トランプ米大統領はサウジ皇太子に対して、核爆段開発可能レベルの原発の技術供与 を明らかにした(写真:ロイター=共同)
「イランが核爆弾開発すれば後を追う」。かねてからそう明言していたサウジアラビアへ、米国が原発の技術を提供することが決定した。実はこの流れが、遠く日本にも波及する「大迷惑」になるかもしれないというのだ。専門家たちに影響を聞いた。
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【中東の核兵器】
米国がサウジに提供するのは原発の技術だけではない、と話すのは、国際政治アナリストの菅原出氏だ。
「サウジの原発推進には米国企業が中心的な役割を担います。しかし、保障措置文書では米・サウジ共同調査により、必要性が認められれば米国企業がサウジ国内にウラン濃縮施設を建設する事が定められています」(菅原氏)
イランの後を追うサウジは本気だ。2009年に米国はUAEに原発の建設を認めたが、ウラン濃縮は認めていない。
「米国内では、不安定な中東での核拡散に反対する議員との間で物議を醸しています。しかし、議会が米国サウジ合意を阻止するのは困難だとみられています」(菅原氏)
サウジの核爆弾開発が始まれば、中東の情勢はまた変わる。しかし、最近の中東情勢が落ち着く可能性もでてきたという。
「中東には今、ふたつの対立する陣営があります。ひとつがイスラエルとUAEを中核として米国と緊密に連携する『アブラハム連合』。その対極にサウジ、トルコ、パキスタン、カタールのスンニ派主要国を中核とした『イスラム連合』があります。
そして今、米国・イラン戦争は、サウジとフーシ派が加わることで地理的に拡大し、プレイヤーの数が増え、戦火は大幅に拡大していく可能性があります。
イランが押さえるホルムズ海峡に加え、紅海からインド洋への出口となるマンデブ海峡をターゲットとするフーシ派への攻撃に米軍の戦力が分散されています。米国はイスラエルに応援を求める可能性も排除できません。
サウジと米国が原子力協定を結ぶことは、米国がサウジをイラン包囲網の中に完全に取り込むことを意味します。今の米国にとって核拡散を懸念するより、サウジを取り込む必要性が高い。原子炉の建設には10年以上を要する場合がありますから」(菅原氏)
米国はいま、味方陣営を固めてイランを叩きたい。そしてサウジは、これまでならイランが核武装すればパキスタンから核兵器を買うという裏の手段を持っていたが、自国で生産できればその必要はなく、万全となる。
地政学・戦略学を専門とする奥山真司氏(多摩大学大学院客員教授)はこう説明する。
「核抑止が効いて中東が安定する可能性があります。ただし、そこに至るまでの状況はカオス、混沌となる側面もあります」(奥山氏)
そして実はその混沌は、すでに始まっているのだ。
7月30日に米・サウジ軍がイラク北部の親イラン系武装組織、人民動員隊を空爆した。そして、翌日にサウジは国際海上防衛連合を創設。そこにはクウェート、カタール、バーレーン、パキスタン、トルコ、エジプト、ヨルダンなど14ヵ国が参加し、イラン包囲網を形成した。仮にそのサウジが将来、核武装したら、イランはどうするのだろう。
「サウジもそれなりのミサイルも持っているし、イランも自分たちと同等の軍事力を持つような国がでてくるのは嫌でしょうね」(菅原氏)
そう進むかに見えた中東核兵器事情。しかしここで中東の混沌は、カオスの根源でもあるトランプ米大統領に戻っていく。
「トランプ自身が原子力協定締結の条件がサウジ・イスラエルの国交正常化だと言い出してしまったことから、同協定は現在、宙に浮いた状態になってしまいました。先に進むのかどうか、現時点では不明です。
同協定にサウジを引き込んだのは、アブラハム連合にサウジを引き込むための戦略的な動きと思われましたが、またしてもトランプの前言撤回で分からない状況になりました。サウジがトルコ、パキスタンと安全保障協定を新たに結んだのは、そうした不安定な状況に対する保険なのかもしれません」(菅原氏)
ならば、この米・サウジ原子力協定が提案通りに進んだ場合、これは遠く中東だけの未来の話ではない。いずれ日本と韓国にも影響を及ぼしてくる。
「核不拡散を米国が諦めたという見立てで、日本、韓国にも核武装の道が開かれると周辺国には認識されてしまうでしょう」(奥山氏)
【極東の核兵器】
韓国は核武装したいのだろうか? 韓国国内の新聞では、「なぜサウジが濃縮できて、我々はダメなのか」と騒いでいる。奥山氏、菅原氏が韓国の声を説明する。
「韓国にとってアメリカの影響力は強いので、核武装が出来るかどうかはわかりません。しかし 韓国国民の意見としては、2、3年前のデータで『韓国製の国産核兵器ならばいい』という声が8割近くを占めました」(奥山氏)
「北朝鮮が核武装していて、中国はそれを認めています。さらにアメリカも今は北の核兵器をそれほど問題にしていない。そんな中で北の脅威が強まっているのであれば、自分たちもちゃんと核を持って抑止しなければ、と当然韓国は思うんじゃないですか。その韓国に、アメリカが核保有はダメだと言うのはロジック的に難しいですよ」(菅原氏)
そして日本。日本は第二次大戦で米国を奇襲している前科がある。核武装はドイツと同様に、絶対に国際社会で認められることはないだろう。
