発売2週間で受注1000台超! BYD 「ラッコ」がニッポンの軽市場をぶっ壊す!!

取材・文/週プレ自動車班 撮影/山本佳吾

静岡県で開催された報道陣向け試乗会でBYDラッコをテスト。一般道を中心にその実力を確かめた静岡県で開催された報道陣向け試乗会でBYDラッコをテスト。一般道を中心にその実力を確かめた
世界EV王者の中国BYDが、ニッポン市場の"聖域"に乗り込んできた。戦場に選んだのは、絶対王者・ホンダN-BOXが君臨する軽スーパーハイトワゴン市場。なぜ日本の"ガラパゴス市場"と呼ばれる軽にガチンコ勝負を挑んできたのか、専門家やBYDを徹底取材。さらに実車試乗から、軽EV・ラッコの実力と勝算を探った。

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【BYDラッコは、"オーバークオリティ"】

ニッポン市場に、軽スーパーハイトEVが爆誕!

7月28日に中国BYDが発売した軽EV・ラッコの販売が好調だ。わずか2週間で1000台超の受注を獲得している。

ご存じのとおり、BYDは昨年、世界EV販売でテスラを抜いて首位に浮上。自動車メーカー全体で見てもホンダや日産を上回る世界6位まで躍進と、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。だが、日本では苦戦中で、2025年の販売台数は3742台。年間約450万台に達する国内新車市場に占めるシェアは0.1%にも届かない。

そんな世界EV王者が殴り込みをかけたのが、日本独自の"ガラパゴス市場"である軽自動車。今年上半期(1月~6月)の国内新車販売台数は約239万台で、そのうち軽自動車が占める割合は約36%。ざっくり言えば、日本で売れるクルマの3台に1台が軽なのである。

しかも照準を定めたのは、軽市場のドル箱であるスーパーハイトワゴン。日本の自動車メーカーが長年しのぎを削ってきた激戦区に、ガチンコ勝負を挑んできたのだ。

1980年代から世界中のクルマを取材してきた自動車評論家の国沢光宏氏は、BYDのEV「シーライオン7」を実際に購入して徹底検証している。そんな国沢氏はラッコをどう評価しているのか。

「装備や部品のクオリティが非常に高い。コストパフォーマンスの高い一台です」

なぜ後発のBYDが、これほど"オーバークオリティ"な軽を送り込めたのか。

「日本の軽自動車は、高い技術力で安くて良いクルマに仕上がっています。一方、BYDには軽を開発してきたノウハウがない。だからこそ、既存の軽の常識に合わせるのではなく、ワンランク上のクルマに使われている技術を注いだ。だからこその完全なオーバークオリティです」

10.1インチのセンターディスプレーを採用。物理スイッチも残し、使い勝手にも配慮している10.1インチのセンターディスプレーを採用。物理スイッチも残し、使い勝手にも配慮している後席には折り畳み式のシートバックテーブルを装備。使い勝手を高める実用装備のひとつ後席には折り畳み式のシートバックテーブルを装備。使い勝手を高める実用装備のひとつ後席は足元、頭上共にゆとり十分。大人が座っても窮屈さを感じにくい広さを確保した後席は足元、頭上共にゆとり十分。大人が座っても窮屈さを感じにくい広さを確保した
一般的な軽自動車ではコスト面から省かれることもある装備を惜しみなく盛り込み、四輪ディスクブレーキやレーザー溶接を採用。

「注目すべきなのが後席です。ラッコは全グレードで、後席左右にプリテンショナー付きシートベルトを標準装備しています。これは衝突した瞬間にシートベルトのたるみを自動で巻き取り、乗員をしっかり固定する安全装備です。

日本の軽ではコストを抑えるため簡素な構造を採用するケースも少なくありませんが、ラッコは細部にしっかりお金をかけているんです」
荷室容量は280Lを確保。後席は50:50分割可倒式で、荷物の大きさに応じて柔軟なシートアレンジが可能荷室容量は280Lを確保。後席は50:50分割可倒式で、荷物の大きさに応じて柔軟なシートアレンジが可能横一文字のテールランプが目を引く。全長3395㎜×全幅1475㎜×全高1800㎜。最小回転半径は4.8m横一文字のテールランプが目を引く。全長3395㎜×全幅1475㎜×全高1800㎜。最小回転半径は4.8m

【ラッコが狙う、"絶対王者"】

週プレ自動車班も8月4日に静岡県で開催されたラッコの報道陣向け試乗会に参加。そこでBYDスタッフがライバルとして名指ししたのが、ホンダ・N-BOX、スズキ・スペーシア、ダイハツ・タント。いずれも国内軽市場を代表するスーパーハイトワゴンである。

その中でBYDが完全ロックオン状態なのが、累計販売台数300万台超を誇る"絶対王者"N-BOXだ。国沢氏も大きくうなずく。

「ラッコはN-BOXを研究し尽くしてきましたね。後席のシートアレンジはN-BOXと同等のレベル。シートカバーはN-BOX用が使えてしまうなんて話も(笑)」

7月16日に改良を受けた絶対王者N-BOX。注目は売れ筋のカスタムに施された大胆な顔面整形7月16日に改良を受けた絶対王者N-BOX。注目は売れ筋のカスタムに施された大胆な顔面整形
一方、自動車ジャーナリストの桃田健史(けんじ)氏は、ラッコについてこう語る。

「まさに"黒船"。戦略的な価格ながら、価格以上の質感の高さを感じています。スーパーハイトワゴン、いわゆるスーパートールワゴンは、軽自動車規格を目いっぱい活用したサイズ。まさか海外メーカーがここに参入してくるとは、日本メーカー各社も想定していなかったのでは」

