『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』中村和孝編・後編「アイドルを撮るのに最初は苦手意識がありました」

取材・文/とり 撮影/佐分稜


あまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していくインタビュー連載が、週プレ創刊60周年を記念して復活します! 復活後の第一弾となる今回は、田中美久さんの3rd写真集『ぜんぶ、ほんと』や渡邊渚さんの1st写真集 『水平線』をはじめ、アイドルから女優さんまで、幅広く写真集の撮影を手掛ける中村和孝氏が登場。

後編では、カメラマンとしてのキャリアについて。カルチャー誌やファッション誌を中心に仕事をしていた氏が、アイドルの写真集やグラビア誌の撮影をするようになった経緯を聞いた。すると意外な展望が明らかに......?

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――東京工芸大学卒業後、作品を撮るためロンドンに渡り、帰国後は外苑スタジオに勤務。その後独立されたとのことですが、すぐに仕事はあったのでしょうか?

中村 辞めてすぐ、スタジオマン時代に仲良くなった徳間書店の編集者の方に仕事をいただきました。当時放送されていたSF系のテレビドラマ『X-ファイル』のガイドブックの中で、UFOの研究者の方をインタビューするということで、その写真を撮影したのが最初の仕事です。すごく鮮明に覚えているのが「京王で待ち合わせ」と言われて、ぼくは新宿の京王デパート(京王百貨店)で待っていたんですよ。昔は、色んなデパートの屋上に遊園地があったので、そういうところで撮るのかなって。でも、一向に担当者が来ないんです。当時は携帯電話もない時代。仕事用にPHSを買ったのですが、公衆電話が近くにないと使えないんです。慌てて電話できる場所を探してかけてみたら「京王プラザホテルだよ」と言われて、ダッシュで向かいました。汗だくになりながら撮影した記憶があります(笑)。

――初仕事ならではの初々しい思い出ですね(笑)。

中村 そのあとも、映画やドラマの撮影現場に入って写真集用のスチールを撮影する仕事をいくつかやりました。映画『[Focus]』の現場でずっと浅野忠信くんを撮らせてもらったり、ドラマ『MISTY~ミスティ~』の現場で豊川悦司さん、天海祐希さん、金城武さんらを屋久島で1ヶ月間撮影したり。映像の邪魔にならないよう隙間を見つけて撮らなきゃいけないから、結構大変なんですよ。東京に帰ったらすぐラボに現像を出して、プリントは全部自分でやっていました。その『MIST』の映像を撮ってた方が、岩井俊二監督の『スワロウテイル』を撮っている篠田昇さんという方で、色々教えてもらって、すごく刺激を受けましたね。実際に撮影に使っている改造レンズを見せてもらって、こういうのもありなんだって思ったり。現場の方には厳しいんですけど、ぼくは部外者だったので、優しくしてもらえたんです(笑)。

――いいお話ですね。それに独立後、ちゃんとお仕事もあったようでよかったです。

中村 最初に仕事を振ってくれた徳間の方が、社内でぼくを紹介してくれたのが大きかったです。ただ、すぐ仕事はできたけど、入金まで時間がかかるじゃないですか。だから独立後2,3ヶ月くらいはポスティングのバイトで食い繋いでいましたよ。ブック持って、売り込みにも行きました。最初は全然ダメだったんですが、唯一使ってくれたのがカルチャー誌『IN NATURAL』(ネオファクトリー)。そこでファッションの撮影をするようになって、『流行通信』(流行通信社/現・INFASパブリケーションズ)や『FIGARO japon』(CCCメディアハウス/現・CEメディアハウス)、『SPUR』(集英社)などに繋がっていきました。

当時、中村さんが表紙を撮影した『流行通信』(1999年6月、431号)当時、中村さんが表紙を撮影した『流行通信』(1999年6月、431号)
――わりと早い段階からファッション誌の仕事が軌道に乗ったんですね。グラビア的なお仕事は何が最初だったんでしょう?

