メジャーデビュー20周年を迎えたKIRINJIのリーダー・堀込高樹
今年でメジャーデビュー20周年を迎えた、KIRINJIが13枚目となるアルバム『愛をあるだけ、すべて』を6月にリリースした。

近年のダンスミュージックやヒップホップを意識しつつ、生楽器と電子楽器を駆使し、力強いビートで作り上げた良質なポップスアルバムだ。特にセンチメンタルなメロディに乗って、大人の日常を優しく包み込むように歌い上げるヴォーカルは涙腺崩壊必至!

そこでリーダーの堀込高樹を直撃。最新アルバムの制作秘話や20周年に至る心境を語ってもらった。

―新作『愛をあるだけ、すべて』、とても素晴らしいアルバムです。毎日欠かさずに聴いてますよ!

堀込 そうですか(照笑)。なんか...すみません。

―いやいや。なんで謝るんですか!(笑) KIRINJIといえば、王道ポップスのイメージがありますけど、今回は最近のR&Bやヒップホップの影響も感じさせますね。

堀込 前作『ネオ』でエレクトロニクスの要素が多くなったのですが、今回はさらにそれを推し進めたというか。より今っぽいダンスミュージックの感触になりましたね。

―何か理由があったんですか?

堀込 今ってダンス寄りの音楽が巷(ちまた)に溢(あふ)れていると思うんですけど、その中でいわゆる70年代辺りを感じる音を出しても埋もれてしまうなって。自分の持ち味を出しつつ、今のポップスとして機能するもの、新しく聞こえるものを作りたいと思ったんです。自分もリスナーとしてそういうのが聴きたいですしね。

―要は今までのKIRINJIとは違うものをやりたいと。

堀込 もちろん今までの音が嫌いなわけじゃないけど、愛着だけで作ってると自分が停滞してしまっている気がするんです。「またこれかよ!」って(笑)。自分の中になかったもの、未知のものに向かわないと新鮮な気持ちにならないし、情熱を持って曲は作れないですよね。

―そんな中で今回、特に気合いが入ったものは?

堀込 「明日こそは/It's not over yet」かな。これはアルバムの中でも特に生っぽさを意識した曲です。ビートの音色にこだわったり、間奏を多めに入れて構成に起伏をつけたり、あとブラスを入れて音に厚みを加えたり。いろいろと工夫した分、大変でしたけど(笑)。

―個人的にはサウンドもいいけど、「明日こそは!」って歌詞のサビが哀愁漂ってる感じがして胸にしみました。

堀込 同じ言葉を繰り返し歌っていますが、歌い方を変えて前半と後半で違って聞こえるようにしました。前半の「明日こそは」は明日からやりますと言いつつもずっとやらないイメージだけど(笑)、後半は本当に始まるみたいな感じにしたというか。



―歌い方でドラマ性を生んでいるんですね。「時間がない」も詞が泣けますね。残された時間への切実な想いが伝わってきて。

堀込 僕は来年50歳になるのですが、これから先、あと何枚アルバム作れるかなとか、もし家族に何かがあった時、今まで通りポップな曲を作れるのかなとか考えちゃって。でも時間がないといっても、結局そのまま受け入れるしかないんですよね。だったら明るくいこうって。そういう思いを形にしました。

―そもそもKIRINJIは曲と詞はどちらが先なんですか?

堀込 ほぼ曲が先ですね。曲を聴いてアレンジしながらどんな詞がふさわしいかとか、歌った時に心地よく響くかなとかを考えます。テーマを思いついても、曲に合ったうまい言葉が見つからない場合はボツ。言葉とサウンドとのバランスを常に考えますね。

―言葉の音にもこだわってるから、シリアスな歌詞もポップに聞こえると。「新緑の巨人」もほのかな明るさが漂いますね。

堀込 下の息子が新緑って言葉を覚えて、「新緑の巨人」ってダジャレを言ってて思いつきました(笑)。4~5月に芽吹く風景を巨人が横たわる姿に喩(たと)えて。で、巨人が起き上がったら夏がやってくるぞと。でも調べたら、4~5月って憂鬱になりがちな季節らしいんです。だったら新緑の巨人が現れ、夏を呼んだら憂鬱もどこかへ連れていってくれるって内容にしようと考えました。


―すごく前向きですね。さっきから伺ってるとどの歌詞も以前に比べ明るくなってません?

堀込 そうですね。作詞って自分と向き合うところがあるから、つい深刻になりがちなんですけど明るさは意識しています。前にRHYMESTERと雑談してたら、おっさんの鬱々とした歌なんて誰も聴かないって話になって(笑)。彼らはそれで『ダンサブル』って楽しいアルバムを作ったんだけど、僕もそうだよな~と思いつつ今回、制作に臨みました。それはもちろん歌詞だけの話ではなくて、音楽に向かう姿勢みたいなもの自体です。

―それも年齢的なものが大きいんですか?

