
村上隆保
むらかみ・たかほ
村上隆保の記事一覧
編集者/ライター 『週刊プレイボーイ』では、特集記事のほかに爆笑問題、リリー・フランキー、ひろゆきの連載を担当。公式X【@takapoda4】

日本人の約2人に1人が罹患し、死因の1位にもなっている「がん」。
身近で、かつ極めて恐ろしい病気である「がん」だが、現在、新しい治療薬が完成しつつあるという。
コロナ禍で話題になったm(メッセンジャー)RNAを使ったワクチンだそうだが、それはどんな仕組みなのか? どれくらいの効果があるのか? 専門家に聞いた!
8月19日、米製薬会社「モデルナ」と「メルク」は、開発中の「mRNAがんワクチン」が、再発リスクの高い皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)の再発と転移を抑制したと発表した。
一部では「このワクチンによって、がん治療は画期的に変わるかもしれない」といわれているが、それはどういうことなのか? 医療ジャーナリストの村上和巳(かずみ)氏に聞いた。
――モデルナというと新型コロナウイルス禍のときにワクチンを開発した会社ですよね。
村上 はい。もともとモデルナが目指していたのは、mRNA技術を使ったがんワクチンの開発なんですが、その途中でコロナ禍が起きてしまった。
ただ、その時点ですでにmRNA技術が新型コロナワクチンの開発に使えるものだったので、先にそちらを作ったんです。ですから、彼らにしてみれば新型コロナワクチンの開発は、横道にそれたものだったのだと思います。
――コロナ禍のときに話題になりましたが、mRNA技術について、改めて教えてください。
村上 mRNAは、人間の体の中にある各種タンパク質を作るための基になる情報(設計図)を伝達する物質です。
コロナワクチンの場合は、コロナウイルスの特定のタンパク質の情報を伝達して、このタンパク質をたくさん作ることで、体がこのタンパク質を異物だと判断し、抗体を作るという仕組みでした。
抗体ができれば、ウイルスが体内に入っても感染や発症を防ぐことが可能です。また、もし感染しても重症化せずに済みます。
では、これががん細胞だとどうなるのか。
今回のがんワクチンは、正確には「個別化ワクチン」と呼ばれるものです。そして、メラノーマという皮膚がんの切除後の再発や転移を抑制したと発表されています。
ということは、患者さんから切除したがんの標本があるわけです。その標本から、そのがんはどんなタンパク質でできているのかを解析して、そのタンパク質を標的とするワクチンを個別に作るということになります。
例えば肺がんの場合、がん細胞に含まれるタンパク質が人によって微妙に違います。さらにいえば、同じ人の体の中にある肺がんでも場所によって組成が違っていたりもします。
ですから同じ化学療法をやっても、Aさんには効果があったけど、Bさんには効果がなかったということがあります。また、同じ人でも一部のがんは小さくなったけど、組成の違うがんが残っているというケースがある。
がん制圧の難しさは組成が均質ではないところなんですが、それを個別化ワクチンで、再発や転移を抑制しようということです。

――そのワクチンで、死亡リスクはどれくらい下がるのですか?
村上 今回の発表によると、死亡リスクは約50%下がったとのことです。ただ、これは速報値で、まだ臨床試験の途中です。ですから今後、死亡リスクがさらに下がる可能性もあります。
ちなみに薬の生存期間比較で、既存薬より25%伸びると「すごい!」といわれる世界なので、それが50%ということは画期的な結果です。
――今回はメラノーマのワクチンでしたが、ほかのがんのワクチンもできるのでしょうか?
村上 実はモデルナのライバル会社であるドイツの「ビオンテック」が、同じmRNA個別化ワクチンによる大腸がんの再発予防に挑戦していましたが、今年8月に臨床試験の中止を発表しました。失敗したということです。
一方のモデルナも現在、肺がんや腎臓がん、ぼうこうがんなど多種のがんの臨床試験を行なっていますが、どのがんにどれだけ効くかはまだわかっていません。
今後の試験結果が注目されています。
――モデルナのがんワクチンが画期的なものだということはわかりましたが、デメリットはないんですか?
村上 デメリットは、ひとりひとりのがん細胞を分析して、オーダーメードでワクチンを作るわけですから、治療費が高価になることです。
たぶん、1回のワクチン治療で1000万円は超えるのではないでしょうか。
ただ、投与対象者は絞られるかもしれませんが、日本には高額療養費制度があるので、月十数万円で治療が受けられる可能性はあると思います。
――アメリカでは早ければ来年にも実用化されるかもしれないという話がありますが、日本ではどうでしょうか。
村上 モデルナは今、アメリカのFDA(食品医薬品局)と迅速承認の交渉をしており、それがまとまれば申請から数ヵ月で実用化されるかもしれません。
日本でも現在、臨床試験中なので、うまくいけば今から2年以内くらいで実用化されると思います。
――最後に、このワクチンはがんを抑制する夢の薬になるのでしょうか?
村上 一部のがんではその可能性があります。ただ、膵臓(すいぞう)がんのような難治性がんは難しいかもしれません。
それでも、がん治療は進んでいます。30年前は〝がんは不治の病〟というイメージがありました。しかし、現在はかつて診断から5年以内にほとんどの患者が亡くなっていたようながんの一部でも、治療を続けながら5年後も約6~7割が生存しているケースもあります。
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AIの登場もあって、がん治療薬の開発は急速に進化しているという。がんを克服する夢の薬ができるまで、あと少しなのかもしれない。