「皇室典範とカネ」のマジメな話。皇族を増やす日本は世界と逆行している!?

写真/共同通信社

今回の改正により、愛子さまや佳子さまら女性皇族は、一般男性との結婚後も皇族の身分を保持できるようになった。一方、皇位継承権は与えられない今回の改正により、愛子さまや佳子さまら女性皇族は、一般男性との結婚後も皇族の身分を保持できるようになった。一方、皇位継承権は与えられない
女性皇族は結婚後も皇室に残り、約600年前に天皇家と分かれた旧宮家の子孫を養子に迎える――。現行の皇室典範で初となる本格改正が成立したが、皇族を増やす制度は本当に機能するのか? そして、その暮らしを税金でどこまで支えるのか? 皇室典範の成り立ちからマジメに考える!

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【本格的な改正は今回が初めて】

7月17日、「皇室典範等の一部を改正する法律」が成立した。改正の柱は、「女性皇族が一般男性との結婚後も皇族の身分を保持すること」と、「旧宮家の男系男子を皇族の養子として迎えられるようにすること」のふたつだ。

ただ、こうした改正点が注目される一方、そもそも皇室典範がどのような法律なのかはあまり知られていない。今回の改正は皇室制度全体にとってどんな意味を持つのか。皇室制度に詳しい成城大学の森暢平(ようへい)教授に、その成り立ちから聞いた。

「皇室典範は、皇位継承の順位や皇族の身分、摂政、皇室会議など、皇室制度の骨格を定めた法律です。

現行の皇室典範は日本国憲法の下にある法律ですが、戦前の明治皇室典範は大日本帝国憲法と並ぶ法典で、帝国議会は関与できませんでした。

戦後は皇室のルールも国会が法律で決めるようになり、現行の皇室典範は一般の法律と同じ扱いになりました。とはいえ、国会法や公職選挙法などと並び、憲法の規定を具体化する『憲法付属法』という重要な法律です」

2026年7月18日現在の皇室は16人。皇位継承資格を持つ男系男子は秋篠宮さま、悠仁さま、常陸宮さまの3人。また、今回の改正で、結婚後も皇室に残る女性皇族のうち、独立して生計を営む人の皇族費が男性皇族と同額に引き上げられた2026年7月18日現在の皇室は16人。皇位継承資格を持つ男系男子は秋篠宮さま、悠仁さま、常陸宮さまの3人。また、今回の改正で、結婚後も皇室に残る女性皇族のうち、独立して生計を営む人の皇族費が男性皇族と同額に引き上げられた
森氏によれば、その改正が議論されること自体は珍しくないという。

「最近では、2017年に当時の天皇陛下(現上皇さま)の退位をどのように実現するかが議論されました。天皇陛下ご本人が退位を望んでおられたため、反対する人はほとんどいませんでした」

ただし、退位を認める方法については意見が分かれた。

「大きな争点となったのは、退位を当時の天皇陛下一代限りの例外とするのか、それとも将来の天皇にも適用される恒久的な制度にするのかという点です。

天皇の意思だけで退位できる制度にすると、政治的な圧力が絡む可能性もある。そのため、17年に成立した法律は、一代に限って退位を認める特例法でした」

一方、今回は特例法ではなく、皇室典範そのものの改正だった。

「現行の皇室典範は、1949年に『宮内府』を『宮内庁』へ改めるなどの字句修正が行なわれただけで、制度の中身に踏み込む本格的な改正はありませんでした。

女性天皇や天皇の退位など、皇室典範の改正はこれまで何度か議論されてきましたが、本則が実質的に変更されるのは今回が初めて。その意味で、非常に大きな意味を持つ改正だと思います」

【皇族を増やす日本、王族を絞る欧州】

戦後は憲法に男女平等が盛り込まれ、華族制度も廃止されたほか、皇室制度にも民主化の波が及んだ。しかし、十分に議論されないまま先送りされた問題がふたつあった。それが「天皇の退位」と「女性天皇」だった。

「大日本帝国憲法には、皇位は男子の子孫(皇男子孫)が世襲するという趣旨が書かれていました。しかし、今の日本国憲法では『皇位は、世襲のもの』としか定めていません。皇位継承を男系男子に限るという条件は、憲法ではなく皇室典範第1条に書かれているんです」

そんな中、女性天皇への支持は、女性の社会進出や男女平等意識の広がりとともに増えていった。さらに大きかったのが、皇后雅子さまが長年にわたって男子出産への期待を背負わされたことへの国民的な共感だった。

「国民は、雅子さまがお子さまを産むことを巡って苦しむ姿を見てきました。

女性天皇を認めなければ、ひとりの女性に男児を産むことを求め続けることになるのではないか。皇室制度そのものが女性を苦しめているのではないか。そうした共感が、女性天皇への支持を押し上げた面があります」

宮内庁や内閣官房では、1990年代から女性天皇を認める場合の制度改正について内部研究を進めていた。さらに、小泉純一郎内閣が設置した有識者会議は2005年、女性・女系天皇を認め、男女を問わず第1子を皇位継承者とする案をまとめた。

