味変を楽しむ油そばだが、コンビニで販売されているものなら何でも持ち込みOK！
「飲食物の持ち込み禁止」は飲食店での常識だ。しかし、その原則を破ってしまった店がある。東京・池袋にある『油そば鈴の木』では、今年4月からコンビニ商品に限り持ち込みをOKにしているのだ。異例とも言える判断だが、なぜこのシステムを採用したのか話を聞きにいった。
■食はエンタメ！ 味とともに企画性を重要視
「動画の時代だからこそ、コンビニで買える食材を持ち込み可にしたらバズるだろうなと。あとYouTuberとかインフルエンサーが来たくなるようなお店作りをしているのでこういう企画を思いつきました。コンビニで買ったものなら何でも油そばに入れてOK。電子レンジもあるのでご自由に」
そう話すのは、同店のオーナー・りゅう社長さん。「油そば鈴の木」のコンセプトは「食×エンタメ×SNS」。今回の持ち込みだけでなく、「美味しくなければ全額返金」、「美味しかったらもう一杯」といった奇抜なサービスを展開しているのだ。
埼玉で4年以上営業し、昨年移転してきた「油そば鈴の木」。次々とテナントが入れ替わる物件だと知りながら、あえて挑戦したというりゅう社長
話題性に振り切っているのには理由がある。それは立地だ。同店はもともと埼玉で営業していたが、2022年2月に現在の池袋に移転した。しかし、この場所がすぐに店が潰れてしまう"魔の店舗"だったのだ。
「このお店自体が約8年間で11店舗入れ替わる場所。当然、みんな本気でやってたはずなのになぜかもたない。それなら普通に油そばを作っててもしゃーない、時代にあったやり方が必要だなと。
それこそ昭和の時代なら味だけ追求して、美味しければ人は来た。でも今は人口が減っているのに飲食店は増えてミスマッチしている。主となるのは味ですが、だからこそそれ以外でもいろいろ仕掛けるようにしているんです」
人気メニューは、チーズやマヨネーズがもともとのっている『辛まぜそば』（890円）。特製辛味噌ダレと特製スープがマッチする。また、卓上には定番のお酢やラー油のほか、ニンニク、粉チーズ、マヨネーズなども。どれも無料で混ぜ放題
また、この持ち込み制度は油そばだからできることだと、りゅう社長はいう。
「油そばってお店にお酢やラー油などが卓上に並んでいて、自由に入れていいのが普通。つまり、自分好みにカスタマイズすることが前提なんです。油そば自体が味変を楽しんでもらうものだと思ってるので、それならお店にないものでも持ち込んでもらえば、より楽しめるじゃないですか」
さらに持ち込むことによって、その楽しみは店内から店外へと移った。エンタメが拡大したのだ。
「うちに来る前から何を混ぜようかと選ぶことが楽しい。そしてコンビニで購入して、お店にくる間もどんな味になるかなと想像して、ワクワクできる。お店の中だけでなく、来るまでの間に楽しみがあるわけです。お店で何を入れるか考えるよりも、よりエンタメ体験ができるんです」
奇をてらった企画を行なっているためアンチも多く、Googleマップの評価は1.7とかなり低い。しかし「油そばが嫌いだった自分でも好きになった味」を追及し、多くのリピーターに支えられていると話すりゅう社長
では、実際にどんなものが持ち込まれているのか。
「うちはチャーシューを入れていないので、多いのはチャーシューやソーセージですね。でも面白かったのはハンバーグ。混ぜるわけでなく、おかずのように食べていたのは意外でした。でもラーメン屋に唐揚げはあってもハンバーグは絶対にない。このスタイルだからこそできるんだなと感心しました。
僕のおすすめは明太子ですね。味がもちろんおいしいというのもありますけど、トッピングメニューにあってもほとんどの場合、高くて量が少ない。持ち込みなら、がっつり入れてそこまでお金もかからないのでお得だと思います」
■プロが選ぶ意外なおすすめトッピング
多くの人はチャーシューを筆頭に、油そばやラーメンのトッピングにあるものを選んでいるようだ。しかし、せっかく何でもOKであれば、ぜひ普通の店では選べないものに挑戦してみてほしい。そこで20年以上、全国各地のラーメンを食べ歩くラーメンライターの井手隊長に同店の定番メニュー『辛まぜそば』に合うおすすめのトッピングを聞いた。
タコのこりこりした食感が不思議に思えるが、邪魔をしているわけでなく、むしろ食べ応えをアップさせている
まず第3位は「タコぶつ」。エビやアサリなどはラーメンにも使われることはあるが、タコはなかなか見かけない。
「食感のアクセントという意味ではタコぶつがダントツNo.1です。タコ自体の味は濃すぎないのでしっかりタレに絡み、食感も楽しく、飽きずに最後まで味わえます」
カマンベールチーズはクセが少ないため、タレやニンニクなどにも調和。むしろ辛さがマイルドになるため、辛いものが苦手な人にはピッタリ
そして第2位は「カマンベールチーズ」だ。よくあるトッピングの粉チーズと、クリーミーなカマンベールでは風味からしてまったく違うが......。
「もともとチーズが少しのっていますが、カマンベールチーズをのせることで味わいが一気にリッチになります。高級感あふれる味わいで、タレとのマッチングもピッタリ。混ぜながら少し溶かして麺に絡めるとベストです」
脂の多いコンビーフだが、混ぜることでいい具合に溶けてコクをプラス。ただまとわりつくので、一気に入れるより散らばせて入れるほうが混ぜやすい
ラスト、「圧倒的1位」だと太鼓判を押すのは「コンビーフ」だ。
「ドカンと入れて混ぜていくと、タレとの絡みが良く、麺と一体となって味わえる。どこを食べてもコンビーフがまとわりついてきて、豪華な味わいに。味も濃すぎないのでピッタリです」
コンビーフが麺に絡みつくので、常に牛肉の旨みが味わえる
ちなみにチャーシューを持ち込む人が多いと前述したが、実は注意点が。
「『辛まぜそば』に肉がないので、どうしても肉系を欲してしまうと思いますが、コンビニ商品はラーメンに合わせて作られているわけではありません。なので、どうしてもテイストが合わないものが多いと思います。コンビニのチャーシューは基本的に甘めのものが多く、『辛まぜそば』のタレをかき消してしまうと思います」
ほかにも、「酸味が加わるうえに魚介の旨味も出て、いい味変になる」という「炙（あぶ）りしめさば」、あっさりした肉系の「ほぐしサラダチキン」、食感のアクセントとジャンクさを演出してくれる「じゃがりこ サラダ味」などもおすすめだ。
「持ち込みに賛否両論あるかと思いますが、ちょい足しやアレンジレシピは今のトレンドを掴んでいると思います。『辛まぜそば』は味の構成がしっかりしているので、何を混ぜても味が壊れにくく、アレンジ前提なはず。『まぜそば』には珍しく、麺の下には少量のスープがあるので、持ち込みトッピングの食材にも味が絡みやすく、どれもおいしかったです」
（左から）「炙りしめさば」、「ほぐしサラダチキン」、「じゃがりこ サラダ味」をトッピング。それぞれまったく違う味わいになるので、いろいろ試してみてほしい
今回はひと品だけでのトッピングを聞いたが、当然いくつ持ち込んでも問題ない。トッピング盛り盛りの贅沢油そばを追及するのも面白そうだ。
●油そば鈴の木
住所：東京都豊島区池袋2-18-2 オーロラビル1F／営業時間：11:00～23:00（22:30LO）／定休日：無