父島にレーダー、硫黄島は滑走路強化、南鳥島にミサイル。陸海空自衛隊「太平洋防衛」の新戦略

取材・文/小峯隆生

中国空母「遼寧」(写真⑥)は昨年6月、南鳥島近海まで進出。今年6月には中露爆撃機などが四国沖まで飛行(左の写真①~④)。7月には中露艦艇が沖ノ鳥島周辺を航行し、中国駆逐艦(写真⑤の左)が日本のEEZ内で射撃訓練を行なった。日本はこれに対応するため、レーダー配備やミサイル射撃場の整備を進めている中国空母「遼寧」(写真⑥)は昨年6月、南鳥島近海まで進出。今年6月には中露爆撃機などが四国沖まで飛行(左の写真①~④)。7月には中露艦艇が沖ノ鳥島周辺を航行し、中国駆逐艦(写真⑤の左)が日本のEEZ内で射撃訓練を行なった。日本はこれに対応するため、レーダー配備やミサイル射撃場の整備を進めている

中国空母が南鳥島近海へ進出し、中露爆撃機も四国沖まで飛来――。これに対し、日本も防衛強化を進めている。長く"空白"だった日本の南側が今、新たな防衛の最前線になりつつある。陸海空自衛隊が描く「太平洋防衛」の姿とは。

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【中露軍が進出する〝空白〟の海域】

西太平洋が今、日本の防衛上の新たな焦点になっている。

2025年5月27日、中国海軍の空母「遼寧」が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋へ進出。その後、6月7日には南鳥島の南西約300kmまで航行したことが確認された。

さらに今年6月27日には、中国軍とロシア軍の爆撃機が東シナ海から四国沖の太平洋まで共同飛行。

7月19日には、中国海軍とロシア海軍の艦艇計4隻が沖ノ鳥島周辺を共同航行。その際、中国海軍のミサイル駆逐艦1隻が、日本のEEZ(排他的経済水域)内である沖ノ鳥島の南西約180kmの海域で機関銃による射撃訓練を実施。これには政府も「周辺の船舶の航行に危険を及ぼしうる」と中国側に懸念を伝えた。

このように中国やロシアの相次ぐ軍事活動が太平洋側にまで広がっているが、この海域は日本の防衛体制の〝空白〟とされてきた。

海自の潜水艦「ちょうげい」。太平洋防衛の海中戦力の要だ海自の潜水艦「ちょうげい」。太平洋防衛の海中戦力の要だ

それはなぜなのか。航空自衛隊第302飛行隊長などを歴任した杉山政樹元空将補は、かつての状況をこう振り返る。

「戦後、GPSが普及するまで、太平洋では『ロラン』という長距離電波航法システムが使われていました。硫黄島や南鳥島などにはその送信局が置かれ、米国沿岸警備隊が常駐して運用していたんです。

ところがGPSの普及で『ロラン』の役割が低下し、1990年代前半に日本の海上保安庁が引き継いだ。その影響で米沿岸警備隊も撤退したのです」

こうして太平洋の離島から米国の人員がいなくなったが、日本側でもその穴を埋めるような防衛体制は構築されなかった。そのため、以降は防衛上の〝空白〟になったのだ。

ところが近年、その西太平洋で中露の軍事活動が活発化。それに対抗するため、長らく手薄だったこの海域の防衛体制を強化しようという動きが本格化している。

今年3月28日、小泉進次郎防衛相は硫黄島で「太平洋防衛構想室」の設置を発表。さらに政府は、年内に改定する安全保障関連3文書に、太平洋側の「対処力強化」を盛り込む方向だ。

では、広大な西太平洋を日本はどう守るのか。最初に必要になるのは、監視するための〝目〟だ。杉山氏は「既存のレーダーだけでは不十分」だと指摘する。

太平洋上を飛行する大型無人機「MQ-9シーガーディアン」。海保は北九州空港を拠点に5機を運用中で、海自も鹿屋航空基地で2機の運用に向け準備中太平洋上を飛行する大型無人機「MQ-9シーガーディアン」。海保は北九州空港を拠点に5機を運用中で、海自も鹿屋航空基地で2機の運用に向け準備中

「現在のレーダーは沖縄本島や先島諸島など、第一列島線上に配置されています。ただ、中国軍機がそこを越えて太平洋側へ進出すると、その先まで継続して追い続けるには十分ではありません。

