
ひろゆき (西村博之)
にしむら・ひろゆき
ひろゆき (西村博之)の記事一覧
1976年生まれ、神奈川県出身。元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
「バイオ企業を支援していて『微生物の力で肥料を減らす技術』が期待を集めてます」と答える藤井一至氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。土壌学者の藤井一至先生との8回目です。ビル・ゲイツがある農法に注目しているようですが、もしかして、そこには金脈があるのでしょうか。そして、日本がその分野で遅れている理由もあるそうです。最新の農業技術について聞きました!
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ひろゆき(以下、ひろ) 最近、ビル・ゲイツが農業を支援しているという話を聞くんですが、何が起きているんですか?
藤井一至(以下、藤井) ビル・ゲイツさんは全米最大の農地所有者です。世界の食料問題の解決には、オイル(石油)よりソイル(土)が大事だとブログを書いていたりします。また、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団は「ピボット・バイオ」というバイオ企業を支援していて、「土の微生物の力で肥料を減らす技術」が期待もお金も集めています。
ひろ ということは、かなり画期的な技術っていうことですよね。
藤井 その企業が取り組んでいるのは、微生物の力で大気中の窒素を肥料に変えることです。窒素は、植物が体を大きくするのに欠かせない栄養です。窒素を植物に固定する微生物は昔からいますが、その微生物の働きを強化する技術が画期的なんです。
ひろ そんなに窒素が大事なら、化学肥料で入れれば済む話にも聞こえますけど、そこには問題があるわけですね。
藤井 背景には化学肥料が抱えるふたつの問題があります。ひとつは「値段が高いこと」。本当に肥料を必要としている貧しい地域ほど買えません。もうひとつは「化学肥料に頼りすぎると土の中で植物を助けている微生物が力を使わなくなってしまうこと」です。
ひろ 植物を助けている微生物というのは?
藤井 例えば、大気中の窒素を植物が使えるように固定する微生物です。サツマイモが栄養の乏しい火山灰地でも育つのは、その手の微生物の助けが大きいんです。
ひろ で、化学肥料をたくさんまくと、その微生物が働かなくなってしまうと。
藤井 そうです。窒素の固定は微生物にとってかなりコストの高い仕事なので、周りにすぐ使える窒素があるのに、わざわざそんな大変な仕事をするような微生物は競争に勝てません。
ひろ そこで出てきたのがビル・ゲイツも注目する技術なんすね。
藤井 そのとおりです。「種子コーティング」という技術です。トウモロコシの種をまくときに、種の表面に微生物をまぶしておく。すると植物が発芽した瞬間から、微生物が根の近くの特等席に座れる。
ひろ でも、それだけだとさっきの「化学肥料に負ける問題」は残りますよね。
藤井 残ります。だから、そこでもうひと工夫しています。植物と共生する微生物は、周囲に窒素があると「もう窒素固定はやめていい」と判断するセンサーがあるんです。だから、遺伝子編集でその仕組みを鈍くする。化学肥料があっても窒素固定をやめないようにするんです。
ひろ 微生物のセンサーをバカにするんだ。
藤井 そうです。化学肥料をゼロにするというより、肥料の量を減らしながら空気中の窒素も使って収量を高めようというわけです。
ひろ それは、確かにすごいですね。
藤井 はい。日本だとここまで進むのにかなり時間がかかると思います。というのも、遺伝子組み換え作物ですら消費者の抵抗感が強い国ですから、遺伝子編集した微生物を畑にまくとなると心理的な抵抗がかなり大きい。一方で、アメリカではすでに畑でやり始めています。
ひろ 「技術がない」のではなく「社会が受け入れるまでが長い」ということですね。じゃあ、これがうまくいけば貧しい国の食料問題も解決するんですか?
藤井 そこがビル・ゲイツさんの期待です。ただ、そんなに単純ではありません。むしろ新しい形の南北問題が起きかねない。豊かな国は肥料も技術も買えるけれど、貧しい国は買えず、その差がそのまま収量や食料事情の差になるということです。
ひろ なるほど。
藤井 今回の技術は、うまくいけば収量は上がるけれど、例えば、種にまぶす微生物の特許などの知的財産は、技術を持っている企業が握ることになります。
ひろ すると農家は、毎年その企業から買い続けなければいけない。
藤井 こういう技術は、最初は価格を安くして広めるんです。まず使ってもらって収量が上がる実感を持ってもらう。すると、農家はその種子や資材があることを前提にして経営を組み立てるようになる。ところが、そこまで入り込んだ後に価格を上げられると、もう簡単には抜けられない。使うのをやめれば収量が減ってしまうからです。
ひろ 助ける技術に見えて、長期的には依存を深める仕組みだと。
藤井 化学肥料の時代と同じ問題が、もっと巧妙な形で再演される可能性があります。
ひろ ちなみに、日本はこの分野の競争に参加できているんですか?
藤井 先ほども言いましたが、正直、社会の受け入れはかなり遅れています。ただ、だからといって研究までやめるべきではありません。日本は今、遺伝子関係の試薬や機器をアメリカにかなり頼っています。それなのに、さらに研究をやめると、いざというときにもう身動きが取れなくなります。
ひろ 使うかどうかは別として、研究だけはしておかないと危ないということですね。
藤井 そうです。日本には発酵食品の文化があって、微生物の多様性や研究という意味では、本来かなり引き出しが多いはずなんです。まだまだ勝負できる余地はあると思います。
ひろ でも、日本に微生物の引き出しが多いとしても、地道に探しているだけでアメリカに勝てるんですかね。それなら、最初から都合のいい〝スーパー微生物〟を設計して作ったほうが早い気もしますけど。
藤井 そう単純でもないんです。今でも土の中には、まだ見つかっていない有用な微生物がたくさんいます。しかも、仮に研究室でスーパー微生物を設計できたとしても、畑に放したときに思ったように働いてくれるとは限りません。なぜなら、微生物は単独で生きているわけではないからです。他の微生物との関係の中で生きている。例えば、スポーツチームにスーパースター選手をひとり投入しても機能しませんよね。ドジャースの大谷翔平選手がどれだけすごくても、小学生のチームに入ったら、彼の球を取れるキャッチャーがいないようなものです。
ひろ スーパースターひとりでは回らないと。
藤井 そういうことです。微生物の世界はチームプレイです。今、種子コーティングがうまくいっているのは、種にまぶしたことで根の周りという居場所を確保できただけであって、土の中の生態系全体を支配できたわけではありません。土の世界はそれほど単純ではないんです。
ひろ つまり、次の農業革命って、すごい微生物をひとつ作れば終わりじゃないってことですね。
藤井 そうです。微生物をどう使うかだけじゃなくて、土の生態系を丸ごと考えないといけない。しかも、人によって好みも違う。単純な必勝法がないのが、この分野の難しいところです。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
■藤井一至(Kazumichi FUJII)
1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など





