現役医師が体験談から明かす「夢のヤセ薬」マンジャロの嘘とホント

文/新田勝太郎 写真/小紅書より

マンジャロの使用体験をレビューする動画も多いが、効能や副作用は人それぞれ。医師の指導のもとでの使用が鉄則だマンジャロの使用体験をレビューする動画も多いが、効能や副作用は人それぞれ。医師の指導のもとでの使用が鉄則だ
糖尿病の薬でありながら"やせ薬"として広まったマンジャロ。インフルエンサーなどの投稿が拡散され、SNSやフリマアプリでの転売も広がった。'26年6月には厚労相が注意喚起の強化を表明する事態にまでなっている。ろくな問診もないままの処方が問題視される一方で、実際に打った人が何を感じているのかは、意外と語られていない。

医師でヒロクリニック統括院長の岡博史氏は、マンジャロの使用で13キロも体重を落としたという。岡氏がマンジャロを打ち始めたのは1年ほど前。週1回のペースで今も続けている。

「最初は2.5ミリを1か月試してみました。ただ、始めて5日目あたりから食欲が戻ってくるので、次は5ミリに上げて数か月。それでもまたすぐに食べたくなってきたので、最終的に7.5ミリまで上げました。体重も一直線に落ちたわけではなく、最初に5キロほどストンと落ち、停滞期を挟みながら3段階くらいでトータル13キロという感じです」(岡医師)

「食欲が消える」とはよく言われる。だが、実際は少し違うようだ。

「食欲がまったくなくなるわけではありません。ご飯が食べたくなる瞬間はある。ただ、一口目、二口目は美味しく食べられるのに、だんだん食べたくなくなってくるんです。特に炭水化物。ラーメンはその典型で、スープは飲もうと思えば飲めるけど、麺が進まない。炭水化物の塊である甘いお菓子などは、はっきり食べたくなくなります。お酒も日本酒やビールのように糖質の多いものは飲みにくくなりますが、ハイボールなら飲める。要は、炭水化物の多いものだけが食べたくなくなると考えたほうが近いと思います」(岡医師)

打った後の不調はどうか。ネットでは吐き気や倦怠感の話が飛び交っている。

「私に出た副作用は、便通が悪くなったことくらい。胃もたれもゲップも疲労感もありません。むしろ食べ過ぎないぶん眠くならないので、仕事のパフォーマンスは上がりました。ただ、これは人によります。患者さんの中には吐き気が強く出る方などもいて、そういう方にはお勧めできません」(岡医師)

体のほうも、はっきり変わったと話す。

「わずかに高かった血糖の指標も、脂肪肝で高かった肝機能の数値も、中性脂肪も正常に戻りました。家族に言われていたいびきと無呼吸は完全になくなって、朝の目覚めがまるっきり違う。膝も楽になりました。これまで13キロの荷物を抱えていたようなものなので、当たり前の話です。顔がこけて老けて見えるとは言われますが、私の場合はむしろ、昔の写真のほうが年寄り臭いと思いますよ」(岡医師)

【自己判断による乱用には危険も】

問題視されているのは、薬そのものより使われ方だ。フリマアプリやSNSでの転売、個人輸入、知人からの譲り受け...。処方薬であるはずのマンジャロが、医師を介さないルートで出回っている。処方薬の個人間売買は医薬品医療機器等法違反で、'26年6月には書類送検事案も出ている。

「糖尿病の薬ですから、血糖を下げる効果は一定程度あります。ただし、どういうときに血糖が下がって、どんな症状がそのサインなのかを知らない人が打てば、当然それ相応のリスクがあります。冷蔵保存が基本の薬なので、温度管理されていないものが出回っているかもしれないし、注射器を使い回せば感染症のリスクも上がる。一般の方が市場で売り買いするような代物ではありません」(岡医師)

中国のSNSでは日本版マンジャロが大量に転売されている中国のSNSでは日本版マンジャロが大量に転売されている
国内では死亡例も報じられているが......。

「マンジャロによる死亡例をよく調べてみると、'23年に報告された70代と80代の方たちだけで、いずれも重度の糖尿病患者でした。そういう極端な例を挙げて、あたかも薬そのものが危ないかのように言われるのはちょっと違う。医師がきちんと問診し、副作用が出ればすぐにやめるなどの対応ができていれば、薬に罪はありません」(岡医師)

とはいえ、処方する病院側にも危ういところがあるという。

「まともな医療機関なら、まず問診をしっかり取ります。『マンジャロをください』と言われて『はい、出します』なんてことはない。話を聞いて、体重を聞いて、必要かどうかを判断したうえで低用量から処方するのが基本です。前は5ミリを打っていたと言われても、まずは2.5ミリからとするのが通常ですし、1回でまとめて6か月分出しますなんてことも普通はありえません」(岡医師)

BMIが20を切るような人、拒食症や低血糖の既往がある人には勧めないという。

【「夢のヤセ薬」には弱点も】

では、用量を守っているのに落ちない人は何をしているのか。"打てば勝手に痩せる"は、はっきり嘘だという。

「薬が効きにくい人はいます。体重が重たい方や薬の分解が早い方は2.5ミリでは効かないこともある。ただ、日本人は5ミリ以下で落ち着くことが多いですね。落ちない方の特徴は食欲がなくても食べられる方で、そういう方は結構います。ご飯を食べているんだから体重が落ちないのは当然です。マンジャロはあくまでも食欲を抑える補助薬で、使えば必ず痩せる魔法の薬ではありません」(岡医師)

筋肉を落とさないために岡氏が勧めるのは、普段より多めのタンパク質と、筋トレのような高負荷の運動だ。毎日10キロ走るような有酸素運動は、かえって筋肉を落とすという。マンジャロの費用は自由診療で月1万~2万円(2.5ミリの場合)が相場。保険が使えるのは肥満症の薬であるゼップバウンドのほうで、それも「高血圧などの合併症があり、BMI27以上(単独ならBMI35以上)といった条件を満たす方」に限られる。

当然だが、使用をやめればマンジャロの効果も止まる。

「3週間ほど旅行で打たずにいたことがありますが、食欲が爆発することはなく、2キロ太っただけでした。帰ってまた打ち始めたら元に戻りましたね。私自身は打ち続けることに抵抗はありません。血圧の薬も高脂血症の薬も、飲み始めたら飲み続けるものですからね」(岡医師)

意志で食欲を抑えるのは難しい。それを薬が肩代わりしてくれるとしても、口に運ぶ手を止められるのは、やはり本人だけ。医師の指導の元で正しく使わなければ、本来の効果は発揮されないと心得るべきだろう。

  • 新田勝太郎

    新田勝太郎

    ロスジェネ世代の記者/編集者。経済紙、週刊誌、書籍と幅広く手掛け、ダイエットや教育に明るい。海外移住を検討中

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