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今夏、バスケットボール男子日本代表は、来年にカタールで行なわれる「FIBAワールドカップ2027」に向けたアジア予選を戦っている。日本は1次ラウンドでグループBを首位通過。8月27日から始まった2次ラウンドも、順当に白星を重ねて本大会出場を決めることが濃厚だ。
近年の日本人選手のレベルは、国内のBリーグの発展とともに右肩上がりで向上。さらに、NBAに6シーズン在籍した渡邊雄太が24年秋からBリーグでプレーするなど、今は〝国内組〟の選手だけでもアジアの強豪たちと渡り合える戦力を備えている。
八村は8月15日の韓国との国際親善試合で、パリ五輪以来となる代表戦復帰。両チーム最多の22得点を挙げた
八村と同じくNBAでプレーする河村(左)も司令塔として躍動。高い得点能力、アシスト力でチームを牽引する
8月中旬から始まった強化合宿では、現在NBAでプレーしている八村 塁、河村勇輝という2大スターが合流し、大きな話題となった。
特に八村は、24年秋に「日本代表のやり方が、僕としてはうれしくないところがある」と発言し、当時の代表指揮官トム・ホーバス氏、日本バスケットボール協会(JBA)との確執が表面化していた。それを乗り越えての代表復帰は、日本バスケットボール界にとって画期的だった。
NBA屈指の名門、ロサンゼルス・レイカーズで主力になり、今秋からは同じロサンゼルスを拠点とするクリッパーズで中心選手のひとりとしてプレーすることを期待されている八村とJBAの関係に亀裂が走ったきっかけは、24年夏のパリ五輪に関する一連の出来事だ。
八村は、当時の代表チームに対して「練習のやり方、ミーティングは世界レベルではない」と不満を感じていた。
そしてパリ五輪後、ホーバス氏が監督を続投したことを受け、「男子のことをわかっている、プロとしてコーチをやったことがある人にコーチになってほしかった」とコメント。ホーバス氏は女子代表のHCとして東京五輪で銀メダルを獲得したが、男子のプロチームを率いた経験はない。そこに満足していないことを示す発言だった。
そこから関係修復が実現したのは、JBAの体制変更が大きい。昨秋、Bリーグコミッショナーの島田慎二氏が協会会長に就任。さらに、リーグ参入から5年でBリーグを制した長崎ヴェルカを社長兼GMとして導いた伊藤拓摩氏が強化委員長となり、大きな組織改革に乗り出した。
これまでの代表は指揮官に自由にやらせる、良くも悪くも〝丸投げ〟の形になっていた。その結果、指揮官が代わるとチームのスタイルも大きく変わるなど一貫性がなかった。しかし伊藤強化委員長を中心に、協会として日本代表の進むべき指針を示し、継続的なチームづくりを行なっていく路線へと変更した。
指揮官のカリスマ性に頼らない、強化委員会が主導する方針はこれまでとは真逆。その点を踏まえ、島田会長はホーバス氏との契約解消についてこう説明した。
「ホーバス前HCにJBAの方針に沿ってもらうことは、変革を強いる部分もありました。『それは実績のあるホーバスHCに対して、リスペクトが欠けるのではないか』という総合的な判断の下、JBAから契約を解消する提案をさせていただきました」
ホーバス氏は八村との確執で解任された、という見方は誇張表現でしかない。JBAの新しいやり方と相いれなかった、というのが実情だ。
そんな中で後任のHCに就任したのは、Bリーグの琉球ゴールデンキングスを5年連続ファイナル進出に導いた、国内随一の実績を誇る桶谷 大氏。アシスタントコーチには、ワシントン・ウィザーズの元コーチングスタッフであるライアン・リッチマン氏、現在もNBAでコーチを務めている吉本泰輔氏と、八村が求める「男子プロの世界で実績を残しているスタッフ」がそろった。
それに伴って代表が目指すスタイルも大きく変わった。
ホーバス氏はチームとしての連携を大切にする、戦術ありきのスタイルでチームを率いた。そのやり方が機能したワールドカップ2023ではアジア勢首位となり、1976年モントリオール五輪以来となる自力でのオリンピック出場を決めた。
だが、代表での活動期間が限られる八村は、チーム戦術を十分に落とし込める時間がない。ホーバス氏の方針では、日本バスケ界史上最高の選手・八村の力を生かしきれないことがパリ五輪で露呈した(予選3戦全敗)。
それに対して新体制のJBAは、「最強のメンバーで、最高の一体感」をスローガンに掲げ、選手の〝個〟をしっかりと生かすスタイルを推し進めている。
「チームで戦うのは当たり前ですが、そのために個を生かさないのは違います。個を生かしながらチームで戦うことが日本代表にとって一番重要。NBA選手がいる限りはやっていきたい」
桶谷HCも、八村の能力をフル活用することが最優先と強調する。それは八村だけでなく、河村の起用法についても同様だ。
この新たなチームづくりの方針は、世界トップレベルを知る八村を納得させるもので、代表復帰へとつながった。
また、大きく注目すべきは、今回が「ワールドカップの予選に過ぎない」ということ。八村がワールドカップ、オリンピック本大会以外の代表活動に参加するのは、ゴンザガ大在学中の19年以来となる。それこそ八村が、今の代表に大きな信頼を置いていることを示している。
八村自身も「このチームには、長く一緒にプレーしてきた選手たちや、コーチ陣が積み重ねてきたケミストリーがあります。僕が入ることで、そのケミストリーを壊すことがないように意識しています」とコメント。チームファーストを強調する発言に、関係の良さを感じる。
さらに八村は、代表に復帰した後の最初の会見で〝代表愛〟について語った。
「日本のバスケは今が黄金時代なので、無駄にしてはいけない。日本人として、日本の国旗を背負うことをすごく誇りに思います」
ベンチで笑顔を見せる渡邊(左)と八村(右)。選手の個を生かしながら、チームの一体感も高めるチームづくりが進む
八村と河村、NBAでプレーした渡邊、日本国籍を取得したジョシュ・ホーキンソンなど、八村が語るように今の日本代表は史上最高の〝タレント集団〟だ。
一時は、このメンバーでワールドカップを戦うことは困難かと思われたが、実現の可能性が大きく高まってきた。それは今夏の一番の収穫であり、JBAの変革が正しい方向に進んでいることを証明している。