
武松佑季
たけまつ・ゆうき
武松佑季の記事一覧
1985年生まれ、神奈川県秦野市出身。編集プロダクションを経てフリーランスに。インタビュー記事を中心に各メディアに寄稿。東京ヤクルトファン。
ED薬「シアリス」の発表会に登壇するエスエス製薬の元島陽子社長(左から2人目)ら
日本の男性のうち約1400万人がED(勃起不全、勃起障害)有病者だという。そんなフニャチン列島に天恵!? ED治療薬の大定番「シアリス」が8月末から全国で市販化を開始、処方箋不要で購入できるようになったのだ。
ということで、処方箋必須の薬も含め、3つの主流ED薬のそれぞれ異なる個性を専門家が解説! さらにはED薬でも治療できない重度ED患者の"新しい選択肢"も紹介したい。
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8月31日、ED(勃起不全、勃起障害)治療薬「シアリス」の市販が全国のドラッグストアなどでスタートした。
これまで医師の処方が必要だったED治療薬が、日本では初めて処方箋なしで購入可能となる。
日本性機能学会が2023年に実施した調査によると、日本の成人男性(20歳~79歳)のおよそ3.2人に1人(推計1400万人)がED有病者だという。
さて、EDは決して現代病ではない。なんと紀元前3000年、古代エジプトの時代からED治療に関する記述が見られるのだ。
そんな人類5000年の悩みであるED治療に革命が起きたのは1990年代のこと。米ファイザー社が狭心症などの心血管疾患の治療薬として研究していたシルデナフィルという化合物に、陰茎への血流を促し、勃起を助ける作用があることを発見。98年にはアメリカでシルデナフィルを有効成分とするED治療薬「バイアグラ」の承認・販売が始まり、世界的なブームが巻き起こったのだ。
当時、バイアグラは日本では未承認だったものの、個人輸入する人が続出。併用禁忌(一緒に服用することがNGとされる薬剤の組み合わせ)であるニトログリセリンを使用していた男性が、友人から譲り受けたバイアグラを服用した後、心肺停止となり死亡する事故が発生したこともあり、日本でもバイアグラの存在は早い段階で認知された(バイアグラの日本承認・販売開始は99年)。
【バイアグラ】持続時間は約5時間。服用から30分~1時間で効果発現。佐々木春明氏によれば御三家で硬さは最も期待できるという。服用前後の飲食に影響を受けやすく、満腹時だと効果が薄れ、持続時間の短縮の可能性も。医師の処方箋が必須
にわかにED治療薬シーンが活性化する中、03年には「レビトラ」と「シアリス」が各社から相次いで登場。日本でもレビトラ(04年)、シアリス(07年)の順で承認・販売された。現在も国内でのED治療薬といえば、この3種が中心に処方されている状態だ。
では、この3種にどのような効能の違いがあるのか。日本性機能学会理事長の佐々木春明氏はこう説明する。
「バイアグラは服用して30分~1時間で勃起を助ける効果が出始め、5時間ほど持続します。ただし、食事によって効果の発現が遅れたり薄くなったりすることから、空腹時に処方することが推奨されています。
レビトラは効果発現が15~30分とバイアグラよりもやや早く、即効性が最大のメリット。さらに高脂肪な食事でなければ影響を受けづらいのも強みです。ただし、硬さに関してはバイアグラが上と話す患者さんもいますね。
なお、21年にレビトラそのものは販売終了していますが、その有効成分バルデナフィルを使ったジェネリック医薬品は現在も販売されています」
「効果の発現はバイアグラ、レビトラ(ジェネリック医薬品。以下同)よりも遅い1~2時間程度。ただし、持続時間は36時間と圧倒的で、1錠飲めば土日をカバーできることから、欧米では"ウイークエンドピル"(週末に飲む薬)とも呼ばれています。硬度はバイアグラ、レビトラに比べてやや落ちますが、高脂肪を含めた食事の影響を受けづらいのもメリットです」
都内で働くある薬剤師は、それぞれを服用すべき人、シチュエーションについてこう話す。
「妊活中の男性は、持続時間が長く、パートナーとのタイミングを合わせやすいシアリス。即効性が高く、意中の女性との間に突然訪れた"夜のワンチャンス"に全力を発揮したいときはレビトラ。爆発力があることからアソコの見えを張りたい人はバイアグラ、といったところでしょうか。
ちなみに、いずれも多少のアルコールには影響されませんが、飲みすぎるとEDじゃない人でも勃(た)ちが悪くなるので、お酒の多量摂取はNGです。また、グレープフルーツに含まれる成分は薬の作用・副作用が強く出る可能性があるので、飲むならグレープフルーツサワーではなくレモンサワーを飲みましょう」
