日本は"フェンシング王国"なのか!? アジア競技大会で問われる真価

取材・文/白鳥純一 写真/アフロ

五輪の団体で2大会連続ファイナリストになった男子エペ。現在は加納(左端)、山田(左から3人目)が牽引する五輪の団体で2大会連続ファイナリストになった男子エペ。現在は加納(左端)、山田(左から3人目)が牽引する

32年ぶりに日本で開催されるアジア競技大会(愛知・名古屋)が、9月19日に幕を開ける。日本フェンシング界にとっても、今の実力を示す場になるだろう。

東京五輪で同競技初の金メダルを獲得(男子エペ団体)した日本は、パリ五輪では合計5つのメダル。すっかり〝お家芸〟になったかのように思われたが......。今年7月の世界選手権(香港)では、パリ五輪金メダリストの加納虹輝、同五輪で日本選手団の旗手を務めた江村美咲がメダルを逃すなど、不安を残した。

パリ五輪から約2年が経過した日本フェンシング界の現状について、東京五輪のエペ団体金メダルメンバーである宇山 賢氏に話を聞いた。まず宇山氏は、パリ五輪での大躍進について冷静に分析した。

宇山 賢 1991年12月10日生まれ、香川県出身。2021年の東京五輪・男子エペ団体で日本フェンシング史上初の金メダルを獲得。同年10月に現役を引退。2025年3月に筑波大学の社会人大学院を修了。日本フェンシング協会・アスリート委員会の委員長(共同)などを務める宇山 賢 1991年12月10日生まれ、香川県出身。2021年の東京五輪・男子エペ団体で日本フェンシング史上初の金メダルを獲得。同年10月に現役を引退。2025年3月に筑波大学の社会人大学院を修了。日本フェンシング協会・アスリート委員会の委員長(共同)などを務める

「コロナ禍での延期を経て開催された東京五輪の前後に、各国の実力派フェンサーが相次いで現役を退き、その後にパリ五輪が開催されました。

同大会での日本のメダルラッシュは記憶に新しいと思いますが、東京五輪に向けて強化を続けてきた日本代表にとって、選手たちの脂が乗った時期に行なわれたパリ五輪は、勝ちやすい条件がそろった大会でもありました」

そこから各国で新たな選手が育ち、世界の勢力図も少しずつ変わり始めている。

「堅実な強さを維持するイタリア、アメリカなどの強豪に加え、国を挙げての強化が進む中東諸国の躍進、ウクライナの再興、そしてロシア代表選手の復帰といった不確定な要素もありますね」

東京五輪の団体で金メダルを獲得した男子エペは、パリ五輪でも団体で銀メダル、個人では加納が金メダルを手にした。だが、7月の世界選手権では加納が準々決勝で敗れ、団体戦はまさかの初戦敗退を喫している。

「パリ五輪の後の団体戦は、次世代のエースと目される松本 龍、浅海聖哉らを起用して戦い抜いてきました。ただ、加納や山田 優の両エースの負担が増しているように見える場面もありました。

団体戦は、相手のほうが実力やランキングが上でも互角に渡り合える可能性があることが醍醐味です。しかし世界選手権では、加納と山田が実力を出し切れず、逆転を許しました。常に勝ち続けるのが難しいエペ種目の特性を差し引いても、課題が残るものだったと思います」

アジア競技大会では、団体戦で2連敗中のカザフスタンをはじめ、強豪国との対戦も予想される。

「チームとしての戦術を固め、両エースが崩れた際にどう戦うのか。安定した成績を残すためには、まだまだ越えなければならない壁があるように感じますが、奮起を期待したいです」

アジア競技大会の団体で3連覇、個人で2連覇を狙う加納は、開催地の愛知県が地元。今大会の団体戦でもチームの最後を務める「アンカー」での起用が予想されるが、チームメイトと一丸となって故郷に錦を飾りたいところだ。

パリ五輪で日本選手団の旗手を務めた江村。春先に負傷した左足の状態は気になるが、アジア競技大会で実力を示せるかパリ五輪で日本選手団の旗手を務めた江村。春先に負傷した左足の状態は気になるが、アジア競技大会で実力を示せるか

一方、日本女子サーブルを牽引する江村は、2024-25シーズンに日本勢初の年間女王に輝いた。だが、今年の春先に左足を負傷した影響もあり、世界選手権では個人、団体戦の両方でメダルを逃している。

「世界選手権ではメダルに絡めませんでしたが、ケガ明けであることを踏まえると、過度な心配は不要だと思います。自国開催のアジア競技大会に照準を合わせ、そこでメダルを獲得できればさらなる自信を手にするでしょうし、強さに磨きがかかるはずです」

さらに宇山氏は、女子サーブルの注目株として金子優衣奈の名を挙げた。金子はパリ五輪後に代表の主力へと成長し、今大会は江村と共に個人戦にも出場する予定だ。

2025年のアジア選手権で金メダルに貢献した金子(右)。宇山氏はアジア競技大会の個人戦にも注目する2025年のアジア選手権で金メダルに貢献した金子(右)。宇山氏はアジア競技大会の個人戦にも注目する

「アジア競技大会では各国2選手が個人戦に出場し、その戦績によって団体戦のシード権が決まります。もし金子選手が個人戦で上位に進出できれば、序盤で韓国、中国といった強豪国との対戦を避けることができ、戦いを優位に進められます。個人戦では江村選手だけではなく、金子選手のパフォーマンスにも注目してほしいです」

パリ五輪の団体で金メダルを獲得した男子フルーレに目を向けると、飯村一輝(世界選手権の個人戦で銅メダルを獲得)、松山恭助、永野雄大ら2年前の陣容に、馬場俊輔が加入。選手層は厚みを増すも、世界選手権の団体戦では4位に終わった。

「まだ起用法が定まっていないせいか、選手たちが自身の役割を探りながら団体戦に臨んでいるような印象を受けました。

アジア競技大会では、五輪2連覇の張家朗を擁し、近年盛り上がりを見せている香港との対戦も予想されます。そこに向け、技を絞ったり、相手に合わせて戦い方を大きく変えたりと、個人戦とは異なるチームならではの戦い方を整備して臨んでほしいです」

それ以外にも、世界選手権の個人(上野優佳)と団体戦で銅メダルを獲得した女子フルーレや、アジア選手権の団体戦で2大会連続の表彰台を経験した男子サーブルなど、アジア競技大会では見どころが盛りだくさんだ。

「自国の大声援を背に、選手の皆さんが実力どおりのパフォーマンスを発揮できれば、全種目でメダルに手が届く可能性があると思っています」

続けて、折り返し地点を迎えたロサンゼルス五輪に向けた課題にも言及した。

「近年のフェンシング界は世代交代が進み、新たな才能が頭角を現しつつあります。2年後のロサンゼルス五輪では、世界のトップ選手たちが実力に磨きをかけ、もう一段階レベルを上げている可能性も十分に考えられます。アジア競技大会も大事ですが、その結果に一喜一憂することなく、引き続き長期的な視野で強化を進めていってもらいたいです」

日本は〝フェンシング王国〟になれたのか。まずはアジア競技大会で真価が問われることになりそうだ。

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