すぐ燃える「粗悪モバイルバッテリー」に気をつけろ!! 悪徳業者が売りさばく"ニセ認証品"を見分ける方法は?

取材・文/武田和泉 写真/共同通信社 NITE

再現実験で激しく火の粉を出しながら発火するモバイルバッテリー再現実験で激しく火の粉を出しながら発火するモバイルバッテリー
スマホが充電切れにならないよう、多くの人が持ち歩くモバイルバッテリー。便利なアイテムだが、最近では発火事故が大きな問題になっている上、粗悪品も大量に流通しているという。それらをつかまされないための知識をまとめた!

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【安全認証制度の盲点】

電車や飛行機内で、バッグの中から突然発火する――。モバイルバッテリーによる発火事故が後を絶たない。今月8日にも、大阪の中心地を南北に走る大阪メトロ御堂筋線の車内で、乗客の20代女性が所持していたモバイルバッテリーが発火。女性は軽傷を負い、全線が運転を一時見合わせた。

事故の詳しい原因は明らかになっていない。だが実は、通販サイトにそんな危険をはらんだ粗悪なモバイルバッテリーがあふれていることをご存じだろうか?

メーカーが容量の大きさと安全性の高さを激しく競い合う中、機能を誇大にかたる悪徳業者も紛れ込んでいるのだ。こうした粗悪品が野放しにされる構造に追った。

「スマホくらいのサイズで、5万mAh(ミリアンペアアワー)? しかも、3000円そこそこって、相場の半額以下ですよ。正規品なら、まずありえません」

ITジャーナリストの篠原修司氏が、大手通販サイトに出品されたモバイルバッテリーの販売ページを見てのけぞった。

ページには、女性の手のひらに乗った商品画像が掲載。ウリである5万mAhの大容量(1万mAh=スマホのフル充電約2回分)により、「5台のデバイスが同時充電できる」などのうたい文句が並ぶ。

「モバイルバッテリーは大容量になるほどサイズも大きくなります。内蔵されるリチウムイオン電池のエネルギー密度の上限は年々向上しているとはいえ、現状ではこの商品のサイズなら、通常は1万~1.5万mAhぐらい。厚みを出して2万mAhというところ。5万mAhのはずがありません。

しかし、一般消費者は実際の容量を調べる手立てがない。そのため、信頼性に大きな疑問が残る商品が平然と売られているのです」

東京メトロ有楽町線麹町駅のホームで燃えるモバイルバッテリー。電車内は混みやすいため、衝撃がバッグの中の製品に伝わって発火事故が起きることが多いという東京メトロ有楽町線麹町駅のホームで燃えるモバイルバッテリー。電車内は混みやすいため、衝撃がバッグの中の製品に伝わって発火事故が起きることが多いという
見過ごせないのが、当該の商品に記載された「PSE認証済み」という表記。PSEマークは、電気用品安全法に基づき、国が定める技術基準への適合確認や検査を行なったことを示すものだ。

モバイルバッテリーの場合、メーカーや輸入事業者が外観や出力電圧についての全数検査を行ない、記録の作成と保存をすることが義務づけられている。そして、PSEマークのない商品は販売できない。安全性のお墨付き的な役割を担っているはずだが、篠原氏は懐疑的な目を向ける。

「法律上、製品が『特定電気用品』であれば、経産省の登録を受けた検査機関による検査が必要となる。しかし、モバイルバッテリーはこの対象外なので、メーカーの自主検査で済まされる。要は、販売前に第三者が必ずチェックする仕組みではないってことです。

そうした仕組みを悪用する業者がいれば、宣伝文句どおりの規格を満たさない商品が、通販サイトを中心に平然と流通してしまう。そんな詐欺めいた製品は安全性も乏しいので、発火事故を起こす恐れがあるということです」

【発火しやすいワケ】

製品安全の調査や評価などを担う独立行政法人「NITE(ナイト/製品評価技術基盤機構)」に通知された、リチウムイオン電池搭載製品の事故は昨年で561件。2021年が301件で、年々増加傾向にある。モバイルバッテリーに限っても、21年の51件から192件に急増している。

電気製品の安全検査などを行なう企業「アリオン」で新規ビジネス開発コンサルタントを務める小熊堅司氏が、粗悪品の発火事故が起きやすいメカニズムをこう解説する。

電気製品などの品質や安全性を管理するNITEに通知された、モバイルバッテリーに関連する事故の件数。発火や破裂などが含まれており月別の統計では夏に多くなっている電気製品などの品質や安全性を管理するNITEに通知された、モバイルバッテリーに関連する事故の件数。発火や破裂などが含まれており月別の統計では夏に多くなっている
「多くのモバイルバッテリーには、異常な熱などを感知するマイクロコントローラーが入っていて、危なくなったら動作を強制的に中止して発火を未然に防ぐ安全回路が働きます。ですが粗悪品には、こうした機能がそもそも搭載されていないケースが多い。

また、リチウムイオン電池の製造過程でどうしても性能の悪い物が発生して、メーカーの検査からはじかれることがある。こうした不良品が集められ、モバイルバッテリーの部品として使用されてしまうケースもあります」

製品の構造そのものも、発火のリスクと切り離せない。

「リチウムイオン電池は外部からの衝撃に弱く、電池外部から異物が混入したり、変形すると電極がショートして発火します。また、何度も落としたりして衝撃が加わると、品質が劣化して発火事故を起こしかねません。

