2026夏の甲子園は"下克上チーム"に注目だ!

取材・文・撮影/菊地高弘

地方大会から波乱続出で初出場校や久しぶりの出場校が躍動の予感!!地方大会から波乱続出で初出場校や久しぶりの出場校が躍動の予感!!

8月5日に開幕する夏の甲子園。今年注目したいのは、前評判を覆して厳しい地方大会を勝ち上がってきた下克上校。そんな注目チームを中心に紹介していきます!

【波乱予感の大会の注目選手】

8月5日から阪神甲子園球場で第108回全国高校野球選手権大会が開幕する。

今夏の甲子園をひと言で言い表すなら「下克上甲子園」になるだろう。地方大会の段階で波乱が続き、今春の選抜高校野球大会(センバツ)で優勝した大阪桐蔭は、大阪大会4回戦で伏兵の大阪立命館に敗れ、今夏の目玉候補だった二刀流の大器・菰田陽生(こもだ・はるき)を擁する山梨学院も山梨大会準決勝で帝京三の前に敗退。

今春のセンバツでベスト4に入った4校はすべて今夏の甲子園出場を逃している。まさに異常事態と言っていい。

そんな中、プロのスカウトの熱視線を一身に集める大物がいる。ドラフト1位候補の織田翔希(おだ・しょうき/横浜・神奈川)だ。身長186㎝、体重80㎏とスリムで手足が長い投手体形。今夏の神奈川大会では自己最速を更新する157キロをマークした。ドジャースの副社長まで視察に訪れるなどMLB球団も興味を示している。

横浜といえば松坂大輔(元レッドソックスほか)ら数々の名選手を輩出した名門である。その中でも織田の潜在能力は群を抜いている。元監督で松坂の恩師でもある渡辺元智氏は「高校時代の松坂と比べると織田のほうがいい」とコメント。今夏に松坂のような伝説級の活躍を見せたら、名実共に「横浜史上最高のエース」になるだろう。

織田翔希(横浜・神奈川)身長186㎝、体重80㎏のスリムな体つきながら、最速は157キロを誇る織田翔希(横浜・神奈川)身長186㎝、体重80㎏のスリムな体つきながら、最速は157キロを誇る

なお、横浜にはほかにもドラフト候補がいる。遊撃を守る池田聖摩(いけだ・しょうま)は熊本で過ごした幼少期から将来を嘱望された内野手。投手としても最速152キロを計測する強肩を最大の武器としており、50m走5秒9と俊足も備える。

中学時代には陸上選手としても活躍し、ジャベリックスロー、走り幅跳び、三段跳びの3種目で熊本王者に輝いた逸話がある。ドラフト戦線では二遊間を守れる選手は需要が高まる傾向があるだけに、今夏の活躍次第では上位指名候補に浮上するかもしれない。

池田聖摩(横浜・神奈川)投手としても最速152キロを計測する、将来有望な俊足内野手池田聖摩(横浜・神奈川)投手としても最速152キロを計測する、将来有望な俊足内野手

2年生にも最速150キロを計測する左腕の小林鉄三郎(こばやし・てつさぶろう)、侍ジャパンU-15代表時代から天才的な打撃センスを評価された川上慧(かわかみ・けい)とタレントがひしめく。今春のセンバツでは神村学園(鹿児島)の前に初戦敗退に終わったが、戦力的には圧倒的だ。

織田に続く逸材として要チェックなのは、末吉良丞(すえよし・りょうすけ/沖縄尚学)と髙部陸(たかべ・りく/聖隷クリストファー・静岡)というふたりの左投手である。

末吉は2年生だった昨夏、エースとしてチームを甲子園優勝に導いたことで知られる。マウンドに根を張るような分厚い下半身が印象的で、最速150キロの剛球と対戦した打者が「消える」と証言するスライダーを武器にする。

末吉良丞(沖縄尚学)昨夏は2年生ながら、同校を甲子園優勝に導いたサウスポー。ケガを克服できるか末吉良丞(沖縄尚学)昨夏は2年生ながら、同校を甲子園優勝に導いたサウスポー。ケガを克服できるか

ただ、今夏の地方大会では左肘痛の故障明けということもあり、登板機会は限られた。気になる進路は、今春時点では「プロ一本」と明言していたものの、今夏の状態次第では一転して進学の可能性も否定できない。

好調時には「ボールをリリースするときに背中が引き離れていく感覚があり、あとひと押しできる」と語る末吉。その独特な感覚が甲子園でよみがえるか。

沖縄尚学には昨夏も活躍した実力派右腕の新垣有絃(あらかき・ゆいと)や、今夏に最速149キロをマークした「第三の男」久髙大瑚(くだか・だいご)も控える。強力な投手陣を生かして連覇に挑戦する。

