいたんですよ。アメリカだけでなく英仏独中露と多くの国が絡み、2018年5月にトランプが一方的に離脱した合意ですね。

今の落とし所としては、これしかないじゃないですか。ホルムズ海峡問題はちょっと置いておいて、これでイランに核開発をさせない猶予を持たせて、停戦する。

イランの核関連施設はロシアが絡んでいるんですよ。機器はドイツ製ですが、核施設、核技術はほとんどロシアから来ていますからね」(奥山氏)

平和への一筋の光だ。さらに菅原氏はこう予測する。

「プーチンはイランの濃縮ウランを引き取って保管することを考えていると思います。アメリカからすれば一番危ない濃縮ウランを取り上げて、イランに核兵器を持たせないという目標は達成できる。そして、トランプは勝利宣言できます」(菅原氏)

ならば日本に原油は来る!......と一筋縄にはいかないようだ。菅原氏は続ける。

「しかしイランは『米国の全面的な制裁を解除をしろ』と、高濃縮ウランを高く売るつもりです。ミサイル、テロ支援問題、さらにホルムズ海峡封鎖問題も残ったまま、全面的な制裁解除はなかなか難しい。

つまり、イランはアメリカよりも持っているカードが多いんですよ。アメリカ人がペルシャ人のイランに交渉で勝てるはずがありません。交渉で絶対に勝てないアメリカは、最終的には武力に行くか諦めるか、そのどちらかです」(菅原氏)

トランプが諦めれば日本に原油は来る。だが、武力行使ならば戦争は継続。日本の油断ちが続く。

【米中首脳会談が終了】

米中首脳会談で、米中は「建設的戦略安定関係」で合意した。菅原氏はこう分析する。

「アメリカは、この首脳会談の前にイランとの戦争を何とかしていれば、強い立場でいけました。しかし、イラン戦争に関して何とかお願いしに行く、そういう立場での交渉になった。

一方の中国のポジションは、『ホルムズ海峡は開放すべきだ。イランとの紛争解決には協力するが、中国はイラン産石油の購入を継続する。それを認めろ』。そして『ホルムズ海峡の軍事化には反対するが、海峡封鎖を巡ってイランと対立するつもりはない』です。中国のポジション、つまりアメリカの海峡封鎖も反対という意味です」(菅原氏)

中国のどこが建設的なのか。

「建設的なのは、双方が戦略的に足を引っ張り合うことではなく、安定した関係をケンカせずに、お互いにトップレベルで調整できる関係を建設するという意味です。

そして重要なのは習近平の発言です。『台湾問題に関して、中国のレッドラインを破ったら、米中はぶつかりますよ。それを覚悟して下さいよ』と伝えた。それが滅茶苦茶、大きいです。これは踏み込んだ発言だったと思います」(菅原氏)

トランプは、戦争の勝者として北京に凱旋できなかった(写真:ロイター=共同)トランプは、戦争の勝者として北京に凱旋できなかった(写真:ロイター=共同)
あのトランプがそれだけ言われても、怒らないのはなぜなのか?

「アメリカとしては、イランとも話がついていないし、中国とはいろいろと先延ばしにしたほうがいい。それは中国にしても同様。互いに今は懸案事項は先延ばしにしたほうがいいということです」(菅原氏)

一方、奥山氏はこの会談を地政学から見る。

「習近平が『トゥキディデスの罠』を持ち出したのがショックでした。

『トゥキディデスの罠』とは、新興大国アテナが覇権国スパルタの地位を脅かした際に、両国が抱く恐怖、猜疑心から、戦争に突入してしまう危険性のことです。

中国はアテネのように台頭し、アメリカはスパルタのように落ちつつある。つまり、中国がアメリカに『あんた、国力落ちているよ』と認識させて、首脳会談でのマウントをとったんです」(奥山氏)

なぜそれが衝撃なのか。

「私はかつて、カナダと英国へ留学しました。その経験から言うと、例えば韓国人や日本人が10人くらいいる中だと、中国人は大人しい。しかし、中国人の数が一番多くなると、態度が変わって恐ろしく突き上がる。

また、自分たちが大国になってナンバー1になると傲慢になるんですが、これを『ヒュブリス』と言います。そして古代ギリシャの時代から、そうなると必ず戦争が起こると言われている。中国が傲慢になると、精確な判断ができずに、今のアメリカみたいになるわけです。ヤバいと思いましたね」(奥山氏)

【日本の選択肢とは?】

イラン戦争は続き、日本に十二分な油は入ってこない状況は続行中だ。そして、米中は建設的戦略安定関係となったが、中国が戦争を始める可能性もある。日本はどのような選択をすればいいのか。奥山氏は「地政学的には日本には3つの選択肢しかない」という。

「①シーパワーのアメリカに付く ②独立(核武装) ③ランドパワーの中国に着くの3つです。

基本的には①、もしくは①と②の間の1.5でいいと思います。1.5とは米国との同盟は結びつつ、やはり日本は自立を求めること。そして、それは日本政府のひとつの目標です。

高市首相は4月末のベトナム・オーストリア訪問で「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific)」の第三弾を発表しました。インド太平洋地域の平和と繁栄を保障し、各地の発展を促す構想です。

アメリカ側の識者から非常に評判がいいんですが、今回の発表ではアメリカという言葉がひと言も入っていません。つまり、アメリカは今、どうなるか分からないから、我々は横で連携し、インド・太平洋で自由を守っていこうと。

今、アメリカは不安定で、トランプ政権の次は、とにかく今より少しは安定する。その間、何とか太平洋を安定させようとしている高市首相は良いヤツだという理由で、アメリカで評判が良いんですよ。だから、日本は、日米同盟を堅持しながら独立を目指し、同時にベトナム、豪などとの横の繋がりで何とか耐えて行きましょう、ということです」(奥山氏)

一方、国際政治アナリストの菅原出氏はこの選択をする。

「①の今までの路線、日米関係を基軸とすることを変える選択肢は取れません。しかし、アメリカのパワーは相対的にどんどん下がっていき、しかもグローバルな立場からアメリカはどんどんと引いていく可能性があります。日本が上手くその中で泳いでいけるかが重要です。

日本が生き残るためには、シーパワーのアメリカ頼みだけでは厳しいと言うのは当然、見えてきます。アメリカ以外、英豪だけではなく、東南アジアやグローバルサウスを含めて、パワーを持ってくる国、日本にとって重要な場所を特定して、関係を強化する。

また、中国とは対抗路線だけでは厳しいので、連携できる部分を探します。中国とはケンカしない方がいいですが、舐められないように日本独自の抑止力をどう形成するかです」(菅原氏)

その昔、ある専門家は、『中国が日本を非難する声明をひとつずつ、現実にしていけばいい』と言っていた。そして、中国は「日本の核武装を阻止せよ」「日本の軍国主義の復活だ」と批判した。ならば、核武装して、核弾頭付き長距離ミサイルを大量に用意することが、日本の独自の抑止力となるのか?

「今、アメリカが相対的に弱くなっていく段階で、これまでアメリカが許さなかった日本の核武装なども認められていく可能性もあるわけです。そこを視野に入れて、それを利用してどうやって抑止能力を構築していくか、ということでしょうね」(菅原氏)

  • 小峯隆生

    小峯隆生

    こみね・たかお

    1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、元筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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