高崎計三
たかさき・けいぞう
高崎計三の記事一覧
1970年、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。プロレス、格闘技、音楽などのジャンルを中心に多方面で活動中
「今の俺と同世代の人たちが抱える 〝中年の悲哀〟みたいなものを、試合の中で描きたい」と語る青木真也
9月10日の「超RIZIN.5」京セラドーム大阪大会で青木真也と朝倉未来が激突。11年ぶりのRIZIN参戦となる43歳の青木は、この一戦を「異種格闘技戦」と位置づける。ファンたちの熱狂を冷ややかにいなしつつ、時代の象徴に挑む男の真意に迫る!
9月10日、京セラドーム大阪で開催される「超RIZIN.5 浪速の超復活祭り」。その目玉カードとして電撃決定したのが、青木真也と朝倉未来の一戦だ。
2000年代の格闘技界を牽引し、アジア最大の団体「ONE」でも実績を重ねてきたベテランの青木だが、現在43歳。下馬評では34歳で円熟期を迎えている〝時代の寵児〟朝倉が有利とする声も少なくない。
実際、RIZIN代表である榊原信行氏が会見で「青木真也の死に場所はRIZINでつくる」と語ったのを受け、今回の試合を青木が「引導を渡される場なのだ」とうそぶく者もいる。
だが、そうした世間の冷ややかな評をよそに、今回の一戦に胸を熱く焦がす男がいる。
大手広告会社から独立し、数々の話題作を手がけてきたThe Breakthrough Company GO代表のクリエイティブディレクター、三浦崇宏だ。
熱弁する三浦崇宏。会社には青木がONEで獲得したベルトや、以前使用していたファイトショーツなども飾ってあり、「青木愛」にあふれている
デビュー当時からの青木ファンであり、長年の友人でもある三浦。青木とは同い年でもある。間近で接する立場から青木に期待することを取材している最中、「やっぱり勝ってほしいですよね?」と聞くと、
「勝ってほしいですよ、もちろん。絶対勝ってほしい」
そう言って大粒の涙を流した。取材班も驚いたが、本人が一番驚いたようで......。
「すみません。自分でもビックリしました。大人になって、人と話して泣いたのなんて初めてかもしれません。
でも、僕が勝ってほしいなんて口に出すのはおこがましいし、本人も嫌がると思います。だから目の前では絶対に言えない言葉ですけどね」
当の青木に知られれば嫌がられるとわかっていても、抑え切れなかった純粋な願い。広告クリエイティブの世界で飛ぶ鳥を落とす勢いの三浦が、これほどまでに感情を揺さぶられる大一番――それが、今回の朝倉未来戦なのだ。
早稲田大学在学中の03年11月にプロデビューした青木は、修斗からPRIDE武士道で頭角を現し、変幻自在の関節技と独特のキャラクターで、一気に人気選手となった。
PRIDE消滅後の「格闘技冬の時代」、日本格闘技のともしびを消すまいとDREAMのエースとして泥水をすすり、12年からはシンガポールを拠点とするONEで孤高の闘いを続けてきた。
昨今、この時代の選手たちを「戦犯」扱いする声もあるが、彼らの闘いがなければ日本の格闘技は本当に死んでいたはずだ。
その青木が、今年5月にONEとの契約を満了し、11年ぶりにRIZINのリングへ上がる。対峙するのは、〝今〟の格闘技界の象徴とも言える朝倉未来だ。
00年代から青木の闘いを知る者にとって、この一戦は単なる格闘技の試合にとどまらない。「vs RIZIN」であり、「vs現代格闘技」であり、ひいては「vs現代社会」でもある。見る者それぞれが自身の歩みや思い入れを重ね合わせられる、特別な一戦と言える。
事実、デビューから青木を追い続けてきた三浦は、「これ以上のことって、僕の人生にもう起きないだろう」と熱弁する。
「青木真也以上に感情移入して思い入れを持てる格闘家はひとりもいないし、相手は朝倉未来という、今この時代で一番人気のある人間ですからね。
僕はコンテンツの価値って、どれだけ感情を大きく揺さぶられたか、つまり『感情の移動距離の絶対量』で決まると思っている。
この試合が決まった瞬間からずっとドキドキしているし、なんなら今も緊張しています。もし青木さんが負けたらメチャクチャ落ち込むと思います。でも、勝った後も負けた後も、正直どんな感情でいるのか想像がつかない。
普段なら『キャリア20年超の43歳で、前戦でも負けている選手が、日本最高のスターと試合を組まれた時点で〝勝ち〟だ』と客観的に分析しちゃうんですけど、今回は友人として、同年代の人間として、ここまで生き抜いてきた男が一番人気の選手を倒すところが見たい。やはり青木真也は特別なんです」
「朝倉サイドの金持ちで最前列が埋まるのを避けたいのもある(笑)」と、試合当日は自ら110万円のVVIP1列席を購入して現場で見届けるという三浦。試合の勝ち筋についてはこう分析する。
「僕が考える展開は3パターン。青木さんが1ラウンドにバックを取ってチョークで勝つか、スタミナ切れで打撃でボコボコにされるか、タックルへのカウンターを食らうか。
つまり、青木さんの勝ち筋はひとつで、相手の勝ち筋はふたつ。それでも僕は最初の勝ちパターンが見たいんです」
そんな中、当の青木自身はどうとらえているのか。周囲の熱狂をよそに、青木本人は驚くほど冷淡だ。
「格闘技業界がどうなろうと知ったこっちゃないし、RIZINとの間に勝ち負けもない。もちろん朝倉未来とは勝ち負けは出るけど、お互いにやっていることが違うし、その後もお互いの領域は不可侵なんじゃないですか。だから全部含めて、どうでもいいというか......」
では、この試合における青木のモチベーションとは?
