韓国代表前監督・洪明甫(ホン・ミョンボ)は日本が救うべきだろ!

写真/共同通信社

W杯のグループリーグで敗退し、韓国代表監督を辞任した洪明甫氏W杯のグループリーグで敗退し、韓国代表監督を辞任した洪明甫氏

W杯北中米大会での惨敗により、韓国で吹き荒れる前代表監督・洪明甫(ホン・ミョンボ)氏への激しい批判は、韓国サッカー協会の〝不正疑惑〟の追及にまで発展。

ただ彼は、Jリーグの発展に貢献した外国人のひとりだ。今や母国にも居場所がない洪明甫氏に手を差し伸べる国があるとしたら、それは日本ではないだろうか――?

【「無能!」のそしりに大統領も便乗】

「強敵のいないグループリーグA組で3位(1勝2敗、勝ち点3)に終わり、決勝トーナメントに進む上位32チームにも入れなかった。韓国のワールドカップ史上、最低最悪の恥ずべき成績となりました」(韓国紙東京特派員)

サッカーW杯北中米大会、あえなくグループリーグで敗退した韓国代表チームの指揮官、洪明甫前監督への批判が止まらない。

帰国時の仁川(インチョン)国際空港での怒号や罵声は序の口。「洪明甫の入店お断り」という張り紙を店頭に掲げるレストランも現れる始末だ。

殺害予告も飛び出た。SNS上に「空港で洪明甫を殺害する」との脅迫文が投稿されたのだ。そのため、警察が急遽、仁川空港へ出動。160人もの警察官が厳戒警備に当たるという物々しさだった。

韓国代表の公式サポーター「赤い悪魔」のひとりがこう声を荒らげる。

「従来の4バックに代わり、新しく採用した3バックがまるで機能していない。なのに、3バックにこだわり、失点を重ねた。代表の絶対的なエースである孫興民(ソン・フンミン)の起用ぶりにも納得がいかない。グループリーグ1、2戦は後半に交代、3戦目の南アフリカ戦に至っては先発から外す始末。これじゃ勝てっこない。洪明甫はあまりにも無能!」

韓国代表の選手たち。同国内では「歴代最強のメンバー」と期待されていただけに敗退には失望が広がった韓国代表の選手たち。同国内では「歴代最強のメンバー」と期待されていただけに敗退には失望が広がった

驚くのは、李在明(イ・ジェミョン)韓国大統領までもがSNSに「能力よりも身内を重視し、無能な指揮官を選べば、結果は火を見るより明らかだ」と投稿、洪明甫バッシングに前のめりに参戦していることだ。

韓国政府は韓国サッカー協会に年間110億ウォン(約11億8000万円)を支援していることもあって、口出ししたくなったのだろうが、さすがにヒステリックな反応だと言わざるをえない。

しかし、この批判を受け、警察当局は「洪明甫を監督に選任したプロセスで、サッカー協会幹部が不当な介入をした疑いがある」として捜査に着手。その責任を取る形で同協会の会長が辞任するなど、今や、韓国サッカー界を揺るがす大トラブルへと発展している。

洪氏と親交があり、北中米大会前から代表チームを密着取材してきたスポーツジャーナリストの慎武宏(シン・ムグァン)氏がこう残念がる。

「国民の怒りも理解できます。W杯の試合会場でも韓国サポーターから、監督の起用法については大きなブーイングが上がっていました。もちろん理由があっての決断でしょうが、それが結果に結びつかなかったことも事実です。今大会の洪氏の采配ぶりに、指揮官として『あまりに引き出しが少なすぎる』と批判されても仕方ない部分があったことは否めません」

洪氏は将来のサッカー協会会長を周囲から嘱望されていた人でもあった。ただ、今回の騒動でその目も消えたという声もある。

【苛烈な批判を招いたふたつの要素】

それにしても、韓国国民の反応はいささか度が過ぎてはいないか? この疑問に前出の東京特派員がこう答える。

「バッシングが苛烈になる背景にはふたつの要素があると思います。ひとつは公平さを欠いた特権層(富裕層)への怒り。もうひとつは与野党の支持率を巡るせめぎ合い。これらが発火点となっているんです」

競争社会として知られる韓国では、受験や就職、昇進など、人々はあらゆるシーンで過酷なレースを強いられる。しかし、特権層はその財力やコネを活用し、げたを履かせてもらってレースに悠々勝利というケースがままある。

そのため、一般の国民の間では「競争は公明正大に行なわれるべき」という意識がとても強く、違反者にはことさらに厳しい目が注がれるのだ。東京特派員が続ける。

「多くの国民にとって、洪氏と協会幹部がまさに、『不公正なレースをした特権層』に映っているんです。公正であるはずの代表監督選びにおいて、協会幹部が洪氏を身内びいきし、きちんとした選任手続きを取らずに決めてしまったと疑っている。

しかも、監督報酬は相場の2倍の20億ウォン(約2億1400万円)。なのにグループリーグ敗退とはけしからんというワケです」

韓国代表の帰国時、ファンが掲げたプラカード。「洪明甫! 金を払って出ていけ!!」などと書かれている韓国代表の帰国時、ファンが掲げたプラカード。「洪明甫! 金を払って出ていけ!!」などと書かれている

