新シーズン開幕直前、ドイツ1部リーグ・ブンデスリーガのアルミニア・ビーレフェルトへ期限付き移籍した堂安 律(どうあん・りつ)。

「すべてを投げ捨て、ドイツの地でイチから成り上がる」と決意するまでの心の葛藤、再確認した夢への道のり、そしてブンデスリーガ開幕戦後にもらした本音とは――。

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■サッカーがもっとうまくなるために

今季からドイツ・ブンデスリーガのアルミニア・ビーレフェルトへ移籍しました。原点に戻って、「どうしたら自分はサッカーがもっとうまくなれるか?」と子供の頃のような純粋な気持ちでそのことだけを考えて決断しました。

ドイツでイチから成り上がっていこうと腹をくくったので、今は気持ちが充実していてハングリーな状態です。

客観的に考えれば、22歳でヨーロッパでは名の知れたPSVというビッグクラブに所属しているのに、それをすべて投げ捨てて、あえてアクションを起こすのはリスクがあるし、誰もが想像していなかったサプライズな移籍だと思います。

もちろん、ずっと言い続けている「チャンピオンズリーグ優勝」という夢を逆算して考えると、PSVにいたほうがいいかもしれない。PSVで大活躍できれば、さらに上のビッグクラブへの道が切り開かれるので。

それはまさに教科書どおりのステップアップの仕方だと思うけど、自分の中ではそのイメージがなかなか湧かなかった。

正直なところ、PSVでフローニンゲンのときみたいなプレーができるイメージを持てなかったんです。

なぜかPSVのサッカーはフィーリングが合わなかったし、この1年間はそれにアジャストしようと試行錯誤してきました。

またその試行錯誤が続くのかと考えたら、もう一度環境を変えてハングリーな状況で夢に向かって進んでいったほうが一見遠回りかもしれないけど、案外近道なんじゃないかなと感じたんですよね。

ファンやメディアからは別の景色が見えているかもしれないけど、俺から見えている景色はそうなんです。

ビーレフェルトへの移籍は誰にも相談せず、自分ひとりの思いで決めました。

だから、移籍を報道で知った知り合いから「ひと言くらいちょうだいよ」って反応が返ってきました。周りの人たちに多数決を取ったら、きっとPSVに残ったほうがいいって意見が多くなるのはわかっていたので。

もしかしたら人生で一番大きな決断だったかもしれないです。順風満帆じゃないサッカー人生なのが俺らしいなと思いますね。

■ドイツに来て俺は終わらないか?

2020-21開幕戦は格上フランクフルト相手に1-1で引き分けたビーレフェルト。堂安は右インサイドハーフで攻守にわたって躍動した

正直、フランクフルトとの開幕戦(現地9月19日)が始まるまでは不安で怖かった。「大丈夫か? ドイツに来て俺は終わってしまわないのか?」って思いもありましたから。

しっかり化けるために、吹っ切れて前向きにプレーしようと思ってこっちに来たのに、それが変わらず、以前と同じような消極的なプレーをしてしまうんじゃないかという不安ですね。

でも、ブンデスリーガデビュー戦となった開幕戦で自分の思うようなプレーができたので、ホッとしました。

そんなにバックパスはなかったし、常に前にプレーできていた。前を向けば改めてボールを奪われないという自信もつきました。

やっぱり5本中5本バックパスして、パス成功率100%よりも、5本中1本ビッグチャンスをつくるパスを出せたほうが面白いんでね。そういうメンタルから何からすべてを変えていこうと思ってドイツに来たので、ビビらずにプレーできてよかったです。

前に向かってプレーしたいと思っても、なかなか意識だけでは変わらないものなんです。それで変わるんやったら、半年前からPSVで変わっていたはず。わかんないです、こればっかりは。

もしかしたら、ゴールやアシストよりも何よりも、とにかくチームを勝たせたいという一心でプレーしたから、自分の能力が引き出されたのかもしれない。

そんなことを試合中に感じたからこそ、試合後に「自分の身を削ってでもチームの勝利に貢献したい」という言葉が自然と出てきた気がします。

自分はそういうモチベーションのほうがいいプレーができるのかもしれない。

オランダ1年目はただただ勝ちたい一心でプレーしたから結果を出せたけど、2年目にちょっとずつ評価されてきて、ゴールやアシストを強く意識するようになりました。

正直、負けても悔しくなかった。2-1で負けても自分がゴールを決められればそれでいいやと思ってましたから。

今回、すべてを捨てて成り上がるためにドイツに来たし、「何がなんでも1部に残りたい」というビーレフェルトのチームの方向性と自分の気持ちがうまくハマっている気がします。

■何か変わらなくちゃ夢は叶わない

開幕戦では格上のフランクフルト相手に自分の価値を多少なりとも発揮できました。ビーレフェルトは今季2部から昇格した小さなクラブなので、「毎試合、ジャイアントキリングを起こしてやる」というモチベーションでやっています。

チームの目標は1部残留だけど、俺はただただサッカーがもっとうまくなりたいと思ってやっているだけなので、子供のように目をギラギラさせて、魂でサッカーをやりたいですね。

今季のプレシーズンで4年目は「進化」の年にすると言いましたけど、何か変わらなくちゃ、変えなくちゃ夢は叶(かな)わない。すごく大きな一歩を踏み出せたかなと思います。

●堂安 律(どうあん・りつ) 
1998年6月16日生まれ、兵庫県尼崎市出身。ガンバ大阪、FCフローニンゲン(エールディビジ)を経て、2019年にPSVアイントホーフェン(同)へ移籍。今夏、アルミニア・ビーレフェルト(ブンデスリーガ)へ期限付き移籍。18年9月には満を持して日本代表デビュー

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