
武田和泉
武田和泉の記事一覧
風俗・飲食業界を得意分野として月刊誌や情報誌に寄稿。座右の銘は「夜の住人は十人十色」。
現在まで、3500人以上の性犯罪者の地域トリートメントに関わった斉藤氏
子どもたちの道しるべとして人生を導く存在である教師による「盗撮」が後を絶たない。昨年は、名古屋市の小学校教諭らのグループが盗撮事件を起こしたとして摘発され、世間を震撼させた。
職権を悪用し、生徒を性対象として搾取するおぞましい構図が学校現場に厳然として横たわる。さらには大人だけでなく、子どもまで人にカメラを向けるという新たな問題も浮かぶ。
そんな中、加害者臨床家として3500人以上の性加害者の治療プログラムに携わった斉藤章佳氏が本著を上梓した。スマホ一台で子どもが被害者にも加害者にもなる時代。性加害に及ぶ者たちの実態に迫る一冊だ。
* * *
――教師による生徒の盗撮が頻発している背景には何が?
斉藤 そもそも学校という場所自体が、非常に盗撮の起きやすい環境と言えます。教師と生徒は対等な立場ではありません。成績や進路、部活のレギュラーを決める権限を教師は握っています。権力関係のあるところでは性加害が起きやすいです。
また、学校行事の記録係といった名目で児童を自然に撮影できる環境も後押ししています。
――大人だけでなく、性加害をする少年が増えているのはなぜでしょうか?
斉藤 昔から女子のスカートをめくったりすることが男子コミュニティの中ではネタとして消費され、アニメでも面白おかしく描かれてきました。
時代が進み今は、学校から貸与されたタブレットやスマホで手軽にできる盗撮に触手を伸ばす傾向が強まっています。全国の少年鑑別所の入所者データを見ても、従来型の非行は減りつつある中、性非行は右肩上がりです。
また、これは榎本クリニックの性加害少年のデータですが、彼らがアダルト動画などの性情報に初めて触れる平均年齢が、6歳6ヵ月であるという驚くべき実態もあります。今の親は、子どもが静かにしてくれるからと小さい頃からタブレットやスマホを長時間見せていることが多い。
子どもたちは好奇心のままにタップしていって、性的な情報にたどり着き、没頭してしまうのです。
――加害者がクリニックに受診に訪れる経緯は?
斉藤 紹介経路で多いのは、加害者の家族か弁護士です。その内の7割ほどは、刑事裁判になったタイミングで来ます。弁護士は、裁判で執行猶予や減刑を勝ち取りたいという事情もあって受診を勧めます。
加害者本人は、「もう二度と過ちを繰り返したくない」と口をそろえます。
ですがそれは、「家族や職場に迷惑をかけたくない」とか「刑務所に行きたくない」といった動機が中心です。「被害者を二度と出したくない」という思いを一番に持ってもらいたいのですが、この段階では難しいです。
――盗撮で逮捕、有罪判決を受けた有名中学受験塾の元講師との対談は、加害者の心理を知る上で参考になります。
中には「今後、事件を起こさなかったら報酬金を与えてほしい」など、理解に苦しむ発言もありました。
斉藤 事件を起こしたこと自体を「割に合わない」「どうせ捕まるのなら、子どもに直接手を出して捕まりたかった」と語るなど、ゆがんだ認知を感じる発言が目立ちました。
ですが、子どもに性加害をする人、またペドフィリアの本音を何も加工せずに掲載したので、これまでにないリアルな内容になったと思います。
――本著では、性加害者が幼少期に性的ないじめを受けていたり、家庭が機能不全だったりしたという事例が紹介されています。
特に印象に残っている加害者がいれば教えてください。
斉藤 ある男性は幼少期、母親がアルコール依存症で家の中で包丁を振り回し、父親は母親と子どもに暴力を振るうという家庭で育ちました。DVの後遺症で、今も片耳が難聴です。
学校ではいじめを受け、近所の男性から身体を触られる性被害も長く受けていた。でも家庭は崩壊していて相談できる相手がいない。これだけ聞くと「よく自殺しなかったな」と同情してしまうほどでした。
その後、彼は保育士を志して専門学校に進みますが、それは子どもを自分の思うままに支配したいという倒錯した欲望からだったそうです。
結局、保育園で子どもの性器を触るようになり、それが発覚して退職。その後もベビーシッターとして子どもに近づき、性加害行為を繰り返して逮捕、懲役10年の判決を受けて服役中です。
――言葉になりません......。一部の人において、過酷な生い立ちが児童への性加害へと発展する仕組みとは?
斉藤 暴力や性被害によって性的自己決定権や自尊感情が大きく傷つけられた場合、その自己治療的な行動として薬物依存になる人がいれば、アルコール依存になる人もいる。その中に、支配しやすい児童への性加害や盗撮行為に耽溺してしまう人もいる。
過酷な境遇を経て加害行為に至る人とそうでない人を隔てるものは、居場所があったり相談できる相手が身近にいたかどうかだと思います。
外部の支援や適切な介入があれば、加害者にならなかったのではないかと思うケースはたくさんあります。
――性加害治療には医療機関の介入が必要ですが、受け入れに拒否反応を示すところもあるというのは意外でした。
斉藤 治療対象者が子どもの場合、通院するほかの子どもに加害行為が及ばないか、院内や周辺で事件を起こさないかという現実的な恐れがあります。性加害少年を専門に診ていると打ち出せば、近隣から苦情や反対運動が起きるのではないかという危惧もあると思います。
加えて、医療機関は女性の多い職場です。多くの女性は、痴漢や盗撮、のぞきも含めて、過去に何かしらの性被害を多かれ少なかれ経験している。
そのため性加害の相談だと聞いた瞬間、拒否反応が出てしまう人が多い。これらは個人の問題としてではなく、医療現場の構造として考えるべきです。
――性加害者という存在に、社会はどう向き合うべきでしょうか?
斉藤 彼らの孤立や社会的な排除は一見安全につながるように見えて、実は再犯のリスクを高めることになる。
彼らに必要なのは、つながることのできる場所と治療です。まだまだ加害者の治療ができる機関が少ないので、それらが増えることを願っています。
■斉藤章佳(さいとう・あきよし)
1979年生まれ。加害者臨床家、精神保健福祉士・社会福祉士、西川口榎本クリニック副院長。あらゆる依存症の臨床に携わり、現在までに3500人以上の性犯罪者の地域トリートメントに関わる。著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病----それは、愛ではない』(ブックマン社)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、『セックス依存症』『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(共に幻冬舎新書)など
■『校内盗撮』
昨年、名古屋市の小学校教諭を中心にした教員グループによる盗撮事件が相次いで発覚し、波紋を呼んだ。捜査の結果、教員らは学校で児童・生徒を盗撮した上、SNSアプリを通じて画像を共有していたことも明らかになった。さらには、子ども同士の盗撮、生成AIを悪用した「性的ディープフェイク」など、学校現場での性加害問題は深刻化している。性加害を助長する同調圧力の正体など、加害者臨床の第一人者が問題の背景に切り込んだ一冊
『校内盗撮』集英社インターナショナル 1111円(税込)
