ひろゆき、生物学者・小林武彦と考える「命」について③「なぜ人間は一夫一婦制という価値観を持ったんですか?」【この件について】

構成/杉原光徳(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

「人間のように相手を選び、長く関係を続けようとするのはかなり特殊です」と語る小林武彦氏「人間のように相手を選び、長く関係を続けようとするのはかなり特殊です」と語る小林武彦氏

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。生物学者の小林武彦先生との対談の3回目のテーマは、人間の「一夫一婦」制について。チンパンジーやゴリラなどの類人猿と比べると、これはかなり特殊なことのようです。その理由のひとつは「裸のサル」だからとか......。

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ひろゆき(以下、ひろ 生物は種の繁栄を目指しているということですが、種の繁栄を遺伝子レベルで考えた場合、一夫多妻制や、多くの相手と子供をつくるほうが効率がいいのに、なぜ人間は一夫一婦制という価値観を持ったんですか?

小林武彦(以下、小林 そこが人間の面白いところです。単純に子供を増やすだけなら、一夫一婦制は効率が悪い。けれども人間の場合は、子供を産むだけではなく、育てることが非常に重要なんです。そして、そこに社会性が深く関わっています。

ひろ 人間は動物の中でもかなり変わったことをしていると?

小林 はい。ゴリラは強いオスが複数のメスを率いる形に近い。一方で、チンパンジーは乱交に近いんです。人間のように相手を選び、長く関係を続けようとするのはかなり特殊です。

ひろ 相手を選ぶという行動は、ほかの生き物ではあまりないんですか?

小林 あります。まず、メスが相手を選ぶのは自然なことです。妊娠期間があるし、産んだ後も授乳や子育てをする。だから、協力的なオスを選ぶことは非常に重要です。

ひろ メスがオスを選ぶのはわかるんですよ。でも、オスは本来なら選ばずに種をばらまいたほうが得なのに、人間の男性は決まった相手を見つける。これはどうしてなのかなと。

小林 人間も本能としては選ばずに種をばらまくという要素があると思います。でも、人間はある時期から一夫一婦制に近い形が強く選択されてきた。オス側も相手との関係を長く続けるという前提で相手を選ぶようになったのです。その大きな理由のひとつが、人間が「裸のサル」になったことです。

ひろ 裸? 毛が抜けたってことですか?

小林 そうです。おそらく200万年ほど前までに、人間はかなりの体毛を失ったと考えられています。すると困ったことが起きる。そのひとつが子育てです。母親は子供を抱っこし続けなければいけなくなったんです。

ひろ 毛があったら赤ちゃんは母親にしがみつけるけど、毛がないとしがみつけないから、抱っこしなければいけない。そうなると母親の両手はふさがりますよね。

小林 そうです。すると、母親ひとりで子供を育てるのが非常に大変になる。最低でもオスの助けは必要です。できれば集団の助けも借りたい。そこで、メスは子育てを一緒に手伝ってくれそうなオスを選ぶようになった。交尾だけしてどこかへ行ってしまうようなオスは、最初から相手にされにくくなったのです。

ひろ つまり、人間の恋愛の進化はロマンを追いかけたというより育児システムが理由にあったと。

小林 そういう面はあると思います。もちろん恋愛感情をすべて子育てだけで説明できるわけではありません。ただ、長く一緒にいて、子供を育てる関係をつくる。そのために相手を選ぶという感覚が強くなったという考え方はできます。

ひろ 結果として浮気しないで子育てを手伝ってくれそうなオスのほうが、メスに選ばれやすくなったわけですね。

小林 そうです。オスは「あなたと子供を守ります」「一緒に育てます」という契約をすることで、メスに選ばれるようになった。その積み重ねで一夫一婦制に近いものができてきたのだと思います。

ひろ そう考えると、不倫に怒る理由も道徳の問題というより「子育ての契約を破るなよ」という話になるわけですね。

小林 一夫一婦制になったことで、男女の愛情や絆はものすごく強くなったと思います。「あなたひとり」と決めるから、相手を大切にするし愛情も深くなる。一方で、そのぶん裏切りへの怒りも強くなる。だから、不倫に対して人間はものすごく怒るわけです。

ひろ 幸せな制度っぽいのに同時にめちゃくちゃもめる制度でもありますね。

小林 人間の愛情が深くなったことはいい面もありますけど、生物学者として見ると大変な面もある。一夫一婦でパートナーを限定すると出生率は下がりやすくなります。どちらかが不妊の場合もありますし、相性の問題で子供ができにくい場合もある。それでも相手を限定するわけですから。

ひろ チンパンジーみたいにパートナーを固定しないほうが種としては繁栄しやすいですもんね。

小林 チンパンジーのメスは、発情期になると1日に何十頭ものオスと交尾することがあります。オスも発情しているメスを見ると次々に交尾します。すると誰の精子が受精したのかわかりません。だから、オスは自分の子供への愛情が人間ほど強くはありません。

ひろ 父親が誰かわからないから、自分の子供に対する責任感も生まれにくいと。

小林 その代わりに精子競争が起こります。たくさん精子をつくれて、たくさん交尾をするオスの子供が増えやすい。だからチンパンジーは、人間に比べてキンタマ(精巣)がどんどん大きくなる。

ひろ 強いボスになるより、回復が早くて大量に精子を出せるほうが、子孫を増やす上では有利なわけですね。

小林 はい。そしてチンパンジーの場合、ゴリラほどボスがメスを独占するわけではありません。順位はありますが、強いボスだけが圧倒的に子供を残せるわけではないんです。集団全体が乱交状態なので、上下関係が生殖に直結しにくいんです。

ひろ でも、そのほうがいろいろなタイプの遺伝子が残りますよね。種としての多様性は広がるんじゃないですか。

小林 そういう戦略でチンパンジーは生き残ってきたのだと思います。一方で人間は毛が抜けて子育てに協力が必要になったあたりから、一夫一婦や家族集団がメインになった。ただし、昔の人間が完全に一夫一婦制だったとは言い切れないんですよ。

ひろ 今の人類にネアンデルタール人(約4万年前まで生存した旧人類の絶滅種)の遺伝子が残っていることを考えても、昔はいろいろあったんじゃないかという感じはしますよね。

小林 そう思います。今でも乱交的な行動をする人はいますし、歴史を見ても徳川家の将軍のように側室を抱えて多くのパートナーと関係を持った人もいる。人間の中にそういう要素が完全になくなったわけではありません。

ひろ 今でも乱交したがる気持ちは人間には残っている。ただ、それとは別にパートナーに対する忠誠心も強くあると。

小林 そうです。人間には少なからず両方の要素があると思います。その上で、パートナーに対する忠誠心や誠実さが強い人は不倫などの行動はしない。一方で乱交的な欲求が強く出る人もいる。そのバランスは人によって違います。

ひろ 一夫一婦制をつくったけれど、人間は一夫一婦制に完全に向いた生き物でもない。だから不倫はなくならない。人間ってかなり面倒ですね。

小林 そうですね。ただ、その面倒さが、人間の面白いところでもあるのだと思います。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。著書に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(中野信子氏との共著、集英社)など 

■小林武彦(Takehiko KOBAYASHI) 
東京大学定量生命科学研究所教授。生物科学学会連合前代表。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(すべて講談社現代新書)などがある

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  • 小林武彦

    小林武彦

    こばやし・たけひこ

    東京大学定量生命科学研究所教授。生物科学学会連合前代表。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(すべて講談社現代新書)などがある

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