外国人就労ビザ厳格化で悪徳移民ブローカーが暗躍中!

取材・文/青山大樹 安宿緑

中国のSNSに乱立する「人文(技人国)ビザ」などへの切り替えや新規発行の宣伝アカウント。「日本語が話せなくてもOK」「出勤不要」「一家で日本移住」といった宣伝文句が躍る中国のSNSに乱立する「人文(技人国)ビザ」などへの切り替えや新規発行の宣伝アカウント。「日本語が話せなくてもOK」「出勤不要」「一家で日本移住」といった宣伝文句が躍る

外国人就労ビザの厳格化が進む一方、現場では新たな 「抜け道ビジネス」が横行している。規制を強めるたびに生まれる制度のゆがみと、翻弄され続ける受け入れ現場のリアルな実態を追った!

【増殖する、技人国ビザ】

出入国在留管理庁は今年3月と4月の2段階にわたり、在留資格「技術・人文知識・国際業務(以下、技人国[ぎじんこく])ビザ」の運用を厳格化した。

派遣制限や語学要件の必須化などで不正防止を狙った規制強化だが、その隙を突く闇ビジネスも横行している。

現在、日本に住む外国人は約412万人、うち就労者は257万人。その中で、かつて代名詞だった「技能実習」(約45万人)を抜き、就労系ビザ最大勢力に躍り出たのが技人国ビザ(約47万人)だ。

大卒のホワイトカラーがオフィスで働くための資格が、なぜここまで膨張したのか。取材を進めると、水面下で暗躍する「移民ブローカー」の存在が浮かび上がった。

彼らはSNSを駆使し、日本語能力も学歴も実務経験もない人物に、金さえ払えば「日本企業の会社員」という身分を与えているのだ。

発端は2025年10月、外国人経営者向けの「経営・管理ビザ」の資本金要件が、500万円以上から3000万円以上へ引き上げられたことだった。実態のないペーパーカンパニーを使ったビザの不正取得が横行し、当局がついに重い腰を上げた格好だ。

だが、規制は常に裏技を生み出す。中国系のSNSでは早くもこれを回避する投稿が飛び交い始めていた。その回避策の中での本命こそが、技人国ビザだった。

SNS投稿を見ると「手数料を払えば、日本で働いた実態がなくても会社員という身分証が手に入ります」といった文言を掲げるブローカーの投稿が後を絶たない。そこで記者は、実際にRED(中国版インスタグラム)でこうした宣伝を行なう業者にコンタクトを取ってみた。

中国語で「人文ビザ(編集部注=技人国ビザの旧称)・5年更新・正社員の身分。日本語能力2級不要、出勤不要」と書かれた投稿にDMを送ると、すぐにWeChat(中国版LINE)へ誘導された。

「人文ビザと高才(高度専門職)ビザ、両方対応していますが、どちらを希望しますか」とブローカーが問うので、人文について尋ねると、業者はよどみなく手口を語り始めた。

「母国か日本の四年制大学を卒業しているなら、手数料6万元(約140万円)で手配します。名義を貸してくれる企業に所属することで会社員の身分が手に入り出社も不要です。

ペーパーカンパニーではなく、営業実態のある一般企業なのでご安心ください」

給与や社会保険はどう扱うのか、突っ込んで聞いてみた。

「例えば給与を22万円に設定すると、社会保険料は7万円ほどになります。われわれに毎月29万円を振り込んでもらえれば、社会保険料を差し引いた22万円をその所属先企業から給与として振り込みます」

これは所属先企業にとっても悪い話ではない。書類上の「雇用主」という立場だけで名義貸しによる収益を得られる仕組みだ。

申請から許可までは約1ヵ月という。業者のWeChatの日記欄をのぞくと、在留カードとおぼしき写真とともに「お客さまが無事にビザを取得」という「実績」投稿が並ぶ。この手口ですでに日本に滞在している外国人は、決して少なくないとみられる。

ブローカーが実績としてSNSに上げている在留カード。本物であればすでに多数の偽装入国者がいることにブローカーが実績としてSNSに上げている在留カード。本物であればすでに多数の偽装入国者がいることに

本来は一定の学歴や高度な専門性が求められる技人国ビザだが、名義貸し企業と虚偽の書類さえ用意すれば、日本語能力も実務も問われず在留資格が取得できてしまうのだ。

投稿には審査が優遇される「1類・2類企業を手配」という文言も躍る。業者は企業信用度に応じた優遇枠を逆手に取り、企業と結託して不正取得を通しやすくしているのだ。ペーパーカンパニー対策の網の外側で、新たな抜け道が掘られているわけだ。

【中国人をだます悪徳エージェントも】

もちろん大半の外国人はまっとうに就労している。だが、彼らを食い物にするブローカーの存在も無視できない。都内の不動産会社に勤めていた30代の中国人男性は、転職活動中に詐欺未遂に遭った。

「REDで好条件の求人を見つけ、投稿していた中国系エージェントに問い合わると、なぜか仲介手数料を請求されたんです」

業者は「人文ビザが取れる会社を紹介するが、複数回の面接がある。1次面接を通過するには手数料10万円が必要」と持ちかけてきたという。

職業安定法上、職業紹介事業者が求職者本人から手数料や紹介料を徴収することは原則として禁止されている。しかもこの業者は中国国内に籍を置き、日本当局の許可なく人材紹介を行なう、いわゆる〝闇エージェント〟の疑いが強かった。