「俺も43歳になって、中間管理職みたいな立ち位置になると、日常にエキサイティングなこともない。そんなときに『これをやればもう一度元気になれるかなぁ』くらいの感覚ですよ。大きな大会でセミかメインに組まれて、話題になっているなら、それで十分。
俺は20代の10年間で選手としてやるべきことは全部済ませたって思いがある。そこからは言ってみれば〝余生〟。だからビッグマッチだからって気負いはないし、小さい試合と同じで、仕事として淡々とこなすだけですね」
身もふたもない言葉が並ぶが、朝倉未来戦のオファーを受けたときの心境も実に冷めている。
「正直『やっぱり悪運はまだ尽きてないんだな』とは思ったかな。朝倉未来に対して脅威なんて1ミリも感じないし、俺がやってきたことをわかりやすく示してくれる〝灯台〟、もっと言えば〝昆虫ゼリー〟ですよ。人が寄ってきやすい環境をつくってくれる存在。
あと、勘違いされがちだけど、俺は彼自身や彼のやっているBreakingDownを否定したことは一度もないから。
黒があるから白が映えるわけで、みんなが『朝倉経済圏』に入ろうとする中、俺はその対極にいたほうが得だと思ってやってきただけです」
「別に朝倉未来に勝って得られるものなんてないし、あっちもそうなんじゃないですか? でもまあ、いい暇つぶしにはなるかな」と淡々と語る青木
聞けば聞くほど、いわゆる「決戦前の意気込み」とは程遠い。だが、あの頃の青木に日本格闘技の未来を見いだそうとした同世代の思い、三浦が勝利を願って流した涙は、どこへ向ければいいのか。
「それこそ、40代から50代の同世代が抱える〝中年の悲哀〟みたいなものを、自分の試合という表現の中で描こうとは思っていますよ。
自分のファイトができればワンウエー(一方的)な展開にできるし、そんな難しい相手じゃないとも思っている。
結局、青木真也と朝倉未来はまったく違う存在で、今回の一戦は43歳の青木真也が臨む〝異種格闘技戦〟なんですよ。
ワンウエーでこれを終えて、ケガなくリングを降りたい。最後はもう、それしかないっすよね」
青木の関節技の技術は認めつつも、「スタミナは確実にこちらが上」「ワンラウンドで勝つ」と語る朝倉未来。果たして世紀の一戦の結末は......?(RIZIN公式サイトより)
最後にもう一度、彼の勝利を熱望する盟友・三浦の言葉を引こう。
「どうして僕がこんなに勝ってほしいかっていったら、彼は『冬の時代』もONEでひとりでやってきて、いろんな裏切りも何度も感じてきて......でもやっぱり、自分が格闘技が好きっていう思いだけでここまでやってきた。
ひとりの人間として、43歳の今、世間で一番人気の男にワンチャン勝っちゃうっていう夢を見せてほしいなっていう、勝手な思いなんです。
人間が43年間、真面目にひとつのことに取り組み続けるとこんなところまで行けるんだぞっていうのを、僕は青木真也に見せてほしいですね。
あとは友達として、勝利を一緒に喜びたい、そういう思いです」
情熱的なドラマを求める世間と、冷徹なプロ意識で淡々とリングへ向かう青木真也。ドームの大歓声の中、時代の寵児・朝倉未来との「異種格闘技戦」が始まる。
そのゴングが鳴ったとき、このベテラン格闘家は果たしてどんな〝表現〟を見せてくれるのだろうか。
●青木真也(あおき・しんや)
1983年生まれ、静岡県出身。柔道・柔術を経て2003年に総合格闘技デビュー。修斗、DREAM、ONEなどの格闘技団体で世界王座を獲得。驚異の極めの強さで海外選手にもファンが多い。DDTなどでプロレスラーとしての顔も持つ希代の格闘家。今回、15年の旗揚げ戦以来、11年ぶりにRIZINの舞台に立つ