甲子園でスカウト株を上げたドラフト候補球児たち。名の知れた逸材から"隠し玉"まで!

取材・文/菊地高弘 写真/共同通信社 アフロ

名の知れた逸材から「隠し玉」まで。プロが目を光らせたのは織田だけじゃない!名の知れた逸材から「隠し玉」まで。プロが目を光らせたのは織田だけじゃない!

今大会最注目だった織田以外にも将来有望な選手はいる! スカウトの目に留まった好選手たちをスカウト評と共に紹介していこう。

【織田に対するスカウトの本音は!?】

夏の高校野球。今年は甲子園球場のバックネット裏に異変が起きていた。

例年ならNPB球団スカウトでぎっしりと埋まるはずのバックネット裏スタンドに、空席が目立っている。

DeNAの八馬(はちうま)幹典アマスカウティンググループリーダーはこんな実情を明かす。

「今年は多くの有力選手が地方大会で敗れてしまって、大会を通してスカウトの視察対象選手が少ないんです」

二刀流の怪童・菰田陽生(こもだ・はるき/山梨学院)が山梨大会準決勝で敗退するなど、今夏はプロ注目の逸材が甲子園に出場できないケースが目立った。そのため、バックネット裏のスカウト陣のテンションも必然的に低めだった。

要職スカウトが甲子園に姿を見せず、大学野球の視察に繰り出す球団もあったという。かつては全出場校が出そろうまでスカウト全員で視察する球団が大半だったが、今はどのスカウトが視察するかシフトを組む球団も目立つ。スカウトの間でも「働き方改革」が進んでいる。

それでも、有望選手が少ない状況こそ、スカウトの腕の見せどころと言えるだろう。今夏の甲子園で目立った好素材について、実名スカウト2人、匿名スカウト2人に語ってもらった。

今大会で最もバックネット裏が熱気を帯びたのは、8月10日の第2試合・横浜(神奈川)対沖縄尚学の一戦である。横浜には織田翔希(おだ・しょうき)、沖縄尚学には末吉良丞(すえよし・りょうすけ)という目玉投手がいた。

『週刊プレイボーイ36号』(8月24日発売)の特集でも述べられていたが、織田は今夏の神奈川大会で最速157キロを計測し、大きな注目を集めた。沖縄尚学戦でも実力を発揮。9回3分の2を投げて12三振を奪い、2失点とゲームメーク。昨夏の甲子園優勝校を抑え込んだ。

巨人の榑松(くれまつ)伸介スカウトディレクターは「すごかったですね」と興奮を隠さなかった。

「甲子園に出るたびに毎回スピードが上がっています。もともと角度がある投手ですが、体に力がついて、ストレートがさらにレベルアップしています。さらに今夏はスライダー、カーブ、フォークと変化球のキレも素晴らしい。特にスライダーは即戦力の大学生投手と肩を並べるくらいのボールでした」

八馬スカウトも織田のポテンシャルを手放しで絶賛する。

「高校生のトップに近いところにいるのは間違いありません。完成度が高いだけでなく、精神的な強さも感じました。神奈川大会のときからチームを背負って立つ強さが出ていました。ボールがバラつく場面もありますが、それも彼の伸びしろと言えます」

匿名スカウトA氏は「今夏にステージをひとつ上がった」と評価しつつ、前出の菰田との比較を語ってくれた。

「菰田くんは甲子園に合わせて調整を積んでいたので、今夏にベストパフォーマンスを見せられていません。どの球団も評価がしづらい中、織田くんは実力を発揮できた。その点で織田くんを評価する球団が増えるかもしれません」

その一方で、織田にはMLB球団のスカウトも熱心に視察するという、気になる背景もある。その件について触れると、どのスカウトも一様に口が重くなった。匿名スカウトB氏が心中を明かす。

「私たちはNPBでのプレーを希望する選手をスカウトするしかありません。この件はNPBとMLBの問題であって、現場にいるわれわれはどうこうできませんから」

果たして、織田はNPBドラフトの目玉になるのか。それとも新たな道を開拓するのか。今後も大器の行方から目が離せない。

織田とは対照的に、末吉は大舞台で力を発揮できなかった。昨夏の甲子園で2年生ながら優勝を経験した左腕も今夏は左肘の故障明け。横浜戦は3回3失点で降板し、チームも2-7で敗れた。

末吉に対しては同情的な見方をするスカウトが多かった。

「本来の末吉くんの状態ではありませんでしたが、横浜打線のレベルも高かったですから」(榑松スカウト)

「体調が万全ではない中、頑張って甲子園に間に合わせてきたのでしょう。今回は力を出し切れませんでしたが、昨夏にいいところを見せてくれています」(八馬スカウト)

試合後、末吉は進路について「未定」と語っている。今春時点では「プロ一本」と公言していただけに、気になるトーンダウンだ。熱心に勧誘を続ける大学もあり、末吉の決断に注目が集まる。

【スカウト株を大きく上げた選手たち】

甲子園で大きく株を上げた好素材もいる。大分商のエース右腕・平田玲翔(ひらた・れいと)は甲子園初マウンドながら、最速151キロを計測するなど鮮烈な投球を見せた。

「あのサイズ(身長188㎝、体重80㎏)で身体能力が高く、走り姿を見ても素材の良さが伝わってきます。この先どこまで伸びるのか楽しみです」(八馬スカウト)

