
河合桃子
かわい・ももこ
河合桃子の記事一覧
1977年生まれ、東京都出身。週刊誌などで、大分県のシイタケ農家から都内のハプニングバー摘発事件まで幅広く取材・執筆するライター。第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞した『地面師連絡役カトウ』(小学館)が絶賛発売中 (撮影/下城英悟)
「癒やし」と「承認欲求の充足」を求め、女性たちは男性セラピストに体を委ねる(写真はイメージ)
女性用風俗、通称"女風"。最近、このサービスを利用するAV女優や風俗嬢が増えているらしい。そこには性産業に従事する彼女たちならではの切実な事情があった(軽い理由で利用している人もいるけど)。
ただ、女風にはホストと似た、いや、それより悪質かもしれない問題がある。ルポライターの河合桃子が女性の当事者たちに突撃、根掘り葉掘り聞いた!
今、「女性向け風俗(以下、女風[じょふう])」はグループ店や個人店など合わせて全国で約800店が存在し、増加の一途をたどっている。
女風をテーマにした映画やドラマも作られ、ユーチューバーやインフルエンサーが取り上げるなどして認知が広がった。
老舗風俗情報ポータルサイト『Kaikan』の管理人は女風について、こう説明する。
「男性向けの風俗では、そこで働く女性を風俗嬢などといいますが、女風で働く男性は『セラピスト』と呼ばれています。
なぜかというと、セラピストは本来、専門的な技術や知識を用いて心身の不調を緩和させる専門家を指しますが、女風の男性キャストに求められる技術もこれに似ているとイメージづけるためです。
女性は性欲の発散だけでなく〝癒やし〟や〝承認欲求の充足〟などを求めて女風を利用します。セラピストはマッサージやスキンシップ、カウンセリングなど性的サービスも含めたコミュニケーションで、それらを提供するのです。
そのため、セラピストに恋人のような親近感を持つ女性ユーザーも多く、彼女たちは親しみを込め、セラピストを『セラピ』とか『ピ』などと呼んでいます」
じっくりと手のマッサージをするセラピスト。スキンシップやカウンセリングなど、あらゆる方法で女性の体と心を解きほぐす
セラピストは現在約1万人近くいるとされ、副業が8割、本業は2割ほどだとか。サービス形態は店舗型ではなくデリバリー型だ。
「サービスの提供場所はラブホテルやシティホテルがほとんど。でも、ホテル代を節約したい専業主婦などが自宅に呼ぶパターンもあります」
セラピストが行なう性感マッサージは、だいたいがこんな感じ。
「店やセラピにより違いますが、オイルやパウダーを使って全身マッサージをして体を温め、鼠径部へのマッサージ、さらに性器への指入れやクンニを行ないます。女性客が望みさえすればハグやキス、手つなぎなどにも応えます」
セラピストによる"施術"の様子。基本的に女性はセラピストのサービスに対して、ひたすら受けに回ることになる
では、女風の利用者とはどんな女性なのか?「恋人・夫婦仲相談所」の所長で自らも女風を利用する三松真由美さんはこう話す。
「年齢は20代から60代、それ以上の女性までさまざまです。その属性は、独身女性はもちろん、セックスレスに悩む既婚女性もいます。
でも、そんな性的に満たされない女性だけでなく、夫やセフレとセックスはするけど、女風も利用する旺盛な方もいます。中には風俗嬢やAV女優の方もいて、ユーザー層も用途も広まっていると実感しますね」
今回、女風を利用しているというAV女優数人に取材を依頼してみた。
「AV女優は人気商売。女風の利用を明かすのはイメージ的に悪い」という理由で断られた女優もいた。しかし、今年5月から同人AVで活動を始めた松本菜奈実さんは違った。
「AV女優が女風を利用してるって、なんかシコくない?」
AV女優の松本菜奈実さんにとって女風を利用するのは「暇潰し」とのこと。たぶん、そのくらいのノリが女風の正しい楽しみ方なのだろう
そう笑う松本さんに女風の良さを聞いた。
「一般的な女性はレスとか人恋しさで女風を利用するかもしれないけど、私は暇潰しかな(笑)。必ずしも性感(マッサージ)を受けるわけではないし、なんなら呼んで話だけして解散することもある。
女友達同士でセラピストふたりを呼んで遊ぶこともあるし、友達が性感を受けてるところに私も交じってイタズラするとかしてる。私にとってセラピストは、そのときしたいことに応じてくれる、〝ホストよりも安くて便利な男のコ〟ですよ」