中村 ハッキリとは覚えていないのですが、中国を拠点に活動する聖麗美少女隊セレスという5人組アイドルグループの写真集『チャイナシュガー』(徳間書店/1997年)を撮影したのが最初だったかな。氷点下10度の北京で、極寒の中で撮影をしました。あと安藤希さんという女優さんの写真集『N*note』(徳間書店/1998年)も撮影しましたね。いずれも徳間書店の方にいただいたお仕事です。

――90年代からやっていらしたんですね。イメージでは当時AKB48のメンバーだった小嶋陽菜さんの写真集『どうする?』(宝島社/2015年)辺りからだと思っていました。

中村 でも、その二冊を撮影して以降は小嶋さんまでやっていないと思います。というのも当時のぼくは、とにかくカッコいい写真が撮りたかったんですよ。でも、アイドルの方や制服姿の女の子を撮ると、どうしてもかわいい感じになっちゃう。それはそれで間違いではないし、その中で自分が思うカッコよさを出すことも出来たとは思うのですが、当時のぼくにそのような発想がなく......。以降、しばらく避けていた気がします。

――女の子をかわいく撮るアプローチに苦手意識があったんですね。

中村 藤井リナさんのスタイルブック『LENA』(SDP/2008年)や、平子理沙さんの写真集『Etoile』(講談社/2009年)、佐々木希さんの写真集『Non』(集英社/2009年)も撮らせてもらっていますが、ファッションの編集部から出ているものなので、下着の写真はあってもグラビアとはアプローチが全然違います。そういう意味では、小嶋陽菜さんの写真集はターニングポイントだったかもしれないですね。

――小嶋さんの写真集は、最近のモデルさんから"当時見てた写真集"として例にあげられることの多い一冊でもあると思います。豊満なスタイルと上品な佇まいは、女性も惚れてしまうセクシーさでした。

中村 ファッション誌『Sweet』(宝島社)で何度も撮らせてもらったご縁で、写真集のお話をいただきました。小嶋さんの写真集に続き、(当時、乃木坂46の)白石麻衣さんの写真集『パスポート』(講談社/2019年)が大ヒットしたのを機に、アイドルさんや女性タレントさんの写真集のオファーが増えた気がします。たくさんの方に見ていただけた実感がありました。お二人とも、さすが国民的アイドルですよね。

――週プレでも2015年に小嶋陽菜さんの表紙を撮影されています(2015年03月16日発売13号/写真集『どうする?』のパブと合わせて掲載)。2017年には内田理央さんの表紙を(2017年3月27日発売13号)、その後、2019年に当時NMB48の白間美瑠さんのファースト写真集『LOVE RUSH』の撮影を手掛けられ、じわじわと週プレでお名前を見る機会が増えた印象です。最初に抱かれた苦手意識はなくなったのでしょうか?

(左)『週刊プレイボーイ』2015年03月16日発売13号/(右)『週刊プレイボーイ』2017年3月27日発売13号(左)『週刊プレイボーイ』2015年03月16日発売13号/(右)『週刊プレイボーイ』2017年3月27日発売13号

中村 そうですね。何となくコツを掴んだのもあると思いますが、いちばんは、キャリアを重ねたことも大きい気がします。若い頃に比べて物分かりがよくなったというか。器用になったんだと思います。ただ、最近はどれも「中村和孝っぽい写真」になっているという反省もあって......。使うシチュエーションやアプローチが無意識のうちに似てしまっているんですよね。もちろん、それを求めてオファーしてくださる方もいらっしゃると思うのですが、今後は少しずつ、中村和孝らしさを崩していかなきゃなと思っています。

白間美瑠ファースト写真集『LOVE RUSH』より白間美瑠ファースト写真集『LOVE RUSH』より
――そんなふうに考えていらしたとは......。カルチャー誌やファッション誌の現場とグラビアの現場は、雰囲気が全然違うと思います。中村さんが感じる両者の違いがあれば教えてください。

中村 ファッションの現場では、服を綺麗に見せるために、スタイリストさんからの「こう撮ってほしい」をもとに撮影を進めていきます。でもグラビアの現場は、事前に編集者さんからいただいたイメージをもとに、カメラマンである自分が舵を切っていかなきゃいけない。そこが大きな違いだと思います。現場の舵取りはあまり得意ではありませんが、その分、自由に撮らせてもらえるのがグラビアの楽しいところですね。写真集に関しては、モデルさんの思い出に残る撮影をご一緒させてもらっている感覚があります。ファッションにもスタイルブックという文化がありますが、モデルさん自身に焦点を当てた一冊が作れるのは、すごくいい仕事をさせてもらっていると感じますね。

――週プレ刊行の写真集もたくさん手がけられていますが、特に思い入れのある一冊を挙げるとすると?

