FIFAワールドカップ2026、サッカー日本代表はグループステージを1勝2分の勝ち点5で2位通過し、3大会連続の決勝トーナメント進出を決めた。オランダ戦では2度のビハインドを跳ね返して2-2のドロー、チュニジア戦はW杯史上最多タイとなる4-0の快勝。この原稿を書いている時点では、次戦でブラジルとの対戦が決まったところだ。
これだけ盛り上がっていると、私もサッカーについて書きたくなってしまう。実は私、小学1年生のときに1年間だけサッカーをやっていた。当時はすでに水泳も始めていて、サッカーはチーム競技なので良くも悪くもひとりの力ではどうにもできない場面が多く、当時の私にはそれがもどかしかった。水泳は個人競技で、自分が頑張れば頑張った分だけ強くなれるしタイムも伸びる。そこに手応えを感じて、水泳を選んだ。サッカーの道には進まなかったけれど、その後Jリーグ開幕の盛り上がりは肌で感じたし、サッカー日本代表の戦いを見るのは今も大好きだ。
日本サッカーは、本当に強くなった。1993年のJリーグ発足から30年あまり。「Jリーグ百年構想」を掲げ、地域にクラブを根付かせ、育成に力を注いできた日本サッカー協会の積み重ねが、今の代表の姿につながっていると思う。現在の代表メンバーのほとんどが欧州のクラブに所属しており、海外で戦うことが当たり前の世代になっている。サッカーを見ていると、どんなスポーツでも、日本人は世界と対等にやっていける可能性があると感じることができる。
その日本サッカー協会が長年続けてきた取り組みの中に、「JFAこころのプロジェクト」、通称「夢先生」がある。立ち上げから今年でちょうど20年を迎えたプロジェクトで、私も引退後に何度も登壇し参加してきた。今の日本代表の強さの分析は専門家に譲るとして、私が実際に関わっているところから見えることを、今回は紹介したいと思う。
【「夢の教室」とは】
「夢の教室」は、スポーツ選手やアーティストなどが「夢先生」として小学校・中学校を訪問し、子どもたちと直接向き合う授業プログラムだ。私自身も小学5年生・中学2年生と本気で向き合う時間になっている。
授業はふたつのパートに分かれている。最初の「ゲームの時間」では体育館で全員が身体を動かす。チームで協力すること、ルールの中でどう工夫するかをゲームを通じて体感する時間であり、夢先生と子どもたちの距離を縮める役割も果たしている。次の「夢トークの時間」では、自分のアスリート人生のターニングポイントや挫折を子どもたちに話す。サッカーと水泳を両方やってみて水泳を選んだ冒頭のエピソードも、私が伝える話のひとつだ。実際にいろいろやってみた中で自分にとって一番好きなものを見つけてほしいと伝えている。

「夢トークの時間」では、子供たちはいっぱい質問をしてくれます。その後の手紙のやり取りも含めて、私にとっても新たな気づきを得られる貴重な機会になっています
授業が終わると子どもたちから手紙が届き、夢先生も一人ひとりに返事を書く。子どもたちにとっては将来を真剣に考えるきっかけに、夢先生にとっては一人ひとりの言葉と向き合う時間になる。一人ひとりに手書きで返事を書くのは大変ではあるけれど、このやりとりの中にこそ、プログラムの深みがあると感じている。
【強さの裏側にあるもの】
私事になるが、小学1年生の息子が今、あるJリーグチームのスクールでサッカーを習っている。日本サッカー協会の指導者資格を持った若いコーチたちに教わっていて、いつも楽しそうにプレーしている。怒鳴りながら指導するような光景は皆無で、子どもが自分で考えながら動くことを大切にした指導が根付いている。息子の姿を見ると、日本サッカー協会の理念が現場の指導者一人ひとりにまで届いているのだと感じる。
日本サッカー協会は「グラスルーツなくして代表の強化なし」という考え方のもと、キッズスクールから日本代表までを一体として強化を進めてきた。夢先生はその社会貢献活動の柱に位置づけられている。川淵三郎チェアマン(当時)が立ち上げ時に込めた思いは「Dream~夢があるから強くなる。サッカー界がひとつになり、学校教育の現場と力を合わせて子どもの心の教育に貢献していく」というものだった。サッカーの普及にとどまらず、子どもたちの心身の健全な育成そのものを目的に据えたところに、このプロジェクトの本質がある。
日本代表やJリーグという表舞台に注力しながら、こうした地道な活動も競技団体として長年続けていることに、私は深くリスペクトを感じている。手間がかかり、すぐには結果が見えにくいことを丁寧にやり続けてきたからこそ、今の強い日本代表があるのではないかと思っている。トップチームから草の根まで、自分たちの理想の状態を描き、その理念を現場の一人ひとりに浸透させていく。すべての団体がここまでできるわけではないかもしれないが、この姿勢には多くのスポーツ団体が参考にできる部分があると思う。水泳をはじめ、各競技団体がこういう方向に向かっていけたらと思っているし、私自身もその一端を担っていきたいと思っている。
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