元AV女優で現在は六本木でキャバ嬢をやっている円井萌華(まるい・もえか)さんも女風の利用者だ。
「風俗嬢に本業と副業がいるように、セラピストもどちらもいます。私個人の統計によれば、本業セラピはマッサージはうまいですが、遅刻やバックレもあったりと人として終わってる人が多い(笑)。なので、デートも込みで利用するなら社会経験がある副業セラピがいいですね」
そんな円井さんは、なぜ女風にハマったのか。
「私も松本さんと同じように、女風のセラピは便利屋みたいなもんだからですよ。体がすごく疲れたときに自宅に呼んで、マッサージしてもらってそのまま眠れるなんて天国じゃないですか。
まあ、性感はあってもなくてもいいんですけど、一般的には性感があったほうが女として扱われる喜びがあるのではないでしょうか」
ただ一方で、女風にはこんな落とし穴もあるのだという。円井さんは、こう告白する。
「実は私、あるセラピ(A)に〝色恋営業〟されて今年2月にその男と入籍したんです。その後、18日間で離婚しましたけど」
Aは現在も現役セラピストとして働く。円井さんいわく「女風界ナンバーワンと言っても過言ではないイケメン」だという。
「私はシングルマザーで未就学児がいます。色恋してきたのはAからで、私もそのルックスにほれて受け入れました。
最初は〝予約〟って形でAと会って、そこからの10ヵ月間、ほぼ毎回予約した上で会ってましたが、サービスを受けるっていうより、フツーにデートすることのほうが多かったですね。そして、子供もAに懐いたので、どちらともなく結婚を切り出し入籍したんです」
元AV女優の円井萌華さんは、セラピストと結婚し、別れた自身の経験談を語る中で、"ナメたセラピスト"を辛辣に批判する
だが、その暮らしは1ヵ月も持たずに崩壊した。その理由は「Aは顔だけの男でパートナーとしては無理だったから」だという。
「本来、女風は女性の希望優先のサービスなんですが、Aは常に『俺が来てやった』って感じで。セラピの中にはナメたヤツが一定数いるんです。これはAではないですが、予約した1時間前に『今起きた。体調悪くて今日は無理』と連絡してきたヤツもいましたね。
Aもそういうヤツだってことはわかってはいたし、だからこそ別居婚にしました。でも、Aはだらしない以上にとんでもないモラハラ男でもあって、それに耐えられなくなって婚姻関係も解消することにしました」
Aのモラハラは主に円井さんの人格否定だ。
「『おまえみたいなのが親で子供がかわいそう』とか『母親として終わってる』とか、私が一番言われたくない言葉を次々と言って私をおとしめました」
円井さんが言うような〝ナメたセラピスト〟はどのくらいいるのだろうか。セラピストに対して民事訴訟を起こした経験がある女性「クソ客ちゃん」さんに話を聞いた。
クソ客ちゃんはXのアカウント名で、「某大手グループ店に118万円返還に成功した女性」として発信する都内在住のOL(30代)だ。
「私は女風客になる前はホス狂(ホストにハマる女性の俗称)でした。ナメたセラピは所属者数が業界最多の某大手グループ店に多いです。私が裁判を起こしたのも、このグループ店に2022年当時に所属していたセラピのKでした。
こいつにせがまれ接客前に120万円を〝前入金〟しましたが、サービスは行なわれませんでした。だからその返還を求めて訴えたんです(不当利得返還請求)」
なぜ前入金をするのか。クソ客ちゃんいわく「セラピに『ランキングバトル』に勝たせるため」だったという。
「このグループ店ではホストクラブに似た売り上げ競争が毎年開催されています。そのバトル中にKから『競争に勝ちたいから前入金してほしい』と頼まれました」
前出の円井さんはこう話す。
「ランキングは女性がセラピを選ぶ上で重要なんです。だってランキングで1位の男のサービスを受けて特別感を感じたいじゃないですか」
ただ、このランキングバトルなるものの信頼性も疑わしくなる体験を訴える女性もいる。吉原の高級ソープランドで働く愛弓さん(仮名、40歳)だ。
「私もこのグループ店のランキング1位のセラピ・Kを予約しました。彼に『ランキングバトルがあるから、また1位になるために長期間の予約をしてほしい』と言われたんです。
それでふたりで旅行費と予約費合わせて120万円を支払い、シンガポールに4泊5日で行きました。でも旅行中、性感を含めた私が望むキスやハグなどが一切なかったんです」
ソープ嬢の愛弓さん(左)が、セラピスト(右)と撮影した写真。愛弓さんはこのセラピストが所属する店舗に大金を支払ったが......