ところが、答申からわずか約2ヵ月半後、秋篠宮妃紀子(きこ)さまの第3子のご懐妊が明らかになる。その後、悠仁(ひさひと)さまが誕生したことで、改正論議は止まった。男系男子が誕生したことで、議論が先送りされたのだ。

今回、皇族数の減少への対応として選ばれたのは、女性天皇の容認ではなく、旧宮家の男系男子の子孫を養子として皇族に迎える方法だった。

(左)養子になれるのは配偶者と子がいない15歳以上の男性。旧11宮家に未婚の男性は12人いるとされる。(右)女性皇族の配偶者と子は一般国民。また、現在の女性皇族は本人の意思で皇族の身分を離れることができる(左)養子になれるのは配偶者と子がいない15歳以上の男性。旧11宮家に未婚の男性は12人いるとされる。(右)女性皇族の配偶者と子は一般国民。また、現在の女性皇族は本人の意思で皇族の身分を離れることができる
対象となるのは、戦後まで皇族だった男系男子の子孫で、15歳以上、配偶者と子供がいない男性。養子本人には皇位継承資格はないが、養子となった後に生まれた男系男子の子孫は、皇位継承資格を持ちうる。

「旧宮家とは、1947年に皇籍を離れた11宮家の子孫です。いずれも伏見宮家から分かれた系統ですが、現在の天皇家と男系で分岐したのは約600年前。36~38親等ほど離れているとされます」

しかも、旧宮家の子孫は戦後約80年間、一般国民として暮らしてきた。

「皇族になれば、職業選択や居住、政治活動などの自由が制限されます。一般国民としての自由を失ってまで、皇族になろうとする人が本当にいるでしょうか。養子となる男性だけでなく、養親となる皇族の同意も必要です。

実は、制度上は愛子さまや佳子(かこ)さまも養親になれますが、それまで一緒に暮らしたことのない15歳以上の男性を養子に迎えるかは、まったく別の話です。双方が望まなければ、制度が一度も利用されない可能性もあります」

皇族となった後、どこで暮らし、どのような役割を担うのか。具体的な運用はほとんど決まっていない。

そして、一般男性と結婚した女性皇族が、結婚後も皇族の身分を保持する制度も、まだ詰められていない部分が多くある。なぜなら夫と子供は皇族にならないため、ひとつの家族の中に皇族と一般国民が同居することになるからだ。

「皇族には、一般国民のような戸籍や住民票がありません。しかし、結婚後も皇族に残る女性には、夫や子供との関係を証明するため、住民票やマイナンバーを持たせ、国民年金や国民健康保険などを部分的に適用する仕組みがつくられました。一方、皇族なので選挙権はありません。皇族と国民の中間のような、新しい立場が生まれるわけです」

今回の改正は、女性皇族に皇位継承資格を与えるものではない。あくまで、公務の担い手として皇室に残す制度だ。

「現在は佳子さまや愛子さまも、男性皇族と同じように公務を担うことが期待されています。しかし、役割は増えたのに、結婚すれば皇族を離れなければならない。今回の改正には、その矛盾に対応する面があります。

ただし、女性皇族を皇位継承者にはせず、公務の担い手としてだけ残す制度でよいのかという問題は残ります」

結婚後も女性皇族が残り、旧宮家から養子を迎えれば、公費で支える皇族も増える。今回の改正では、独立して生計を営む女性皇族の皇族費も、男性皇族と同額になる。

W杯を観戦するスペイン国王フェリペ6世一家。同国では女性にも王位継承資格があり、長女レオノール王女(右)が将来の女王。ただし男子優先のため、仮に次女ソフィア王女(左)が男性だったら、姉を抜いて継承順位1位であったW杯を観戦するスペイン国王フェリペ6世一家。同国では女性にも王位継承資格があり、長女レオノール王女(右)が将来の女王。ただし男子優先のため、仮に次女ソフィア王女(左)が男性だったら、姉を抜いて継承順位1位であった
一方、欧州では、公費で支える王族の範囲を絞る"王室のスリム化"が進んでいる。

「例えばオランダでは、国王の親族を広く指す『ロイヤルファミリー』と、公的に活動する『ロイヤルハウス』を区別しています。また、ロイヤルハウスで王位継承権を持っていても一般人で、公費での活動がない人がいるんです。

国民の税負担を考慮して、国が経済的に支える範囲は狭くする。日本が皇族の範囲を広げようとしているのは、国際的な流れとは逆方向です」

皇室典範は、単に次の天皇を決める法律ではない。誰を皇族とし、どのような役割を担ってもらい、その暮らしを国民がどう支えるのかを定める法律でもある。

「皇族の範囲を広げるのであれば、その目的や役割、国がどこまで支えるのかを国民に説明しなければなりません。

皇室制度が一部の政治勢力のイデオロギーに利用されれば、国民統合の象徴である天皇や皇室が、分断の象徴になりかねません。当事者と国民が納得できる、持続可能な制度になっているかを考えることが重要です」

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