詐欺未遂に遭った中国人男性と悪徳エージェントのやりとり。「手数料10万円を支払えば1次面接を通過できる」というが、正式な領収書の発行を望むと強い拒絶を示した詐欺未遂に遭った中国人男性と悪徳エージェントのやりとり。「手数料10万円を支払えば1次面接を通過できる」というが、正式な領収書の発行を望むと強い拒絶を示した

男性が「支払う際は領収書を発行してほしい」と伝えた途端、業者の態度は豹変する。

「おとなしく手数料を払わないなら面接も紹介もしないし、内定も与えられない。いい仕事が見つかるといいですね」

そんな捨てぜりふとともにメッセージは途絶えたという。

「制度の厳格化で焦り、今も必死に就職・転職活動をしている同胞がたくさんいる。その状況を逆手に取って悪事を働く詐欺業者は絶対に許せない」と男性は語った。ビザ厳格化のゆがみがもたらす被害は、不正取得という法破りだけにとどまらない。

【「マクロで見れば厳格化は妥当」だが......】

こうした現場の実態に対し、冒頭で触れた今年3月と4月の2段階にわたる技人国ビザの厳格化は何を意味するのか。

外国人雇用問題に詳しい杉田昌平弁護士(Global HR Strategy)はこう解説する。

「3月の改正で影響が最も大きいのは派遣規制です。従来は『派遣予定』という曖昧な状態でビザが取れましたが、改正後は派遣先を確定させ、入管の実地調査に応じる同意書を出さなければ申請すらできず、実態のない製造業派遣はほぼ不可能になりました」

さらに4月からは、中小企業が通訳や接客名目で雇う場合、日本語能力試験「N2」以上の証明を必須化。「通訳名目で入れて現場労働をさせる抜け道がふさがれました」(杉田氏)。

だが、なぜブローカーは今も「日本語不要」とうたえるのか。杉田氏が指摘する。

「4月の厳格化は対人・言語業務に限られているため、SEなど日本語要件が課されない職種だと偽って虚偽申請しているのでしょう」

書類上は「日本語不要なエンジニア」として審査を通し、実際には出社も業務もさせないという二重の虚偽構造だ。

では、こうして「名ばかり会社員」の身分を得た人々は、日本で何をしているのか。

「目的は日本の社会保障と在留資格です。中国本土でビジネスを行ないながら、日本の手厚い医療制度を使い、永住権につながる『実績』を積み上げるのです」

制度の隙間を突いた、極めて都合の良い不法滞在の形だ。

もっとも、すべてが「働かない」パターンとは限らない。通訳やSEなど別の職種と偽って申請し、実際には工場などの現場労働に従事させられるケースも根強く残る。老舗の食品メーカー・中村屋の事案はまさにその典型だ。

人材派遣会社が技人国資格のネパール人を中村屋の工場に送り込み、和菓子などを製造させていたとして、21年に書類送検されたのだ(中村屋は不起訴)。

現場作業がメインの「特定技能」などは原則直接雇用に限られ、派遣が認められない。そのため、派遣という形態が利用でき、審査の抜け道があった技人国が現場労働力の調達手段として悪用されたのだ。

政府は「不法滞在者ゼロプラン」も進めており、2年後をめどに空港審査をオンライン事前登録制のJESTAへ移行し、浮いた職員を実地調査に振り向ける構えだ。杉田氏の試算では、厳格化により約47万人いる技人国の在留者は27万人程度まで絞られる可能性があるという。

だが、ビザを厳格化しても現場の労働力需要そのものが消えるわけではない。皮肉なことに、規制で正規の枠を狭めるほど需要はかえって闇ルートへ流れ込む。

OECD(経済協力開発機構)の調べではベトナム、フィリピン、ネパールなどアジアの主要送り出し国(8ヵ国)から年間約370万人が国際労働市場に出るのに対し、日本の受け入れは年間23万人程度。

「日本で働きたい外国人」に対して「正規の枠」があまりに狭いギャップがあるからこそ、在留資格を偽装して売りつける裏ビジネスが成り立つ。

実際、技人国や特定技能などへの切り替えは提出書類が膨大になるため零細企業には難しい。杉田氏は「今後は書類上では請負の体裁を取りながら、現場で直接指示を出す違法な『偽装請負』が横行する恐れがある」と指摘する。

まっとうな道が険しくなるほど抜け道が儲かり、割を食うのは真面目に働こうとする外国人自身だ。

杉田氏も「マクロで見れば厳格化は妥当」としつつ、「制度のハザマで急に在留できなくなる個人や家族が出るのも事実」と漏らす。

規制を強化するたびに新手が生まれるいたちごっこ。経営・管理ビザの厳格化がブローカーを勢いづかせたように、技人国が絞られれば次は別の資格へ群がるだけだ。

手数料140万円で「日本の会社員」を買えるような制度のゆがみを根本から正さなければ、翻弄される現場の混乱は終わらない。

*N2=日本語能力試験(JLPT)で、180点満点中の総合得点90点以上、および各得点区分(言語知識・読解・聴解)で各19点以上の基準点が必要。おおよそ日常会話において支障のない堪能な日本語力

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