愛弓さんがKに支払った予約金は総額約280万円だ。普段、男性客を相手に性的サービスを行なう愛弓さんが、なぜそこまでの大金を払うのか。愛弓さんはセラピストにこんな時間と体験を求めていた。
「風俗は全身と五感をフルに使うサービスです。それを知る私だからこそ、私が普段男性客を誠心誠意で大事に扱うように、私もセラピから大事に扱われたかった。女性が性的に満たされることは自己肯定感が上がることに等しいです。
その〝技術〟はセラピならではでホストに求めるものではない。そのサービスを受けて『明日からまたがんばろう』と思いたかったから」
なんとも切実な叫びだ。しかし、その願いがかなうことはなかった。それでも、愛弓さんは今も女風を利用しているという。
「この年にもなれば女友達は皆、家庭があります。旅行やどこかに出かけるにもひとりは寂しい。私のように彼氏もいない風俗嬢が都合よく使えるのは女風くらい。お金を払いさえすれば、店が提供するとうたっているサービスを得られると思うのは、いけないことなんでしょうか」
愛弓さんとセラピストのLINEを見ると、そこにはまるで恋人同士のようなメッセージが残っている。
「俺は愛弓ちゃんを女性として 人として幸せにしたいよ」
「愛弓ちゃんの笑顔が大好きだから もう笑顔にしかさせない」
甘い言葉をささやいているように見えるが、実はこんな裏側があった。
「彼は接客中に私を否定する暴言を吐いたのですが、このLINEはその後に届いたものなんです」
愛弓さんは店に対してこんな訴えをしている。
「私が接客で望むことをかなえる約束でサービスの予約をしても、毎回裏切られてきました。私は支払った280万円の全額を返済しろとは言いません。せめて、その一部を返してほしいんです」
愛弓さんは店との直接交渉が難航した場合、弁護士に頼むなどして示談か訴訟も視野に入れているようだ。
前出の円井さんは女風が抱える問題についてこう話す。
「女風は体の接触がある点でハードルは高いですが、ホストよりも単価は安いので、一度利用してしまったらホスト以上に女性客側の恋愛感情を利用されやすいです。特に一般女性は『セラピへの情や応援したい気持ち』を悪用されるケースもある。
私は『女風は人間ディルドかバイブ』くらいの気持ちで利用できるならいいと思いますが、そこまで割り切れる女性は決して多くないです」
悪質ホスト問題は社会現象化し、今年6月に風営法が改正され全国的に「ホストクラブにおける色恋営業が禁止」された。しかし女風は、悪質ホストクラブと同じような構図を抱えている面がありながら、法案の対象となっていないのが現状だ。
「私はセラピのAにお金を取られたわけではないですが、子供と共に裏切られたと感じています。
彼には性感染症もうつされました。本来、女風では違反である本番行為も日常的にしていたのでしょうね。私は、訴訟はしませんが、彼のモラハラで精神的に疲弊し、もともとの抑うつ症状が悪化して日常生活に支障を来しています。なぜ心を満たすはずの女風で、こんな目に遭うのでしょうか」
ある女風の公式ホームページにはこのような文言がある。
「いわゆる女性用風俗とは、女性のお客様が『満たされる癒しの時間』を過ごすためのサービスです」
現在、全国で約800店近くあるとされる女風店は、現在も増え続けている。グループ店で何年か勤務した者が独立し新店舗を設立するからだ。
本当に女性を癒やし満たすことを目的とし、それを果たす店ならよいだろう。しかし現状、女風店と客のトラブルは、水面下で起こり続けている。