決して人ごとじゃない! オトコに忍び寄る「ロマンス詐欺」の怖さを追体験する!【『70歳の法学者が、なぜロマンス詐欺に騙されたのか』著:髙倉良一】

取材・文/尾谷幸憲

「孤独だからではなく、自分の考えや人生を深く理解してくれる相手が現れたときに、その人物を信頼してしまうんじゃないでしょうか」と語る髙倉良一氏「孤独だからではなく、自分の考えや人生を深く理解してくれる相手が現れたときに、その人物を信頼してしまうんじゃないでしょうか」と語る髙倉良一氏

ロマンス詐欺の被害が増加している。警察庁によると2025年のSNS型ロマンス詐欺の被害総額は約546億円にも及ぶ。香川大学名誉教授・髙倉良一氏(72歳)も被害者のひとりで、なんと老後資金のうちの約1000万円を奪われてしまったという。

その体験談を赤裸々に記したのが、『70歳の法学者が、なぜロマンス詐欺に騙されたのか』だ。なぜ世の男は詐欺にだまされてしまうのか?

* * *

――実は私(=インタビュアー)、ロマンス詐欺の一歩手前までいったことがありまして。

髙倉 本当ですか!?

――相手はフェイスブックで出会った韓国の予備役中の女性兵士。やりとりの途中で怪しさを感じ、ササッと撤収したので被害はありませんでしたが、先生の体験は人ごととは思えないんです。

髙倉 危なかったですね。早く気づいて良かったです。ロマンス詐欺は一度ハマったら逃れにくいですからね。大学では、学生たちに「物事の本質を見極めろ!」と語っていた私が完全にのみ込まれてしまったほどですから。

私が被害届を出しに行ったとき、警察官から事情聴取を受けたのですが、彼らも「これは自分でもだまされていただろう」とおっしゃってました。それくらい手口が巧妙なんです。

――本書には、そのテクニックが先生の体験から明かされていますね。

髙倉 そもそもの始まりはインタビュアーさんと同じでフェイスブックなんですよ。相手は日本と中国のハーフの「愛子」という女性。

中国・深圳(しんせん)でアパレルショップを経営している37歳でした。最初は何げないメッセージのやりとりから始まったわけですが、途中から「LINEに移りませんか?」と誘われた。今にして思えばこの段階で怪しいと思うべきでしたが。

――そこからお金の話に転じていくわけですね。

髙倉 ええ。彼女の伯父さんが中国で有名なエコノミストだとかで、彼女自身もアドバイスを受けて資産を増やしていると。それを私に勧めてきたわけですね。「一緒に夢をかなえましょう!」と。しかもそのやり口が巧妙で、専用のアプリまで作っていて、それをスマホにダウンロードして投資をしてくれと言われました。

気づけば自分の資産はおろか、友人からもお金を借りることになり、総額で925万円を失いました。住んでいるマンションも売る一歩手前までいってしまいましたからね。恥ずかしながら。

――本書には彼女の写真、金額入りの振込用紙まで掲載されていましたね。非常にリアルでした。でも先生、なぜ途中で「怪しい」と思わなかったんですか?

髙倉 疑う余地がありませんでした。そもそも自分がだまされているという発想そのものが欠落していた。後から友人の弁護士にもボロクソに言われましたけど、その段階では、すでに信頼関係という土壌がつくられていたわけですよ。

――信頼関係とは?

髙倉 なんだろう? 打てば響くというのかな。太宰治やヘミングウェー、インドの詩人のタゴールの話なんかをしてもしっかり通じるし、私が自分の人生観や、戦争と平和、基本的人権や差別について考えていることを伝えると、彼女はそれに深く共感して、鋭い質問を返してくるほどだった。

彼女の自己開示も効果的だったかもしれないね。彼女は結婚を約束していた男性に裏切られた過去を語るなど、自身の弱みや傷ついた経験を打ち明けてくれました。

――高倉先生は事件当時、教授職を定年退職されて、大学という組織を離れたばかりでしたよね。そこで生まれた孤独がロマンス詐欺を引き寄せた面はあると思います?