堀込 やっぱりそうですね。たとえどんな大変な状況になっても、これくらいの歳になったら、恐らく最終的には大丈夫だなってわかる。何かにつけて、深刻ぶらなくなりましたね。

―考えてみれば、KIRINJIは今年、20周年。堀込さん自身も年齢を重ねてるんですもんね。ちなみにこれまでの中で転機は?

堀込 やはり兄弟でやっていたことから、今のバンド編成に変わったことですね。2013年のことで、そこからいろいろ積極的になった気がします。それ以前は弟とそれぞれ曲を書いて、なんとなく形になっていたけど、今だとそれではメンバーには伝わらないので、事細かに曲作りをするようになったし、あと自分がメンバーに引き入れた手前「堀込が一番下手なんだな」とか思われるのイヤだから(笑)、演奏もしっかりとやるようになったし。それとやっぱり歌はすごく意識が変わりましたね。

―以前は多くの曲で弟さんがヴォーカルをとってましたもんね。

堀込 歌は音楽においてどんな存在なのかとか、自分の声が一番響くにはどうしたらいいかとか、聴く人がどう感じるのかとか徹底的に考えました。それ以前はいいメロディ、魅力的な歌詞、カッコいいサウンドがあれば十分と思っていたんですけどね。ま、それも本来はもっと早いうちにやってなきゃいけなかったんですけど(笑)。

―活動してきた20年で音楽配信サービスが登場したり、音楽の聞かれ方が変わったと思いますけど、そこで意識の変化も生まれました?

堀込 アルバムというパッケージの意味を考えるようになりました。従来のように9~10曲でCD1枚みたいな発想じゃなく4曲、いや2曲でひと括りにするのもありなのかなとか考えたりとか。パッケージのあり方も多様になれば面白いかなって。



―今回のアルバムも9曲入りで約40分。時間も手頃だし、聴きやすい。やはりアルバムで聴いてほしいですか?

堀込 それはありますね。前後の曲によって、詞の意味が違って聞こえたり、曲のテンポも早いとか遅いとか感じたりする。そういうことをひっくるめて曲順を考えていますし。もちろん、これが聴く人にとってベストってことはないのかもしれないけど、1曲単位ではなくパッケージで聴く面白さみたいなものも感じたり、発見してもらえると嬉しいですよね。

―それにしてもKIRINJIってデビュー当時から「ポップス偏差値が高い」「ポップス職人」って言われますよね。20年間ずっと言われ続けるのはどうなんでしょう?

堀込 それ、本当によく言われるんですけど、そうでもないですよ(笑)。確かに初期の頃はいろんな音楽の引用があったからお勉強的な側面もあったけど、今はそれもなくなってきていますし。

―マニアックな音楽ファンからは大瀧詠一さん、山下達郎さんらと一緒に括(くく)られることもありますよね。

堀込 とてもそんな方たちとは比べられないですよ。そもそも音楽をよく知っていると思われがちだけどコレクター気質じゃないし、体系的に音楽を習得しているわけでもないですし。言ってみれば、いろんな点を辿りながら徐々に全体像を思い描いて作品を作っている感じです。解析してとかそういうのとは違うんです。

―ある意味、手探りみたいな。

堀込 そう。それに技術的にもそこまで職人じゃないから、本当にすみませんって感じで(笑)。プロのアレンジャーの方々とかすごいですからね。ビートの組み立てでもピシピシきめてくる。僕なんてやりながらこれで合ってるのかなーなんてね(笑)。音楽理論だってちゃんと勉強したわけでもないですしね。

―何度も聞かれたと思うんですけど、堀込さんにとってポップスってなんですか?

堀込 それ、正直よくわからないです(笑)。通俗的なものがそうなんだろうなって思うくらいで。それに通俗的といっても、レコード文化が生まれて以降の3分間の曲だけをいうんじゃなく、オペラであったり年末年始にやるクラシックの曲だってそうだと思うし。

―逆にそこは意識してます?

堀込 そうですね。俗っぽさはものすごく大事にしています。聴いてわかりにくいアカデミックな曲とか実験的な音楽とか、そういう方向には自分は行かないようにしています。「ポップス偏差値~」の話にもいえるけど、理屈で音楽を理解して作ったってつまんないと思うし、聴いている方だって面白くないと思うんです。

それよりも直感とか、好きとかの感覚を大事にしたいですよね。聴いた人が「おや?」って耳に残って、また聴きたいと思ってくれるような音楽。それをずっと作り続けたいです。

■KIRINJI
1996年10月、堀込泰行(VO/Gt)堀込高樹(Gt/Vo)の兄弟で結成。97年、CDデビュー。2013年4月12日のツアー終了と共に堀込泰行が脱退。キリンジ<兄弟時代>17年の活動に終止符を打つ。以後、堀込高樹がバンド名義を継承、13夏、新メンバーに田村玄一/楠均/千ヶ崎学/コトリンゴ/弓木英梨乃を迎えバンド「KIRINJI」として再始動。昨年12月のコトリンゴ脱退を経て、現在の体制に至る。
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