しかし、これを好機と利用する国がいる。
中国とロシアは7月24日の外相会談で「日本の再軍備を阻止する」として一致している。そして現在、中国の対日批判はすさまじい。そんな日本が「核武装する」と言い始めれば、中国には日本攻撃の一大チャンスとなる。
また、中国は米国とはいまや大の仲良しだ。その米国はイランの核武装を認めず、戦争を起こした。中国もこの米国の方法に学ぶ可能性がある。「日本の再軍備と核武装の阻止」を御旗に、米国がイランにしているような攻撃を日本にしてこないという保証はどこにもない。
核議論に踏み込んだ小泉防衛大臣。中国には鴨がネギを背負ってきた発言となるのか......(写真:共同)
そんな危険な状況下に小泉進次郎防衛大臣は「(再軍備、核武装を)タブーなく議論をしなければ」と発言。「日本の再軍備と核武装の阻止」というカードを持った中国にしてみれば、飛んで火にいる夏の虫なのではないだろうか。
「いま、小泉防衛相や防衛省側は、相当な危機感を持っています。日本としても核兵器に関して、言及せざるを得ない状況になっています」(奥山氏)
トランプ米大統領がイラン包囲網にサウジを加えるため、ウラン濃縮施設の建設を認め、サウジの核武装への道を開いた。それが、米国が核拡散を諦めたとして、極東に飛び火し、「日韓核武装への道を開いた」と他国、特に中国に思われて逆利用されてしまう......こちらとしては大変な迷惑だ。
米国が核を口実にイランを攻撃したように、中国は日本に徹底的な空爆をしてくるのではないか。事実、近年、中露が日本周辺での爆撃機の共同訓練を頻繁に行なっている。
「いきなり日本に空爆するようなことはないと思います。中国は意外と軍事力を使うことにはすごく慎重な面がありますから。ただ、中国はこのカードをプロパガンダ戦に使ってくると思います」(奥山氏)
奥山氏だけでなく、菅原氏も同じような考えを明かす。
「日米同盟下で、どういうことをやれば武力攻撃、武力侵攻に当たるのか。そういったことを中国はちゃんとわかっています。だから、アメリカの対イラン攻撃みたいなことはやりません。もっと違うやり方をしてきます。
例えば『日本国内に蓄積しているプルトニウムを外に出せ』とか、『もっと強力な査察を受けいれるべきだ』と主張し、日本は核武装するから危険だというプロパガンダを仕掛けてくるでしょう」(菅原氏)
【世界に露見した"ある事実"】
直接の攻撃がないのであれば安心ではあるが、実はそれ以上に大変な事態があると奥山氏は指摘する。
「今回のイラン戦争に関して、衝撃の事実がひとつあります。それは、米国が同盟国を守れないということが、イランを含め世界にバレてしまったことです。
湾岸諸国のバーレーンの米海軍第五艦隊基地、そしてサウジ、クウェート、カタール、ヨルダンにある米軍基地をイランに攻撃されて、米軍はそれを守れなかった。さらに湾岸諸国の淡水化施設、天然ガスプラントなどがイランからの攻撃で被害を出している。
米国は米軍基地を置かせてもらっている湾岸同盟国諸国の基地も、その同盟国も守れていない。もう米国を頼れないので、ペルシャ湾岸諸国は独自にイランと交渉しています。これと同じことが東アジアでも起こると思えませんか?」(奥山氏)
すると、中国は同盟国を守れない米国の弱さを突いてくるだろう。
「私が昔からよく言っていますが、中国は相手の一番弱い所を攻めて来ます。今、米国の一番の弱みは同盟国を守れず、その国の米軍基地も守れないこと。
中国がイラン型の攻撃を仕掛けてきたときに、米国は日本にある在日米軍基地も、自衛隊の基地も守れないんです」(奥山氏)
となれば、ペルシャ湾岸諸国がイランと独自交渉を開始したように、今、南シナ海で徹底的にやられているフィリピンは中国と交渉して、中国側に付くかもしれない。そして、それを見ていたなんと台湾も中国側に付くのでは......。日本はどうすべきなのだろう?
「7月22日のASEAN関連会合で、日本の茂木敏充外相が中国の王殻外相と会話をしたと日本では報道されました。しかし、中国国内ではそんなことはなかったと否定されています。今、日本は中国とは全く対話ができない状況です」(菅原氏)
極東では日本だけが非常に危ない事態に陥っているのかもしれない。
「マイケル・ハワードと言う世界的な軍事史学者が、1961年に書いたデビュー作『普仏戦争』(本邦未訳本)のなかにこうあります。
『普仏戦争も含め、あらゆる戦争は、結局、そこで使われている武器、軍事組織、それらあらゆるモノは結局、背後にいる社会が存在する。実は、軍隊だけが戦っているのではなく、その社会が戦争を戦って、勝敗に影響を与えているんじゃないのか?』。
つまり、小泉防衛大臣がこのタイミングで、『タブーなき核論議』と核兵器に関して踏み込んだ発言をしたのも、日本周辺の事態が戦争に関して切迫しているため言わざるを得なかったから。しかし、日本側の社会、日本国民がまだその状況に付いて来てくれないというもどかしさがあるのでしょうね」(奥山氏)
日本国民は酷暑に喘(あえ)ぎ、物価高と人手不足、天災への対応に勤しんでいる。日本国民は安全保障に関する都合の悪い話は常に遠ざけ、平和な国だと信じていたい。ただこの状況を鑑みれば、タブーなき安全保障の議論も必要なのかもしれない。