不信任決議による失職から復活も兵庫県・斉藤知事への批判が再燃中!

文/山本優希 写真/斉藤元彦氏Xアカウント、photo-ac.com

批判をよそにXやYouTubeチャンネルでは自撮り写真を多数投稿している斉藤知事。「鉄のメンタル」は健在のようだ批判をよそにXやYouTubeチャンネルでは自撮り写真を多数投稿している斉藤知事。「鉄のメンタル」は健在のようだ
2024年から続く、兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラ騒動に端を発した県政の混乱に拍車がかかっている。記者会見での「人殺し」発言を斎藤知事が刑事告訴すると、これに反発した市民がSNSや抗議の場で同様の文言を連呼し、知事はさらに告訴を重ねる。しかも県は、都道府県で例のない「早期健全化団体」転落という財政破綻寸前の危機にも直面している。街中で「人殺し」コールが渦巻き、財政は底が抜けかけている――ディストピアの様相を帯びつつある兵庫県はいま、どうなっているのか。

【会見での怒声が招いた告訴の連鎖】

混迷のギアが一段と上がったのは、6月3日の定例会見だった。斎藤知事は、自身へのパワハラ告発の結果、懲戒処分を受けてその後に死亡した元県民局長についての質問に、「結果的には(懲戒処分への不服申し立てを)されなかった」と述べ、処分を実質的に受け入れたとする趣旨の説明を展開した。

ただ、元県民局長は生前の県議会百条委員会の調査に対し、不服申し立てに及ぶかについて「後輩たちを訴えることがどんなに辛いことか」「不服申立てをしなくても済む可能性が少しでも残っているのなら、それをギリギリまで待ちたい」とのコメントを提出。処分への異議と、後輩の人事担当職員との衝突を避けたいという葛藤に苦しんだ形跡を残している。そして、申し立ての期間が残される中で死亡したという経緯がある。

当日の会見に参加していたフリーの著述家・菅野完氏は、この斎藤知事の説明に、「人殺しやないか、お前は!」と声を荒らげた。斎藤知事は6月10日の会見で「公人としての受忍限度を超えている面がある」として、菅野氏を名誉毀損罪で刑事告訴したことを明らかにする。地元記者が語る。

混迷する兵庫県政はディストピア化も指摘されている混迷する兵庫県政はディストピア化も指摘されている
「『人殺し』という発言は余りにもどぎつい。ただ、県民局長が不服申し立てをしなかったから処分を受け入れたという知事の説明は、配慮に欠く発言ではあるし、告訴に踏み切ったことで、むしろ火に油を注ぐ結果になった。菅野さんは、SNSでの発信を止める気配はまったくありませんし、同調する人たちが追随して『人殺し』コールを記者会見中に唱えて、これが会見動画に乗っかるという異常事態。対立の構図が改めて固定化しました」(地元記者)

連鎖はそこで終わらなかった。7月3日には、Xへの投稿を理由に、反知事派の2人がさらに刑事告訴されていたことが判明。「人殺し」コールと刑事告訴の応酬が続く。

【出直し選挙の"信任"が生んだ強気】

これだけ批判を浴びても揺るがない斎藤知事の自信の源泉は、不信任決議可決を受けた2024年11月の出直し知事選での再選勝利にある。政治部記者が解説する。

「あの選挙で斎藤サイドは『メディアや県議会に潰されかけた改革派』というイメージを打ち出し、圧倒的な支持で返り咲いた。この"民意による信任"が、その後の強気な姿勢の土台になっています。批判が出るたびに『選挙で選ばれた自分こそが正統だ』という論理に立ち返る。それが、告訴という強硬手段に踏み切るハードルを下げているのではないでしょうか」(政治部記者)

しかしその強権的な手法に、かつて出直し選で票を投じた層からも異論が噴き出し始めている。神戸市の40代の男性が語る。

「私は前回、斎藤さんに一票入れました。斉藤知事に賛同するネット情報を鵜呑みにして、メディアや議会といった既得権益と戦う人だと考えたから。でも、斎藤さんの『告発者潰し』とされる一連の対応は、百条委員会や消費者庁からも違法性が指摘されているのに、『真摯に受け止める』とだけ繰り返して認める素振りもない。そのうえ、市民を次々と訴える姿は、単に自分に批判的な人物をやり玉に挙げているだけにしか見えない。今年に入って、反斎藤デモにも参加しています」(神戸市在住の男性)

【デフレ経営のツケ、金利上昇が直撃】

足元では財政の実務でも綻びが表面化している。

兵庫県の収入に占める借金の割合である実質公債費比率は近く19.3%に達し、起債に国の許可が必要な「起債許可団体」への移行が確実視される。そのうえ、30年度にはより財政悪化して破綻寸前となる「早期健全化団体」にまで転落する見込みであることを県が認めている。

斎藤知事が要因として挙げたのが、井戸敏三前知事時代の不適切な会計処理問題だ。公共用地の先行取得のために借り入れた490億円のうち、すでに売却済みだった土地の代金を返済に充てず、全額を借り換えていたというのだ。

だが、この不適切処理の悪化幅は最大0.8ポイントにとどまる。県は、この分を除いたとしても32年度には、早期健全化団体への移行が見込まれるとの試算を明らかにしている。地元紙記者が語る。

「知事が主張する井戸前知事時代の不適切会計の影響は限定的。最大の理由は、金利の上昇です。低金利時代に防災対策などで生じた借金が、金利上昇で重い負担となっている。デフレからの転換への対応が遅れ、負債の処理が滞っているから財政が破綻しているわけで、リーダーの責任です。

この夏は、県のドクターヘリが整備士不足で一部運休する事態を招いている。財政悪化が続けば、こうした住民サービスがより一層削られることが予想される。もともと兵庫は大阪のベッドタウンの性格が強いので、教育やインフラといったサービスが低下すれば、大阪への転居を考える世帯が増える。そうすれば税収の悪化が進み、負のスパイラルが続く恐れがある。

逆境に立ち向かうには、厳しい現実を踏まえた施策が求められるが、斎藤知事は『告発者潰し』といった指摘や批判に向き合わなかった。抜本的な解決ができるのか。極めて疑問です」(地元紙記者)

県民の分断、罵声と告訴の連鎖、財政の綻び。2年以上にわたって怒号めいた批判を浴びても知事の椅子を死守してきた斎藤知事だが、その"鉄メンタル"だけで、積み上がった難題を乗り切れるのか。この兵庫の問題は、ネット選挙の歪みをあぶり出し、他の自治体で起こりかねない恐れをもはらんでいる。

  • 山本優希

    山本優希

    フリーライター。編集プロダクション、週刊誌記者を経て独立。政界や証券市場が主戦場。

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