
坂口孝則
Takanori SAKAGUCHI
坂口孝則の記事一覧
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!
AIの爆発的な進化と利用の拡大によって、膨大な計算処理に必要不可欠なデータセンターの需要はもはや待ったなしの状態となっている(画像はイメージ)
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「データセンター」について。
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「政治家はバカですよ」。以前に電力会社の方と話していて、印象的な話を聞いた。
「新しい発電所を作ろうとするでしょ。ほとんどの時間を地元説得とか用地買収に使うんですよ。建設の時間なんてほんのちょっと。政治家が早く建てろっていうなら、中国みたいに民家をブルドーザーで破壊してくれたらいいのに」
後半はもちろん冗談だろう。しかし前半はほんとう。誰もが発電所は必要だと思っている。ただ私の裏庭はやめてね、という「NIMBY(ニンビー/Not In My Back Yard)」なる言葉さえある。
そして2026年、発電所ではなく、AIの指数的な発展にともない最重要なインフラとなったデータセンターがその対象になっている。
秋田市の企業と米国のスタートアップが、投資規模最大4000億円のデータセンター構想を発表した。整備費総額が2兆円規模になる当案件にUAE政府系ファンドが出資か、と報じられた。
日本は地政学的リスクが低く、秋田なら南海トラフ地震も回避できる。さらに地方自治体には土地や建屋、償却資産からの固定資産税がもたらされる。
試算次第だが、秋田市の現状の年間固定資産税徴収額なみの金額になる可能性がある。しかも設立したらなかなか移動できず、税収は長期にわたる。
かつて「トヨタの工場があればウォルマートがやってくる。ただしウォルマートがあってもトヨタはやってこない」という格言があった。地域に独自の産業を創れば、周辺のサービス産業は自然にやってくる。工場は雇用を生む。すると住民の所得が上がり、好循環になる。
しかしデータセンターはやっかいだ。建設時は数千の雇用を生んでも、稼働後には数百の雇用しかない。サーバーのメンテナンスやセキュリティは大都市圏の取引先に委託される。地元には警備や清掃や除雪作業の仕事は残るが、高度業務ではない。
そのいっぽうで、周辺には連続的な駆動音や低周波音、さらに空調からの40℃ほどの排熱がある。農作物への影響を懸念する声があるし、ほんとうに資産価値が下がるかは不明だが、日照問題や景観上の圧迫は避けられない。水資源の枯渇、電気代の高騰、火災の可能性など、住民を不安にさせる側面は多い。
実際、アマゾン社がアイルランドのダブリンで計画していた多額のデータセンター投資は停滞している。さらに米国でも各地で住民との争いが続いている。しかもデータセンターはいまや富の象徴だ。「あの金持ちをさらに儲けさせるために土地を売るのか」という反発は多い。
そこでスウェーデンでは、データセンターから生じる排熱を買い取り、地域の暖房に供給する制度がある。日本でもウナギの養殖、キノコ栽培に熱源を活用する北海道美唄市の例がある。
今回ならデータセンターからの税収を秋田大学でのデジタル人材プログラムなどに活用し、市民に還元するのは有効だろう。世界のデータサイエンティストとつながる企業がくるわけだからメリットは大きい。かつての新設原子力発電所のような扱いを受けないよう、住民が納得できる形にせねばならない。
しかし冒頭の話。ITは自由をもたらすと思っていたが、データセンター建設でも中国に優位性があるとはね。日本の住民説明会ではブルドーザー並みに資料が積み上がる。