髙部も昨夏に聖隷クリストファーを初めて甲子園に導き、脚光を浴びた。身長175㎝と上背はないものの、最速150キロをマーク。しかも爆発的なリリースから、打者に向かってホップする体感の好球質だ。そのリリース感覚は本人いわく「左手で握ったボールを指の腹で転がして、最後に指先ではじくイメージ」と常人には理解し難い。

決め球のスライダーでも空振りを奪えるため、高校生では攻略困難。どんな強豪校であっても一発勝負のトーナメント戦で対戦するのを嫌がるはずだ。進路はすでに大学進学が有力視されているが、4年後にはドラフト上位指名が狙える力量だろう。

髙部陸(聖隷クリストファー・静岡)身長175㎝と上背はないものの、最速150キロをマークする左腕髙部陸(聖隷クリストファー・静岡)身長175㎝と上背はないものの、最速150キロをマークする左腕

甲子園初登場の新鋭では平田玲翔(ひらた・れいと/大分商)が必見。身長188㎝の大型右腕で、最速152キロの快速球を武器にする。運動能力が高く、スカウト陣も大舞台でのパフォーマンスを興味深く注視するはずだ。

打撃力も高い平田は今春から高校野球界に導入された指名打者(DH)としても出場し、降板後もDHとして出場し続ける「大谷ルール」が適用される。新時代の到来を実感させる存在だ。

鈴木悠悟(すずき・ゆうご/中京・岐阜)も必ずチェックしたい二刀流の大器。6月の練習試合で12者連続奪三振をマークしたという投球に、自分の間合いでバットを振りこなせる打撃。投打共センス抜群だけに、スカウト陣がどのように適性を評価するのか気になるところだ。

鈴木悠悟(中京・岐阜)投打共にセンス抜群な二刀流。練習試合で12者連続奪三振をマークした鈴木悠悟(中京・岐阜)投打共にセンス抜群な二刀流。練習試合で12者連続奪三振をマークした

外野手では田山纏(たやま・まとい/仙台育英・宮城)が楽しみな好素材。須江航監督が「いろんな意味で度会隆輝(DeNA)みたい」と評するように、明るいキャラクターと左打席からの強烈な打球は見逃せない。球場の雰囲気を変える存在としても、プロのスカウトの評価を高められるか。

【注目の初出場校や久しぶりの出場校】

ここからは地方大会で下克上を果たした注目校をピックアップしていこう。特に初出場校に特徴のある高校がそろっている。

福山(広島)は夏の広島大会での最高成績がベスト16だったという市立高校。広島商、広島新庄の監督を務めた名将・迫田守昭氏が2022年に監督に就任し、徐々に力をつけていく。ところが、迫田氏が体調不良のため昨夏限りで監督を退任。強化の機運がしぼむかに思われた。

そんな福山に救世主が出現する。今年4月に就任した小田浩監督。かつて公立校の西条農、総合技術を甲子園に導いた知将だ。高校野球の現場から離れて高校の校長を務めていたが、職を辞して15年ぶりに高校野球のグラウンドに戻ってきた。

小田監督は「いくらかのミスが出るのがウチの通常運転」と公言する。送りバントを「練習しても失敗するから」と、ことさら練習時間をかけず、それよりもリスクマネジメントの重要性を説いてきた。

今夏の広島大会では、準決勝の呉戦で2点差を追う8回裏に3得点を奪って逆転勝利。ちなみに、呉は小田監督が校長を務めていた高校だった。決勝戦では県内屈指の名門・広島商を逆転で破って、甲子園初出場を成し遂げた。甲子園でも「福山旋風」を吹かせることはできるか。

八王子実践(西東京)は大林素子や狩野舞子を輩出した女子バレーの名門校。しかし、野球部は他部との共用グラウンドのため内野ほどのスペースしか練習場所が取れず、有望選手が集まる環境ではなかった。

学校創立100周年の今夏、西東京大会で日大鶴ヶ丘、佼成学園、創価と甲子園出場経験のある強豪を次々に撃破。春夏通じて初の甲子園出場を決めている。

ひときわ存在感を放っているのが、指揮官の河本ロバート監督だ。アメリカ人の父を持ち、身長190㎝、体重100㎏と豪傑のムードが漂う。現役時代は最速157キロを計測し、ドジャースとマイナー契約を結んだ剛腕投手だった。

八王子実践(西東京)を春夏通じて初の甲子園出場に導いた河本ロバート監督八王子実践(西東京)を春夏通じて初の甲子園出場に導いた河本ロバート監督

ただし、監督となった現在は「去年から右肩が痛くて」と投球不能の状態。選手を相手に打撃投手を務めることはないという。それでも投手指導に定評があり、今夏も塚原翔太(つかはら・しょうた)、奥山慎太郎(おくやま・しんたろう)の二枚看板を育て上げた。選手から親しみを込めて「ロバートさん」と呼ばれるなど、選手との距離の近さも魅力だ。