大型レーダーを搭載したAWACS(空中早期警戒管制機)を飛ばして監視することもできますが、機数には限りがあり、常に飛ばしておくことはできません。そのため、沖縄本島や先島諸島よりさらに深い位置にも、レーダーを置く必要があります」

航空自衛隊の移動式3次元レーダー「J/TPS-102」。北大東島では移動式警戒管制レーダーの整備が進み、父島でもレーダー配備が検討中航空自衛隊の移動式3次元レーダー「J/TPS-102」。北大東島では移動式警戒管制レーダーの整備が進み、父島でもレーダー配備が検討中

そこで進められているのが、北大東島と父島へのレーダー配備だ。北大東島では移動式警戒管制レーダーの整備が進行中で、父島でも新たなレーダー配備が検討されている。

ただ、島のレーダーだけで広大な西太平洋をカバーするのは難しい。そこで、長時間飛行できる大型無人機も活用され始めている。

海上保安庁は北九州空港を拠点にシーガーディアン5機を運用。海上自衛隊も鹿屋航空基地で同型機2機の運用に向けて準備中だ。島のレーダーとドローンを組み合わせ、中国軍機や艦艇の動きを広くとらえる態勢を整えようとしている。

【父島、硫黄島、南鳥島の新防衛線】

では、見つけた中国軍機や空母にどう対処するのか。そのための拠点として重要になるのが硫黄島だ。

今年3月6日には、鹿島建設が硫黄島の「滑走路改修等土木その他工事」を約36億円で落札した。政府も、戦闘機を安定して運用できるよう、硫黄島の滑走路などを強化することを検討しているが、ここに戦闘機部隊を常駐させる計画なのだろうか。飛行訓練で硫黄島を利用した経験もある杉山氏は、「そうではない」と説明する。

2024年4月、硫黄島に初着陸する米空軍のF-22戦闘機。政府は戦闘機の安定運用に向け、滑走路などの強化を検討している2024年4月、硫黄島に初着陸する米空軍のF-22戦闘機。政府は戦闘機の安定運用に向け、滑走路などの強化を検討している

「硫黄島にはすでに海自の基地があり、空自の戦闘機も移動訓練で使ってきました。ただ、ここに1個飛行隊を置いて、24時間スクランブルできる態勢をつくるとなれば、かなりの機数と人員が必要になります。現在の空自に、そこまでの余力はありません」

想定されているのは、戦闘機を常駐させるのではなく、必要なときだけ本土から展開させる〝前方拠点〟として使うことだ。

「整備施設や燃料、弾薬をあらかじめ用意しておけば、中国空母が太平洋へ進出して艦載機を飛ばした場合などに、本土のF-2を硫黄島へ移し、そこを拠点に対応できます」

空からの脅威に対する戦闘機の前方拠点となるのが硫黄島なら、海上の艦艇への対処で重要になるのが、日本最東端の南鳥島だ。

陸上自衛隊は現在、南鳥島に地対艦ミサイルの射撃場を整備しており、すでに機材を搬入。来年4月からの使用開始が予定されている。

陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長などを務めた二見龍元陸将補は、南鳥島に射撃場を整備するメリットについてこう話す。

「これまで地対艦ミサイルの実射訓練をするには、アメリカまで行く必要がありました。しかし、南鳥島に射撃場ができれば、日本の太平洋側で訓練できるようになります。

しかも、実際に部隊を展開することになる太平洋の離島でミサイルを撃てる。より実際の運用に近い環境で訓練できるのは大きいです」

さらに、訓練のために人員やミサイルなどの装備を南鳥島へ運び、部隊を展開する。その一連の作業自体も、有事を想定した実動訓練になるという。

「南鳥島には、1個中隊規模の地対艦ミサイル部隊を一時的に展開する形になります。人員や装備を運び込み、訓練が終われば撤収する。この海域は台風が多いという難点もありますが、そうした状況で部隊を送り込み、撤収する経験を積むこと自体が、実戦的な訓練になります」

【「攻めても勝てない」と思わせる防衛戦略】

レーダーや無人機で空と海を監視し、硫黄島には戦闘機を、南鳥島には地対艦ミサイル部隊を展開する。そして、太平洋防衛のもうひとつの重要な舞台となるのが海中だ。

防衛省は、AIを搭載し、長距離を航行できる新型UUV(無人潜水機)を31年度までに導入する方向で検討している。

海自が現在運用しているUUVは、主に機雷の探知や処理に使われている。一方、新型は目的に応じて搭載する装備を交換できる「モジュール型」を採用。海洋観測や警戒監視に加え、将来的にはより幅広い任務への活用も想定されている。

