甲子園に出る選手も、出られない選手も。それぞれに続く物語【山本萩子の6−4−3を待ちわびて】第231回

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

甲子園、高校野球について語った山本キャスター甲子園、高校野球について語った山本キャスター

夏の甲子園は熱戦が続いていますね。テレビでも連日、その様子がお茶の間に届けられています。

試合結果をチェックする時間も増えますが、今年の甲子園は私にとって少し特別な大会になりました。実は、面識のある監督が指揮を執るチームが、出場を果たしたんです。

その監督は、八王子実践高校の河本ロバート監督。河本監督とは斎藤隆さんとのつながりで知り合ったのですが、知り合いが甲子園に出るという初めての体験にすごく興奮しました。

甲子園出場が決まったあと、グループLINEに河本監督からメッセージが届きました。そこには、「(予選で)負けてしまったチームの想いを胸に、甲子園で1勝できるようしっかり準備してまいります」と綴られていました。

河本監督の指導は、選手の自主性を最大限に尊重するスタイルだそうです。勝利を目指す前に、「生徒たちの人間性を育てたい」という思いが根底にあるのでしょう。八王子実践は惜しくも初戦敗退となりましたが、高校野球は教育の場でもあることをあらためて感じました。

選手たちは野球の技術を磨くだけじゃなく、チームメイトとの関わり方、自分がチームのためにできること、うまくいかなかった時の対処法などを学んでいきます。だから高校野球を見る時には、試合に出ている選手だけではなく、ベンチやスタンドにいる選手も気になるんです。

先日、SNSで悲しい気持ちになる投稿を目にしました。ベンチ入りできなかった選手がスタンドで応援している姿を冷笑するような内容でした。誰しも、試合に出たい気持ちに変わりはありません。ただ、それが叶わない選手がいるのも現実です。

その投稿には、「試合に出られなかった=その3年間に意味がなかった」というコメントもついていましたが、私はまったくそう思いません。3年間で感じたこと、考えたことは、絶対にその後の人生の糧になると思っています。

朝昼晩と、1日中野球の供給がある時期ですね。みなさま、いかがお過ごしですか?朝昼晩と、1日中野球の供給がある時期ですね。みなさま、いかがお過ごしですか?

長野県大会では、連覇を果たした松商学園高校の松宗勝監督が、優勝校インタビューの冒頭でスタンドにいる3年生たちに感謝を伝えました。松宗監督が声を震わせながら、「チームのためになんでもやりますと言ってくれたその言葉。連覇の要因は君たちです」と伝えると、スタンドの選手たちの目に涙が。そして監督は、「君たちが輝ける豊かな社会であってほしい」と結びました。

松宗監督自身、高校時代はほとんど試合に出られなかったそうです。だからこそ、ベンチ入りできなかった3年生の献身的な姿に、感謝を伝えたかったのだと思います。

高校時代に試合に出られなかったといって、野球人生が終わるわけではありません。大学に進学し、そこで花開く選手もいます。

巨人と西武でプレーした松原聖弥選手は、仙台育英高校の3年時、チームは夏の甲子園出場を果たすもののベンチ入りできませんでした。しかし明星大学に進学し、首都大学リーグ2部で5季連続ベストナインを獲得するなど活躍。2016年のドラフト会議で、巨人から育成5位で指名されました。

そして2018年に支配下登録され、2021年には育成ドラフトで入団した選手のシーズン最多本塁打記録も樹立しています(12本)。2025年限りで現役を引退しましたが、高校時代に活躍できなかった選手にも無限の可能性があることを教えてくれました。

甲子園に出られる選手はほんのひと握りですし、プロ野球の世界に入る選手はさらに少なくなります。それでも、野球に打ち込んだ3年間はその人の中に残ります。

試合に出た選手、出られなかった選手、甲子園に出た選手、地方大会で敗れた選手......それぞれの高校野球がある。甲子園のスタンドで応援する選手たちの中で、10年後、20年後に思いもよらない人生を歩んでいる人がいるかもしれません。そう考えると、甲子園を見る目も少し変わってきます。

今年は、どんなドラマが待っているのか。一緒に高校野球を楽しみましょう!

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週金曜日朝更新!

  • 山本萩子

    山本萩子

    やまもと・しゅうこ

    1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン。

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