「春から注目してきましたが、日に日にリリースがまとまって、コントロールが良くなっています」(榑松スカウト)

平田玲翔(大分商)スカウトが「この先どこまで伸びるのか楽しみ」と評した投手平田玲翔(大分商)スカウトが「この先どこまで伸びるのか楽しみ」と評した投手

その一方で、パフォーマンスの不安定さを指摘する声もあった。匿名スカウトA氏は

「能力の高さと未熟さが同居している」と評しながらも、こう断言した。

「2位以内の指名は間違いないでしょう」

野手としても評価される平田だが、本人は「今後は投手一本でやりたい」と強い投手志向を表明する。

中京(岐阜)の鈴木悠悟(すずき・ゆうご)も投打に高い資質を秘める好素材だ。ところが、甲子園では精彩を欠いて初戦敗退。榑松スカウトは「西勇輝(阪神)に近いイメージ。投打にセンスを感じます」と評価を口にしたが、強いアピール材料にはならなかった。平田と同様に、鈴木も「投手一本でいきます」と宣言している。

鈴木悠悟(中京・岐阜)今大会は初戦敗退したが「5、6月の頃の真っすぐが良かった」とスカウトは評する鈴木悠悟(中京・岐阜)今大会は初戦敗退したが「5、6月の頃の真っすぐが良かった」とスカウトは評する

匿名スカウトB氏はこんな内幕を明かしてくれた。

「東海地区担当に聞いたら、鈴木くんは5、6月の頃の真っすぐが、今とは比較にならないくらい良かったそうです。夏の大会直前に発熱した影響で状態を落としましたが、一番いいときを知っている球団は高く評価しているかも」

ドラフト指名のボーダーラインにいるのが、花咲徳栄(埼玉)の黒川凌大(くろかわ・りょうた)と高川学園(山口)の木下瑛二(きのした・えいじ)だ。共に150キロ近い快速球を誇る本格派右腕ながら、将来性を巡って評価が分かれている。

黒川については「春と比べてコントロールが良くなっている」(八馬スカウト)、木下については「打者に向かっていく姿勢がいい」(匿名スカウトA氏)と高評価があった半面、「ふたりとも大学でワンクッション挟んだほうがいい」(匿名スカウトB氏)という声も。

野手で一番の評価を勝ち取ったのは、横浜の遊撃手として攻守に躍動した池田聖摩(いけだ・しょうま)だ。榑松スカウトは「ずばぬけていましたね」と語る。

「プロのシートノックに入っても遜色ないくらい、肩が強い。三遊間の強い打球を逆シングルで好捕して、ストライク送球したプレーは素晴らしかったです。打撃も夏に成長していました」

池田聖摩(横浜・神奈川)すでにスカウトは「プロのシートノックに入っても遜色ない」と評価する内野手池田聖摩(横浜・神奈川)すでにスカウトは「プロのシートノックに入っても遜色ない」と評価する内野手

八馬スカウトも「今夏の甲子園で、プロで二遊間を守れると思ったのは彼くらい」と語る。二遊間を守れる人材はプロ側の需要が高いだけに、これから池田の指名順位が高まる可能性は十分ある。

外野手では仙台育英(宮城)の田山纏(たやま・まとい)、日南学園(宮崎)の田中皐晴(たなか・こうせい)が存在感を示した。開幕戦で特大弾を放つなど、勝負どころで結果を残した田山は「いいパンチ力をしています。肩も強いし、華がある」(八馬スカウト)。

田山纏(仙台育英・宮城)「いいパンチ力をしていて、肩も強いし、華がある」と評された外野手田山纏(仙台育英・宮城)「いいパンチ力をしていて、肩も強いし、華がある」と評された外野手

甲子園2試合で4安打と量産した田中は「体つきにスケール感があって、打撃は運んで飛ばせる技術がある」(榑松スカウト)との評価。

ただし、田山も田中も共に右投げ左打ちの外野手。プロでは飽和状態の属性だけに「そこまで突き抜けたものは感じなかった」(匿名スカウトB氏)という辛口評価も。

大学進学を表明する選手の中にも、スカウトから期待の声が飛ぶ有望株がいた。

「社(やしろ/兵庫)の岩井秀耶(いわい・しゅうや)くんを初めて見て、驚きました。十分に支配下でかかる投手ですよ」(榑松スカウト)

「有明(熊本)の1番打者の永田晴輝(ながた・せいき)くんは大事な場面で戦える雰囲気がありました」(匿名スカウトA氏)

永田晴輝(有明・熊本)「大事な場面で戦える雰囲気がありました」とスカウト評を上げた内野手永田晴輝(有明・熊本)「大事な場面で戦える雰囲気がありました」とスカウト評を上げた内野手

不作といっても、原石を発掘するのがスカウトの仕事。好素材について語る彼らの目はさんぜんと輝いていた。

  • 菊地高弘

    菊地高弘

    きくち・たかひろ

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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