海自潜水艦「はやしお」艦長、第2潜水隊司令などを歴任した伊藤俊幸元海将は、UUVの運用方法をこう語る。

「UUVだけで太平洋のすべてを探すわけではありません。衛星や航空機、水上艦、陸上のレーダーなど、さまざまなセンサーから得られる情報を組み合わせて、重点的に監視すべき海域を絞り込みます。

その上で、UUVにあらかじめ任務を与え、搭載した各種センサーで指定された海域の情報を収集する。広大な海域をUUVだけで捜索するのではなく、ほかの装備やセンサーと組み合わせて運用することが重要です」

つまり、衛星などから得られる広域情報をUUVによる海中の情報収集につなげ、太平洋での警戒監視能力を高めるわけだ。

こうした監視網の強化は、新型UUVだけでなく、すでに海自が運用している有人潜水艦にも生きてくる。

UUVが指定された海域でさらに情報を集めるのに対し、有人潜水艦は、衛星や航空機、水上艦などが集めた情報を基に行動する。そして、潜水艦の強みは、相手から居場所を把握されにくいことにある。

「潜水艦は、自分だけで広い海域を探し回るより、ほかのセンサーから相手の位置や進行方向の情報を得られるほうが、隠密性を生かしやすくなります。重要なのは、さまざまなセンサーの情報を組み合わせて活用することです」

新たな〝目〟が増えることで、これまで保有してきた潜水艦の「見つからずに待ち受ける」という強みも生かしやすくなるわけだ。

こうした連携は、海中だけの話ではない。現在の統合作戦では、陸海空に加え、宇宙やサイバーなど複数の領域を連携させることが重要になっている。

単に複数の装備を同時に使うのではなく、ある領域のセンサーがとらえた情報を共有し、それを基に別の領域の部隊や装備が対処する。こうした考え方を「マルチドメイン」と呼ぶ。

米軍の演習を数多く取材してきたフォトジャーナリストの柿谷哲也氏は、日本もこの連携をさらに強化する必要があると語る。

「例えば、中国海軍の艦艇が太平洋へ進出してきた場合、空自のF-2戦闘機は空から空対艦ミサイルで、陸自は地上から地対艦ミサイルで、海自は艦艇や潜水艦で対処するのです。

つまり、ひとつの装備だけで止めようとするのではなく、空、陸、海の戦力を組み合わせる。中国側からすれば、一方向だけを警戒すればいいわけではなく、複数の方向から同時に対処される可能性を考えなければならなくなるんです」

とはいえ、レーダーを増やし、ミサイルの射撃場まで整備する必要があるのだろうか。なぜ太平洋側の監視・対処能力をここまで強化するのか。

地政学・戦略学が専門の多摩大学大学院客員教授・奥山真司氏は、「重要なのは相手の動きにその都度対応するのではなく、そもそも軍事行動を抑止すること」だと話す。

陸上自衛隊の地対艦ミサイル。南鳥島では太平洋側での実射訓練に向けて射撃場を整備中で、来年4月からの運用開始を予定している陸上自衛隊の地対艦ミサイル。南鳥島では太平洋側での実射訓練に向けて射撃場を整備中で、来年4月からの運用開始を予定している

「弱国が強国に対抗するには、相手がやってくることにひとつずつ対応しているだけでは十分とは言えません。

相手に『軍を出しても簡単には目的を達成できない』『軍を出したらむしろ大きなコストを払うことになる』と思わせる。軍を出すこと自体をためらわせるような戦略をとらなければならないのです」

中国軍が西太平洋へ進出すれば、レーダーや無人機によって動きをとらえられ、戦闘機、地対艦ミサイル、艦艇、潜水艦など複数の手段で対処する。そのための監視・対処網を、広大な太平洋側につくろうとしているのだ。

中国やロシアの軍事活動が活発化し、日本も太平洋側の防衛を強化する。一見すれば、西太平洋で軍事的な緊張が高まっているようにも見えるが、日本が目指しているのは戦うための防衛ではなく、戦いそのものを起こさせないための抑止だ。

長く防衛の〝空白〟だった日本の南側で、そのための新たな「太平洋防衛」が始まっている。

写真/防衛省・統合幕僚監部 海上自衛隊ホームページ 防衛省/CC BY 4.0 Panda 51/CC BY-SA 3.0 U.S. Navy/Shannon Renfroe U.S. Air Force/Melissa Estevez

  • 小峯隆生

    小峯隆生

    こみね・たかお

    1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、元筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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