スーパーハイトワゴンは、軽市場で最も高いシェアを持つカテゴリーである。

「既存モデルの競争が激しくなった結果、カスタム系を含め、デザインや多彩なオプションパーツ、走行性能など、さまざまな部分で差異化を図ってきました。しかし、各社が切磋琢磨(せっさたくま)してきたことで、今では他モデルとの違いを明確に打ち出すことが難しくなっている状況です」

つまり、商品力を磨き切った市場に、BYDはEVという飛び道具を持ち込んだ。

「BYDは戦略的な価格設定に加え、保証や支払い方法などでも独自性を打ち出しています。日本メーカーの現行スーパーハイトワゴンの価格を考えると、これをEV化すれば300万円を超える、あるいはなんとか300万円を切る程度が精いっぱいでしょう。

価格面でラッコと渡り合うのは、極めて難しい。ちなみにホンダは今年5月、2028年にN-BOXにEVを導入すると明言していますね」

一方で桃田氏はラッコ、そしてBYDが日本市場でさらに販売を伸ばしていくためには課題もあると指摘する。

「まずはBYDブランドに対する、さらなる信頼性の確立でしょう。日本参入から3年、着実に販売店数と販売台数を伸ばしていますが、日本ではまだマイナーブランドであることに変わりはありません」

ラッコの普及を考える上で避けて通れないのが、国のCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)だという。

「CEV補助金など、日本メーカーとの差が大きいことも普及への懸念材料です。BYDオートジャパンとしては、経済産業省との交渉を続ける姿勢のようです」

現在、ラッコに対する国のCEV補助金は15万円。エントリーグレードは214万5000円で、補助金を利用すれば実質200万円以下で購入できる。さらに航続距離320㎞の最上級グレードは249万7000円。BYDによると、受注の約8割は最上級グレードだという。

【ラッコ普及の壁は"中国アレルギー"】

公道を走らせると、ラッコの狙いがさらに見えてくる。ステアリングには軽では珍しいチルト&テレスコピック機構を採用し、運転姿勢の自由度は普通車レベル。シートもしっかりとした座り心地で、普通車からのダウンサイジングでも違和感は少ない。

桃田氏は走りをこう評す。

「ラッコは見た目の印象とは違い、かなりガッツリしたハンドリングと乗り心地になっています。今後、市場からどんな声が出てくるのか。そして、その声を受けて改良していくのか、それとも、こうした走り味・乗り味の路線を続けていくのか。そこは気になるところです」

週プレ自動車班が試乗したモデルの航続距離は320㎞。長距離移動では充電計画が必要になるが、日常使いや近距離移動が中心となる軽EVについて国沢氏はこう言う。

「ガソリンスタンドが廃業し、給油に不便な思いをしている地方の軽ユーザーに、ラッコは魅力的だと思います。何しろ電気は日本の津々浦々まで通っていますから」

中国BYDが日本の軽市場に放った刺客。EVならではの静粛性と滑らかな走りを武器に、爆売れを狙う中国BYDが日本の軽市場に放った刺客。EVならではの静粛性と滑らかな走りを武器に、爆売れを狙う
BYDオートジャパンの東福寺厚樹(とうふくじ・あつき)社長は、今年12月末までに累計1万台、さらに来年は「月1000台、年間1万台」という販売目標を掲げている。

ただし、日本市場に根強く残る"中国車"への心理的なアレルギーの克服も重要になる。中国メーカーのクルマに対しては、「品質や耐久性は大丈夫なのか」「長く乗って問題はないのか」「数年後に売るとき、リセールバリューはどうなるのか」といった不安の声がネット上には根強くある。加えて、クルマそのものの性能や品質とは別に、政治的な問題から中国メーカーを敬遠するユーザーもいる。

国沢氏は苦笑いしながら、こう一刀両断する。

「中国アレルギーのある方は、この記事も読まないほうがいいでしょうね。人生の時間は有限ですから。もちろん、BYDは中国の自動車メーカーですから、政治的なリスクはあります。これは仕方がない。

品質や耐久性への先入観や、将来のリセールバリューへの懸念の声もありますが、少なくとも私が購入したBYDのシーライオン7では、初期トラブルは一切ありません」

続けて国沢氏はこう語った。

「私は現在、シーライオン7、ホンダのスーパーワン、同じくホンダのN-VAN e:とEVを3台所有している。仮に1、2台しか持っていない状態なら、迷わずラッコを購入していたでしょうね」

そして、国沢氏が最後に指摘するのは、地方の販売網についてだ。

「日本国内におけるBYDの販売店数は、26年7月末時点で正規ディーラー店が56店舗、開業準備室や業販店などを含めると計77拠点です。すでに現時点で、販売店はてんてこ舞いと耳にしています。

月1000台、年間1万台という販売目標は達成すると思いますが、軽のシェアを日本市場で拡大するには地域の整備工場などが営むサブディーラーを巻き込めるかでしょうね。特に軽は地方のサブディーラーの影響力が強い」

加えて、軽スーパーハイトワゴンの販売で重要なのが、カスタム系やSUVテイストの派生モデル。各社が個性を競い合う中、「ラッコにも今後派生モデルが登場するのでは」という声も聞こえる。

ニッポン軽王国にラッコがブチあけた風穴。その穴は、果たしてどこまで広がるのか。

世界EV王者が仕掛けた、軽市場への殴り込み。果たしてラッコは日本の軽市場そのものを変える存在になるか。

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