韓国のグルメと若者の姿~ソウル(前編) 【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】

文・写真/佐藤 佳

韓国グルメシリーズその1。アワビ粥。なんとなくそんな感じがしていたけど、残念ながら想像通り、これは全然おいしくなかった。味がしない。これで3000円......韓国グルメシリーズその1。アワビ粥。なんとなくそんな感じがしていたけど、残念ながら想像通り、これは全然おいしくなかった。味がしない。これで3000円......

連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第197話

酷暑の東京を逃れて、久しぶりのソウルへ。ソウル大学で講義をした後、研究仲間に連れられて、なぜか雨の中の「山登り」へ......。

* * *

【ソウル大学で講義】

およそ2週間にわたる過酷な東南アジアツアー(182話195話)を終え、およそひと月ほどを東京で過ごした。

2025年6月下旬、梅雨の合間のはずが、都内では、突然の30度超えの猛暑が続いていた。そんな酷暑から逃げるように、羽田から西へ2時間、韓国のソウルへ飛んだ。

ソウルに着くと打って変わって、「ザ・梅雨」まっさかりな、どんよりとした天気。

ホテルに着いたのは昼過ぎ。時間がないので、ホテルにスーツケースを預けると、ホテルの目の前にあった「麺」のマークが掲げられた店に適当に飛び込んだ。韓国語のメニューしかない。Google翻訳でメニューを訳しても、よく意味のわからない日本語しか出てこない。

仕方がないので身振り手振りで注文し、カルグクス(韓国のうどん)みたいな麺料理を注文し、それを慌ててすすった。

(左)身振り手振りで注文した麺料理。カルグクスだとばかり思ってあとでナムに訊いたら、これは違うとのこと。カルグクスの「カル」は包丁、「ククス」は麺を意味するらしく、いわゆる中国の「刀削麺」のようにして作られたものだけを「カルグクス」と呼ぶらしい。「ああ、これはxxxだ」とナムは言ったが、なんと言ったのかは聞き取れなかった。(右)食後。付け合わせのキムチを溶きながら食べていたら、食べ終わる頃には真っ赤になっていた。(左)身振り手振りで注文した麺料理。カルグクスだとばかり思ってあとでナムに訊いたら、これは違うとのこと。カルグクスの「カル」は包丁、「ククス」は麺を意味するらしく、いわゆる中国の「刀削麺」のようにして作られたものだけを「カルグクス」と呼ぶらしい。「ああ、これはxxxだ」とナムは言ったが、なんと言ったのかは聞き取れなかった。(右)食後。付け合わせのキムチを溶きながら食べていたら、食べ終わる頃には真っ赤になっていた。

ホテルに戻ると、ちょうどナムが迎えに来てくれていた。

ナムとは、ソウル大学の教授のチョ・ナムヒョクのこと。この連載にも何度も登場したことがある(50話72話95話)。前年(2024年)の3月以来、1年以上ぶりの再会。

......と、おそらくひと回り近く年上で、ちょっと抜けているところがあって憎めないキャラだったはずが、くちヒゲあごヒゲをたくわえて、ちょっとシブくなっているのには面食らった。どうしたナム。

ナム。ソウル大学の教授室にて。髭をたくわえてなんかダンディーになっていた。ナム。ソウル大学の教授室にて。髭をたくわえてなんかダンディーになっていた。

およそ1年ぶりの訪韓の目的は、ナムに呼ばれてソウル大学での講義。新型コロナの研究の話から、現在推し進めている「アジアの連帯」(158話)や東南アジアでのサーベイランス研究(170話)、そしてG2P-Asiaのこと(175話)などについて、じっくり話をした。

聴講していた学生たちは前のめりで聞いてくれて、たくさんの質問を受けた。日本海の向こうから遠路はるばるやってきた演者冥利に尽きる、有意義な時間となった。講演の出だしには、恒例の現地語での挨拶(155話)もした。もしかしたら私の知らぬうちに私の韓国語が無意識に上達していたのか、「なんだこいつ、韓国語が話せたのか!?」というような驚きのリアクションを得られたことが、この旅いちばんの収穫だったかもしれない。

【「山登りに行こう」】

講演の後、夕食はナムと一緒に韓国料理を食べに行くことになっていたが、それまでにはまだ少し時間があった。なんとかして時間を潰さなければならない、とナムは考えてくれていたのかもしれない。

講演を終えて彼の教授室に戻ると、ナムはおもむろにこう言った。「俺は登山(hiking)が趣味なんだ。晩飯まではまだ時間がある。ちょっと山登り(hiking)に行こう」。