同じくリチウムイオン電池を使っているパソコンやスマホの場合は、バッテリーの劣化や状態異常でアラートが表示される。しかし、多くのモバイルバッテリーでは表示画面が限られているのでこれらがわかりにくく、結果として事故が起きやすいという側面もあります」(小熊氏)

事故が起きても、徹底的な事後検証をすれば品質改良につながるはずだが、小熊氏は苦い顔をする。

「私たちの下には、発火したバッテリーの事故原因の調査依頼が来ることがあります。しかし製品がほぼ燃えカスになっていて、詳細な原因究明がなかなかできないのが実情です」

【連絡の取れないヤミ業者が野放しに】

発火事故の増加を受けて、経産省は昨年12月から、事業登録をしているにもかかわらず連絡が取れない国内の業者を公表している。現状(8月19日時点)では47社に上り、本誌もコンタクトを試みた。しかし、電話が不通だったり、SNSが1年以上更新されていなかったりと、いずれも反応がうかがえなかった。前出の篠原氏はこう説明する。

「こうした悪質な業者の中には、粗悪品を売り切った後は連絡が取れなくなるケースがあります。休眠会社を買い取ったり、知人の会社を名義変更したりしていて、最初から長く営業を続けるつもりがない業者が紛れ込んでいたと考えられます。

また、今、通販サイトに出ている怪しいモバイルバッテリーを調べると、メーカーや販売業者が中国企業であるケースが散見されます」

膨張したモバイルバッテリー。リチウムイオン電池は長期使用や過充電、内部の損傷などで膨張する性質を持つ膨張したモバイルバッテリー。リチウムイオン電池は長期使用や過充電、内部の損傷などで膨張する性質を持つ
小熊氏もこう指摘する。

「中国はレアメタルを戦略物資に掲げていますよね。その活用商品であるリチウムイオン電池の生産にも力を入れていて、世界シェアの5割以上を占めます。

そのため日本メーカーのモバイルバッテリーでも生産地が中国というケースは多いですが、現地工場での品質管理が厳しいので粗悪品は少ない。一方、こういった厳しい品質管理を行なっていないメーカーの商品が、通販サイトで格安で流通しているのです」

彼らのたくましい商魂が、粗悪品の大量流出の一因になっている。

「中国にも『3C』という安全認証制度があります。これが年々厳しくなっていて、昨年から認証のないモバイルバッテリーの中国国内便への機内持ち込みが禁じられました。

そのため規格外の商品が市場でダブついて、昨年末から顕著に日本などの外国市場に流通している印象を受けます。われわれも調査で輸入業者に電話をかけたり、メールを送ったりしていますが、返答はありません」

粗悪品による事故が起きても、責任追及には障壁が立ちはだかると篠原氏は言う。

「メーカーや販売業者が中国企業だとして、数千万円クラスの賠償金を払うのか? 恐らく逃げるでしょうね。

20年には、Amazonのマーケットプレイスで購入した中国業者のモバイルバッテリーが発火して自宅が火事に見舞われた人が、Amazonに損害賠償を求めた民事訴訟もありました。最高裁まで争われましたが、この訴訟ではAmazonの法的責任は認められず、請求は棄却されました」

実験による発火で破裂したモバイルバッテリーの中身。写真左の円柱形のものがリチウムイオン電池だ実験による発火で破裂したモバイルバッテリーの中身。写真左の円柱形のものがリチウムイオン電池だ
篠原氏は粗悪品をつかまされないコツとして、通販サイトに掲載される購入者のレビューに注目する。

「粗悪品にはサクラの高評価レビューが掲載されることが多い。こういった商品のレビュー数は、最高評価が一番多く、次に最低評価が多いいびつな分布になります。そうではなく、最高評価から順に階段状に減っていくような評価の商品なら、それよりは信用性が高いです」

インフレが進む昨今、廉価品に飛びついてしまうユーザーの消費行動に小熊氏は警鐘を鳴らす。

「通販サイトでは最近、出品された商品のチェックが進んでいるとは聞きますが、いまだに粗悪品は流通している。中でも、業者が独自に設けている販売サイトには十分に注意してほしいです。

正規品を売るメーカーが割を食うような事態が続けば、撤退を余儀なくされて、粗悪品だけがはびこりかねません」

その上で、小熊氏は消費者にこうアドバイスする。

「最近では、従来の液体電解質のリチウムイオン電池に代わる、半固体電池などの新しい素材を使った製品も販売され始めています。また、従来のモバイルバッテリーで、安全品質が高い物もあります。これらは若干割高だったり、まだ飛行機内に持ち込めない物もあるというデメリットはありますが、燃えにくいのでより安心して使うことができます。

モバイルバッテリーには構造上、電池が劣化しているのに気づかず漫然と使い続けてしまい、発火事故につながるリスクがある。ユーザー側にも安全意識が求められます」

第三者による法定検査が必須ではない認証制度、実体不明の業者、そして安さに引き寄せられる消費者――三拍子がそろった今、通販市場では"悪貨が良貨を駆逐する"かのような構図がじわじわと広がっている。カバンの中に潜んでいるのは、安価な利便か、それとも火種か。

  • 武田和泉

    武田和泉

    風俗・飲食業界を得意分野として月刊誌や情報誌に寄稿。座右の銘は「夜の住人は十人十色」。

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