
ひろゆき (西村博之)
にしむら・ひろゆき
ひろゆき (西村博之)の記事一覧
元『2ちゃんねる』管理人。著書に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(中野信子氏との共著、集英社)など
「AIが出てきて、進化した人は人間のコミュニティに属さなくても生きていける」と語る小林武彦氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。生物学者の小林武彦先生との対談の7回目です。本来、人間は集団で暮らす動物。孤独でいることは、生物学的にも良くないという。でも、最近は孤独な人が多い。だとすると、どんな問題が起こるのか? 小林先生が解説します。
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ひろゆき(以下、ひろ) 前号では「人間にとって孤独は死と同じくらい重いもの」ということでしたが、僕は孤独がへっちゃらなのでピンとこなくて......。
小林武彦(以下、小林) 人間の遺伝子には孤独がつらく感じるように刻まれているんです。集団でしか生きられなかった時代は、集団から追い出されることは死を意味していました。だから「孤独=死」なんです。
ひろ でも、それは昔の話ですよね。今はコミュニティから追い出されても、別に死にはしない状況じゃないですか。
小林 ところが、遺伝子に刻まれた情報は最低でも数千年かからないと変わりません。ですから、今でも「追い出されたら終わりだ」という感覚はそのまま残っているんです。
ひろ その感覚だけで、人が本当に死ぬこともあるんですか?
小林 はい。人類は生物の中で唯一、自殺する動物です。これはどう考えても異常なことですよ。
ひろ 自死以外に孤独によるマイナスの影響って何があるんですか?
小林 孤独は寿命を縮めることがあります。例えば、日本人で一番寿命が短い集団は独身男性だといわれています。また、独身男性が亡くなる年齢の中央値は67歳前後というデータもあります。
ひろ 67歳は早いですね。女性は仕事を辞めてもコミュニティや友達がいるけれども、男性は会社を辞めた瞬間にコミュニティがゼロになったりしますもんね。
小林 独身男性だけが極端に短いんです。ですから、孤独でいることは生物学的にも良くないことだと考えています。
ひろ でも、孤独はそれだけ体に悪いのにコミュニティはどんどん減っていますよね。昭和までは大家族が当たり前だったのに、今では核家族やひとり暮らしが多くなっています。それってコミュニティに属するメリットがなくなっているからだと思うんですよ。
小林 昔のコミュニティは助け合って生きていました。人手が足りなければ手伝うし、もめ事があれば間に入る。そのようにひとりひとりにいろいろな役割や居場所があったんです。
ひろ でも今は、そういったことはお金を払えば機械やサービスが代わりにやってくれる。すると、お金を稼ぐ能力以外はいらないってことになりませんか?
小林 そうですね。役割がなくなれば、集まる理由もなくなる。だから家族だけでなく、町内会や親戚付き合いもどんどん消えていった。これが現代社会の問題点です。
ひろ とはいえ介護や子育ては人手がいりますよね。SNSで何万人とつながっていても、その人たちは子供の面倒を見てくれません。
小林 ほかにも、例えば災害が起これば、数日間はその場にいる人たちでなんとか生き残るしかありません。それなのに隣家の家族構成すら知らない人も多い。
ひろ つまりコミュニティとして必要なことは昔のまま残っているのに、支えていたコミュニティのほうだけが消えていると。でも、昭和から令和までの間に遺伝子が変わったわけではないのに、コミュニティが消えた外的な要因はあったんですか?
小林 それは「社会が変わったから」と言うしかないです。社会は人の幸せにカスタマイズされているわけではありません。私たちを取り巻く環境が遺伝子と合わなくなっている。私はこれを「遺伝子と環境の不適合」と呼んでいます。
ひろ その「不適合」な社会でも、得をしている人はいるんですか?
小林 「集団からどう思われてもいい」「人が苦しんでいてもなんとも思わない」「自分だけうまくいけばいい」。そういう人は生きやすくなっていると思います。
ひろ 集団のためじゃなくて自分のためだけに生きている。言ってしまえばサイコパスみたいな人が生きやすい社会になっていると。
小林 そうです。そういう人は、ある意味〝進化した人〟なのかもしれません。逆にコミュニティや周りの人を大切にするタイプは本来の人類で、ほとんどの人は今でもこちら側です。それと「進化」と「進歩」は違います。
ひろ 人類は飢餓も伝染病も乗り越えてきましたけど、集団がバラバラになるという問題を解決した歴史はないですよね。これ、解決しない可能性もありますか?
小林 あると思います。さらにAIが出てきて、進化した人は人間のコミュニティに属さなくても生きていけるようになる。すると本来の人類との差は広がる一方です。
ひろ 集団がないと困る本来の人類だけが取り残されるわけですね。
小林 そうです。そして取り残された大多数の人は、頑張っても追いつけない状態に置かれる。
ひろ でも普通は、「ダメだ。おまえには価値がない」とか言われたら、見返してやろうという方向に気持ちが向かいそうですけど。
小林 人間は本来そうできているんです。昔も「狩りがうまい人」と「そうでない人」みたいに格差はあった。ねたみも遺伝子に刻まれています。でも、そのねたみは「よし、俺もあいつみたいに狩りがうまくなってやる」とポジティブに転換されていました。
ひろ それが今は、なんで転換されないんですか?
小林 ねたみが力に変わるのは、頑張れば追いつける差があるときだけです。今はSNSなどによって、追いつきようのない差ばかり見せられる。そうなると転換のしようがなくなります。
ひろ 今って、一度「価値がない」という状況になったら、巻き返すことはなかなか難しいですよね。それで無気力になる人が、昔は100人に1人だったのが、今は100人に20人くらいになっている気がするんです。
小林 私もそうだと思います。
ひろ しかも、親の収入で子供の教育がある程度決まるので、その状態がどんどん続いていく。
小林 逆転不可能な格差が何世代も続くと、生きる希望がどんどん失われていきます。物心ついたときにはもう先が見えていて「頑張ってもしょうがない」という気持ちになる。実際、10代の若者の自殺は増えていますから。
ひろ ただ、そこまでいかなくても、無気力とか絶望的な気持ちになっている若者は多いかもしれませんね。でも、それは心の問題なので外からは見えないですよね。
小林 でも、もう数字に表れていると思いますよ。それが少子化です。少子化は若者が人生に絶望している前触れだと思います。
ひろ そもそも自分が幸せじゃないのに、子供はもっと幸せじゃなくなると思えば、誰も子供をつくりませんからね。
小林 「こんな状況で子孫を残している場合じゃない」と頭で考えるより先に体が反応してしまう。これは生き物としての防衛本能だと思います。ですから、孤独は個人の問題では終わりません。人類にとっての大問題なんです。
ひろ 人間という種の消滅につながっていくかもしれないということですね。
小林 はい。そして、孤独の問題や少子化などについて対策を取らなければ、人類はあと100年も持たないかもしれません。
ひろ あと100年ですか......。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。著書に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(中野信子氏との共著、集英社)など
■小林武彦(Takehiko KOBAYASHI)
東京大学定量生命科学研究所教授。生物科学学会連合前代表。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(すべて講談社現代新書)などがある