中村 渡邊渚さんのファースト写真集『水平線』は思い出深い撮影でしたね。タイのクッド島で4泊5日にわたる撮影だったのですが、とにかく移動が大変で、ハプニング続きだったんです。それでも彼女は暗い顔ひとつせず、予定変更すらも楽しむかのようにずっと笑顔だったんです。撮影中も、冷たい川に臆せず入ってはそのまま寝転がってくれました。現場に身を任せてくれているのが伝わってきましたね。現地の光も本当に綺麗で、彼女の前のめりな感じも相まって、タイとは思えないような神秘的な写真がたくさん撮れました。

渡邊渚ファースト写真集『水平線』より渡邊渚ファースト写真集『水平線』より
――渡邊さんの写真集は、いい意味で和孝さんらしくない写真も多かったように感じます。街中でのスナップ的な写真もさることながら、普段は艶っぽいイメージなところ、渡邊さんに関しては湿っぽい感じがして。彼女の体温までもが感じられるようでした。

中村 彼女自身がそういう人だったんですよ。カラッと明るいだけじゃなく、どこか湿度がある感じというか。場所を変えるごとに、染まるように表情が変わっていくんです。指先や些細な仕草、体全体からも、色んな表現力が垣間見えましたね。自然とバリエーションも増え、見応えのある写真集になったと思います。ひとえに、渡邊さんの人柄と気概のおかげです。

――今年3月には田中美久さんの3rd写真集『ぜんぶ、ほんと。』が発売され、7月には七瀬ななさんのファースト写真集の発売も控えています。先ほどおっしゃったように、紙の写真集はモデルさんの思い出にも残る一冊。こうして依頼が続いているのを見ると、中村さんへの信頼を感じます。改めて、撮影中に意識していることがあれば教えてください。

中村 時と場合によりますが、とにかく引いて撮ることが多いです。画角の話ではなく、距離感と言うんですかね。特にグラビアは、モデルさんの存在ありきで成り立つものだから、ぼくの思いをぶつけるのは違うと思っています。現場でもモデルさんとはあまり話さないほうだと思います。あとはシンプルに撮ること、いい光を逃さないこと、ですかね。

田中美久さんは、カメラを向けていない瞬間もずっと明るく、ノリも良くて。どこでも撮らせてくれるので楽しかったです。七瀬さんはナチュラルさ、清潔感を意識して撮影しました。結構なポーズ数を撮らせていただいたので、こちらも楽しみにしていただけたらと思います。

(左)田中美久3rd写真集『ぜんぶ、ほんと。』より/(右)『七瀬ななファースト写真集(仮)』より(左)田中美久3rd写真集『ぜんぶ、ほんと。』より/(右)『七瀬ななファースト写真集(仮)』より
――中村さんとよくお仕事をご一緒されている編集者から、中村さんの現場はいつも雰囲気がいいと聞きました。どんな状況でも変わらず穏やかで、冷静に現場を回してくれる。モデルさんから逆オファーを受けることも多いかと思いますが、写真の美しさだけでなく、そういった空気感にも信頼があるのだと感じました。

中村 ありがとうございます。まぁ、あまり深く考えていないだけですけどね。もともとが楽観的な性格なので(笑)。でも、編集者さんからはもちろん、モデルさんからも「撮ってほしい」と言っていただけることは素直にうれしいです。今後もマイペースに、たくさん撮影に呼んでいただけるよう、粛々と頑張ります。


●中村和孝(なかむら・かずたか) 
1971年生まれ、愛媛県宇和島出身。 
趣味=写真を撮ること 
東京工芸大学卒業後、単身ロンドンに渡り、のちに私家版写真集『London』を刊行。帰国後は外苑スタジオ勤務を経て独立。映画やドラマの密着から、カルチャー誌・ファッション誌を中心に活動する。小嶋陽菜写真集『どうする?』(宝島社/2015年)を皮切りに、累計発行部数50万部の大ヒットを記録した白石麻衣写真集『パスポート』(講談社/2017年)をはじめ、アイドルの写真集やグラビア誌での撮影を数多く手がける。集英社からは深田恭子写真集『Brand new me』、渡邊渚写真集『水平線』、田中美久写真集『ぜんぶ、ほんと。』などを刊行。2026年7月には七瀬ななファースト写真集『みつめて。』が発売予定。

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