前出の慎氏もこう言う。

「洪氏の名誉のために言えば、協会の戦力強化委員会の最終選考に残ったのはふたりの外国人監督候補と洪氏の3人でしたが、洪氏はKリーグ(韓国のサッカーリーグ)で監督を務め、2回優勝した実績があった。身内びいきという批判は的外れ感があります。

ただ、監督選任を主導した幹部が、洪氏と同じ高麗(コリョ)大学のOBだったんです。高麗大はソウル大学、延世大学と並ぶ学閥です。このことが身内びいき批判を大きくしてしまいました」

では、与野党の支持率を巡るせめぎ合いは洪明甫バッシングにどう関係しているのだろうか。

6月の統一地方選で李大統領が所属する与党「共に民主党」は大勝を予想されながら、ソウル市長選を落とすなど、勝ちきれなかった。おまけに一部に投票用紙が不足して投票できない有権者が出るなど、韓国では「公正な投票ルールが守られなかった」と再選挙を求める声が噴出しているのが現状である。

「この影響で、李大統領の支持率がじりじりと下落しているんです。特に公正な投票ルールを求める層は20代、30代の男性が中心で、その層はそのまま『赤い悪魔』など、洪氏を批判する若い男性サポーターとかぶっている。

李大統領が取ってつけたようにSNSでバッシングに便乗したのは、サッカーファンに寄り添い、公正性の重要性をアピールすることで、政権支持率を少しでも回復させようとした政治的な思惑があったとみています」(前出・東京特派員)

【だったら、日本へおいでよ】

現在、洪氏は家族の住む米ロサンゼルスに戻り、失意の日々を過ごしているようだが、そこでも一部の韓国系レストランから〝出禁〟を食らっているのだとか。

「韓国国民の怒りは根深いです。韓国サッカー界のレジェンドとして愛されてきた洪氏ですが、しばらくはKリーグへの復帰は無理でしょう」(前出・慎氏)

だったら、洪氏にこう言いたい。日本に戻ってくればいい。Jリーグに指導者として復帰すればいいと。

実際、日本では「洪明甫」は愛されキャラだった。1990年代後半から2000年代初頭にかけ、ベルマーレ平塚で1.5シーズン、柏レイソルで3シーズンプレーし、Jリーグを盛り上げてくれた。00年にはJリーグベストイレブン、19年にはその功績からJリーググローバルアンバサダーにも選ばれている。  

しかもその間、バルセロナなどの欧州チームから2度も入団オファーを受けながら、いずれも「やっぱりJリーグが好き」と日本残留を選んでくれている。

1997年にJリーグ・ベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)で日本デビューした洪明甫氏は、守備的ミッドフィルダーとしてチームを牽引した1997年にJリーグ・ベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)で日本デビューした洪明甫氏は、守備的ミッドフィルダーとしてチームを牽引した

そして何よりも人格者だ。洪氏を知るジャーナリストの姜誠氏が言う。

「冷静で統率力がある。なのに威張ったり、おごったりしない。だから、柏レイソルでは当時の西野朗監督たっての要望でキャプテンを任せられたほどです。

こんなエピソードもあります。私が01年に浅草でセルジオ越後さんらとブラジル、日本、韓国の子供を集めてフットサル大会を開いたことがあったんです。そのとき、『大会に参加して子供たちにプロの技を見せてやってほしい』と頼むと、洪氏はふたつ返事で引き受けてくれた。もちろん、完全ボランティアです。

驚いたのは、洪氏が連れてきた柏レイソルの若手日本人選手たちが彼のことを『ヒョンニム』(韓国語で兄貴という意味)と呼んで慕っていたこと。

聞けば、洪氏はチーム結束のため、自腹で若い選手に焼き肉などを食わせ、面倒を見ているとのことでした。私の知る限り、洪氏は本当にナイスガイなんです」

折しも自民党の河野太郎衆院議員も自身のXで「うちのOBのホン・ミョンボをいじめるな」と投稿し、話題になった。河野氏は99年から01年までベルマーレの代表取締役会長だった。そのよしみから猛批判にさらされる洪氏にエールを送ったらしい。

25年、洪氏は来日した際、日本代表の森保一監督と対談している。日韓の現役代表監督が膝を突き合わせて対談するのは日韓のサッカー史でも初のことだった。

その対談をコーディネートした前出の慎氏が語る。

「洪氏の日本サッカー、そして文化への深いリスペクトぶりに驚かされました。行きつけのラーメン屋にきちんと並び、握手や写真を求めるファンに丁寧に応じていた。日本語も理解できるようで、対談中の森保監督の言葉を聞いて、すぐに受け答えするシーンもありました。

Jリーグを離れて25年たちますが、今も日本を身近に感じているようでした。実際、『チャンスがあれば、日本でもう一度サッカーをしたい』と、本人から聞いたこともあります」

だったら悩むことはない。洪明甫よ。日本においで! そしてJリーグのピッチで監督でもコーチでもいいから、その雄姿をもう一度見せてくれ!

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