
吉井透
吉井透の記事一覧
フリーライター。中国で10年、米国で3年活動したのちに帰国。テキストメディア以外にも、テレビやYoutubeチャンネルなど、映像分野のコーディネーターとしても活動中
古い木の根株に発生し、傘を広げた自生のマジックマッシュルーム
かつて"合法ドラッグ"として露店に並び、20年あまり前に規制対象となった幻覚キノコ「マジックマッシュルーム」。その違法キノコが再び静かに広がっているという。
「違法ということは承知している。でも、こんなもので事故が起きる気がしないし、メンタルを上げてくれる。だから自分は、毎日やっています」
そう打ち明けるのは、都内在住の40代男性、A氏。外資系IT企業でエンジニアとして働く、バリバリのエリートサラリーマンである。
彼がマジックマッシュルームと初めて出会ったのは10代の頃。渋谷の露天商や、怪しげなショップで売られている乾燥キノコ、というのが当時のイメージだった。興味本位で食べると「変な感じ」にはなったが、経験したのは1、2回だったという。
「あの頃はエクスタシーや覚醒剤、大麻みたいな、わかりやすいドラッグのほうが好きでした。キノコ食って錯乱した人の話もよく聞いていたので常用することには抵抗もあった」(A氏)
A氏提供のマジックマシュルームの現物写真。これで4、5回分の量になるという
しかし半年ほど前、昔のドラッグ仲間で商社勤務に務める知人から勧められて以来、マジックマッシュルームにハマってしまったという。
「『シリコンバレーはみんなやってるよ』って言われて、軽い気持ちで試したのですが、今まで試したどんなドラッグよりもしっくりきている。気分がポジティブになり、仕事と向き合うのが楽しくなる」(同)
事実、米のウォールストリートジャーナル紙の記事によれば、グーグル共同創業者セルゲイ・ブリン氏はマジックマッシュルームを時折楽しむという。また、著名ベンチャーキャピタルの幹部が幻覚剤を使うパーティーを開く例もあるという。業界に助言してきたコンサルタントは「微量摂取をしている人は今や何百万人もいる」と明かす。幻覚剤をビジネスの突破口とみなす空気が、エリート層に広がっているようだ。とはいえ、国内では違法である。
マジックマッシュルームとは、幻覚作用を持つキノコの俗称だ。幻覚成分はシロシビン(サイロシビン)で、体内でシロシン(サイロシン)に代謝され、脳のセロトニン5-HT2A受容体を刺激して幻覚を引き起こす。シロシビン研究を国内でいち早く手がけた名城大学薬学部の衣斐大祐准教授によれば、シロシンの分子構造は脳内物質セロトニンとよく似ているという。
「1990年代、このキノコは観賞用と称して露店やインターネットで堂々と売られていました。法規制されたのは2002年の6月。政令でシロシビンやシロシンを含むキノコ類は麻薬原料植物に指定され、麻薬及び向精神薬取締法の規制対象となった。輸入、栽培、所持、譲渡などを行えば、それだけで罪に問われます」(全国紙社会部記者)
規制から20年以上が経つ今も、摘発は絶えない。2026年5月には、ウクライナから国際郵便でマジックマッシュルーム約5グラムを密輸入しようとしたとして、那覇市在住のウクライナ国籍の夫婦が関税法違反の疑いで告発された。一方、国内には自生種もあり、2005年には首相官邸の植栽からシロシビンを含むキノコが見つかって話題になったこともある。
「雨が上がったあと、牛糞に自生することから、それを狩りにいく〝ハンター〟も沖縄ではいるそうです。原材料はタダで、末端価格はグラム3000円~4000円で流通しているため、利益率がよいのでしょう」(前出・記者)
前出のA氏によると、4、5回分の使用量である1グラムあたりの価格は3500円。くだんのドラッグ仲間に紹介された売人を通して調達しているという。
「少し前までは、愛好者は沖縄産を取り寄せていたようですが、最近はキノコの菌床栽培が関東でも広がった結果、供給量が増えている。大麻なんかよりも簡単に育てられるみたいです。海外産ドラッグが円安の影響で高騰するなか、価格も安いキノコは今後、爆発的に広がるんじゃないでしょうか」(A氏)
令和に亡霊のように蘇った幻覚キノコブーム。仮に出くわすようなことがあっても手出しは「ダメ。ゼッタイ。」だ。