髙倉 自分の場合はそれには当てはまらないかもしれない。大学の教授という仕事は個人商店の集合体のような場なので、一般のサラリーマンの方のように定年退職でいきなり社会から放り出されるわけじゃない。

孤独とは少し違いますね。むしろ共感を得られたという感覚です。自分のことを理解し、共感して、寄り添ってくる。わかり合える同志を見つけたという感覚でした。

彼女は途中から私のことを「兄さん」と呼んできたので、ある意味、親族に近い感覚すらありました。だからこそ彼女の提案をすんなり受け入れてしまった面もあります。

――なるほど。孤独でもないし、男のスケベ心が原因でもない、と。

髙倉 人間は孤独だからだまされるというよりも、自分の考えや人生を深く理解してくれる相手が現れたときに、その人物を信頼してしまうんじゃないでしょうか。そういった意味ではあの詐欺師たちの能力はすごく高いんですよ。

会話の中から私の性格や価値観を分析し、私に合ったストーリーを作り上げていった。しかもこちらがしっかり納得できるようにアプリまで開発してしまうんですから。

これだけのシステムを作れる力があるならば、その才能を社会のために使えばいいのにね。それこそ、彼らを更生させて、その能力を人を幸せにする方向へ向けられるプログラムができればノーベル賞でも獲れるんじゃないでしょうか。

――話が壮大になってきました。ところで先生は1000万円近くのお金を失いました。老婆心ながら、老後資金は大丈夫なんでしょうか?

髙倉 そんなもん、ないない!(笑)。今は弟から一時的にお金を借りて生活を立て直してます。確かにお金は失いました。でも命を奪われたわけじゃない。これからは本の執筆から講演活動からなんでもやってやろうと考えていますよ。

――実際、本書を出版されてからメディアで引っ張りだこですね。

髙倉 テレビや新聞など、マスメディアの取材をたくさん受けるようになりました。大学の元同僚なんかは「神風が吹いてるんじゃないの?」とか言ってますね。

――もしかしたら髙倉先生は大学教授でもない、詐欺被害者でもない、第三の人生を歩んでいるのかもしれませんね。

髙倉 おっしゃるとおりです! ロマンス詐欺に遭わなかったら、この状況は生まれていない。人生、面白いもんですよ。

●髙倉良一(たかくら・りょういち)
1956年生まれ、鹿児島県鹿児島市出身。香川大学名誉教授。1983年、九州大学大学院法学研究科を卒業。修士(法学)。九州大学法学部助手、香川大学教育学部助手、同大学講師、助教授、教授を経て2023年に定年退任。元国家資格のキャリアコンサルタント、温熱刺激療法イトオテルミー療術師。共著に『現代家族法の諸問題』(弘文堂)、監修書に『法教育・社会科教育とその周辺』(美巧社)などがある

■『70歳の法学者が、なぜロマンス詐欺に騙されたのか』
さくら舎 1760円(税込)
長らく国立大で教壇に立ってきた名誉教授が、ロマンス詐欺師「愛子」にズブズブとハマっていく過程が描かれる。揺れ動く感情がハードボイルド調でつづられており、詐欺師のポートレート、振り込み時の利用明細書、LINEでの生々しい会話まで収録されており、まるで自分が詐欺に引っかかったような感覚にすらなること必至。また「SNS詐欺チェックリスト」など読者に役立つハウツー要素も。筆者の詐欺根絶にかける熱意が伝わる一冊だ

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  • 尾谷幸憲

    尾谷幸憲

    おたに・ゆきのり

    カルチャー系のライター。『週刊プレイボーイ』(集英社)、『ヤング・ギター』(シンコーミュージック)などの媒体で執筆。著書に小説『LOVE※』(講談社文庫/内容みか共著)、『ラブリバ♂』(ゴマブックス)、『J-POPリパック白書』(徳間書店)ほか。「学校法人 東放学園音響専門学校」にて講師も務める。

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