有明(熊本)は昨夏も熊本大会で決勝に進出した有力校だったが、今夏に重い扉をこじ開けた。準決勝で名門・熊本工を延長11回の死闘の末に破ると、決勝では昨夏に敗れた東海大熊本星翔にリベンジ。

投手力が高く、最速140キロ超の斉藤遼汰郎(さいとう・りょうたろう)と工修哉(たくみ・しゅうや)の左腕コンビを擁する。ふたりによる継投パターン「斉藤・工(さいとう・たくみ)」は甲子園でも話題になるはずだ。

東日本国際大昌平(福島)は社会人野球のレジェンド・江井康胤(えねい・やすたね)氏が監督を務める。福島といえば、昨夏まで4連覇中だった絶対王者・聖光学院が高い壁としてそびえる。東日本国際大昌平は聖光学院の県内86連勝を福島大会準決勝でストップさせ、甲子園初出場を果たした。昨秋は県大会初戦敗退だっただけに、驚異的な急成長と言える。

久しぶりに甲子園に帰ってきた高校も個性が際立っている。横手(秋田)は秋田大会初戦で3連覇を狙った金足農と対戦。3-1と金星をもぎ取ると、あれよあれよと勝ち上がった。秋田商、ノースアジア大明桜といった有力校が次々に早期敗退する追い風もあり、実に57年ぶり2回目の甲子園出場を果たした。

享栄(愛知)も激戦区・愛知で夏の甲子園から遠ざかっていたが、今夏に31年ぶり9回目の出場。2009年夏に中京大中京を全国制覇に導いた大藤敏行監督が8年前から享栄の監督に。当時の愛知高校球界に衝撃を与える人事だった。

優勝の立役者になったのは、変則右腕の上江瀧拓未(うえたき・たくみ)。昨秋はベンチ外だった身長170㎝の小柄なサイドスローだ。大藤監督は上江瀧の練習態度に手を焼いてきたという。

「暇さえあれば練習をサボろうとする。いっこうに体重を増やそうとせず、期限を設けたら体重を量る日になって水を2~3L飲んで、無理やり増やそうとしていたんですよ」

伸び悩んでいた上江瀧だが、大藤監督の「マウンドで遊べ」という言葉に覚醒する。今や最速146キロの速球と緩い変化球を武器に、今夏は要所で好投して愛工大名電での決勝では完投勝利。上江瀧の成長ぶりに、大藤監督は「こういうヤツが成長するのは、指導者冥利に尽きる」と頬を緩ませる。

拓大紅陵(千葉)は1992年夏に甲子園準優勝したこともある強豪だが、2002年を最後に夏の甲子園から遠ざかっていた。今夏は千葉大会決勝まで勝ち上がったものの、相手はセンバツ4強の専大松戸。8回終了時点で0-1と敗色濃厚の展開だったが、土壇場の最終回にドラマをつくる。

4番・片岡拓月(かたおか・たつき)が専大松戸のエース・門倉昂大から逆転3ランを放り込んだ。なお、片岡の父・将義さんは24年前に拓大紅陵が甲子園出場したときの4番打者。愛息の逆転弾にむせび泣く姿は、大きな話題になった。24年ぶりの夏の甲子園出場は片岡父子の悲願でもあった。

【気になる優勝候補は!?】

最後に今大会の優勝候補を挙げておこう。

前述のとおり、戦力的に最有力なのは横浜だ。激戦の神奈川大会を圧倒的な内容で勝ち上がったことからも、地力の高さは伝わるだろう。強力な投手陣を擁する沖縄尚学も昨夏に続いて優勝する可能性はある。

ほかにも優勝候補として挙げておきたいのは、センバツベスト8の花咲徳栄(はなさき・とくはる/埼玉)、5季連続甲子園出場の経験者が残る花巻東(岩手)、センバツで横浜に完封勝ちした神村学園。「日本一の競争」を標榜する仙台育英も下級生主体のチームながら十分に力はある。

近畿勢は今春センバツに出場した高校が1校も今夏の甲子園に出られなかった。ただし、全国屈指の野球どころだけに、どのチームも実力は十分。履正社(大阪)、(やしろ/兵庫)、智弁和歌山など、勢いづいたら頂点に駆け上がっても不思議ではない。

とはいえ、ずばぬけた戦力のチームはない。地方大会に続いて、「下克上の夏」になるのか。戦いの火ぶたが切られようとしている。

  • 菊地高弘

    菊地高弘

    きくち・たかひろ

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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