これまでED治療薬を手に入れるには泌尿器科などに行って処方箋をもらわなくてはいけなかったのが、店頭でも買えることになったのは「ED相談なんて恥ずかしいから病院には行けない」という層に大いに歓迎されるはず。薬剤師の指導やチェックシートの記入が求められるが、それでもハードルはグンと下がったとみていい。
シアリスには陰茎の血流を促すタダラフィルという主成分の含有量に応じて「5㎎」「10㎎」「20㎎」の3種類があり、一般的に勃起薬としては20㎎が使用されている。しかし、今回市販化されたのは10㎎だ。それはなぜか。
「シアリスの市販化の狙いのひとつに、EDを入り口にして、これまで医療機関に来なかった男性の生活習慣病リスクを拾い上げる意味もあります。
というのも、EDは高血圧や糖尿病、脂質異常症といった血管異常に由来することも多い。市販のシアリス(タダラフィル10㎎)を服用して効果が不十分な場合、生活習慣病が隠れている可能性が高いので病院で血液検査をしてくださいということ。20㎎だと軽度な生活習慣病を患っていたとしても勃起効果があって血管の異常に気づけないため、10㎎を市販化したというわけです」(前出・佐々木氏)
【シアリス】薬剤師による対面などでの確認を経て、処方箋なしで一部の薬局で購入可能(要指導医薬品)。最大36時間の持続力が特徴。勃起に作用する血管拡張が緩やかで、効果発現は服用から1~2時間とやや遅め。また、ほかのED薬と比べて飲食の影響を受けにくい
さらにもうひとつ、今回のスイッチOTC(処方薬から市販薬=OTCに切り替わること)にはこんな狙いもあるんだとか。
「ED治療薬とうたわれる薬は現在、海外製品も含めてネットなどで簡単に個人購入できます。しかし、そういったものの成分を分析してみると、有効成分が不足していたり、逆に余分に入っていたり、ほかの薬品などの不純物が混在していたりと、いわゆる偽造薬が横行しているんです。
例えば、別の薬品を作るのに使用した容器をきちんと洗浄せずED薬を製造したために、不純物が入り込んだ偽造薬が出回った例がありました。薬を成分分析したところ、殺鼠剤(さっそざい/ネズミ駆除のための薬剤)の成分が混在していた、というケースもあります。
日本でも個人輸入した偽造薬を飲んで重篤な健康被害に遭って救急搬送された方がいますし、海外では命を落としてしまった方もいます。今回のOTC化は、ネットでわざわざ輸入しなくても入手できる環境を整えるためでもあるんです」
ステンドラという新興のED治療薬もよく耳にするが、こちらも日本では未承認だ。
「未承認の薬を服用して健康被害に遭った場合、医療費などの補償対象外となるので、決して手を出さないで」
今回のシアリスのスイッチOTCは、ED治療による少子化対策というより、国民の健康や安全を守る側面が強いというのが佐々木氏の見解だ。重度のEDに悩んでいる人は、やはり病院へ行ってバイアグラやレビトラ、シアリス(タダラフィル20㎎)を処方してもらったほうが良さそうだ。
佐々木氏いわく、「体との相性もあるのでそれぞれ効く、効かないは個人差があります。また、1錠服用して効果が得られなくても2~4錠目で効果が現れることもある。5錠目以降の有効率は変わらなくなってくるので、どの薬も自分に合ってるかどうかを判断するのに4錠は試してもらいたい」とのこと。
ちなみに、今回市販化されたシアリス(タダラフィル10㎎)も1箱4錠(税込5808円)で販売されている。
いずれのED治療薬も有効率は約8割といわれている。が、それでも効果が出ない場合は?
「内服薬が効かない場合は器具や施術で物理的に勃起させることになります。
その代表的なものに、陰茎を筒状の器具に入れて空気を吸引し陰圧によって血液を集めて勃起を促す『陰圧式勃起補助具』、陰茎に薬剤を直接注射して血管を拡張させる『陰茎海綿体注射』、陰茎に低出力の衝撃波を当てて陰茎の血流を促す『体外衝撃波治療』があり、これらがED治療の第2の選択肢といわれているのです」
「陰茎プロステーシス移植手術」の際に使用される人工デバイス(プロステーシス)。陰茎に挿入するシリンダー、陰嚢に収めるポンプ、下腹部に埋め込むリザーバー(貯水タンク)で構成されており、セックス時に陰嚢の中にあるポンプを押すことでリザーバーから陰茎内のシリンダーへ生理食塩水を移動させ、硬い勃起状態をつくる
それでも改善されない場合、最新技術を活用した第3の選択肢も出てきている。
「『陰茎プロステーシス』という勃起機能を代替するインプラントを陰茎に埋め込む外科手術です。国内では24年に認可されたばかりですが、欧米では長年の実績があり、高い有効率が報告されています。
第2、第3の選択肢については外科手術かつ自由診療なので、費用負担も踏まえて医師と十分に相談した上で選択することが大切です」
シアリスのOTC化、そして第3の選択肢の登場など、ED治療の選択肢はかつてないほど広がっているようだ。