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市川をさがせ!
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「モネの庭」について語る。
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大相撲パリ公演の前日、画家のクロード・モネが晩年暮らしたパリ郊外の村で、『睡蓮』の連作で有名なジヴェルニーに行きました。今回はその紀行を。
出発点はパリ9区のサン=ラザール駅。朝のサン=ラザール駅は、いかにもパリらしい慌ただしさ。旅行者より通勤客のほうが多く、モネの庭へ向かう優雅な朝というより「普通に会社に行きますけど?」という空気。早く着いたため、どこにでもあるようなショップで正直あまりいらない小物を買っていたら、列車に乗り遅れてしまい......。車両ウオッチングをして次の列車まで時間を潰し、予定の1時間遅れで出発。
列車が走り始めると、景色は少しずつパリの街並みからノルマンディーの田園風景へ。セーヌ川が顔を出したり、石造りの家が並んでいたり、牧草地では牛がのんびり草を食べています。牛たちは私の高揚感など気にも留めず、ひたすら朝食中。平和。
最寄りのヴェルノン=ジヴェルニー駅に着くと、一気にみんな〝モネへ行く人〟になります。駅前にはシャトルバスを待つ長い列。これだけ世界中から人が集まっているのに、目的地がテーマパークではなく、誰かの庭というのがなんとも不思議。バスの車窓にはノルマンディーらしい緑や小さな村が続き、遠足気分になりました。世界中の人が同じ庭を目指して揺られている光景は、それだけでちょっとした国際交流でした。
ジヴェルニーは、花と石造りの家が寄り添う絵本のような村。派手な見どころはないけど、歩くだけで心地いい。モネが43年も暮らした理由が少しわかる気も。所々にベタなお土産屋さんもあり、関東だと川越みたいな感じ?と不毛なたとえを考案しました。
そしてたどり着いたモネの邸宅。お庭、とにかくきれい。予想を超える美しさ。そこで感じたのは、モネの作品は「自然を描いた絵」ではなく、「自然そのものを演出したプロジェクト」だったということ。庭も睡蓮の池も、自然のままではない。何度も植栽を入れ替え、水路を引き、太鼓橋を架け、何十年も理想の風景をつくり続けました。モネは画家であると同時に、庭師であり、舞台美術家でもあったことがわかります。
池を前にすると、意外にも主役は睡蓮ではない。本当に目を奪われるのは水面。風が吹けば景色は崩れ、雲が流れれば空の色が変わる。睡蓮は、水面という巨大なキャンバスに時間や光を映し出すための装置なんだな、と。
さらに面白いのは、絵画では偶然のように感じられた構図が、現地で見ると驚くほど計算されていたこと。日本風の太鼓橋、柳の枝の垂れ方、水面の高さ、視線が自然と抜ける角度まで、「こうやってあの絵になったのか」と、制作の舞台裏を見せてもらったような気分になりました。
家の前の花畑も印象的。色ごとにきっちり植えられているわけではなく、高さや種類がバラバラで、歩くたびに色の組み合わせが変わる。花を見て「かわいい」と心が躍るたび、自分はいつかバラの写真を撮るタイプのマダムになるのかな、とふと思った。
ジヴェルニー印象派美術館で、モネ没後100年展も堪能。半日の日帰りで行けるので、パリ旅行の際はぜひ!
●市川紗椰
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。今回乗ったフランス国鉄のTER(地域圏急行列車)もいつか語りたい。公式Instagram【@its.sayaichikawa】