――いやいやちょっと待て。なんでいきなり登山!? しかも外は雨だ。さらにそれは、ひと昔前の日本の梅雨のようなしとしと雨ではなく、嵐のように降り、それが風で舞い上げられていた。

本当に行くのか? という私の質問は意に介さず、いやいやいいんだ、大丈夫だ、さあ行こう、と、ナムは私に黒い雨傘を手渡した。

結局私たちは嵐の中、着のみ着のままの格好で、雨傘を差し、ソウル大学から20分ほど歩いたところにある「駱山公園」というところを散策した。ちなみに後日、iPhoneの「ヘルスケア」というアプリで歩行距離を調べてみたら、この日はなんと10キロ以上も歩いていた。

幸いにして雨は途中で小ぶりになり、雨傘でもなんとかしのげるくらいの雨量となった。しかしそれでも、散策を終えて大学に戻る頃には、私もナムも、ズボンがぐっしょりずぶ濡れだった。

それで「これはいかん」と気づいたのか、ナムは、大学に戻る途中にあるいくつかのコンビニに立ち寄って、タオルを買おうと奔走してくれた(しかし結局、タオルはどこにも売っていなかった)。

雨の中、ビニール傘を片手に駱山公園を散策するナム。雨天であるからして、見晴らしがいいはずがない。ただ黙々と、公園をぐるっと囲む城壁の周りを歩いた。城壁や公園の所以をナムは丁寧に解説してくれたはずのだが、吹き付ける風でよく聴こえなかった。それに加えて、普段こんなに歩くことのない私は、「登山が趣味」というナムのペースについていくのに精一杯で、ほとんど頭に入らなかった。雨の中、ビニール傘を片手に駱山公園を散策するナム。雨天であるからして、見晴らしがいいはずがない。ただ黙々と、公園をぐるっと囲む城壁の周りを歩いた。城壁や公園の所以をナムは丁寧に解説してくれたはずのだが、吹き付ける風でよく聴こえなかった。それに加えて、普段こんなに歩くことのない私は、「登山が趣味」というナムのペースについていくのに精一杯で、ほとんど頭に入らなかった。

歩行距離こそなかなかだったものの、果たしてこれは「登山」だったのだろうか、とふと思った。それでやはり後日、「駱山公園」について調べてみると、その標高はなんと125メートル。高尾山(標高599メートル)なんか目じゃないくらい低い。ナムよ、これは果たしてこれは「登山(hiking)」だったのか......?

【韓国料理をつまみながら学ぶ現代の韓国の大学院生の姿】

嵐の中の「山登り」を終えて、やっと夕食である。

てっきりナムとふたりで出かけるのかと思いきや、彼の研究室の大学院生たちも参加して、10人を超える大所帯となった。

訪韓前に私はナムに、「チュクミ」と呼ばれる韓国料理をリクエストしていた。小さなタコ(イイダコ)を甘辛く炒めた料理である。これはもちろんそのままでも美味しかったのだが、これにご飯と韓国海苔を加えて炒めたものが絶品だった。

飲み物はナムが選んだ。彼が選んだのは、「バナナマッコリ」という、マッシュしたバナナにマッコリを入れて混ぜたこの店特製のもの。バナナの芳香感(有機化学の専門用語的には「エステル」の感じ・におい)がマッコリによく合った。

おそらくマッコリは、この「エステル感」との相性が良いのだろう。そしてキムチの乳酸発酵も、おそらくこの範疇なのだろう、ということに気づいた。

晩餐。(左上)チュクミ。(右上)チュクミにご飯と韓国海苔を入れて炒めたもの。これがベストに美味かった。(左下)あさりのスープ。めっちゃ沁みる。(右下)ババナマッコリ。晩餐。(左上)チュクミ。(右上)チュクミにご飯と韓国海苔を入れて炒めたもの。これがベストに美味かった。(左下)あさりのスープ。めっちゃ沁みる。(右下)ババナマッコリ。

★不定期連載『「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常』記事一覧★

  • 佐藤 佳

    佐藤 佳

    さとう・けい

    東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野 教授。1982年生まれ、山形県出身。京都大学大学院医学研究科修了(短期)、医学博士。京都大学ウイルス研究所助教などを経て、2018年に東京大学医科学研究所准教授、2022年に同教授。もともとの専門は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の研究。新型コロナの感染拡大後、大学の垣根を越えた研究コンソーシアム「G2P-Japan」を立ち上げ、変異株の特性に関する論文を次々と爆速で出し続け、世界からも注目を集める。『G2P-Japanの挑戦 コロナ禍を疾走した研究者たち』(日経サイエンス)が発売中。
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